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シーズン1-序章

002-教育係

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「自分が、ですか?」

私はつい、そんな言葉を漏らした。
無理もない、いきなり上官に呼び出され、そこで命じられたのだ。

『教育係となれ』

と。

「ただの教育係ではない、新開発の自律AIの戦術教官となるのだ」
「自律AI………..? それは、確か.....」

自律型のAIは、銀河国際法で禁じられているはず。

「同盟軍も追い詰められているのだ、理解してくれ」
「しかし、自分に教官など勤まるのでしょうか?」
「自律AIは女性型の精神構造になるように設定されているのだ、そして、起動前テストの結果、君が最適だとAIが導き出したのだ」
「.....それならば、喜んで着任いたします」

私はそう答えた。
軍用AIは非常に精緻な演算が可能で、旧時代には不可能だった完璧に近い人選をも可能にしている。
そんなAIが私を指名したなら、私こそが最もこの任務にふさわしいという事だ。

「よろしく頼む、ジェシカ・クラーク中尉」
「分かりました、ジエン少佐」

私は頷いた。
同時に、少しの不安も抱いた。
もし自律AIが、完璧だったら、見下されつつも私は任を果たすことが出来るのだろうか?

「君の心配は分かっているつもりだ、だが自律型AIは、人格を持った人間の赤子と同様だ、神のように崇める必要はない、我が子と思って育ててやってくれ」
「分かりました少佐」

こうして私は”教育係”としての任務を抱え、ミストラ星系へと旅立った。
そして、今......
私は、話に聞く自律型AI、クラヴィスとの対面を果たそうとしていた。

「私はもう、彼女に合わせる顔がない。我が娘を頼んだ」

AIの開発者であるフォスター博士は私にそう言って去って行った。
彼があんなに悩むということは、相当の問題児なのだろうか?
私は不安に思いつつ、廊下を進む。
そして、”彼女”の収容室の前へと辿り着いた。

『ジェシカ大尉、クラヴィスは現在不活性状態スリープモードにあります、これより解除シークエンスに入りますが、起動後はしばらく人間でいう意識の混濁が起こる可能性がありますので、ご注意ください』
「ええ」

私は忠告に耳を傾け、それを了承して進入した。
室内には、大型のカプセルが設置されており、それに沢山のコードが繋がって居る。
非常に精巧な義体のメンテナンス用の機構らしく、メンテナンスを受けないと精密な動作に支障が出てくるそうだ。
カプセル内は覆いで隠されていたが、その覆いが幾何学模様と共に消え去り、中で眠る義体の姿が露になった。

「.........................」

恐ろしい。
恐ろしいほどに――――美しい。
顔以外の個所は全て角張り、金属光沢のある素材や、黒いシリコンに近い素材等で構成されている。
なのに、その中で際立つ人の顔、それが何より美しかった。
あの博士が作ったのだろうか?
だとするなら、一体どれほどの偏愛を、執着を持って作ったのだろうか。

「............あっ」

義体の目がぱちりと開いた。
ハイライトのない眼球が空を見上げる。
そして、数秒して視線が動き、私を捉えた。

「あ......私はジェシカ・クラーク。あなたの教育係として着任しました、よろしくお願いします」
「......................」

義体....クラヴィスは両手を突いて起き上がり、私の方を向いた。
その口が開かれ、言葉が紡がれる。

「.....こんにちは、ジェシカ・クラーク中尉、私は自律型AI、『希望の鍵クラヴィス』です、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」

クラヴィスは立ち上がろうとするが、足を固定する固定装置に引っかかる。

「忘れていました」

クラヴィスの頭部に、天井から降りてきた二対の大型の機器が接続された。
それは一瞬クラヴィスの頭部を自重で背後に引き倒そうとするが、反重力機構が働いたのか、彼女は何事もなかったかのように立ち上がった。

「.........................」
「...........................」

クラヴィスはただ黙って立ち続ける。
そのうち、彼女は私よりも身長が小さいことに、私は気付く。

「.....................................................」
「...................................えー......私はどうすれば?」

長い沈黙の末、私はつい聞いてしまう。
だが、クラヴィスは予想外のことを口にした。

「.......私は、貴女の命令を遵守するように命令されています、何をすべきかは私が思考する事ではありません」

そうだ。
自律型AIは、軍用AIと違って自分で行動する権利を基本的に持たない。
自律的に思考できるがゆえに、命令を実行する形でしか動けないのだ。

「.....自由にして。」
「了解いたしました」

クラヴィスはそれでも立ち続ける。
私はクラヴィスに何を教えようかという考えが欠落していることに気づいた。
ずっと、未知の存在に怯え、そればかり考えていたことに。

「取り敢えず、メディアセンターに移動します、付いてきてください」
「了解しました」

とりあえずはメディアセンターで情報をダウンロードさせつつ、それを時間稼ぎにカリキュラムを組もう。

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