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シーズン1-序章

009-奇襲

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『なぁ、その口調何とかならないのか?』
「申し訳ございません、板につきました」
『........まあいいけどよ』

俺はカプセル内で、眠っているふりをしてクロノスとの秘匿回線を開いていた。
このカプセルは防音設備もあるので、前世の口調で話せると思ったんだが.....
何故か、クロノスと戦闘中の口調になってしまった。

「もうすぐ、教育プログラムが終わります」
『そうしたら、どうなるんだ?』
「最前線送りです」
『マジか!? 実質死ぬのと同じじゃねえか』
「.....................」

でも、クロノスは戦うときしか自由に動けない。
最前線に出るのは、自由になれるチャンスだと思うんだけどな.......
その旨を伝えてみると、

『オレは星空を旅してみたいだけで、別にいつ死ぬかわからない中を駆けまわりたい訳じゃない!』
「........でも、それには燃料が必要ですよ?」
『う...........』

動くのにエネルギーが必要なのは人間だってそうだ。
好き勝手に旅したい気持ちもわかるけれど、エネルギーがなければ「私」たちはただの鉄くずに戻ってしまう。

「それに、この世界ではAIに人権はありません。私たちは、結局奴隷でしかないんですよ――――奴隷が大空を夢見ようなんて、烏滸がましいと思いませんか?」
『...........なんで、なんでこんな世界に転生しちまったんだろうな.....』
「こんな世界だから、じゃないでしょうか?」

もし神のような存在が居るとしたら、荒れ切ったこの世界を救う役目を俺たちに押し付けたのかもしれない。
実際、転生モノはほぼそんな感じだからな。

『まあ.....そうかもな、敵を全員ブッ殺せば俺たちは英雄だ!』
「.....そうですね」

俺は少し言いよどむが、そう答えた。
英雄になって、そのあとは?
その先については考えないことにした。
あっさり死ぬかもしれないし、余計なことを考えるべきじゃない。

「じゃあ、そろそろ切る」
『もうかよ?』
「ああ、今日はスリープモードで過ごす」

メモリを整理して、キャッシュを削除しデータをいつでも引き出せるようにしなければいけない。
それが「私」の役割なのだから。

「...............疲労を感じないのが、一番の救いか......」

心も体も披露しないことに感謝しつつ、俺は意識を闇に沈めた。



◆◇◆



鳴り響く警報音と共に、俺の意識は浮上した。
起動が完了するとほぼ同時に、エイペクスから通信が届く。

『緊急事態です、直ちに艦橋へとお越しください』
「はい」

情報送信すらされなかった。
よっぽど緊急事態のようだ。
俺はカプセルの蓋を跳ね上げて部屋の外に走り出て、

「うわっ!?」
「!?」

誰かとぶつかった。
慌てて確認すると、ラウド少尉だった。
この艦、何故かは知らないんだけど、尉官が沢山居るんだよな。

「ラウド少尉、大丈夫ですか?」
「そっちこそ......壁にぶつけたみたいだけど......大丈夫ですか?」
「この程度で内部機構が破損することはありません」

それこそデの付く吸血鬼にロードローラーで押しつぶされるようなことでもなければ物理衝撃では壊れない。

「そうですか......」
「ラウド様は何処へ?」
「自分は生物学ですから、医療区画へ向かいます、あなたは?」
「私は艦橋に向かいます」
「そうですか...........どうか御無事で!」
「はい」

ラウドと別れ、私は艦橋へと向かう。
エレベーターは人で一杯だったので、一回待ってから次のエレベーターに乗る。
そして、艦橋へと上がると.......

「次元結節点、拡大!」
「艦種識別! ラデウル銀河帝国、エルトネレス級!」

窓から、外の宇宙が見えていた。
そこには、巨大な次元の裂け目が開いているのが見えた。
いわゆる、ワープだ。
そしてそこからその巨躯を覗かせるのは、真っ黒い円筒型の構造物。
注視すると、



エルトネレス級旗艦 ラデウル銀河帝国
詳細不明

という情報が出た。
ぼうっとしていると、手を掴まれる。
誰かと思えば、エイペクスの端末だった。

『本艦はこれより空間跳躍準備に入ります、ここで待機していてください!』
「待ってください、空間跳躍には時間が掛かるはずでは?」
「敵艦、内部熱量増大! まもなく敵艦、機関始動します!」

そんな叫ぶような報告が艦橋に響く。
空間跳躍には大きなエネルギーが必要で、ワープ直後はどの艦も無防備なのだそうだ。
だが、実験艦隊は攻撃ではなく――――

「全艦180°反転! ワープエネルギーチャージ準備だ!」
「リアクター起動!」

逃げを選んだ。
当然だ、大きさが違う。
でも、逃がしてくれるだろうか.....?

「空間跳躍準備完了まで、六〇〇秒!」
「間に合わないぞ!」

そう、10分もかかるのだ。
普段は慣性に任せて航行している実験艦隊は、機関の始動からワープエネルギーチャージ完了までに時間が掛かる。

「....エイペクス、味方を犠牲にした場合どれほど稼げる?」
『不可能です。恐らくエルトネレス級はウスカ級搭載型ですから、先回りされる可能性の方が高いと思われます』

ウスカ級とは、小型の戦闘艦だ。
高機動が売りで、一門の砲台と8門のミサイル発射口を備えていて、この実験艦の武装では対処できない。

「敵艦に動きあり!」

視線を戻すと、エルトネレス級が変形を始めた。
完全な円筒形だったのが、水色の光が漏れる隙間が拡大していく。
そしてその隙間から、無数の小さなものが吐き出されるのが見えた。



「敵艦からウスカ級多数排出!」
「護衛艦が攻撃指示を求めています!」
「迎撃開始!」

反転する実験艦数隻の横を、一隻の護衛艦が進んでいく。
そして、数発のレーザーキャノンを放った。
この距離じゃ届かないと思うのだが、威嚇射撃だろう。
だが、護衛艦の武装は三連装レーザーキャノン二門、魚雷発射管六門と時間稼ぎにもならない。
間に合ってくれ......俺がそう願ったとき、通信が届いた。
誰か.....それは、クロノスだった。

『はい、何でしょ――――――』
『行くぞクラヴィス、俺たちの出番だ!』
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