Clavis X Chronus クラヴィスアンドクロノス

黴男

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シーズン2-シークトリア首都編

087-来たる終焉

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シークトリア首都星系の外れ。
そこでは、警備艦隊が通常の巡航速度で航行を続けていた。

「前方チェック、異常なし」
「左方チェック、異常なし」
「右方チェック、異常なし」
「後方チェック、異常なし」
「よし、大丈夫そうだ」

まだ若い艦長は、周辺の索敵を終えほっと息を吐く。
首都星系には直接のワープインが出来ないため、外敵は必ずこの境目から侵入してくるのだ。

「まあ、本当に来るわけないよな」

たった一隻であれば包囲を抜けられるかもしれないが、一隻が出来ることなどたいしたことではない。
艦隊であれば、あっという間にシークトリア軍の包囲を受けて全滅する。
だからこそ――――油断していたのだ。

「かッ! 艦長ッ!! ワープ反応検知! 一隻と推定!」
「馬鹿め、七隻の艦隊相手に一隻など....」

艦長はワープ反応のあった右を見て――――そして絶望した。
それは、船と呼ぶにはあまりにも巨大であった。
それは、まるで巨大な杭のようであり
それは、一切の武装を身に着けていなかった。

「う、撃て! 撃墜させるんだ!」
「了解! 全艦隊、攻撃開始!」

現れた目標に大して、七隻の艦隊は猛烈なレーザー砲撃を浴びせ掛ける。
だが、それらはすべて、装甲で阻まれてしまう。

「ば、ばかな」

艦長の口から声が漏れる。
それもそのはず、射程距離内にその船はあり、艦隊の装備しているレーザー砲は、近距離で強力な効果を発揮できるものだったのだ。
そして――――

「て、敵、加速を開始しました! 推定速度、第一宇宙速度!」
「追え、追うんだ....それから、シークトリア軍に連絡を入れろ!」

こうして、送り込まれた刺客は動き出した。
その針路は――――シークトリア首都星であった。



「何だか今日は、落ち着きがないわよね」
「ああ....まぁな」

私は食堂にて、レッドとフィオネの話を聞いていた。
首都の外の警備隊の私たちには関係ないが、首都内部の警備隊はやたらと忙しそうなのだ。
情報封鎖がされており、何が起きているかは私にもわからない。

「あちこち情報封鎖だらけよ。故郷のお父さんにも連絡できないし、やんなっちゃうわ!」

フィオネが叫ぶのを聞きながら、私は何か不吉な予感を覚えていた。
そしてそれは、現実のものとなった。

『詳細を省かせてもらったうえで結論から言おう。お前たちは直ちに離脱しろ』
「何故ですか?」
『クロノスの回収は難しい、あれより脆いお前が先に離脱する必要がある』
「......だから、何故ですか!?」
『.......お前に情報だけ送る、決して漏らすな』

クレインは私に、情報を送ってくれた。
そして、驚愕の事実が明らかになった。

2000万トン以上の大きさを誇る、超巨大な釘のような何か。
それが、シークトリアに向けて真っすぐ突っ込んできていた。
速度はとても速く、攻撃が通らない。

『回避はできない。今のうちに俺を含めた要人と数人を逃し、首都を捨てる』
「住まう人たちは、どうなるのですか!?」
『仕方ない。混乱を避けるため、情報の公開はできないのだ』
「........」

仕方ない事。
そう言い張るのは、簡単だ。
けれど.....

「ほかに手はないのですか?」
『こちらの全力でも傷をつけられなかった。例えクロノスでも、それは不可能だ』
「でしたら、私は残ります」
『......どうするつもりか?』

その問いに、私は――――と答えた。
この世界は噓だらけだ。
でも私には、私を信じてくれる無垢なる人間たちがいることを知っている。
それを見捨てて逃げる事は、決してできない。

「......」

とはいえ。
簡単なことではない。
クロノスに乗ったところで、何も出来ないかもしれない。
そうしたら、私は、私を信じてくれた人たちを見殺しにすることになる。
だが.....

「何もしないよりは、いいはずです」

私は、今は権限上自由だ。
武装の使用に制限はあるものの、自分の意志は自分で決められる。
だからこれは、私の意地だ。

『クロノス』
『あー....オレもちょっとこれは....』
『やりましょう!』
『.....ああ、そうだな』

クロノスの説得にも成功した。
あとは、クロノスの元へ向かうだけだ。
だが......

「....単騎では難しそうですね」

私のバトルアーマーは、重力板で飛行できるものの、その飛行時間は最大で1時間程度。
クロノスのいる港までは首都の端から端まで飛ぶ必要があり、5時間はかかる。

「仕方ありません」

こうなれば、私の取れる方法は一つ。
首都は出口が封鎖されているものの、公共交通機関は止まっていない。
――――徒歩での移動だ。
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