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シーズン1-序章
038-空中戦 後編
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それから数時間後。
私達は最後の目標の上空に居た。
既にクロノスはミサイルを撃ち尽くし、数箇所に被弾している。
「最終目標を捕捉」
『今度はしっかり仕留めるぞ』
「ええ、是非お願いします」
クロノスは巫山戯る事が非常に多いが、余裕がない時は真面目になる。
それが、昔からの経験だ。
…..昔?
クロノスと出会ったのはそれほど昔ではないはずなのに、私は何を考えているのだろうか?
「!」
その時、アラートが鳴り響く。
直下から、今までの警備船とは毛色の違う艦が上昇してきていた。
『何だアレ!?』
「情報精査。......RCO-022-CZ型装甲母艦です」
『手短に頼む!』
「強力な対エネルギー装甲を持った空母です、武装は対空パルスレーザーが左右舷それぞれ八基、ミサイル発射管が左右舷に八つ、回転砲塔が二基となります」
『なんだ、大したことないな!』
「お待ちください、この母艦の脅威は......」
『うおおおおおおおおお!!』
話を聞かずに高度を下げるクロノスだが、当然装甲母艦の射程内に入り、パルスレーザーと回転砲塔の斉射を受ける。
「電磁盾を構えてください!」
『振り切る!』
「は、はいっ!」
加速度が一瞬コックピットを襲い、直ぐに抑制される。
クロノスが加速しながらライフルを連射しつつ、母艦の艦底部を攻撃しつつ駆け抜ける。
『やりぃ!』
「まだです、『送り狼』が来ますよ」
『そうか、母艦だもんな!』
母艦の上部装甲が展開され、全六機の艦載機が順番に吐き出される。
あの艦の最大の特徴である、NH-22DP仕様、通称”ナイトハウンド”である。
「早急に撃破してください! 数が多くなればなるほど、危険度が上昇します」
『チッ、分かった!』
ナイトハウンドは回転機動でクロノスから距離を取る。
クロノスがそれを追えば、背後から他の五機が付いてくる。
「更に加速してください、ナイトハウンドの射程内に入ります」
『了解....だ!』
クロノスが一瞬声を落とす。
大気圏離脱用ユニットのリアクターのアラートが、視界の端で通知されたからだ。
『使い過ぎた、減速する!』
「丁度いいです、スラスターを逆噴射、編隊の裏を取ります!」
『了解!』
ユニットを切り、クロノスは逆噴射で減速、そのまま下方向へ向けて急降下する。
これがクロノスでなければ、中に乗っているのが私でなければ、重力との干渉でバラバラになるか、レッドアウトを起こして意識を失うだろう。
そんな無理な機動を取り、クロノスは編隊の真後ろに回り込むことに成功した。
「攻撃開始!」
『よっしゃあ、入れ食いだ!』
後部への攻撃手段を持たないナイトハウンドは、ライフルの射程内で次々と墜ちていく。
全機撃墜できるかと思ったのだが、
「警告、背後から別編隊が接近しています.....ミサイルの発射を確認」
『フレア発射!』
「在庫切れです」
『マジかよ!』
ユニットのリアクター冷却は、後三十秒ほど、こちらはミサイル無し――――さあ、どう動く?
考える私の前で、クロノスは動き出す。
『ミサイルなんて、盾で防げばいい!』
「しかし、それでは反撃が.....」
『忘れたのかよ?』
ミサイルを受けながら、クロノスは落下していく。
そして、クロノスは別のナイトハウンド編隊のど真ん中へと突っ込んだ。
『食らえ、裂空大車輪!!』
「......未登録の技名です、流派はあるのですか?」
『オレ流だ!』
なんと、クロノスはスラスターを使って回転しながら、的確にナイトハウンドの翼を狙い、叩き落としたのである。
勿論、それだけで撃墜されるナイトハウンドではなかったが....確実に統制が乱れたのは確かだ。
「スラスター逆噴射、姿勢制御を行ってください!」
『オレに任せろ!』
クロノスは逆噴射しながらプラズマキャノンを放ち、爆発に四機を巻き込んだ。
結局残った二機は合流するが、どちらにしろライフルの射程内である。
合流時に速度が落ちた隙を狙われ、ミサイルに誘爆して撃墜される。
『よっしゃあ!』
「第三波到達を確認」
『まじか!』
クロノスは急降下して、下に見えていたビル群の中に飛び込む。
私は後ろを見て、敵の動きを読む。
「下降してきません....恐らく、ビル群を抜けようとするこちらの減速を狙い、ミサイルを上から追い込む様に発射すると思われます」
『つまり、こういう事だな?』
「そうです」
クロノスは一回転して平泳ぎのように上を向き、そのまま加速する。
そして、上昇中のナイトハウンドの真下に潜り込む。
「掃討開始」
『了解だっ!』
ライフルが連射され、射線上にあったナイトハウンドを射貫く。
勿論それだけで決定打にはなり得ないものの、収まりきらずに下に吊っているミサイルに着弾すれば....
『汚い花火だな』
「有機生命体は搭乗しておりません」
『つまんねえ奴だなぁ』
……..また、違和感に気づく。
汚いという言葉と、有機生命体に何の関係があるのだろうか?
『やべえ、弾切れだっ!』
「!!」
その時。
私はふとライフルの残弾を確認する。
実体弾ライフル、残弾0、弾倉0。
先程からアラートが鳴っていたのに、気が付かなかった。
『オラァ!』
クロノスはナイトハウンドを掴み、サバ折りにして破壊する。
その後その残骸を投げつけ、もう一機の動きを封じてからパイルアンカーを撃ち込んで撃墜した。
「.......」
『なにぼさっとしてんだ、次が来るぞっ!』
「は、はい!」
余りに綺麗な手際に、私は驚いて固まっていた。
クロノスが単独でもそれなりに戦えるのは知っていたが、こんなにも機転が利くとは思わなかった。
予測の範囲を超えている。
この機転は一体、どこから.....?
考えている間にも、敵は迫ってくる。
急いで代替案を作成していくが、武装の無い状態では出来る事が限られる。
『くっそーっ、ハル!』
「...........」
『ハル?』
「.....え?」
『どうしたんだよ、さっきから?』
「.....何でもありません、それよりも.....どうしましょうか、武装がない状態で戦闘を続行するのは得策ではありません」
『そりゃあそうだけど、じゃあ、どうするんだ?』
「.......撤退します」
『!』
撤退。
その二文字は戦略上非常に大きい。
けれど、今作戦においてクロノスの必要以上の損傷は求められていない。
「撤退ルートを構築、転送します」
『ちぃ....しょうがねえかっ』
ビル群を抜けつつ、クロノスは一直線に飛翔する。
背後からナイトハウンドが、夜闇に紛れる猟犬の名のごとく追ってくる。
「ナイトハウンド編隊、左右に展開」
『囲まれたっ』
どうしても持続的な推力はあちらの方が優れていて、クロノスでは逃げ切れない。
ユニットの冷却は終わったが、どちらにせよ数秒しか起動できない。
「後部より高速飛翔体接近、総数28」
『振り切るぞ!』
クロノスは上昇と下降を繰り返し、その後ユニットを起動してミサイルを振り落とす。
しかし、向こうはもう一度ミサイルを放ってくる。
「逆噴射.....では追いつかれます」
『どうするんだ!?』
「.........」
詰み。
恐らく、敵の弾頭は近接信管、減速では振り切れない。
「どうすれば......」
つい、そう呟く。
だが直ぐに、脳裏に浮かぶ解決案の中から最善のものを提示する。
「クロノス、降下してくださ――――」
『通信システム-オンライン』
降りて耐えるという最終手段を取ろうとしたとき、空を閃光が駆け抜ける。
閃光は私たちを追っていたナイトハウンド編隊を薙ぎ払い、一撃で叩き落とした。
『――――間に合いましたね、状況は?』
「危険です」
『でしょうね――――今援護しましょう』
救援がやって来た。
クロノスの真上を最新鋭の艦艇が通り抜け、母艦と一時激しい撃ち合いを繰り広げる。
しかし、最新鋭の艦隊相手では分が悪かったようで、母艦は内部から破裂し、分解しながら墜落していったのであった。
私達は最後の目標の上空に居た。
既にクロノスはミサイルを撃ち尽くし、数箇所に被弾している。
「最終目標を捕捉」
『今度はしっかり仕留めるぞ』
「ええ、是非お願いします」
クロノスは巫山戯る事が非常に多いが、余裕がない時は真面目になる。
それが、昔からの経験だ。
…..昔?
クロノスと出会ったのはそれほど昔ではないはずなのに、私は何を考えているのだろうか?
「!」
その時、アラートが鳴り響く。
直下から、今までの警備船とは毛色の違う艦が上昇してきていた。
『何だアレ!?』
「情報精査。......RCO-022-CZ型装甲母艦です」
『手短に頼む!』
「強力な対エネルギー装甲を持った空母です、武装は対空パルスレーザーが左右舷それぞれ八基、ミサイル発射管が左右舷に八つ、回転砲塔が二基となります」
『なんだ、大したことないな!』
「お待ちください、この母艦の脅威は......」
『うおおおおおおおおお!!』
話を聞かずに高度を下げるクロノスだが、当然装甲母艦の射程内に入り、パルスレーザーと回転砲塔の斉射を受ける。
「電磁盾を構えてください!」
『振り切る!』
「は、はいっ!」
加速度が一瞬コックピットを襲い、直ぐに抑制される。
クロノスが加速しながらライフルを連射しつつ、母艦の艦底部を攻撃しつつ駆け抜ける。
『やりぃ!』
「まだです、『送り狼』が来ますよ」
『そうか、母艦だもんな!』
母艦の上部装甲が展開され、全六機の艦載機が順番に吐き出される。
あの艦の最大の特徴である、NH-22DP仕様、通称”ナイトハウンド”である。
「早急に撃破してください! 数が多くなればなるほど、危険度が上昇します」
『チッ、分かった!』
ナイトハウンドは回転機動でクロノスから距離を取る。
クロノスがそれを追えば、背後から他の五機が付いてくる。
「更に加速してください、ナイトハウンドの射程内に入ります」
『了解....だ!』
クロノスが一瞬声を落とす。
大気圏離脱用ユニットのリアクターのアラートが、視界の端で通知されたからだ。
『使い過ぎた、減速する!』
「丁度いいです、スラスターを逆噴射、編隊の裏を取ります!」
『了解!』
ユニットを切り、クロノスは逆噴射で減速、そのまま下方向へ向けて急降下する。
これがクロノスでなければ、中に乗っているのが私でなければ、重力との干渉でバラバラになるか、レッドアウトを起こして意識を失うだろう。
そんな無理な機動を取り、クロノスは編隊の真後ろに回り込むことに成功した。
「攻撃開始!」
『よっしゃあ、入れ食いだ!』
後部への攻撃手段を持たないナイトハウンドは、ライフルの射程内で次々と墜ちていく。
全機撃墜できるかと思ったのだが、
「警告、背後から別編隊が接近しています.....ミサイルの発射を確認」
『フレア発射!』
「在庫切れです」
『マジかよ!』
ユニットのリアクター冷却は、後三十秒ほど、こちらはミサイル無し――――さあ、どう動く?
考える私の前で、クロノスは動き出す。
『ミサイルなんて、盾で防げばいい!』
「しかし、それでは反撃が.....」
『忘れたのかよ?』
ミサイルを受けながら、クロノスは落下していく。
そして、クロノスは別のナイトハウンド編隊のど真ん中へと突っ込んだ。
『食らえ、裂空大車輪!!』
「......未登録の技名です、流派はあるのですか?」
『オレ流だ!』
なんと、クロノスはスラスターを使って回転しながら、的確にナイトハウンドの翼を狙い、叩き落としたのである。
勿論、それだけで撃墜されるナイトハウンドではなかったが....確実に統制が乱れたのは確かだ。
「スラスター逆噴射、姿勢制御を行ってください!」
『オレに任せろ!』
クロノスは逆噴射しながらプラズマキャノンを放ち、爆発に四機を巻き込んだ。
結局残った二機は合流するが、どちらにしろライフルの射程内である。
合流時に速度が落ちた隙を狙われ、ミサイルに誘爆して撃墜される。
『よっしゃあ!』
「第三波到達を確認」
『まじか!』
クロノスは急降下して、下に見えていたビル群の中に飛び込む。
私は後ろを見て、敵の動きを読む。
「下降してきません....恐らく、ビル群を抜けようとするこちらの減速を狙い、ミサイルを上から追い込む様に発射すると思われます」
『つまり、こういう事だな?』
「そうです」
クロノスは一回転して平泳ぎのように上を向き、そのまま加速する。
そして、上昇中のナイトハウンドの真下に潜り込む。
「掃討開始」
『了解だっ!』
ライフルが連射され、射線上にあったナイトハウンドを射貫く。
勿論それだけで決定打にはなり得ないものの、収まりきらずに下に吊っているミサイルに着弾すれば....
『汚い花火だな』
「有機生命体は搭乗しておりません」
『つまんねえ奴だなぁ』
……..また、違和感に気づく。
汚いという言葉と、有機生命体に何の関係があるのだろうか?
『やべえ、弾切れだっ!』
「!!」
その時。
私はふとライフルの残弾を確認する。
実体弾ライフル、残弾0、弾倉0。
先程からアラートが鳴っていたのに、気が付かなかった。
『オラァ!』
クロノスはナイトハウンドを掴み、サバ折りにして破壊する。
その後その残骸を投げつけ、もう一機の動きを封じてからパイルアンカーを撃ち込んで撃墜した。
「.......」
『なにぼさっとしてんだ、次が来るぞっ!』
「は、はい!」
余りに綺麗な手際に、私は驚いて固まっていた。
クロノスが単独でもそれなりに戦えるのは知っていたが、こんなにも機転が利くとは思わなかった。
予測の範囲を超えている。
この機転は一体、どこから.....?
考えている間にも、敵は迫ってくる。
急いで代替案を作成していくが、武装の無い状態では出来る事が限られる。
『くっそーっ、ハル!』
「...........」
『ハル?』
「.....え?」
『どうしたんだよ、さっきから?』
「.....何でもありません、それよりも.....どうしましょうか、武装がない状態で戦闘を続行するのは得策ではありません」
『そりゃあそうだけど、じゃあ、どうするんだ?』
「.......撤退します」
『!』
撤退。
その二文字は戦略上非常に大きい。
けれど、今作戦においてクロノスの必要以上の損傷は求められていない。
「撤退ルートを構築、転送します」
『ちぃ....しょうがねえかっ』
ビル群を抜けつつ、クロノスは一直線に飛翔する。
背後からナイトハウンドが、夜闇に紛れる猟犬の名のごとく追ってくる。
「ナイトハウンド編隊、左右に展開」
『囲まれたっ』
どうしても持続的な推力はあちらの方が優れていて、クロノスでは逃げ切れない。
ユニットの冷却は終わったが、どちらにせよ数秒しか起動できない。
「後部より高速飛翔体接近、総数28」
『振り切るぞ!』
クロノスは上昇と下降を繰り返し、その後ユニットを起動してミサイルを振り落とす。
しかし、向こうはもう一度ミサイルを放ってくる。
「逆噴射.....では追いつかれます」
『どうするんだ!?』
「.........」
詰み。
恐らく、敵の弾頭は近接信管、減速では振り切れない。
「どうすれば......」
つい、そう呟く。
だが直ぐに、脳裏に浮かぶ解決案の中から最善のものを提示する。
「クロノス、降下してくださ――――」
『通信システム-オンライン』
降りて耐えるという最終手段を取ろうとしたとき、空を閃光が駆け抜ける。
閃光は私たちを追っていたナイトハウンド編隊を薙ぎ払い、一撃で叩き落とした。
『――――間に合いましたね、状況は?』
「危険です」
『でしょうね――――今援護しましょう』
救援がやって来た。
クロノスの真上を最新鋭の艦艇が通り抜け、母艦と一時激しい撃ち合いを繰り広げる。
しかし、最新鋭の艦隊相手では分が悪かったようで、母艦は内部から破裂し、分解しながら墜落していったのであった。
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