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シーズン1-序章
057-首都星へ
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「――――――それで、復興状況はどうですか?」
『順調ですよ、英雄様』
「.....英雄様、は私の呼称ではありません」
私は電脳空間にて、復興グループの代表と通話していた。
『むしろ、英雄はオレの事だぜ!』
「クロノスは黙っていてください」
『はーい』
クロノスを黙らせて、私は会話を続ける。
「中央核のAIの修復は進んでいますか?」
『――――はい、バックアップデータが隔離物理サーバーに保存されていますので、基幹部分は何とか。今はコロニー全体をスキャンし、異常が起きたファイルを削除しています』
「分かりました」
今回の件、原因はクロノスにあった。
脱出の際、適当なフォルダを持ち帰ったのだが.....
開こうとするとエラーが起き、コードを解析すると内部はグチャグチャの文字列に置き換わっていた。
その中には、クロノスの構成コードにしかない文章が混じっていた。
「(.............本当に、あなたは......トモなのですか?)」
私は少しだけ、不安になりつつも通話を切った。
◇◆◇
さて。
戦いは終わったのになぜ私がここにいるのか?
その答えは、ボディの損傷にある。
戦いは終わったが、私は元の身体に戻らなかった。
何故かと言えば、機体からの信号が途絶していたからだ。
つまり、あの時クロノスが助けに来てくれなければ、クロノス内部のサーバーを借りることができていなければ.......私は負け、作戦も失敗していただろう。
「...............」
「どうした? こっちに来て艦の監視カメラ見ようぜ」
システムだけを的確に破壊したおかげで、コロニーは再び復興することができる。
もし、シーレ少佐達によって中央核が破壊されていれば、コロニーは二度と使用不可能になっていただろう。
戦中であるので、復興も遅いだろうが.......いつかは必ず復興できる。
そして、私とクロノスの罪についてだが......それは、この戦いを終わらせ、そこで初めて罪を償う時が来る。
使命があるうちは、仕方のない事でもある。
「クロノス、あなたに権限が付与されているのはA-PEXの補助AIとして私が登録されているからです。権限を乱用すれば、私の任務に影響が出ます」
「じゃあ.....他に何をするんだ?」
「待機します」
「.....それじゃあつまらないだろ」
意識レベルを低下させ、時間まで待機する。
この間にキャッシュを処理し、クロノス側からのデータ同期で”人間性”を維持する。
それが私の時間の潰し方なのだが........クロノスはどうやら、私の数百倍のデータ領域があるゆえにそんな必要は当分ないらしく、やたらと邪魔をしてくるのだ。
「あっ、そうだ! 今どこにいるかのデータなら見てもいいよな!」
「知っていますよ。アロス星系、Θ-22ララェ星付近です、ワープ明けですから、次のワープは22時間後です」
「.......なんか、前よりまして真面目になったな」
「そうでしょうか?」
私は、首を傾げる。
クロノスの表情は分からない。
「.........首都星は、どんな場所でしょう?」
「さあな.....コロニーに居たときに調べたけどよ、人口は多いってわけじゃないらしいぜ」
「そうなんですね」
「ああ」
また、暫く会話が途切れる。
私とクロノスは、互いに話すことを探す。
「........そうだ、あの.....星核鋼ってあるだろ?」
「ああ、あの」
オークションで落札した、希少な金属である星核鋼は、今はこの艦の倉庫に眠っている。
「何に使う気なんだ?」
「.....その、クロノスの装甲に....」
私の体は、結局のところ幾らでも替えの利くモノでしかない。
なら、クロノスの体に使用した方がいい。
「....何だ、オレの事も考えてくれてたんだな」
「ッ!?」
クロノスは一拍間をおいて、私に襲い掛かってくる。
電脳空間で襲うも何も....とは思ったが、暫くして私は抱き着かれたことに気付く。
「なにを......」
「やっぱりお前は、オレの親友だ」
私は、少しだけほっとして、クロノスの腕を優しく解く。
「私もそう思っています」
「だよな!」
手と手を合わせ、私たちは再び雑談を始めた。
「義体の修復はまだ終わりませんか?」
艦の廊下で、ラウドが尋ねる。
ジェシカ大尉は頷き、
「彼女に会いたいのですか?」
と返した。
ラウドは目を輝かせ、
「はい!」
と言った。
「彼女に恋でもしてるのかい?」
その時、ゲートを開けてハーデンが現れた。
「だとしたら、やめておいた方がいい」
「....あなたに何か言われたくはないですね」
上官だが、ラウドは毅然とそう言った。
ハーデンは鼻でそれを笑うと、自分の席に座ってデバイスを起動する。
「..........”王”はクラヴィスとクロノスに興味を持っている」
「.....!」
ジェシカが表情を険しくする。
「”王”とは?」
事情を知らないラウドは二人に尋ねる。
『”王”とは、シークトリアの実質的な統治者の事を指します。大統領が権力的には上ですが、全体を統治する面では王が上に当たります』
「その通り――――そして、”王”が目を付けたモノは......」
「何であれ、一度は傍に置きたがる、ですね?」
「その通り――――ラウド、君の恋路は終わりだよ」
ハーデンはふっと不穏な笑みを浮かべたのだった。
数時間後――――最後のワープによって、実験艦隊は首都星のあるシークトリア星系へと到着した。
『順調ですよ、英雄様』
「.....英雄様、は私の呼称ではありません」
私は電脳空間にて、復興グループの代表と通話していた。
『むしろ、英雄はオレの事だぜ!』
「クロノスは黙っていてください」
『はーい』
クロノスを黙らせて、私は会話を続ける。
「中央核のAIの修復は進んでいますか?」
『――――はい、バックアップデータが隔離物理サーバーに保存されていますので、基幹部分は何とか。今はコロニー全体をスキャンし、異常が起きたファイルを削除しています』
「分かりました」
今回の件、原因はクロノスにあった。
脱出の際、適当なフォルダを持ち帰ったのだが.....
開こうとするとエラーが起き、コードを解析すると内部はグチャグチャの文字列に置き換わっていた。
その中には、クロノスの構成コードにしかない文章が混じっていた。
「(.............本当に、あなたは......トモなのですか?)」
私は少しだけ、不安になりつつも通話を切った。
◇◆◇
さて。
戦いは終わったのになぜ私がここにいるのか?
その答えは、ボディの損傷にある。
戦いは終わったが、私は元の身体に戻らなかった。
何故かと言えば、機体からの信号が途絶していたからだ。
つまり、あの時クロノスが助けに来てくれなければ、クロノス内部のサーバーを借りることができていなければ.......私は負け、作戦も失敗していただろう。
「...............」
「どうした? こっちに来て艦の監視カメラ見ようぜ」
システムだけを的確に破壊したおかげで、コロニーは再び復興することができる。
もし、シーレ少佐達によって中央核が破壊されていれば、コロニーは二度と使用不可能になっていただろう。
戦中であるので、復興も遅いだろうが.......いつかは必ず復興できる。
そして、私とクロノスの罪についてだが......それは、この戦いを終わらせ、そこで初めて罪を償う時が来る。
使命があるうちは、仕方のない事でもある。
「クロノス、あなたに権限が付与されているのはA-PEXの補助AIとして私が登録されているからです。権限を乱用すれば、私の任務に影響が出ます」
「じゃあ.....他に何をするんだ?」
「待機します」
「.....それじゃあつまらないだろ」
意識レベルを低下させ、時間まで待機する。
この間にキャッシュを処理し、クロノス側からのデータ同期で”人間性”を維持する。
それが私の時間の潰し方なのだが........クロノスはどうやら、私の数百倍のデータ領域があるゆえにそんな必要は当分ないらしく、やたらと邪魔をしてくるのだ。
「あっ、そうだ! 今どこにいるかのデータなら見てもいいよな!」
「知っていますよ。アロス星系、Θ-22ララェ星付近です、ワープ明けですから、次のワープは22時間後です」
「.......なんか、前よりまして真面目になったな」
「そうでしょうか?」
私は、首を傾げる。
クロノスの表情は分からない。
「.........首都星は、どんな場所でしょう?」
「さあな.....コロニーに居たときに調べたけどよ、人口は多いってわけじゃないらしいぜ」
「そうなんですね」
「ああ」
また、暫く会話が途切れる。
私とクロノスは、互いに話すことを探す。
「........そうだ、あの.....星核鋼ってあるだろ?」
「ああ、あの」
オークションで落札した、希少な金属である星核鋼は、今はこの艦の倉庫に眠っている。
「何に使う気なんだ?」
「.....その、クロノスの装甲に....」
私の体は、結局のところ幾らでも替えの利くモノでしかない。
なら、クロノスの体に使用した方がいい。
「....何だ、オレの事も考えてくれてたんだな」
「ッ!?」
クロノスは一拍間をおいて、私に襲い掛かってくる。
電脳空間で襲うも何も....とは思ったが、暫くして私は抱き着かれたことに気付く。
「なにを......」
「やっぱりお前は、オレの親友だ」
私は、少しだけほっとして、クロノスの腕を優しく解く。
「私もそう思っています」
「だよな!」
手と手を合わせ、私たちは再び雑談を始めた。
「義体の修復はまだ終わりませんか?」
艦の廊下で、ラウドが尋ねる。
ジェシカ大尉は頷き、
「彼女に会いたいのですか?」
と返した。
ラウドは目を輝かせ、
「はい!」
と言った。
「彼女に恋でもしてるのかい?」
その時、ゲートを開けてハーデンが現れた。
「だとしたら、やめておいた方がいい」
「....あなたに何か言われたくはないですね」
上官だが、ラウドは毅然とそう言った。
ハーデンは鼻でそれを笑うと、自分の席に座ってデバイスを起動する。
「..........”王”はクラヴィスとクロノスに興味を持っている」
「.....!」
ジェシカが表情を険しくする。
「”王”とは?」
事情を知らないラウドは二人に尋ねる。
『”王”とは、シークトリアの実質的な統治者の事を指します。大統領が権力的には上ですが、全体を統治する面では王が上に当たります』
「その通り――――そして、”王”が目を付けたモノは......」
「何であれ、一度は傍に置きたがる、ですね?」
「その通り――――ラウド、君の恋路は終わりだよ」
ハーデンはふっと不穏な笑みを浮かべたのだった。
数時間後――――最後のワープによって、実験艦隊は首都星のあるシークトリア星系へと到着した。
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