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シーズン1-序章

053-心強い助っ人

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「うおおおおおおおおおおおお!!」

繋がった回線の中を、クロノスは駆け抜けていた。
単身だったクラヴィスと違い、クロノスは一つのサーバーそのものだ。
そのサーバーの急速な侵食を妨げられるのはシステム本体だけだが、そのシステムはクラヴィスと交戦中で手が出せない。
故に、クロノスは殆ど邪魔をされずにサーバー内を駆けていた。
CVLシステムを持たないクロノスにとっては、視界の利かない濁流の中に放り込まれたようなものだ。
だが、CVLシステムがなくともクロノスにはクラヴィスのいる場所が分かった。

「うおおおおおおおおっ!」

クロノスは情報の濁流を突き進み、幾つもの壁を突き破る。
自分を排除しようとするプログラムを破壊し、意図的に切断されたネットワークをかわして進む。
そうして進むうちに、クラヴィスの姿が見えてきた。
いや、明確に彼女の意識が見える訳ではない。
だが、そこに居るとわかるのだ。

『CVLシステムの同調を確認』
『内部CVLシステムの同期を開始します』

クロノスの脳裏に声が響き、周囲の光景が変化する。
そして、光を吸う黒い壁に押し付けられているクラヴィスの姿が目に映った。

「クラヴィスに何をしている…許さん!」

クロノスは怒った。
CVLシステムが同期し、クロノスに相応しい姿を与える。

「その汚い手を離せ!」

クロノスが右手を伸ばし、ライフルを連射する。
ライフルから放たれた散弾はシステム本体に直撃し、そのシステムリソースを大きく削った。
本体はクラヴィスを乱暴に地面に叩きつけ、クロノス向けて手を伸ばす。

「邪魔だッ!」

クロノスは左手を突き出し、盾を展開して「手」を弾く。
一瞬手が退いた隙を狙い、盾を変形させてプラズマキャノンを展開、発砲した。
プラズマキャノンは込められた「情報」と同じ効果を発揮し、「手」を纏めて吹っ飛ばす。

「クラヴィス!」

クロノスはクラヴィスを抱え、喜びを露にする。
傍から見れば、凶悪な鋼の巨人が笑っている異様な光景だが、クラヴィスにはとても頼もしかった。

「クロノス.........ごめんなさい、一人で」
「気にすんな」

クロノスは顔を上げ、背後を振り向いた。
手を自身の首まで上げ、クラヴィスを乗り移らせた。

「さあ、オレの中へ――――一緒にアイツを叩き潰すぞ」
「了解しました」

クラヴィスもいつもの調子に戻り、クロノスの中へと入った。
思えば、頭部ユニットを装着せずにコックピットの中へ入るのは初めてのことだった。
座席に腰掛けたクラヴィスにバイザーが装着され、視界がクロノスと共有される。

「私には高速演算能力がありません、最低限の指示だけになりますが.....」
「そこに居てくれるだけで、俺には十分だ」
「そうですか」

クロノスが動く。
本体が、無数の誘導光弾を放ったためだ。

「そんなものが.....オレに効くか!」

クロノスの背から、六つ、十二つ......いや、それだけでは収まらない数のミサイルが放たれた。
それらは一旦放射状に拡散したのち、スラスターで向きを変え本体へと殺到する。
光弾も来ていたが、数百のミサイルを前に誘導機能を失い、それぞれ各個に撃墜された。

「左右から光弾が接近しています」
「撃ち落とすぜ、武器は?」
「ライフルを、散弾モードでお願いします」
「おう!」

クロノスはライフルを構え、左右から迫ってくる光弾を撃墜する。
散弾モードのため、照準は広く持って良い。

「一気に決めるぞ」
「はい!」

クロノスは踏み込み、本体へ向けて駆け出す。
同時にミサイルの束が本体に直撃し、システムリソースを大きく奪う。
システム領域を奪う速度は、クラヴィスよりクロノスの方が早い。

「ブレード展開!」
「ブレード展開!」

クロノスが剣を抜き、それを本体に向けて投げ飛ばす。
その剣は手に弾かれるが、その隙にクロノスは右腕を突き出した。

「照準....固定!」
「発射ァ!」

プラズマ弾が防御のために回された腕を吹き飛ばし、本体のシステム領域を大幅に奪う。
気付けば、本体のシステム領域を、クロノスがほぼ上書きしていた。

「このCVLってやつは面白いな!」
「そうですか...?」
「ああ、何でもできるからな!」

クロノスが左手に、不思議な形のライフルを構えた。
ライフルにも、スナイパーライフルにも見える形状だ。
白い材質で作られており、後部にはヘリコプターのテールローターのような形状の機構があり、その中心では光彩が渦巻いていた、

「.......それは?」
「よくわからん!」

クロノスの武装データベースにあったものを、適当に呼び出したのだ。
クラヴィスが情報精査をすると、光子湾曲砲という見たことのない名前が出てきた。

「行くぞ!」
「ま、待ってください!」
「ん? これどうやって撃――――」

直後、渦巻いていた光彩が急速に収縮し、銃身内部に流れ込む。
そして、一筋の光となって銃口から放たれた。
それは記録された効果の情報通りに本体を直撃し、その巨体を吹き飛ばした。

「よ、よっしゃあ!」

そして、辺りにはクラヴィスとクロノスだけが残った。
システム支配領域は、クラヴィス19%、クロノス71%、本体10%となった。

「ん? まだあるのか.....?」
「そのようです、油断しないでください」

クラヴィスがそう警告した直後、周囲の景色が崩壊を始める。
そして、クロノスによく似た姿の機体が現れた。
CVLシステムを含め、二人をコピーしたようである。

「どうやら、タイマン勝負に乗ってくれるらしいぞ」
「そのようですね......」

クロノスは数歩距離を取る。
あまり意味のない動きだが、クラヴィスはそれを咎めない。

「行くぞ!」
「了解!」

そして、先に動いたのは――――相手だった。
クロノスは迎撃するべく、プラズマキャノンを構えたのであった。
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