95 / 200
シーズン4-ヴァンデッタ帝国戦後
095-人間だから言えること
しおりを挟む
「こんなものでごめんなさい」
「いえ...その」
エリスは、サーシャに席を勧める。
座ったサーシャの前で、茶を注いで渡した。
一杯飲んで見せて、危険ではないことを示したうえで、サーシャがそれを口にするのを確認する。
「それで、エリアスに連れられてここへ?」
「あっ、あなたも攫われてきたのですか!?」
サーシャは驚愕する。
なんて非道な存在なのだと。
「うーん....攫われたというか、私の方が攫ってと言ったというか....」
「弱みに付け込まれたというのですか?」
エリスは価値観の違いに、悩む。
目の前の女性は、ずっと酷い目に遭ってきたのだと。
被害に遭うようなことしか考えていない。
「エリアスは私が大好きだから、私も彼の気持ちにこたえようと思ったの」
「あの....異常者が?」
「異常かしら....」
エリスは信じられないような表情をする。
彼女が無知だと勘違いしたサーシャは、エリスに教えてやるつもりで叫ぶ。
「あの女は...! 私たちを洗脳して騙しただけではなく、復讐したければクローンだからいくらでも殺していいなんて言い張ったのですよ!?」
「けれど、貴方たちを殺そうとはしなかったでしょう?」
「それはっ....殺せない理由があると」
エリスはそっと立ち上がり、サーシャの後ろに回る。
そして、呟いた。
「あれは、私が頼んだの」
「ヒッ」
サーシャは理解した。
エリスは決して味方などではないと。
「ヴァンデッタ帝国を滅ぼした罪を、私はエリアスに弾劾したわ。だから彼はもう、やり過ぎないと誓ったし、ヴァンデッタ帝国の人間は殺さないと言った。でも、追い出すわけにもいかなかったのでしょうね」
「何故? 私たちの記憶を消せば」
「ただ追い出したら、貴方たちはきっと酷い目にあうわ。それを私が分かっているからこそ、私を悲しませたくなかった、そうだと思う」
サーシャには訳が分からなかった。
それも当然である。
ドラゴンとその傍に少女がいたとして、ドラゴンが自分の国を滅ぼした罪を反省し、それを少女が咎めたので、自分を追い返すことも丸呑みにすることもしないと約束したという荒唐無稽な話である。
「サーシャさんは、どうしたいのかしら? 本当に望んでいるのは復讐なの?」
「私は.....」
サーシャは固まる。
もし、帝国が元に戻ったところで。
自分の居場所などない。
Ve’zが滅んでも、帝国は元に戻らない。
「だって私は.....皇妃で、帝国がなければ....仇を取って死ぬべきで.....」
サーシャは目を泳がせ、自分が一番納得する言い訳を並べ立てる。
彼女は、芯が存在しない人間なのだと、エリスは分かっていた。
もう一人のエリスのようなものだと。
「貴方には、自分の人生がないのかしら? ずっと皇妃として生きてきて。もうみんな死んでしまったのに、それに義理立てして」
「黙れッ!! 私の国民を、殺したのは、貴方たちです!」
「じゃあ、どうするの? 貴女に居場所はないけれど」
「ぐっ.....」
サーシャは葛藤した。
自分を冷遇した帝国。
ずっと黙って耐えてきた帝国。
でも、それが滅んだなら、自分は皇妃として役目を果たさなければならない。
けれど、役目を果たしたところで?
戻ったところで?
「ぁああああああああああ!!!」
サーシャは発狂した。
自分の中身が無い事で、役目という盾を使えなくなった彼女の精神は崩壊したのだった。
「だ、大丈夫!?」
エリスが駆け寄る。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
サーシャは笑い続けた。
泣きながら笑った。
笑って、笑って――――
「いえ...その」
エリスは、サーシャに席を勧める。
座ったサーシャの前で、茶を注いで渡した。
一杯飲んで見せて、危険ではないことを示したうえで、サーシャがそれを口にするのを確認する。
「それで、エリアスに連れられてここへ?」
「あっ、あなたも攫われてきたのですか!?」
サーシャは驚愕する。
なんて非道な存在なのだと。
「うーん....攫われたというか、私の方が攫ってと言ったというか....」
「弱みに付け込まれたというのですか?」
エリスは価値観の違いに、悩む。
目の前の女性は、ずっと酷い目に遭ってきたのだと。
被害に遭うようなことしか考えていない。
「エリアスは私が大好きだから、私も彼の気持ちにこたえようと思ったの」
「あの....異常者が?」
「異常かしら....」
エリスは信じられないような表情をする。
彼女が無知だと勘違いしたサーシャは、エリスに教えてやるつもりで叫ぶ。
「あの女は...! 私たちを洗脳して騙しただけではなく、復讐したければクローンだからいくらでも殺していいなんて言い張ったのですよ!?」
「けれど、貴方たちを殺そうとはしなかったでしょう?」
「それはっ....殺せない理由があると」
エリスはそっと立ち上がり、サーシャの後ろに回る。
そして、呟いた。
「あれは、私が頼んだの」
「ヒッ」
サーシャは理解した。
エリスは決して味方などではないと。
「ヴァンデッタ帝国を滅ぼした罪を、私はエリアスに弾劾したわ。だから彼はもう、やり過ぎないと誓ったし、ヴァンデッタ帝国の人間は殺さないと言った。でも、追い出すわけにもいかなかったのでしょうね」
「何故? 私たちの記憶を消せば」
「ただ追い出したら、貴方たちはきっと酷い目にあうわ。それを私が分かっているからこそ、私を悲しませたくなかった、そうだと思う」
サーシャには訳が分からなかった。
それも当然である。
ドラゴンとその傍に少女がいたとして、ドラゴンが自分の国を滅ぼした罪を反省し、それを少女が咎めたので、自分を追い返すことも丸呑みにすることもしないと約束したという荒唐無稽な話である。
「サーシャさんは、どうしたいのかしら? 本当に望んでいるのは復讐なの?」
「私は.....」
サーシャは固まる。
もし、帝国が元に戻ったところで。
自分の居場所などない。
Ve’zが滅んでも、帝国は元に戻らない。
「だって私は.....皇妃で、帝国がなければ....仇を取って死ぬべきで.....」
サーシャは目を泳がせ、自分が一番納得する言い訳を並べ立てる。
彼女は、芯が存在しない人間なのだと、エリスは分かっていた。
もう一人のエリスのようなものだと。
「貴方には、自分の人生がないのかしら? ずっと皇妃として生きてきて。もうみんな死んでしまったのに、それに義理立てして」
「黙れッ!! 私の国民を、殺したのは、貴方たちです!」
「じゃあ、どうするの? 貴女に居場所はないけれど」
「ぐっ.....」
サーシャは葛藤した。
自分を冷遇した帝国。
ずっと黙って耐えてきた帝国。
でも、それが滅んだなら、自分は皇妃として役目を果たさなければならない。
けれど、役目を果たしたところで?
戻ったところで?
「ぁああああああああああ!!!」
サーシャは発狂した。
自分の中身が無い事で、役目という盾を使えなくなった彼女の精神は崩壊したのだった。
「だ、大丈夫!?」
エリスが駆け寄る。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
サーシャは笑い続けた。
泣きながら笑った。
笑って、笑って――――
10
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる