Clavis X Chronus クラヴィスアンドクロノス

黴男

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シーズン2-シークトリア首都編

059-戦闘訓練

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電脳空間にダイブすると、クロノスが待っていた。
空間内では、機体を小型化させた姿でいる事が多いクロノスだったが、今は形の定まらない光の玉として浮いていた。

『随分、仲良さそうだったじゃねえか?』
「職務のサポートをしただけです」
『へぇ』

クロノスは移動し、空中にウィンドウをいくつか開いた。
予定表、星系図、外部センサーだ。

『今、どこを通過してるか知ってるか?』
「知りませんが......」
『見ろよ』

クロノスはウィンドウを飛ばしてくる。
そこには、星系図があり「B-R221R」と表示されている。
センサー映像を見ると、外に無数の岩塊が浮かんでいた。

「アステロイドベルトですか?」
『いいや、全部金属の塊.....つまり船だな』
「船ですか?」

検索をかけると、1300年前の戦場跡だということが分かった。

『どことどこが戦ったかはオレにも分からねー。だが、ここが今日の訓練場らしいって事は確かだぜ』
「ここが?」
『ああ、既に全艦のミサイルランチャー装備が始まってる』

クロノスはウィンドウを展開し、私の方にやった。
タブを展開し、各艦で製造が完了し、配備が始まっている装備のリストを表示する。

「......試作訓練弾頭....?」
『ああ、少量の爆薬で、あくまで直撃しても損傷は最低限になるようにしてある』
「つまり、迎撃訓練でしょうか......」
『久しぶりの戦闘だぜ? オレは楽しみだ.........』
「そうですか」

私も釣られて頷いた。
といっても、楽しみにしていないわけではない。
クロノスとの戦闘を。



◇◆◇



「頭部ユニット接続完了、背面、両手コネクタ共に正常に接続完了」
『システムオールグリーン、いつでも行けるぜ』
「バイザー起動、ウェポンシステムチェック」
『ウェポンチェック』

クロノスがそう言うと、機械の作動音が小さく響く。
各武器の装填動作をチェックしているのだ。
誤差があれば検知し、交換する。

『問題なし、ハードウェアチェック』
「了解、ハードウェアチェック」

私はクロノスの新型機関を起動する。
今まで三つの機関を複合して動かしていたが、余剰出力を削いで合体させ、改造したのだ。

「問題なし、出力、排熱に異常は見られません」
『発進許可を申請するぜ』

クロノスが発進許可を申請する。
以前は私が申請していたが、クロノスも定型文か通信システムによる限定的な会話が可能になったので彼に任せている。

『こちらブリッジ、発進許可を承諾します…お気をつけて』
「はい! 10秒後に機体固定が解除されます、メインスラスター起動」
『サブスラスター並列起動だ』

クロノスを固定していたロックが外れ、クロノスは無重力の格納庫に放り出される。
サブスラスターで微調整をしつつ、エアロックへと向かう。

『減圧を開始します、格納庫内の職員は直ちに船外作業服を着用するか、退出してください、繰り返します、格納庫内の職員は直ちに船外作業服を着用するか、退出してください』

アナウンスがされた後、エアロックが開き格納庫内の空気が吐き出されていく。

「さあ、行きますよ」
『おう!』

クロノスがスラスターを最大出力で起動し、宇宙へと飛び出す。

『作戦座標へ向けて転針!』
「巡航速度を維持」
『おう!』

クロノスのスラスターの噴射が安定し、前面からサブスラスターで逆噴射を行なって速度を調整する。

「レーダー起動します」
『レーダー起動』

クロノスのレーダーが起動し、周囲にある残骸が影として映し出される。

『熱源表示に切り替えるぞ』
「熱源表示を並列起動します」

二つのウィンドウで、私は通常表示と熱源表示を同時に処理する。

「ターゲットロックに異常なし」
『俺がやっとく』
「操縦に集中してください」

まもなく目標地点だ。
クロノスはデブリを回避しながらその地点へと向かう。

『秘匿通信を解析したぜ、”敵”の配置点を特定』
「それは、戦場ではしない方がよろしいかと思います」
『技術を与えた奴らが悪いもんねー!』

クロノスはそう言いつつ、目標地点を通過した。
直後、レーダー上に無数の飛翔物が映る。

「ミサイル感知」
『突破口を形成する!』
「適切な爆破ポイントを特定」
『よっしゃ、プラズマキャノン発射準備!』
「プラズマキャノンでは射程距離に問題があります、小型ミサイルの使用を提案」
『それもそうだな......よし、照準頼む!』
「はい」

私はミサイルの発射システムにアクセスし、的確な初速が出せる角度で放つ。
そして、飛翔物を最も多く巻き込めるタイミングで起爆させた。
装弾数が、60から54に減った。

「迎撃完了、撃ち漏らしを振り切り、指定した地点のデブリ群に突入してください」
『こっちも動きが鈍るぜ?』
「敵の弾頭は熱源探知のようですので、対電子戦装備を使用しデブリに偽装熱源を付与します」
『なるほどな、木を隠すなら森の中ってわけか!』

クロノスが方向を変え、眼下に見えていた密度の高いデブリ群へと突入する。

「対電子戦装備、起動」

私は電脳空間に意識を飛ばし、クロノスの内部に新規搭載された電子戦ユニットをアクティブ状態にする。

「クロノス、3.2秒間出力を一定に保持してください」
『細かいな! いいぜ』
「出力による排熱をトレース、乱数パターンで目標物に偽装適用」

クロノスを的確に追っていたミサイルが、その軌道を乱した。
新たに発生した熱源に混乱したのだ。
だが、すぐにその軌道は元に戻る。

「不自然過ぎましたね........A-PEXに軌道修正されました」
『おいおい』
「乱数パターンで熱源が発生するように偽装したのですが、離れた位置に生成したため見抜かれました」
『じゃあ、タッチアンドゴー、か?』
「はい」

クロノスのスラスターが出力を上げる。
向かう先は、一際大きいデブリ。
クロノスが手を伸ばし、そのデブリすれすれで広げた。

『タッチ!』
「クロノスの排熱を利用し、熱源偽装を行います」

一瞬、クロノスが周囲に熱を放った。
その際に、私はデブリに偽装熱源を同期する。
クロノスは即座にデブリを蹴り飛ばし、私はクロノスの熱源を隠す。
ミサイルは狙い通りにデブリに向かって飛んでいき、爆発した。

『よっしゃあ!』
「第二波到達まで、残り四十二秒」
『意外と時間があるな』
「..........数は二倍ですよ、備えてください」

私はクロノスに釘を刺すように、そう言ったのだった。
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