SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~

黴男

文字の大きさ
上 下
180 / 200
シーズン8-エミド最終決戦編

180-帰還

しおりを挟む
気付けば、白い空間にいた。
目を開けようとしたが、既に開けていた。
手を動かそうとして、動けないことに気づいた。

『...エリアス・アルティノス』

その時、声が響いた。
僕がそちらを見ようとするが、頭は動かない。
だが、誰の声かはわかった。
ジェキド・イーシャティブの声だ。
つまり...僕は失敗した?

『よくぞ私を打ち倒した』
『...だから、なんだ?』

どうやら失敗したわけではないようだ。
それなら...なぜ僕はここにいる?
引き裂かれた精神パルスは、エリアスという肉体を離れて消えたはずなのに。

『ここは何だ?』
『分からぬよ、私はただ...エリアス、お前に遺言を伝えたいと思ったらここにいただけの話である故に』

エリアスの肉体を感じられないのに、僕の姿はエリアスのままだ。
アラタの姿じゃない。

『遺言だと? 何百億の人間を縛り上げ、遺言すら聞かずに殺してきたお前が?』
『......私は敗けたのだ、お前達ではなく、ただの人間達に。そして......思い出した、エミドもまた、自縄自縛の円環の中にあったのだと』

僕はその言葉で察する。
ジェキドの精神が、最初の冷酷さとは違い感情豊かになった理由を。
ジェキドがエミド兵に洗脳を掛けるように、ジェキドもまた自分自身に洗脳を行なっていたのだと。

『......我等はアルケーシアの地をとある理由から追われた。理由についてはもう分からぬ、思い出せぬ...しかし、その際に安住の地を探そうにも、異次元世界であるこの世界には、我らの居場所などなかった。そこで私は、自分に感情と共感を封じる洗脳を施し、エミド統合体...つまりは、同じ意味であるが...それを再び惑星上に築くために武力を振るうはずだったのだ』

長い時が経ち、彼の精神もまた磨耗していたということだろう。
本来の目的を忘れ、秩序を保つなどという意味不明な行動に走っていた。
兵は乱雑に複製され、その数を増し続けていた。
全ては、本来新たな故郷を作りたかっただけの彼の意思から逸れてしまっていたのだ。

『気づいた時にはもう遅い。もう止まることなどできぬのだ、私は...私は、自らの罪を悔いる。許せとは言わぬ、だが...滅ぼしたのだ。我がエミド統合体を、責任を持って面倒を見てほしい、それから...キシナ、哀れな我が従者には、どこかの惑星で、幸福になる権利を......』
『虫がいいな』
『......私はどんな罪でも背負おう。しかし、キシナを...私は愛していたのだ』
『...まあ、いいだろう』

その時、僕は遠くから声が聞こえてくるのを感じた。
それに呼応するように、ジェキドの声は遠ざかっていく。

『...エリアス・アルティノス...バクタの井戸は、アルケーシアに繋がる閉じたワームホールが変化したものである...それ故に、それを開くことができたのであれば...アルケーシアに辿り着けるだろう』
『...次のお前の人生に、幸多からんことを』

僕は死者に対して賛辞を述べ、段々と近づいてくる声に耳を傾けた。
その声は、男でも女でもなく聞こえ、空間全体から響くようであった。

『オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
『帰ることだ、地球ではなく...アロウトに』
『ソノ ネガイハ モウカナッテイル オマエノ ネガイヲ イエ』
『...叶っている...?』

訳がわからない。
だが、叶っているのであれば、そうかと言うしかない。
なら...

『世界を平和にしてくれ。どんな理不尽も屈服させて欲しい』
『オオキ スギル...』

意外と不便だな。
僕は考えつつ、一つの答えに辿り着いた。

『ならば、僕自身にその平和を齎す力を...調和の力を与えてくれ』
『ソンナモノデ ヨイノカ?』
『構わない』

現状が何とかならないなら、このよく分からない願望器に願いを託すのも悪くはないだろう。

『デハ オマエノ ネガイヲ カナエヨウ』

最後の「~ヨウ」の部分が無数にエコーしながら、徐々に減衰して消えていく。
それと同時に、僕は自らの中に暖かみを感じた。

『ああ.......そうか.......』

僕の姿がアラタじゃなかった理由。
願いが既に叶っていた理由。

『僕は、あの世界を......』

地球よりも、愛していた。
その証拠なのだと思いつつ、僕は静かに目を閉じるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

処理中です...