131 / 200
シーズン6-Ve’z同盟軍対TRINITY.連合軍戦線
131-不壊の誓い
しおりを挟む
Ve’zの領域に送った艦隊から、完全に通信が途絶した。
それは、連合軍の結束に大きな揺らぎを生んだ。
『これは一体、どういう事かね?』
キロマイア皇国の皇帝デルジャの言葉が、会議室に響く。
叱責されているのは、TRINITY.の総裁エルドリヒ・オーンスタインである。
「どういう事も何も......我々の艦隊も全滅したのです、私一人の責任ではありません」
『バカも休み休み言え! 主力艦を十五隻も出したのは、”勝てる”とお主が言ったからだ! 自分の言葉に責任を持てないのであれば、今すぐ辞任したまえ!』
ジスティカ王国のリューギリスが、大声を出す。
主力艦とは、国家のナイフであり、盾である。
持っているだけで抑止力になるものを、十五隻も失ったのである。
一隻にかける建造費用は国家予算の数倍であり、人材育成には数百年を要する。
「それを言うのであれば、我々も四十五隻の主力艦を失ったのですぞ!」
『我々の敬虔な信徒たちを無駄死にさせておいて、その言い草ですか』
イラサ法皇が、悪意の籠った声色で発言した。
『とにかく、我々もこのまま勝利できないのは拙いのではないでしょうか』
「.......その通りです、法皇。もし勝利できなければ、我々は皆失脚するのですよ」
『貴様! 何たる卑怯な真似を....!』
リューギリス王が叫ぶが、総裁は邪悪な笑みを浮かべた。
「もう逃げられませんなぁ、貴方達も、権力が大事でしょう?」
最早エルドリヒには、それ以外の道は残されていなかった。
そして、そのための作戦も。
『....では、どうされるおつもりか?』
「当然です。Ve’zに我らの力が及ばぬのであれば――――その配下を、討ち取ってしまえば戦争終結の言い分は確保できましょう」
『.......貴方は、もしや.......同胞に剣を向けろと言うのですか!?』
イラサ法皇は叫ぶ。
だが、エルドリヒは嫌らしい笑みを崩さずに言う。
「何を言うのです、汚らわしい肌と忌み嫌う悪魔の民族を、滅ぼせるいいチャンスではありませんか」
『...............』
『我々に、オルダモンとの戦争を再開せよと? 同じ過ちを繰り返せと言うのか?』
「弱かったから負けたのですな、連合軍と共に戦えば、負けることなどありえません」
『................』
イラサ法皇は、クロペル共和国との対立は自らの宗教の教義であり、それを国民全体の意思に昇華させたくはなかった。
デルジャ皇帝は、高まるオルダモンとの再戦の動きに気づいていた。
だが、戦えばまた負けるかもしれないと恐れていた。
しかし両者の主張は、皮肉にもエルドリヒに封殺された。
『.........承知した。悪魔の民族を、必ず滅して見せよう』
『では、ヘルティエット王国はオーベルン神聖連合と共に戦います』
『仕方あるまい、国内の結束は高まっている、今こそ戦いの時だ』
『ジスティカ王国は、キロマイア皇国と共に戦おう!』
エルドリヒはにやけ顔を抑える事が出来なかった。
Ve’zには勝てなかったが、対国家で領土を一つ奪い取るだけでこの状況を打破できるのである。
余裕、であった。
それが全て、ケルビスに知られていることを除けば――――
「という訳で、TRINITY.の連合軍が攻めてくるぞ」
「この間も聞いた内容だねぇ」
「.........その言い方は...もしかして、オルダモンとクロペルに直接?」
「そうだ」
僕は頷く。
ケルビスが教えてくれた情報は正しく、敵の進軍予定地はシルターエルト星系である。
ここは、オルダモンとクロペルの間にある星系であり、互いの支援を断絶するという意味もあり、そこから攻撃を開始するだろう。
「そこで提案だ。Ve’zとオルダモン、Ve’zとクロペルが組んでシルターエルト星系を襲撃したら、中々面白いことになると思うんだが?」
「......ほーん? 成程ぉ、そいつは面白い」
「....どう思いますか、ジアン?」
モニ........ティニア女王は、ジアンという側近に相談している。
丸聞こえだが、話は付いたようだ。
「......ジアンは優秀な騎士でもあります。もし、チャンスがあるのでしたら....敵の司令官は、ジアンに殺させてください」
「御意」
「ああ、構わない」
クロペル共和国にとって、戦いとは手段を問わない。
勝った者にこそ.....より詳しく言うならば、首級を取った者こそが、あらゆる卑怯な手を使ったとしても、強い者に手を貸してもらったとしても、もっとも栄誉ある人間となるのだ。
「申し訳ございません、偉大なるVe’zの王である貴方の前で、このような願いを....」
「いいや。それより、ジアン――――死ぬなよ」
僕は真っすぐにジアンの目を捉えた。
「首なんていくらでもくれてやろう、だが――――死んだ人間は生き返らない。ティニアを悲しませることがないようにな」
「はっ」
ジアンは僕の言葉に、跪いて承諾したのだった。
それは、連合軍の結束に大きな揺らぎを生んだ。
『これは一体、どういう事かね?』
キロマイア皇国の皇帝デルジャの言葉が、会議室に響く。
叱責されているのは、TRINITY.の総裁エルドリヒ・オーンスタインである。
「どういう事も何も......我々の艦隊も全滅したのです、私一人の責任ではありません」
『バカも休み休み言え! 主力艦を十五隻も出したのは、”勝てる”とお主が言ったからだ! 自分の言葉に責任を持てないのであれば、今すぐ辞任したまえ!』
ジスティカ王国のリューギリスが、大声を出す。
主力艦とは、国家のナイフであり、盾である。
持っているだけで抑止力になるものを、十五隻も失ったのである。
一隻にかける建造費用は国家予算の数倍であり、人材育成には数百年を要する。
「それを言うのであれば、我々も四十五隻の主力艦を失ったのですぞ!」
『我々の敬虔な信徒たちを無駄死にさせておいて、その言い草ですか』
イラサ法皇が、悪意の籠った声色で発言した。
『とにかく、我々もこのまま勝利できないのは拙いのではないでしょうか』
「.......その通りです、法皇。もし勝利できなければ、我々は皆失脚するのですよ」
『貴様! 何たる卑怯な真似を....!』
リューギリス王が叫ぶが、総裁は邪悪な笑みを浮かべた。
「もう逃げられませんなぁ、貴方達も、権力が大事でしょう?」
最早エルドリヒには、それ以外の道は残されていなかった。
そして、そのための作戦も。
『....では、どうされるおつもりか?』
「当然です。Ve’zに我らの力が及ばぬのであれば――――その配下を、討ち取ってしまえば戦争終結の言い分は確保できましょう」
『.......貴方は、もしや.......同胞に剣を向けろと言うのですか!?』
イラサ法皇は叫ぶ。
だが、エルドリヒは嫌らしい笑みを崩さずに言う。
「何を言うのです、汚らわしい肌と忌み嫌う悪魔の民族を、滅ぼせるいいチャンスではありませんか」
『...............』
『我々に、オルダモンとの戦争を再開せよと? 同じ過ちを繰り返せと言うのか?』
「弱かったから負けたのですな、連合軍と共に戦えば、負けることなどありえません」
『................』
イラサ法皇は、クロペル共和国との対立は自らの宗教の教義であり、それを国民全体の意思に昇華させたくはなかった。
デルジャ皇帝は、高まるオルダモンとの再戦の動きに気づいていた。
だが、戦えばまた負けるかもしれないと恐れていた。
しかし両者の主張は、皮肉にもエルドリヒに封殺された。
『.........承知した。悪魔の民族を、必ず滅して見せよう』
『では、ヘルティエット王国はオーベルン神聖連合と共に戦います』
『仕方あるまい、国内の結束は高まっている、今こそ戦いの時だ』
『ジスティカ王国は、キロマイア皇国と共に戦おう!』
エルドリヒはにやけ顔を抑える事が出来なかった。
Ve’zには勝てなかったが、対国家で領土を一つ奪い取るだけでこの状況を打破できるのである。
余裕、であった。
それが全て、ケルビスに知られていることを除けば――――
「という訳で、TRINITY.の連合軍が攻めてくるぞ」
「この間も聞いた内容だねぇ」
「.........その言い方は...もしかして、オルダモンとクロペルに直接?」
「そうだ」
僕は頷く。
ケルビスが教えてくれた情報は正しく、敵の進軍予定地はシルターエルト星系である。
ここは、オルダモンとクロペルの間にある星系であり、互いの支援を断絶するという意味もあり、そこから攻撃を開始するだろう。
「そこで提案だ。Ve’zとオルダモン、Ve’zとクロペルが組んでシルターエルト星系を襲撃したら、中々面白いことになると思うんだが?」
「......ほーん? 成程ぉ、そいつは面白い」
「....どう思いますか、ジアン?」
モニ........ティニア女王は、ジアンという側近に相談している。
丸聞こえだが、話は付いたようだ。
「......ジアンは優秀な騎士でもあります。もし、チャンスがあるのでしたら....敵の司令官は、ジアンに殺させてください」
「御意」
「ああ、構わない」
クロペル共和国にとって、戦いとは手段を問わない。
勝った者にこそ.....より詳しく言うならば、首級を取った者こそが、あらゆる卑怯な手を使ったとしても、強い者に手を貸してもらったとしても、もっとも栄誉ある人間となるのだ。
「申し訳ございません、偉大なるVe’zの王である貴方の前で、このような願いを....」
「いいや。それより、ジアン――――死ぬなよ」
僕は真っすぐにジアンの目を捉えた。
「首なんていくらでもくれてやろう、だが――――死んだ人間は生き返らない。ティニアを悲しませることがないようにな」
「はっ」
ジアンは僕の言葉に、跪いて承諾したのだった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【SF短編】エリオの方舟
ミカ塚原
SF
地球全土を襲った二一世紀の「大破局」から、約二〇〇年後の世界。少年エリオ・マーキュリーは世界で施行された「異常才覚者矯正法」に基づいて、大洋に浮かぶ孤島の矯正施設に収容された。無為な労働と意識の矯正を強いられる日々の中で、女性教官リネットとの出会いが、エリオを自らの選択へ導いてゆく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる