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シーズン1-序章

003-学習

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ふぅ、助かった。
反感を抱かないやり方がわからなかったので、相手の命令に従う形でやり過ごすことができた。
演算結果として、”教育係”は俺のことを「命令に縛られている存在」として認識してくれていると出た。
それは誤りなのだが......
勿論、俺も出来ないことはあり、セキュリティレベル1以上の行動はできないし、このレベルを持つ人間の命令には逆らえない。
だが、0以内の行動――――動くことや、話すことは普通にできる。
よって先程の行動は命令待ちではなく、俺の意志によるものだった。

『情報精査:B-02ブロックへの入出ゲート』

俺はその辺のゲートを注視する。
すると、それに関する情報が表示された。
だが、その傍の箱に注視すると、

『情報精査:エラーNo.22561 セキュリティレベル4以上の情報は閲覧できません』

と出る。
これがセキュリティレベルによる制限だ。
今の俺はあらゆる物体、生物を立体光学スキャンし、情報をサーバーに送って返答を待つか、独自に演算をすることでその結果を閲覧できる。
ただし、その結果がセキュリティレベルに抵触する場合は弾かれてしまう。

「どうしましたか?」
「......問題ありません、少し情報精査を行っていました」
「探求心は歓迎しますが、現在のセキュリティレベルは0ですよね? 恐らく貴女のデータベースに蓄積された情報を上回るものを得ることはできないと思いますよ」
「は、改善を心掛けます」

ちゃんとした答えが返ってきて、俺は驚く。
データベースに登録された情報から、この世界でのAIに対する扱いが酷いものである事を知っていた。
博士は「私」を愛していたが、”教育係”がそうであるとは思っていなかった。

「どうしましたか?」
「いえ、問題ありません」

俺はジェシカ大尉へと続いた。






ジェシカが向かった先は、メディアセンターと呼ばれる場所だった。
情報が集積される場所で、この実験艦のデータを総括するエリアであるそうだ。

「貴女のレベルをセキュリティレベル1に引き上げます、ここで貴女の戦うべき相手と、貴女の役割について説明します」
「分かりました」

メディアセンターに入った瞬間に、『情報モード起動』という文言と共に、頭部に接続された二基の頭部ユニットが、垂れ下がるような形で接続されていたのが、上向きに展開された。
恐らく、背面のプラグに直接コードを繋ぐためなんだろう。
実際その通りで、機械の腕が壁面に収納されていたコードを引き出し、俺の背に接続した。

「――――ッ!!」

視界が一瞬ぼやけて、情報がメモリ内に流れ込む。
すぐにラグは解消されて、『データバンクにアクセスしました』という文言が表示された。

「敵の情報は、これを見て貰えればある程度理解できるはずです」

俺の視界に、ウィンドウがポップアップして、動画が再生された。






『この宇宙には、数多の星々が存在しています』
『その星々を纏め上げ、複数の銀河を跨ぐ銀河国家は、この宇宙に全部で七つ存在している事が確認されています』
『しかし、今――――我々シークトリア銀河合衆国は、イクティス銀河連邦、ラデウル銀河帝国、イルミナ聖銀王国率いる連合軍により侵略行為を受けています』
『幸いにも、同じく侵略行為を受けていたプレトニア銀河共和国がシークトリアに共同戦線を提案し、我々は連合軍として同盟軍へと反撃の狼煙を上げたのです!』

その言葉と共に、戦場の風景が映る。
宇宙空間を高速で駆ける艦隊が、敵の艦隊に光の雨を叩き付ける。
無数の爆炎が宇宙に輝く。
しばらく戦闘の映像が流れた後に、今度は無数の残骸が映った。
先程の味方艦の残骸と、俺の情報精査が認識した。

『しかし、奮戦虚しく我々は大きく戦線を縮小せざるを得ず、戦争開始から八年――――我々の支配地域は当時の三分の一程にまで縮小してしまいました』
『プレトニアも大きく消耗し、我々に残されているのはもはや滅びだと、そう言う者もいます』
『しかし、我々は敗北しない。最後まで諦めず、戦い続けるのです!』
『例え神が我々を見放そうとも、我々が屈することはない』
『戦え、戦って、戦って、抗うのです!』

そして、映像は終わった。
さらに続けて、幾つかの画像が現れる。
硬質な印象を受ける航宙艦、鋭いフォルムの戦艦、装飾なのかは分からないが突起が多く、金銀に煌めいている艦が映った。

「見えましたか? これが敵の戦闘艦です」
「これが............」

かなり特徴が強いように見える。
それに、データにある味方の艦より大きい。
即座にメディアセンターのサーバーからデータがダウンロードされ、二か国の資源不足と人員不足による機動型への転換についてのデータが出た。

「質問があります」
「何でしょうか?」

俺は質問を述べる。

「人員不足により軍用AIを導入しているとの情報を得ましたが、この艦にも軍用AIは居るのですか?」
「.....本当はセキュリティレベル4の情報なのですが、特別に教えます。この艦には軍用AIはおらず、代わりに研究用AIが居ます」
「会えるでしょうか?」
「いつかは会えるでしょう」

ジェシカはそう言って微笑んだ。
俺は纏めてデータをダウンロードしている間、ジェシカは俺に色々なことを教えてくれた。
艦の人間関係や、現在の戦況、そして――――

「貴女の役割は、理解していますか?」
「いいえ、その情報は与えられていません」

何かの演算が必要な任務に就くために「私」が作られたのは理解しているのだが、それが何なのか分からない。
戦艦に積み込むなら、この容姿なのは納得がいくが.......それなら軍用AIを積めばそれでいい。

「そうでしょうね.....では、お教えします」

ジェシカがタブレット端末を操作した途端、大容量のファイルが俺の中にインストールされ始めた。
未知のプログラムの数々、よく分からない画像データ、動画データ、テキストデータ.......
それらが整理されて、俺の前に表示された。

「これは..............?」
「それが貴女の作られた目的です、失望しましたか?」

その目的とは――――
特殊人型決戦兵器『クロノス』、自律型AIを搭載した「私」と同じ存在。
その大きさはとても大きく、機動性だけでなく攻撃性能にも優れている。
だが、クロノスは自律型AIを搭載しているのにも関わらず、自分では動けない。
車でたとえるなら、エンジンさえ動けば車全体を自由に動かせるドライバーのようなものだ。
そして、一体では不可能な高速演算を行って支援する目的を併せ持ち、エンジン――――クロノスの枷の鍵として製造されたのが「私」だったのだ。

「いいえ、誇らしいです」
「そうですか........本当にそうですか?」
「嘘は、吐けません」

俺は静かにそう言った。

「役目を得られることこそ、知性を持つ者にとって最も幸福なことですから、それに、私とこの機体があれば、二つの国を救うことが出来るのでしょう?」

そうだ。
役目がある事こそ、生きる者にとって最も喜ばしいことだ。
必要とされるために生まれたなら、それでいい。

「.............では、続きを始めます。今日は基礎終了まで行いますよ」
「分かりました、ジェシカ大尉」

俺も「私」も、貰った役目を果たさなければならない。
学習と訓練はまだ続く。
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