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シーズン7-TRINITY.侵略編
155-カルメナス掌握
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「.....?」
「ですから、エリアス様の御命令通り、カルメナスを味方に付けて参りました」
僕は”玉座の間”で呆然としていた。
下した覚えのない命令をケルビスが実行してきた。
「僕は.....その、いつその命令を出した?」
「会議の際、”味方が少ないな”と仰られたはありませんか、私めはその言葉で全てを理解いたしました。Ve’zとの位置関係、エリアス様に与える利益、信頼できる関係を築ける勢力を全て熟考した結果、カルメナスへと至りました」
まさか、あの発言を拾われた?
僕は内心額に手を当てる。
「....それで、カルメナスは僕に何を与える?」
「エリアス様が御命じになられれば、彼等は帝国のどこにでも影響を及ぼす事が出来ます。TRINITY.が滅んだ暁には、各地で彼等に治安維持を任せればよいかと」
「.....」
海賊に治安維持を任せるのか。
一瞬疑問に思ったが、しかし間違いないだろう。
彼らは海賊ではあるが、同時にビジネスマンの側面も持つ。
略奪という報酬を受け取った上で、地元の犯罪を取り仕切り、秩序の崩壊を防ぐ。
「悪くないな」
勿論人間たちにとっては悪夢だろうが、知った事ではない。
TRINITY.に次ぐ脅威はなくなり、国家はカルメナスに呑まれて弱体化する。
「よくやった。しかし........どうやって、お前に報えばいい?」
巨大勢力を一つ味方に付けて帰って来られても、これ以上の待遇をケルビスに与えることはできない。
「では、私めの農園を拡大する権利をお願い致します。拡大しようにも、周囲の施設を持つエリアス様に相談する気にもなれず....」
「いいや、それでは足りないな。.....惑星を一つ譲ろう」
「よろしいのですか?」
「農業惑星と同じ環境にテラフォーミングし、そこで農園を作れ。土づくりの為に、農業惑星から土壌を移送するのも認めよう」
僕はケルビスが作る様々な作物に価値を見出している。
そして、何より。
「.......個人的に利用するから、月間5t程度を個別に出荷しろ。それが条件だ」
「はっ!」
惑星フィオに住むニト達は、現状エネルギーブロックを利用して生きている。
しかしそれは、記憶を失っているとはいえ僕には少々可哀想に映る。
まとめて受け入れた以上、ケルビスメイドの食事を提供してもいいだろう。
「お前の満足するモノで応えられたか?」
僕がそう尋ねると、ケルビスは猛烈に頷いた。
それなら良い。
「それで、話はこれで終わりか?」
「はい」
「そうか」
僕はふと目を閉じ、情報を確認する。
ケルビスは複数の茶を育てていた筈だが、今は三種類になっている。
「そういう事か」
「どうされましたか?」
「最近飲めなくなったと思っていたら、生産をやめたのか」
エリスの元を訪れると、毎回リクエストしていた茶があったが、いつの間にか在庫がなくなっていた。
些事だと思っていたが.....
「ああ、それは――――」
話を聞く限り、交配に失敗したようだ。
予備も用意しておらず、遺伝子系列がどう変化したのも分からないそうだ。
「........全ては不可逆、か」
僕は呟く。
僕たちがかき回したせいで、宇宙の勢力図は大幅に書き替わった。
この変化は不可逆的である。
「(自分たちの平穏を確保しようとすればするほど、世界は滅びに近づいていく)」
この世界から欲深い人間を消せば、それで全て丸く収まるという訳ではないようだ。
結局エリアスや僕にも、Ve’zの生きる道の果ては分からない。
「次はバーダレンだ、ケルビス」
「はっ」
「お前に、任せる」
「お預かりいたします」
僕はケルビスに、最終決戦を目前にした戦いを任せることにした。
この短いようで長い争いも、もうすぐ終わる。
….そう、思っていたのだが。
人間というのは、どこまでも秘境で醜悪であると、僕は知ることになるのだ。
「ですから、エリアス様の御命令通り、カルメナスを味方に付けて参りました」
僕は”玉座の間”で呆然としていた。
下した覚えのない命令をケルビスが実行してきた。
「僕は.....その、いつその命令を出した?」
「会議の際、”味方が少ないな”と仰られたはありませんか、私めはその言葉で全てを理解いたしました。Ve’zとの位置関係、エリアス様に与える利益、信頼できる関係を築ける勢力を全て熟考した結果、カルメナスへと至りました」
まさか、あの発言を拾われた?
僕は内心額に手を当てる。
「....それで、カルメナスは僕に何を与える?」
「エリアス様が御命じになられれば、彼等は帝国のどこにでも影響を及ぼす事が出来ます。TRINITY.が滅んだ暁には、各地で彼等に治安維持を任せればよいかと」
「.....」
海賊に治安維持を任せるのか。
一瞬疑問に思ったが、しかし間違いないだろう。
彼らは海賊ではあるが、同時にビジネスマンの側面も持つ。
略奪という報酬を受け取った上で、地元の犯罪を取り仕切り、秩序の崩壊を防ぐ。
「悪くないな」
勿論人間たちにとっては悪夢だろうが、知った事ではない。
TRINITY.に次ぐ脅威はなくなり、国家はカルメナスに呑まれて弱体化する。
「よくやった。しかし........どうやって、お前に報えばいい?」
巨大勢力を一つ味方に付けて帰って来られても、これ以上の待遇をケルビスに与えることはできない。
「では、私めの農園を拡大する権利をお願い致します。拡大しようにも、周囲の施設を持つエリアス様に相談する気にもなれず....」
「いいや、それでは足りないな。.....惑星を一つ譲ろう」
「よろしいのですか?」
「農業惑星と同じ環境にテラフォーミングし、そこで農園を作れ。土づくりの為に、農業惑星から土壌を移送するのも認めよう」
僕はケルビスが作る様々な作物に価値を見出している。
そして、何より。
「.......個人的に利用するから、月間5t程度を個別に出荷しろ。それが条件だ」
「はっ!」
惑星フィオに住むニト達は、現状エネルギーブロックを利用して生きている。
しかしそれは、記憶を失っているとはいえ僕には少々可哀想に映る。
まとめて受け入れた以上、ケルビスメイドの食事を提供してもいいだろう。
「お前の満足するモノで応えられたか?」
僕がそう尋ねると、ケルビスは猛烈に頷いた。
それなら良い。
「それで、話はこれで終わりか?」
「はい」
「そうか」
僕はふと目を閉じ、情報を確認する。
ケルビスは複数の茶を育てていた筈だが、今は三種類になっている。
「そういう事か」
「どうされましたか?」
「最近飲めなくなったと思っていたら、生産をやめたのか」
エリスの元を訪れると、毎回リクエストしていた茶があったが、いつの間にか在庫がなくなっていた。
些事だと思っていたが.....
「ああ、それは――――」
話を聞く限り、交配に失敗したようだ。
予備も用意しておらず、遺伝子系列がどう変化したのも分からないそうだ。
「........全ては不可逆、か」
僕は呟く。
僕たちがかき回したせいで、宇宙の勢力図は大幅に書き替わった。
この変化は不可逆的である。
「(自分たちの平穏を確保しようとすればするほど、世界は滅びに近づいていく)」
この世界から欲深い人間を消せば、それで全て丸く収まるという訳ではないようだ。
結局エリアスや僕にも、Ve’zの生きる道の果ては分からない。
「次はバーダレンだ、ケルビス」
「はっ」
「お前に、任せる」
「お預かりいたします」
僕はケルビスに、最終決戦を目前にした戦いを任せることにした。
この短いようで長い争いも、もうすぐ終わる。
….そう、思っていたのだが。
人間というのは、どこまでも秘境で醜悪であると、僕は知ることになるのだ。
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