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シーズン1-序章

043-市街上空戦 後編

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「敵機、1、ポイントCに接近」
『........射撃する』

オレはなるべく、彼女を刺激しない様に呟く。
何故だかは分からないけれど、彼女――――クラヴィスは最近すこし変だった。
オレも気づいてはいたが、何となく嫌われるのが嫌で言わなかった。

「事前予測ポイントD-002に飛翔物、迎撃準備を」
『了解。』

オレは意識をそちらに向け、手を動かすように機体の兵器類を動かす。
自由に動けるクラヴィスと違って、オレは戦いのときだけ動くことが出来る。
それがたまに、羨ましくもなる。
オレが自由に動けたなら、クラヴィスをこの腕で、この手で抱き締める事も出来るだろうに。

「...........Chronus、どうしましたか? 思考リズムにラグが生じています」
『.....問題はない』
「そうですか」

クラヴィスに一体何が起こったんだ?
さっきまで、軽口を叩きあえる仲だったはずなのに、今は目の前に居るのがただの自動応答のAIであるようにしか見えない。

『クラヴィス.....その』
「はい」

オレはミサイルの束を避けながら降下し、操縦席のクラヴィスに呼び掛ける。

『なぁ、ハル』
「ハル.....?」

まただ。
以前も、こうやって呼んでも答えてくれなかった事がある。
オレ達は、親友だ。
自分でいうのもアレだが、親友だったと思う。
そして、オレ自身も――――アイツの事が好きだったと思う。
アイツはそんな事は知らなかったし、オレも知ってほしいとは思っていなかった。
だからオレはいつもアイツと一緒に居たし、アイツも俺に付き合ってくれていた。

『ハル、ハル........なあ、ネタだろ?』
「...........?」

クラヴィスの声にも、動作にも動揺はない。
本気で冗談かと思ったが、戦闘中にこんなことをする意味もない。

『一旦降下するぞ』
「戦闘行為の放棄は認められていません、作戦行動の逸脱は控えてください」
『そんなこと言ってる場合かよ!』

オレはビルの間に降り立って、クラヴィスの意識内にスキャンを掛ける。

「攻撃感知、直ちに防御行動に移行してください」
『ちっ、異常なし.......かよ』

クラヴィスに異常はない。
エラーも無い。

『がっ.....!』

背に痛みが走る。
いや、正確にはこれは警告に過ぎない。
背に攻撃を受けているのだ。

『邪魔するなぁ!!』

背から飛び出したミサイルが、視界に移っていた全てに向けて飛翔する。

「警告。ミサイルの進路が味方艦を巻き込むルートを取っています」
『どうでもいい!』

起爆したミサイルが、味方艦を巻き込む形でパルスレーザーをばら撒く。
味方艦へのフレンドリーファイア警告のウィンドウが何個も開く。

「警告、けいこ――――」
『クラヴィス、再起動コードを転送する!』

次の瞬間、クラヴィスの目から光が消える。
クラヴィスのシステムがオフラインになり、オレの演算能力を肩代わりしていたサーバーの反応が消える。
直ぐにサーバーが復帰し、クラヴィスの目に光が戻る。

『ハル?』
「..........リブート完了。アップデート適用、トラブルシューティングは正常に完了しました。エラーレポートをメインホストに転送しました、バージョンは最新です、命令を待機中」
『................』

違う。
やっぱりこいつは、ハルじゃない。
だけど......何が起きたんだ?

「――――戦闘レポートをアップデート、Chronus、周辺に敵機が点在しています。殲滅行動に移行してください、繰り返します、周辺に敵機が点在しています――――――」
『あああ、うるせえ!!』

叫んだところで、オレは唐突に思いついた。
クラヴィスがおかしくなった理由が分かったのだ。

『さっき.......確か、キャッシュをクリアしていたような気がするな』

もしかすると、本当にもしかすると......オレたちの過去の記憶もまた。記憶というカタチではなく、データとして存在しているのではないか?
オレは何となくそう思い、クラヴィスのバックアップデータを参照する。

「警告、警こ――――」
『クラヴィス!』

クラヴィスが再起動して、また目に光が戻る。
オレは上手く行くか、不安だったが........

「..........こ、ここは.....?」
『起きたか!?』
「うん.....い、いえ。ここはどこですか?」
『オレのコックピットの中だな』
「....ああ、そうですか...あの後何が?」
『実はな...........』

オレはクラヴィスに起きたことを説明した。
クラヴィスは最初半信半疑だったが、録画しておいた映像を見せると、納得してくれた。

「そんな事が......ところで、今クロノスはどんな状態ですか?」
『あー........集中攻撃されてるぞ』

何とか盾で防いではいるが、集中して狙われていることに変わりはない。
その旨を伝えると、クラヴィスの表情が変わった。

「早く、戦闘準備をしてください!」
『わ、分かった、分かったから!』
「どう説明すればいいんですか、全く....!」

怒られてしまった。
だけど、オレは別に嫌ではなかった。
またこういう事があった時のために、オレはクラヴィスのバックアップデータを適当な場所に隠しておいた。









結果として、オレ達は都市部の奪還、住民の救助に成功した。
喜ぶべきことだったが、戦いはまだ終わらない。
次なる目的地が何処かは、オレにはまだ分からないが.......
だが、きっと何とかなる。
アイツと一緒なら。
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