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シーズン1-序章
016-艦内探索 前編
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「はぁ.......」
起床後のメンテナンスを終えて、俺はため息をついた。
いや、実際には呼吸していないので、ジェスチャーに近いものだが。
前回の戦いで大分消耗したらしく、全身のパーツをまた交換する羽目になった。
特に駆動系に大きく影響があるみたいで、裸に剥かれて手足をもがれて、腹を開けられてパーツを交換させられ、腕も足もまた新しいものに替えられた。
資源の無駄遣いじゃないのかと思ったけれど、再利用するシステムはしっかりとある様だ。
「今日は何をしましょうか」
既に旅程の半分を終え、実験艦隊は着実にシークトリア星系に近づきつつあった。
俺達は日々を無為に過ごしているわけではなく、シミュレーションや許可された遊戯である宇宙版チェスをジェシカやラウドと一緒にやって過ごしていた。
通信対戦が出来るので、クロノスともよく対戦していた。
だが同時に、一つだけやりたい事が出来た。
『艦内の探索ですか?』
「はい、どのような人間が働いているのかを把握し、どこにどういった機能があるのかも知りたいです」
『.........許可しましょう、セキュリティレベルを一時的にゲストに変更します。滞在ログはしっかりとチェックいたしますがよろしいですね?』
「はい」
それは、艦内の探索である。
この実験艦隊旗艦がどういう艦かは知っているのだが、どんな研究が行われているのかや、メイン機関がどんな形をしているのかまでは知らない。
だから、非常に興味があるのだ。
「あれ? クラヴィスさんじゃないですか」
「こんにちは」
廊下に出ると、台車を押すラウドに出会った。
変だな、この区画を通らなくても荷物のタグから推測できる区画に行けるはずなのに......
「その荷物、第七実験区画へ運搬するものですね? 第七実験区画なら、ここを通らなくとも........」
「あー.....その、ちょっと注意散漫だったんですよ。気付いたらここに来てて.....」
「そうですか....茫然自失の状態に頻繁になるようでしたら、医務室で診察を受けるか、自己診断アプリケーションの利用をお勧めします」
「そ、そうだな。そうするよ.....ありがとう、クラヴィスさん」
「当然です、あなたの健康が最も重要ですから」
「今すぐ受診するよ、ありがとう」
ラウドは足早に去った。
何が効いたかはわからないが、元気は取り戻せたようでよかった。
私はラウドの進行方向とは反対側に歩き出す。
いつも気になっていて、入れなかった第二研究区画に入れるのだ。
私は第二研究区画の扉の前に立ち、扉を注視する。
『A-02ブロックへのアクセスゲート』
『セキュリティレベル4以上の権限は閲覧できません』
取り付く島もないメッセージだが、今俺はゲスト権限を持っている。視界の端にゲスト権限のウィンドウをポップアップさせ、注視情報を再度確認する。
『ゲスト権限を確認』
『情報封鎖を解除:セキュリティレベル10以下の情報を開示します』
扉が開き、視界に研究区画の情報が表示される。
ただし、データのコピーはできない、俺の記憶として保存することはできるが、それは何故か、前世と同じで不確かな記憶となる。
「おや? 君は確か、情報処理用の端末だったかな?」
「あ、こんにちは、私はDN-264、Clavisです」
「この区画に何か用かな?」
「実は.......」
俺は、知見を広める目的と、各部署への挨拶をしておきたいことを手短に伝えた。
するとその人は、微笑を浮かべた。
「それなら、問題ありませんよ。ようこそ第二研究区画へ。僕はワグナー・アルメン。生物研究を行っています」
「ここではどのような研究をしているのですか?」
「戦時ですから、少々人道から外れますが.......兵士を死亡してから最大17時間生命維持する薬品や、酸素に触れると急速に拡散し、死滅する前に体内に入れば即座に生物を枯死させる細菌などを研究しております」
「それは.........その、危険ではないのですか?」
「ええ、危険です。この区画は.....まあ、このように厳重に封鎖されておりまして」
歩いていくと、ゲートがあった。
注視すると、『防疫用五重隔壁 第一セキュリティ:封鎖』と表示された。
ワグナーが直ぐ傍のパネルにカードを触れさせると、全ての隔壁が一斉に開いた。
「さあ、急ぎますよ! 10秒で閉まります!」
「はい!」
ワグナーと私は隔壁を駆け抜ける。
しばらくすると、警報音と共に隔壁が閉まった。
「見学で何か起きたとしても、あなたは大丈夫ですね」
「どういうことですか?」
「ここは異常事態が起きた際にパージされますからね、僕たちは使い捨てにされるわけです。ですがあなたなら、真空空間で活動できますから脱出できますね」
「使い捨てにされる......随分と投げやりな言い方ですね」
「何か起きて死んだときに、こういう変人が居たことを覚えてくれる存在が欲しいんですよ」
悲壮感も何もなく、ワグナーは俺にそう言ったのだった。
その後、挨拶を済ませて俺は廊下に出た。
不思議な気分だ。
この世界の人間は皆、死ぬことが怖くないかのように振る舞う。
いや、軍人だからだろうか?
「次に行きましょう」
俺はエレベーターで階下に降り、第五実験区画を目指す。
「私」のようなロボットを研究する研究者が集まり、実験を繰り返す場所だ。
AIの育成も行っているが、自律型と呼べるAIの製作にはここはあまりにも機材が足りないらしく、同機はいないようだ。
先程と同じ方法でゲートを潜り、俺は実験区画に入る。
「ひっ!」
思わず声を上げた。
目の前の実験室の中では、内部構造が剝き出しのロボットがコードに繋がれていた。
今は人間の死体より同種の存在のこういった姿に恐怖を覚えるようで、感情パルスが抑制される。
「クラヴィス?」
「はっ....」
背後から声が掛かる。
振り返ると、ハーデン中尉が立っていた。
「こんな場所に何の用かな?」
「実は......」
俺は事情を説明する。
ハーデンは納得したように頷いた後に、こう答えた。
「ここは君に関心がある者も居る。フォスター博士は生憎居ないけどね。案内しよう、この時間帯なら皆中央の会議室に居るはずさ」
「................フォスター博士はどこへ?」
「俺も知らない。悪いね」
「いえ、お答えできないことをお聞きして、申し訳ありません」
俺は頭を下げて謝る。
フォスター博士は、初めて会ったその時以降、一度も見ていない。
「私」の生みの親だ。
どこへ行ったのかは、最高セキュリティレベルでロックされており分からない。
初めて会った後、彼がどこに行ったか知りたい、そう思ってはいるものの、誰に聞いても答えてはもらえなかった。
「おっ!?」
「何でここに居るんだ!?」
「どうでもいいだろ、こっち来いよ!」
その時、ドアを潜った先で声が掛かった。
「こっち来い」という命令に逆らえず、俺はそのまま部屋の中心まで歩く。
「私」に命令できるということは、開発者チームの一人......?
「あなたは、私の......」
「いや、違う。俺はただのいち研究者だ」
俺が彼を注視すると、
デルタ・カイアン 研究員 《D-CODE》
という表示が現れた。
「D-CODEってのは、あの博士が親しい奴に渡していった、お前さんの最後のセキュリティキーさ」
「セキュリティキー......ですか?」
「大したもんじゃない、博士は常々君を危うい存在だと言った。君が暴走したとき、君には真実を知る権利が与えられる。その時までこれを君に渡すことはできない」
「............分かりました」
D-CODE、本能が、プログラムが「近づくな」と警鐘を鳴らす文字列。
好奇心のままに行動をした俺は、またもや大きな謎にぶち当たったのだった。
起床後のメンテナンスを終えて、俺はため息をついた。
いや、実際には呼吸していないので、ジェスチャーに近いものだが。
前回の戦いで大分消耗したらしく、全身のパーツをまた交換する羽目になった。
特に駆動系に大きく影響があるみたいで、裸に剥かれて手足をもがれて、腹を開けられてパーツを交換させられ、腕も足もまた新しいものに替えられた。
資源の無駄遣いじゃないのかと思ったけれど、再利用するシステムはしっかりとある様だ。
「今日は何をしましょうか」
既に旅程の半分を終え、実験艦隊は着実にシークトリア星系に近づきつつあった。
俺達は日々を無為に過ごしているわけではなく、シミュレーションや許可された遊戯である宇宙版チェスをジェシカやラウドと一緒にやって過ごしていた。
通信対戦が出来るので、クロノスともよく対戦していた。
だが同時に、一つだけやりたい事が出来た。
『艦内の探索ですか?』
「はい、どのような人間が働いているのかを把握し、どこにどういった機能があるのかも知りたいです」
『.........許可しましょう、セキュリティレベルを一時的にゲストに変更します。滞在ログはしっかりとチェックいたしますがよろしいですね?』
「はい」
それは、艦内の探索である。
この実験艦隊旗艦がどういう艦かは知っているのだが、どんな研究が行われているのかや、メイン機関がどんな形をしているのかまでは知らない。
だから、非常に興味があるのだ。
「あれ? クラヴィスさんじゃないですか」
「こんにちは」
廊下に出ると、台車を押すラウドに出会った。
変だな、この区画を通らなくても荷物のタグから推測できる区画に行けるはずなのに......
「その荷物、第七実験区画へ運搬するものですね? 第七実験区画なら、ここを通らなくとも........」
「あー.....その、ちょっと注意散漫だったんですよ。気付いたらここに来てて.....」
「そうですか....茫然自失の状態に頻繁になるようでしたら、医務室で診察を受けるか、自己診断アプリケーションの利用をお勧めします」
「そ、そうだな。そうするよ.....ありがとう、クラヴィスさん」
「当然です、あなたの健康が最も重要ですから」
「今すぐ受診するよ、ありがとう」
ラウドは足早に去った。
何が効いたかはわからないが、元気は取り戻せたようでよかった。
私はラウドの進行方向とは反対側に歩き出す。
いつも気になっていて、入れなかった第二研究区画に入れるのだ。
私は第二研究区画の扉の前に立ち、扉を注視する。
『A-02ブロックへのアクセスゲート』
『セキュリティレベル4以上の権限は閲覧できません』
取り付く島もないメッセージだが、今俺はゲスト権限を持っている。視界の端にゲスト権限のウィンドウをポップアップさせ、注視情報を再度確認する。
『ゲスト権限を確認』
『情報封鎖を解除:セキュリティレベル10以下の情報を開示します』
扉が開き、視界に研究区画の情報が表示される。
ただし、データのコピーはできない、俺の記憶として保存することはできるが、それは何故か、前世と同じで不確かな記憶となる。
「おや? 君は確か、情報処理用の端末だったかな?」
「あ、こんにちは、私はDN-264、Clavisです」
「この区画に何か用かな?」
「実は.......」
俺は、知見を広める目的と、各部署への挨拶をしておきたいことを手短に伝えた。
するとその人は、微笑を浮かべた。
「それなら、問題ありませんよ。ようこそ第二研究区画へ。僕はワグナー・アルメン。生物研究を行っています」
「ここではどのような研究をしているのですか?」
「戦時ですから、少々人道から外れますが.......兵士を死亡してから最大17時間生命維持する薬品や、酸素に触れると急速に拡散し、死滅する前に体内に入れば即座に生物を枯死させる細菌などを研究しております」
「それは.........その、危険ではないのですか?」
「ええ、危険です。この区画は.....まあ、このように厳重に封鎖されておりまして」
歩いていくと、ゲートがあった。
注視すると、『防疫用五重隔壁 第一セキュリティ:封鎖』と表示された。
ワグナーが直ぐ傍のパネルにカードを触れさせると、全ての隔壁が一斉に開いた。
「さあ、急ぎますよ! 10秒で閉まります!」
「はい!」
ワグナーと私は隔壁を駆け抜ける。
しばらくすると、警報音と共に隔壁が閉まった。
「見学で何か起きたとしても、あなたは大丈夫ですね」
「どういうことですか?」
「ここは異常事態が起きた際にパージされますからね、僕たちは使い捨てにされるわけです。ですがあなたなら、真空空間で活動できますから脱出できますね」
「使い捨てにされる......随分と投げやりな言い方ですね」
「何か起きて死んだときに、こういう変人が居たことを覚えてくれる存在が欲しいんですよ」
悲壮感も何もなく、ワグナーは俺にそう言ったのだった。
その後、挨拶を済ませて俺は廊下に出た。
不思議な気分だ。
この世界の人間は皆、死ぬことが怖くないかのように振る舞う。
いや、軍人だからだろうか?
「次に行きましょう」
俺はエレベーターで階下に降り、第五実験区画を目指す。
「私」のようなロボットを研究する研究者が集まり、実験を繰り返す場所だ。
AIの育成も行っているが、自律型と呼べるAIの製作にはここはあまりにも機材が足りないらしく、同機はいないようだ。
先程と同じ方法でゲートを潜り、俺は実験区画に入る。
「ひっ!」
思わず声を上げた。
目の前の実験室の中では、内部構造が剝き出しのロボットがコードに繋がれていた。
今は人間の死体より同種の存在のこういった姿に恐怖を覚えるようで、感情パルスが抑制される。
「クラヴィス?」
「はっ....」
背後から声が掛かる。
振り返ると、ハーデン中尉が立っていた。
「こんな場所に何の用かな?」
「実は......」
俺は事情を説明する。
ハーデンは納得したように頷いた後に、こう答えた。
「ここは君に関心がある者も居る。フォスター博士は生憎居ないけどね。案内しよう、この時間帯なら皆中央の会議室に居るはずさ」
「................フォスター博士はどこへ?」
「俺も知らない。悪いね」
「いえ、お答えできないことをお聞きして、申し訳ありません」
俺は頭を下げて謝る。
フォスター博士は、初めて会ったその時以降、一度も見ていない。
「私」の生みの親だ。
どこへ行ったのかは、最高セキュリティレベルでロックされており分からない。
初めて会った後、彼がどこに行ったか知りたい、そう思ってはいるものの、誰に聞いても答えてはもらえなかった。
「おっ!?」
「何でここに居るんだ!?」
「どうでもいいだろ、こっち来いよ!」
その時、ドアを潜った先で声が掛かった。
「こっち来い」という命令に逆らえず、俺はそのまま部屋の中心まで歩く。
「私」に命令できるということは、開発者チームの一人......?
「あなたは、私の......」
「いや、違う。俺はただのいち研究者だ」
俺が彼を注視すると、
デルタ・カイアン 研究員 《D-CODE》
という表示が現れた。
「D-CODEってのは、あの博士が親しい奴に渡していった、お前さんの最後のセキュリティキーさ」
「セキュリティキー......ですか?」
「大したもんじゃない、博士は常々君を危うい存在だと言った。君が暴走したとき、君には真実を知る権利が与えられる。その時までこれを君に渡すことはできない」
「............分かりました」
D-CODE、本能が、プログラムが「近づくな」と警鐘を鳴らす文字列。
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