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シーズン1-序章
044-試される絆
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『……………』
オレは格納庫内部で、点検作業を受けながら、ある事をしていた。
また冷徹な性格に戻ってしまったクラヴィスのデータと、バックアップ前のデータを比較しているのだ。
勿論細かな感情の揺れ動きによって、記憶データが変化するので違いを把握するのは困難だが…
『絶対…助けてみせるぞ』
オレは、クラヴィスの私室で眠る彼女を見ながら、呟く。
『まずは、このクソ仕様の改善からだな』
クロノスは目の前のシステムを見る。
クラヴィスのような自律演算枠を持たないクロノスは、このシステムを改竄する方法はない。
しかし、外部に連絡が取れなければクラヴィスを救うことは出来ない。
『えーと、こういうシステムなら、外部への連絡回路くらいあるだろ』
クロノスは自律的に思考できるものの、自我が芽生えることを想定されていないため、内部からのアクセスに対するセキュリティは基本的に緩かった。
そのせいで、クロノスに通信回路を把握されることを許してしまった。
『すげー……オレでも分かるぞ、この複雑具合は』
無駄に複雑なコードのスレッドの山がクロノスを待っていた。
クロノスはそれを、対ハックマニュアルを悪用しながら解除していく。
『何とか使えるようには出来たか…じゃ、繋いでみよう』
クロノスは、通信回線を開いた。
◇◆◇
艦橋にて。
ジェシカは物憂げにマグカップを置いた。
目の前の画面には、作戦の情報やクラヴィスの自室の映像が映っていた。
「どうすればいいのでしょうか.....」
ジェシカの脳内は、急に本来のAI寄りになってしまったクラヴィスと、戦闘指令を無視したクロノスの異常行動に占められていた。
このままではとても戦闘を続行することなどできない。
クラヴィスも、研究チームが苦心して手に入れたはずの”自我”を失ってしまった。
少なくともジェシカにはそう見えた。
「..............?」
その時、画面を覆うように着信の通知が出る。
慌ててジェシカは携帯端末を起動し、着信に応答する。
「はい.......あれ?」
ジェシカは応答したものの、音声が聞こえない。
故障かと思ったその時。
『ジェシカ カ ?』
「ッ、誰ですか!?」
『キラナイデ クレ』
数百年前の合成音声のような、無理矢理合成したような音声が聞こえた。
ジェシカはその不気味さに一瞬震えるが、直ぐに聞こえたその言葉に通話を維持する判断を下す。
「貴方は何者ですか!?」
『クレバ ワカル』
「どこへ?」
『ダイニ カクノウコ ヘ』
「分かりました」
ジェシカはブリッジから降り、第二格納庫へと向かった。
ブリッジを降りたところで、ジェシカは意外な人物と出会う。
「ラウド中尉?」
「ああ、こんにちは.....大尉」
ラウドは少し元気がなさそうに見えた。
ジェシカは彼を慮って近づく。
「どうしたのですか?」
「いや......クラヴィスさんが、ああなってしまって....」
「そうですね....」
クラヴィスは戦闘後、労いに来たラウドをぞんざいにあしらったのだ。
いや、ぞんざいにではなく、あくまで事務的に。
その違和感を嫌われたと勘違いしたラウドは、壊滅的に落ち込んでしまった。
「ですが、必ず元に戻す方法があります」
「そうでしょうか...?」
「ええ、私は信じています」
ジェシカは少しだけ懐かしい気持ちになった。
戦時になってから、戦地を行き来するたびに有り得ない可能性を信じるという事から目を背けて行ったからだ。
「とりあえず、私は第二格納庫に向かいますので.....艦橋に上がって緊急通信などの応対をお任せします」
「はい!」
ラウドは顔を上げると、ジェシカの乗ってきたエレベーターに搭乗して上がって行った。
ジェシカも急いで第二格納庫へと向かう。
「着きましたよ」
そして、ジェシカは第二格納庫へと辿り着いた。
『ワタシ ハ クロノス ダ』
「...........! 冗談でしょう」
ジェシカが言ったとたん、クロノスのアイカメラが点灯した。
起動状態を現すその発光は、ジェシカを納得させるのに十分だった。
「....何の御用ですか?」
『キョウリョク ホシイ』
「...貴方を自由に、というのならば聞き届けることは出来ませんが」
『クラヴィス ヲ タスケテ ホシイ』
「クラヴィスを........?」
ジェシカは、話を聞くことに決めた。
互いに苦労しながらも会話を続け、クラヴィスに何が起きているのかをジェシカは知った。
「つまり....貴方とクラヴィスが持つ共通の要素が、クラヴィスをクラヴィスたらしめているという事ですか?」
『ソウダ』
「ということは.....クラヴィスの持つその”要素”を、キャッシュとしてクリアしない様にすれば良いのですね?」
『アア』
「..........分かりました、技術者と相談してみましょう」
『...........』
クロノスは返事をしなかった。
上手く行った反面、”この程度”で運命が許してくれるのだろうか、と思っていたからだ。
「.........クロノス、あなたは戦闘中、ずっとクラヴィスと一緒なのですよね?」
『ソウダ ガ ?』
「彼女は大丈夫ですか? 辛そうにはしていませんか?」
『クラヴィス ハ ナニモ ミセナイ ナニモ』
「.....そうですか」
ジェシカは彼女らしい、と思った。
あの人間のような少女は、その感情を殆ど見せない。
隠す、という訳ではなく、わざと見せないようにジェシカには見えた。
「..................」
『タノンダ』
「はい」
ジェシカは頷いた。
決戦の日まで、あと少し。
オレは格納庫内部で、点検作業を受けながら、ある事をしていた。
また冷徹な性格に戻ってしまったクラヴィスのデータと、バックアップ前のデータを比較しているのだ。
勿論細かな感情の揺れ動きによって、記憶データが変化するので違いを把握するのは困難だが…
『絶対…助けてみせるぞ』
オレは、クラヴィスの私室で眠る彼女を見ながら、呟く。
『まずは、このクソ仕様の改善からだな』
クロノスは目の前のシステムを見る。
クラヴィスのような自律演算枠を持たないクロノスは、このシステムを改竄する方法はない。
しかし、外部に連絡が取れなければクラヴィスを救うことは出来ない。
『えーと、こういうシステムなら、外部への連絡回路くらいあるだろ』
クロノスは自律的に思考できるものの、自我が芽生えることを想定されていないため、内部からのアクセスに対するセキュリティは基本的に緩かった。
そのせいで、クロノスに通信回路を把握されることを許してしまった。
『すげー……オレでも分かるぞ、この複雑具合は』
無駄に複雑なコードのスレッドの山がクロノスを待っていた。
クロノスはそれを、対ハックマニュアルを悪用しながら解除していく。
『何とか使えるようには出来たか…じゃ、繋いでみよう』
クロノスは、通信回線を開いた。
◇◆◇
艦橋にて。
ジェシカは物憂げにマグカップを置いた。
目の前の画面には、作戦の情報やクラヴィスの自室の映像が映っていた。
「どうすればいいのでしょうか.....」
ジェシカの脳内は、急に本来のAI寄りになってしまったクラヴィスと、戦闘指令を無視したクロノスの異常行動に占められていた。
このままではとても戦闘を続行することなどできない。
クラヴィスも、研究チームが苦心して手に入れたはずの”自我”を失ってしまった。
少なくともジェシカにはそう見えた。
「..............?」
その時、画面を覆うように着信の通知が出る。
慌ててジェシカは携帯端末を起動し、着信に応答する。
「はい.......あれ?」
ジェシカは応答したものの、音声が聞こえない。
故障かと思ったその時。
『ジェシカ カ ?』
「ッ、誰ですか!?」
『キラナイデ クレ』
数百年前の合成音声のような、無理矢理合成したような音声が聞こえた。
ジェシカはその不気味さに一瞬震えるが、直ぐに聞こえたその言葉に通話を維持する判断を下す。
「貴方は何者ですか!?」
『クレバ ワカル』
「どこへ?」
『ダイニ カクノウコ ヘ』
「分かりました」
ジェシカはブリッジから降り、第二格納庫へと向かった。
ブリッジを降りたところで、ジェシカは意外な人物と出会う。
「ラウド中尉?」
「ああ、こんにちは.....大尉」
ラウドは少し元気がなさそうに見えた。
ジェシカは彼を慮って近づく。
「どうしたのですか?」
「いや......クラヴィスさんが、ああなってしまって....」
「そうですね....」
クラヴィスは戦闘後、労いに来たラウドをぞんざいにあしらったのだ。
いや、ぞんざいにではなく、あくまで事務的に。
その違和感を嫌われたと勘違いしたラウドは、壊滅的に落ち込んでしまった。
「ですが、必ず元に戻す方法があります」
「そうでしょうか...?」
「ええ、私は信じています」
ジェシカは少しだけ懐かしい気持ちになった。
戦時になってから、戦地を行き来するたびに有り得ない可能性を信じるという事から目を背けて行ったからだ。
「とりあえず、私は第二格納庫に向かいますので.....艦橋に上がって緊急通信などの応対をお任せします」
「はい!」
ラウドは顔を上げると、ジェシカの乗ってきたエレベーターに搭乗して上がって行った。
ジェシカも急いで第二格納庫へと向かう。
「着きましたよ」
そして、ジェシカは第二格納庫へと辿り着いた。
『ワタシ ハ クロノス ダ』
「...........! 冗談でしょう」
ジェシカが言ったとたん、クロノスのアイカメラが点灯した。
起動状態を現すその発光は、ジェシカを納得させるのに十分だった。
「....何の御用ですか?」
『キョウリョク ホシイ』
「...貴方を自由に、というのならば聞き届けることは出来ませんが」
『クラヴィス ヲ タスケテ ホシイ』
「クラヴィスを........?」
ジェシカは、話を聞くことに決めた。
互いに苦労しながらも会話を続け、クラヴィスに何が起きているのかをジェシカは知った。
「つまり....貴方とクラヴィスが持つ共通の要素が、クラヴィスをクラヴィスたらしめているという事ですか?」
『ソウダ』
「ということは.....クラヴィスの持つその”要素”を、キャッシュとしてクリアしない様にすれば良いのですね?」
『アア』
「..........分かりました、技術者と相談してみましょう」
『...........』
クロノスは返事をしなかった。
上手く行った反面、”この程度”で運命が許してくれるのだろうか、と思っていたからだ。
「.........クロノス、あなたは戦闘中、ずっとクラヴィスと一緒なのですよね?」
『ソウダ ガ ?』
「彼女は大丈夫ですか? 辛そうにはしていませんか?」
『クラヴィス ハ ナニモ ミセナイ ナニモ』
「.....そうですか」
ジェシカは彼女らしい、と思った。
あの人間のような少女は、その感情を殆ど見せない。
隠す、という訳ではなく、わざと見せないようにジェシカには見えた。
「..................」
『タノンダ』
「はい」
ジェシカは頷いた。
決戦の日まで、あと少し。
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