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シーズン1-序章

046-大突入 後編

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数日後。
中央核の”B”ゲート付近に、総数62の艦隊が布陣していた。

「中央核への通信、応答ありません!」
「了解、ジェシカ大尉!」
『こちら六番艦、空母より作戦機発艦します』
「確認した! 作戦機発進と同時に前進を開始する!」

シーレ少佐はニヤリと笑う。
直後、鋭い音と共に艦橋の真横を何かが通り抜けていく。
それに追随する形で、細長い形の機体が何機か続けて通り過ぎる。

「.........作戦機、音速に到達!」
「第一障壁、貫通!」

ゲートに張られていた微弱な障壁を、先鋒の機体が突き破る。
同時に、内部で無数の砲撃光が観測されるようになる。

「作戦機を援護する! ロングレンジ砲撃可能な大型艦は前に出たまえ!」
「ノーテュラス級二隻、前面に出ます!」
「砲撃開始! 地対空ミサイルの発射装置を優先的に狙え!」
「そのように伝えます!」
「 ああっ、ゲート外縁部から小型警備船が複数発進!」
「ええいっ、この忙しい時に....ノーテュラスを支援しろ! モルドレッド級八隻を前に出したまえ!」
「はっ!」

全体的に丸みを帯びた四角状の艦が前面に出ていく。
そして、機関砲による対空支援を開始した。
その間にも、作戦機は第二障壁を貫通し、第三障壁に迫る。

「やはり、特攻してくる事を想定していなかったのですな、流石はシーレ少佐ですぞ」
「やめろ」

シーレ少佐は目を伏せる。
この作戦を考えたのが自分である事を肯定すると、自分が最大のバカである事を認めてしまう事になるからだ。

「さあ、賭けはどうなることやら」
「第三障壁突破! 中央核上空に到達しました!」
「ふん、全艦隊に告ぐ、前進開始!」

少佐が命じる。
同時に、艦隊が動き始める。
だが、すぐに艦橋に悲鳴のような声が響き渡る。

「しょ、少佐! 突入した作戦機が撃墜されました!」
「作戦に変更はない、行きたまえ」
「はっ!」

少佐はニヤリと笑う。
作戦が見事に成功したことに、喜びを隠せなかったのだ。


◇◆◇



「.........上手く、いった....」

私は、作戦機の残骸から這い出た。
思えば、滅茶苦茶な作戦だった。
特攻による陽動に偽装し、中央核の対空砲火によって撃墜された作戦機の残骸と一緒に脱出したのだ。

「.........二基ジェネレーター起動、作戦行動に移る!」

残骸をパワーアーマーの膂力で吹き飛ばし、私は周囲を見渡す。
思った通り、周囲に陸上兵器の姿はない。

「一気に内部に突入しなきゃ、スラスター最大稼働!」

地面から少し浮いた状態で、私は咄嗟に加速する。
警報が鳴り響き、近くにあった砲台がこちらを向く。

「…無力化します」

私は平静を保ち、呟く。
向こうの砲台は高射砲なのでエネルギー充填にコンマ数秒のラグがある。
そのラグより先に、撃つ。
ショットガンが火を噴き、左腕に僅かな反動。
反動を受け後退し、砲台に突き刺さった実体弾が内部機構を誘爆させるのを見届ける。
それを尻目に更に加速、群がって来た警備兵を振り切って一番大きな建物……中央管理局を目指す。
あそこでIDを発行しなければ、中央各内部には入れない。

「熱源感知、4機の強制排除ユニットを確認」

対テロリストや敵軍を想定した強制排除ユニット、レーザー兵器で武装した不恰好な金属塊が幾つも姿を現す。
しかし、その不格好さはデザイン性をなるべく排除し、的確な耐衝撃構造を重視した結果である。

「.......」

右腕の機関砲を連射するが、距離減衰もあり装甲を貫けない。

「.......無視します」

私は強制排除ユニットを回避するように動き出す。
こちらの装備では無力化は出来ないからだ。

「複数のロックオンを確認、電子偽装を開始します」

私の視界が歪む。
複数の欺瞞情報を発信し、私の視覚処理を歪めるレベルの偽装を行う。
でたらめな方向に光弾が飛び、その間を私がすり抜けていく。
強制排除ユニットが正しい情報を再取得したとき、既に私は戦列の背後に居た。

「最大速度で管理局内に突入します!」

最早速度を気にする暇はない。
私は出せる最大速度を維持しながら、管理局の正面入り口前に躍り出る。
しかし、次の瞬間――――――

『対テロ行為セーフティシステムを起動します、残存している職員は直ちに退避してください、繰り返します、対テロ行為セーフティシステムを起動します、残存している職員は直ちに退避してください』

アナウンスが無人の区画に鳴り響き、管理局全体が発光するフィールドに包まれた。
恐らく、対衝撃シールドの類だ。
このままでは中に入れない。
私は踵を返し、道路を駆け抜ける。

「..........東ブロックに、要人用の入り口を発見」

要人は正面から入らず、少し離れた場所にあるゲートから地下を通って中に入る。
ただし、要人が射線に生肌を晒す場所なので、警備は当然に厳しい。
だから、向こうも私があそこから入ろうとしていることには気づかないはずだ。
電子偽装を継続して私用しながら、私は要人用入り口の外壁の前に立つ。
そのままスラスターを下に向け、外壁に沿って上昇する。

「................」

気分は、エスカレーターに乗った時のようだ。
嬉しい時も悲しい時も、人と乗ったとしても、日本人ゆえかは分からないが言葉を発することはなくなる。
黙って、目的の階まで向かうのだ。

「ッ!」

そして、到着した。
外壁の上に辿り着いた途端、ロックオンの近接警報が私に警告を飛ばす。

「まずは一基、沈黙状態に」

こちらを真っすぐ狙う砲撃ユニットの基部にショットガンを叩き込む。
即座にもう二回射撃し、回線を引き千切った。
支えを失った砲台が傾き、砲身の先端が地面を擦って止まる。

「前進!」

躊躇する隙は無い。
他の砲撃ユニットが火を噴く前に、私は壁の上から飛び降りた。
もっとも、それで安全になるわけではない。
外壁の内側に存在する、着艦エリアの屋上、そこに設置された二つの兵器が私に向けた照準をロックする。
片方はE.M.Pディフューザー、つまりは電磁波投射装置。
EMPに対しては対策があまりされていない私には、致命傷になり得る。
もう片方は、

「ッ!」

両腕を変形させて盾を展開し、私はそれを防ぐ。
屋上に設置されているのは五連装機関砲、実体弾ではなくパルスレーザー砲に近いため、電磁盾ではない私の両腕の手甲では防げない。
スラスターを上向きにして、私は出来る限りの被弾を避ける。
しかし、

「ッ、が――――」

一瞬、感じないはずの痛みが脳裏を駆け巡る。
EMPディフューザーを食らったのだ。
急いで私は基本電源を再起動する。
余剰電力を空のバッテリーパックに詰め込んで――――

「あ」

気付けば、私は無防備だった。
癖で、腕を降ろしていたのだ。
光弾が迫り――――私は目を瞑った。
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