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シーズン2-シークトリア首都編

089-明星の一撃

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空へと上がった私たちは、強大な敵と対峙することとなった。
巨大な杭のようなそれは、下から見るよりも近づいた今、その巨大さを露にしていた。

『どうやって破壊するんだ? アレ』
「とにかく、やってみましょう!」

クロノスは速度を上げ、一気にそれへと接近する。
そして、ライフルを取り出して構えた。

『こいつも弾がないなんてことは......』
「大丈夫です、全弾発射可能!」

クロノスが飛びながらライフルを撃つ。
それらの弾は何の障害も受けずに杭の外壁へと飛び――――直撃した。

『やったか!?』
「いいえ、まだです! 続けて攻撃を!」

初めて見る現象だが、クロノスのレーザーライフル弾は杭の表面で拡散して霧散していた。
この反射率から見て、シールドのようなものを張っている....?

『ダメだ、全然効かねぇ....!』
「思ったより、厄介ですね...」

考えてみれば、クロノスと同じくらい強いシークトリア軍を退けて、この杭は今ここにいる。
弱点など、ないのではないだろうか....?

「情報精査!」

クロノスと一つになっているからこそ、私の情報精査はあらゆる制限を無視して使える。
だが、スキャンが弾かれる。
全ては表面上にある何かのせいだ。

「あのシールドを破らない限りは、勝機などありませんね」
『だったら、やってみようぜ!!』

クロノスがミサイルを放つ。
六発のミサイルは、一直線に外壁へと向かって飛び、起爆した。
だが、ダメージはない。

「表面の安定化減衰率、1.2%....破るのはどうやら現実的ではないようです」
『オレの持ってる武装でも厳しいな....』

クロノスの武装はジャイアントキリングではなく、地上戦・艦載機戦を想定したものである。
こんな大きなものに対しては、どうしようもないのかもしれない。

『――――おい! お前ら何やってんだ!』
「その声は.....レッドですか!?」

その時。
クロノスの通信装置に通信が届いた。
アドレスは私宛である。

『お前らじゃ勝てるわけないだろ!』

戻れ。
そう言われることを、私は覚悟していた。

『だからよ――――おい、フィオネ!』
『ええ!』

地上から放たれた無数の砲撃が、杭に向かって真っすぐに飛ぶ。

『俺たちも、首都の戦力で好き勝手やらせてもらうぜ!』
「どうして....貴方達にはこの権限はないはずです!」
『私が許可しました』
『俺が許可した』

その時、クレインとレジンが通信に割り込んできた。
そして、クロノスの元に、数機の戦闘機が飛んできた。
共に戦ってくれると思ったのだが、実際は違う。

『これは......武器か!?』

戦闘機が運んできてくれたのは、二振りの剣だった。
展開することで、エネルギーの刃が発生する仕組みである。

『俺がお前の武器として考えていたものを、少し大きく作ったものだ...やれるな、クラヴィス』
「もちろんです」

武器をもらった以上はやるしかない。
私はクロノスと共に、再び杭の外壁まで近づいた。

『うおおおおおおおおお!!』

猛然とクロノスは、シールドらしき力場に剣を振るう。
私が即座にダメージを計算して、次の攻撃ポイントをクロノスのUIに同期させる。
それを繰り返すうちに、ついに力場を突破した。

『やったっ!』
「やりました...ですが...」

破れたのは、たった一部分に過ぎない。杭の巨大さに比べれば大したことがない損傷であり、

『だったら、こいつで直接!』
「クロノス、それはっ!」

クロノスがプラズマキャノンを展開し、撃った。
止める暇もなく、コーティングされたプラズマ弾が炸裂し、シールドと装甲の間で激しく爆発した。

『ぐっ!?』
「くっ....!」

シンクロは解けなかったが、武器が吹き飛ばされて下へ落ちていく。

「そんな......」
『オレのせいか.....?』
「いいえ、私が割り込んで強制停止させていれば...」

高速演算の世界を生きる私が、クロノスの即時展開したプラズマキャノンを止められないはずがない。
しかし――――

「今ので、少しだけ考えが浮かびました」

失敗は成功の母。
今ので、シールドの性質について知る事が出来た。
同時に、あの一瞬でスキャンも走らせる事が出来、内部構造もある程度把握した。
これから導き出される答えは――――

「クロノス、このまま下へ向かいましょう」
『....ああ、分かった。墜ちるから、丁度いいところでストップと言ってくれ!』

クロノスはアルビオンリッパーの出力を切り、空を落ち始める。
雲が近づき、街を守るシールドのぎりぎりまで墜ちたところで、私は叫ぶ。

「ストップ!」
『おう!』

クロノスはアルビオンリッパーで再度上昇する。
そして、上を目指す。

「私の目算では、シールドは”面”という部分では強いのだと思います。しかし、”点”という部分は、弱い。接合部であれば、通常より弱い衝撃でも破壊できると思われます」
『それから? まだあるんだろ?』
「はい。あの杭は、内部の構造は単純です。円筒を這うように張られたリムが、底部の最も厚い部分に集中しています――――ですから」
『そこを、最大チャージのプラズマキャノンで吹き飛ばす――――ってことだな!』

クロノスは私の指示した場所にライフルを撃ち込みながら、真っすぐに突っ込む。
やはり、点と点の間に薄いシールドを張り、そのあいだに厚いシールドを展開する仕組みだったようだ。
すぐに底部のシールドが消え、無防備な状態が晒された。

『プラズマキャノン、展開』
「エネルギー充填、開始!」

最早、躊躇してはいられない。
あと40秒もすれば、崩壊より先に首都のシールドに激突し、シールドが耐えられなくなる。

『エネルギー充填、100%!』
「撃ってください」
『おう!』

稲妻のような閃光が、底部の最も装甲の薄く、脆い部分へと直撃した。
それだけでは破壊には至らない。
だが、内部に密封されていたプラズマが、コーティングの消失と共に炸裂すれば。
一瞬で装甲に凄まじいまでの損傷が生じ、巻き起こったエネルギーの奔流が杭の内部まで貫通する。
直後、行き場を失ったエネルギーが、杭の底部を吹き飛ばした。
続けて、杭を覆っていたすべての装甲が剥がれ落ち、まるで海底に沈めた缶が潰れるように内側に折れ曲がり、バラバラになりながら落下していく。
バラバラになったことで、首都のシールドも耐えられるはずだし、仮に割れたとしても、あれがそのまま落ちてくるよりは被害は軽微になるはずだ。

『.......なあ、クラヴィス』
「....何でしょうか?」

プラズマキャノンを撃った姿勢――――左腕を天に突き上げたポーズのまま、クロノスが尋ねてくる。

『本当に、気にしてないのか?』
「.....ああ、その事ですか」

前世の話。
確かに、あの時は関わるなと私は言ったけれど......

「もう、終わった事ですから」
『そうか! 良かった! 良かったぜぇ~....』

クロノスが喜んでいる声を聴きながら、私はふと上を見上げ、考えた。
どう考えても、あの時のエネルギーは杭を丸ごと吹き飛ばすものではなかった。
何が起きたのだろうか........と。
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