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シーズン7-TRINITY.侵略編
152-裏切りの人形劇
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「戦え! 生き残りたくば、システムを復旧せよ!」
TRINITY.の指揮官の一人が、そう叫んだ。
場所は、TRINITY.ペーネハイネン防衛艦隊総指揮旗艦『アルフェラッツ』内部。
カイザーマジェスティにより強力な電子戦妨害を仕掛けられ、その復旧に四苦八苦している最中であった。
『た、大変です! 司令!』
「どうした! 機関はまだ復旧しないのか!?」
『艦内部に侵入者多数! このままでは下層を突破されます!』
「馬鹿な、衝撃の類は何も.....」
指揮官は呟くが、それも当然である。
侵入者――――シュマルとジェネラスは、ジェネラスの乗艦から直接乗り移ってきたのだから。
『じゃ、首尾は分かってるッスよね?』
『拙者に任せよ』
二人は、ケイトリンが再び仕掛けるより前に情報を奪取するために来ていた。
ジェネラスはポーススパーダ(この世界の一部の地域の者たちが使う光の剣、幅が広くなく見た目が一本の棒に見える者を指す)と電磁盾を装備した騎士風の出で立ちであるのに対し、シュマルは身体のラインがはっきりと見える潜入服を身に纏っていた。
ジェネラスが陽動を行い、シュマルが情報にアクセスする。
そういう首尾であった。
『敵、こちらへ砲撃を開始しました』
『ケイトリン、準備はまだですか?』
『まだです。ただし、反撃は開始いたします』
電力を完全に喪失しなかった一部の艦のうち、クラックされた火器管制システムを遮断することで無理やり復旧したらしいさらに一部の艦が、ケイトリンの率いる艦隊に攻撃を仕掛けてくる。
当然、反撃がすぐに飛び、それらの艦は火を噴き出して轟沈する。
『(流石はエリアス様。人間の心理に、人間であるからこそ深く精通しているのですね)』
ケイトリンは考える。
艦の密度が減ったことにより、それは狂気の突撃ではなくなった。
前に出た者が愚かにも死んだのみとなり、自然と死にたくないものは前に出なくなった。
命令系統が機能しなくなり、全体の士気が落ち始めている。
「(しかし、動けるはずの艦が命令を無視しているのはなぜだ? まだ指揮権は有効なはず、TRINITY.の練度を見る限り、恐怖に打ち勝てる忠誠心を持つはずだが)」
当のエリアスはというと、TRINITY.の精強さを高く見積もりすぎていた。
彼らも人間であり、「むざむざと死にたくない」という思いは、「敵に突撃せよ」という”絶対”を上回っているのだ。
より明確に示すなら、その感情は「高みから見物してる偉い奴の為に死にたくない」というものである。
それは本来、「赤信号、皆で渡れば怖くない」という人間の集団心理に覆い隠され、表層に浮上しない感情であり、社会性を保持して生活するうえでは愚の骨頂とされる思考であった。
「カサンドラ、何故敵は動かない?」
『....はっ! 直ちに実行いたします!』
カサンドラはエリアスの言葉に耳を疑ったが、直ぐにその思考パターンを切り離す。
エリアスがそんな愚かなことをわざわざ口にするはずがないのである。
それはつまり、戦局を次の局面に移行せよという暗黙の命令なのだと拡大解釈し、カサンドラに命じる。
『まだ準備が完了していませんが....』
『不完全でも構いません、エリアス様が退屈されているのです』
『では、直ちに』
カサンドラの広げた光の翼が、横方面に伸長される。
そして、ブリッジに当たる部分に白く輝く光輪が浮かび上がった。
『これは我が勅命である。愚かなる罪人に与える罪の名は”蒙昧”。その罪を清算すべく、我が前で我が主を楽しませるが善い。――――踊れ、踊れ、踊り狂え......カイザーコマンド』
直後。
宙域の時間が完全に静止する。
否、動いているのはノクティラノスだけとなった。
『鎮まれ』
そして、ケイトリンの命令でそれらも動きを止めた。
撃っていた艦も、煩いほどに飛び交っていた通信も、全て。
全て――――一様に消え去った。
『舞え。裏切りの舞を――――』
ケイトリンは冷徹に命じた。
そして、TRINITY.の強力な砲は、その命を受け――――味方を撃った。
シールドを貫通し、その艦は広大な暗闇に一点の光を咲かせた。
「――――――――」
「――――――――」
『アルフェラッツ』の艦橋では、虚ろな目をしたTRINITY.の職員たちが、計器を操作し同志を討っていた。
ポラノルのような「システムの乗っ取り」ではない。
これは「精神同調による即効にして、永劫なる洗脳」なのだ。
まるで、大昔のハーメルンの童話のように、無垢なる子供のように。
TRINITY.の者達はただ虚ろに従い、そして自爆していった。
丁度偶数だったため、最後に一番硬い船――――『アルフェラッツ』が残存した。
『どうされますか、エリアス様』
「これは”使える”。残しておけ」
『はっ』
そして、エリアスの指令で『アルフェラッツ』は曳航され、宙域から持ち去られた。
大戦力の再度の喪失により戦線は崩壊、TRINITY.はついに最終防衛ラインを明け渡すこととなったのであった。
TRINITY.の指揮官の一人が、そう叫んだ。
場所は、TRINITY.ペーネハイネン防衛艦隊総指揮旗艦『アルフェラッツ』内部。
カイザーマジェスティにより強力な電子戦妨害を仕掛けられ、その復旧に四苦八苦している最中であった。
『た、大変です! 司令!』
「どうした! 機関はまだ復旧しないのか!?」
『艦内部に侵入者多数! このままでは下層を突破されます!』
「馬鹿な、衝撃の類は何も.....」
指揮官は呟くが、それも当然である。
侵入者――――シュマルとジェネラスは、ジェネラスの乗艦から直接乗り移ってきたのだから。
『じゃ、首尾は分かってるッスよね?』
『拙者に任せよ』
二人は、ケイトリンが再び仕掛けるより前に情報を奪取するために来ていた。
ジェネラスはポーススパーダ(この世界の一部の地域の者たちが使う光の剣、幅が広くなく見た目が一本の棒に見える者を指す)と電磁盾を装備した騎士風の出で立ちであるのに対し、シュマルは身体のラインがはっきりと見える潜入服を身に纏っていた。
ジェネラスが陽動を行い、シュマルが情報にアクセスする。
そういう首尾であった。
『敵、こちらへ砲撃を開始しました』
『ケイトリン、準備はまだですか?』
『まだです。ただし、反撃は開始いたします』
電力を完全に喪失しなかった一部の艦のうち、クラックされた火器管制システムを遮断することで無理やり復旧したらしいさらに一部の艦が、ケイトリンの率いる艦隊に攻撃を仕掛けてくる。
当然、反撃がすぐに飛び、それらの艦は火を噴き出して轟沈する。
『(流石はエリアス様。人間の心理に、人間であるからこそ深く精通しているのですね)』
ケイトリンは考える。
艦の密度が減ったことにより、それは狂気の突撃ではなくなった。
前に出た者が愚かにも死んだのみとなり、自然と死にたくないものは前に出なくなった。
命令系統が機能しなくなり、全体の士気が落ち始めている。
「(しかし、動けるはずの艦が命令を無視しているのはなぜだ? まだ指揮権は有効なはず、TRINITY.の練度を見る限り、恐怖に打ち勝てる忠誠心を持つはずだが)」
当のエリアスはというと、TRINITY.の精強さを高く見積もりすぎていた。
彼らも人間であり、「むざむざと死にたくない」という思いは、「敵に突撃せよ」という”絶対”を上回っているのだ。
より明確に示すなら、その感情は「高みから見物してる偉い奴の為に死にたくない」というものである。
それは本来、「赤信号、皆で渡れば怖くない」という人間の集団心理に覆い隠され、表層に浮上しない感情であり、社会性を保持して生活するうえでは愚の骨頂とされる思考であった。
「カサンドラ、何故敵は動かない?」
『....はっ! 直ちに実行いたします!』
カサンドラはエリアスの言葉に耳を疑ったが、直ぐにその思考パターンを切り離す。
エリアスがそんな愚かなことをわざわざ口にするはずがないのである。
それはつまり、戦局を次の局面に移行せよという暗黙の命令なのだと拡大解釈し、カサンドラに命じる。
『まだ準備が完了していませんが....』
『不完全でも構いません、エリアス様が退屈されているのです』
『では、直ちに』
カサンドラの広げた光の翼が、横方面に伸長される。
そして、ブリッジに当たる部分に白く輝く光輪が浮かび上がった。
『これは我が勅命である。愚かなる罪人に与える罪の名は”蒙昧”。その罪を清算すべく、我が前で我が主を楽しませるが善い。――――踊れ、踊れ、踊り狂え......カイザーコマンド』
直後。
宙域の時間が完全に静止する。
否、動いているのはノクティラノスだけとなった。
『鎮まれ』
そして、ケイトリンの命令でそれらも動きを止めた。
撃っていた艦も、煩いほどに飛び交っていた通信も、全て。
全て――――一様に消え去った。
『舞え。裏切りの舞を――――』
ケイトリンは冷徹に命じた。
そして、TRINITY.の強力な砲は、その命を受け――――味方を撃った。
シールドを貫通し、その艦は広大な暗闇に一点の光を咲かせた。
「――――――――」
「――――――――」
『アルフェラッツ』の艦橋では、虚ろな目をしたTRINITY.の職員たちが、計器を操作し同志を討っていた。
ポラノルのような「システムの乗っ取り」ではない。
これは「精神同調による即効にして、永劫なる洗脳」なのだ。
まるで、大昔のハーメルンの童話のように、無垢なる子供のように。
TRINITY.の者達はただ虚ろに従い、そして自爆していった。
丁度偶数だったため、最後に一番硬い船――――『アルフェラッツ』が残存した。
『どうされますか、エリアス様』
「これは”使える”。残しておけ」
『はっ』
そして、エリアスの指令で『アルフェラッツ』は曳航され、宙域から持ち去られた。
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