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シーズン1-序章

023-パルタコロニーへ

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『うおおおおおおおおおおっ!!』

クロノスは大空を飛んでいた。
背中と脚に付けられた大型のユニットが、熱圏離脱に必要なユニットだ。
その全てが、全力で炎を吐いている。

「姿勢を変えないでください、突入角度が乱れます」
『ああ!』

パルタⅣは星から離れるほど引力が強くなる性質がある。
だから、大気圏を抜けても油断できないのだ。
もっとも、大気圏さえ抜けてしまえばクロノスの加速で離脱できる。

「第一ユニットを分離」
『了解』

脚についていたユニットが外れ、更に加速が強まる。
クロノスの防御シールドが摩擦で燃え始める。

「第二ユニットを分離」

背中のユニットには三つのブースターが付いており、そのうちの一つが音を立てて外れた。
更に加速が強まる。

「第三ユニットを分離」

最後のブースターを分離し、私たちは宇宙へと飛び出す。
同時に、クロノスの背面スラスターが起動し、強力な引力を離脱する。

『綺麗だな......』
「そうですね」

パルタにも月がある。
少し遠いそれを見ながら、私たちは実験艦隊へと帰還した。



◇◆◇



「パルタコロニーに、ですか?」
『はい』

俺は思わず問い返してしまった。
日程に余裕がないから早めに倒したのに、これじゃ意味がないような.....

『パルタ中央コロニーに一週間滞在し、職員の休暇、物資の補充、情報の交換、艦体及び機関のメンテナンス、修理を行います』
「はい」

思ったより合理的だった。
思えば実験艦隊はエルトネレス級に襲われてからメンテナンスを行えていない。
だから、ここで一度修理などを行っておくのだろう。

『その際、Clavisには度重なる戦功の報酬として、大尉、中尉、少尉を伴いコロニー内部を視察できる権利が与えられます』
「....ありがとうございます」

コロニーは少し気になっていた。
ジェシカと一緒なので、あまり羽目は外せないが.....

『事前に注意をしておきますが、居住区には接近しないでください』
「どうしてですか?」

人が住める場所なら危険もなさそうに思えるが......

『居住区には自然を再現したエリアが多数存在しますが、そのエリアに入ると土や砂などが関節部に混入し、重大な機能不全を起こす可能性があります』
「....分かりました」

話が終わったので、俺は艦橋を去る。
エレベーターで数階降りて、普段は入らない実験艦の居住エリアに入る。
俺の部屋がある実験区画や、兵装区画、格納庫区画等とは違って、人間にとって快適な作りになっている。

『――――シャドウ、今日こそはお前と決着を付ける!!』

反対側のテレビゾーンでは、複数人の職員がコーヒー片手に特撮らしい何かを見ていた。
注視すると、スターライトというヒーローが主人公の特撮らしいということが分かった。
昼間からテレビもそうだが、特撮って.....しかし、この世界の人間の常識がよくわかっていないので、意外と普通のことなのかもしれない。

「........」
『レベル4権限を認証、開錠します』

俺は部屋のある区画への扉を開き、比較的手前の部屋の前で立ち止まる。
ネームプレートには、「ジェシカ・クラーク」と書かれている。

「.......」
『はい、開いています』

俺は扉を開ける。
ジェシカは奥の机で作業をしていた。

「クラヴィス、用ですか?」
「はい」

俺はジェシカの横まで歩いて行く。
ジェシカは直ぐにタブレットの画面を切ったが、一瞬「実験艦改造計画」という文章が目に入った。
その下にあった図面は、恐らく何らかの設計図なのだろう。

「ジェシカ大尉、此度のコロニー滞在時、外出許可が出ているのですが…」
「はい、私達を同伴して外出したいという事でしたら、別に構いません」
「ありがとうございます」

許可が貰えた。

「ただし....その際、私の物資購入に付き合ってもらいますが、よろしいですか?」
「はい」

ジェシカ大尉は真面目だから、物資と言っても事務用品か装備品なんだろうな.....
俺は秘かにそう思った。



次に向かうのは、ラウドの部屋。
部屋区画の三階にあり、相部屋のようだ。
チャイムを鳴らすと、ラウドとは違う声質パターンの声で『はーい』
と音が出た。
直ぐに扉が開く。

「はいはい.........あれ、アンドロイド?」

出てきたのは、白いシャツを着た褐色の青年だった。
身体全体にバランスよく筋肉がついている。

「ラウド少尉はいらっしゃいますか?」
「ラウドに用事か? おい、起きろ!」

青年が奥に消えた後、そんな声が聞こえ....数秒後に、ラウドが眠そうに姿を現した。

「あれぇ.....クラヴィスさん、何の用っすか...?」
「実は――――」

外出許可について話す。
ラウドは眠気が飛んだのか、俺の手を両手で掴む。

「勿論、付いていきます! クラヴィスさんと外出できるなら願ったり叶ったりですから!」
「お前、惚れてんのか? アンドロイドに?」

その時、褐色の青年が口を開く。
アンドロイド呼ばわりされたが、これも仕方ない事だと割り切る。
見かけはアンドロイドみたいなものだし.....

「ゼフェル、お前....クラヴィスさんは自律型AIだぞ、謝れ!」
「ハッ、お前もすぐに裏切られるぜ、好意なんか抱かねえのが身のためだ」

注視すると、ゼフェル・イティアという名前が出てきた。
経歴はロックされている。

「ごめんなさい、何か不快な事がございましたでしょうか?」
「――お前の存在が不快なんだよ!」

直後、拳が飛んできた。
俺は慌てて片手で受け止める。

「お前、やり過ぎだ!」
「黙れ、殺人人形の癖に、人間と同じ立場に立ってんじゃねえ!」
「クラヴィスさん、今日のところは一旦帰ってください!」
「..........はい」

俺は部屋を後にした。
痛みなんかないはずなのに.....拳を受け止めた掌が、何故か無性に痛かった。
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