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シーズン4-ヴァンデッタ帝国戦後
094-蜘蛛の糸
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「.......どうして」
僕はケルビスに注いでもらった茶を、口に運ぶ。
「フレーバーを変えたか?」
「ご名答です」
カップを置き、僕はパンに手を付ける。
だいぶ味覚が元に戻ってきて、香ばしい焼き目の風味を感じられるようになった。
「答えてください....どうして」
「どうしてここにいるのか、か?」
僕とサーシャは、共に朝食を摂っていた。
もっともサーシャは、食事が進まないようだったが。
「お気に召されませんでしたか?」
「いえ....大丈夫です」
サーシャはケルビスに尋ねられると、それを咎められたと勘違いして食べ始めた。
だが、すぐにむせてしまう。
「げほっ....!」
「どうした? 殺意がよみがえったか? そのナイフでは少し威力が足りないな....」
「おえええええっ!!」
サーシャは嘔吐した。
即座にケルビスがサーシャを連れて退出させ、ノクティラノスの一人が床の虹色物体を洗浄した。
「この方向で攻めていくべきか?」
僕は呟く。
本当はサーシャが満足するまで刺殺を繰り返させる予定だったのだが、そもそも彼女は普通の人間だった。
普通の死生観を持つ普通の人間に、こんな手段で復讐をさせるのは難しいだろう。
「ケルビス、どうやったら彼女を満足させられると思う?」
「私めにも分かりかねます。もしエリアス様が責任を負ってVe’zごと滅んだとしても、きっと彼女は虚しいままで終わるのでは?」
「そうだな.....」
復讐は何も生まない。
だが、サーシャは存在しない責任にこだわり続けているようにも感じた。
「滅んだ国に義理立てしても、仕方ないのですが....」
「滅ぼした者が吐く台詞ではないが?」
「おっと、失敬」
僕は、ケルビスもなかなか”いい”性格をしていると思うのだった。
数分後。
手洗いから出てきたサーシャは、うつろな目で廊下の奥を見た。
脳裏に浮かぶのは、ナイフで憎き相手を滅多刺しにした記憶。
すっきりした。
だが、その記憶が、再び吐き気を催させる。
「ッ.....」
「大丈夫...?」
「!!」
サーシャは、急に掛けられた声に、振り向く。
だがそこには、生気のない瞳をしたVe’z人ではなく、血の通った肌と、綺麗な瞳をした人間が立っていた。
「私も....幻覚を見るようになりましたか...」
「よく分からないけれど、エリアスの知り合いかしら?」
エリアスの名が出た瞬間、サーシャは震えだした。
人間ではないあの存在に恐怖しているのだ。
「とにかく、私の家まで来れるかしら?」
「....いいのですか?」
「私のお茶に付き合って。そしたら、少しは気分も晴れるでしょ?」
「....分かりました」
まるで蜘蛛の糸に絡め捕られるが如く、サーシャはケルビスとエリアスの張った究極の対人罠。
「エリス」に引っかかったのであった――――
僕はケルビスに注いでもらった茶を、口に運ぶ。
「フレーバーを変えたか?」
「ご名答です」
カップを置き、僕はパンに手を付ける。
だいぶ味覚が元に戻ってきて、香ばしい焼き目の風味を感じられるようになった。
「答えてください....どうして」
「どうしてここにいるのか、か?」
僕とサーシャは、共に朝食を摂っていた。
もっともサーシャは、食事が進まないようだったが。
「お気に召されませんでしたか?」
「いえ....大丈夫です」
サーシャはケルビスに尋ねられると、それを咎められたと勘違いして食べ始めた。
だが、すぐにむせてしまう。
「げほっ....!」
「どうした? 殺意がよみがえったか? そのナイフでは少し威力が足りないな....」
「おえええええっ!!」
サーシャは嘔吐した。
即座にケルビスがサーシャを連れて退出させ、ノクティラノスの一人が床の虹色物体を洗浄した。
「この方向で攻めていくべきか?」
僕は呟く。
本当はサーシャが満足するまで刺殺を繰り返させる予定だったのだが、そもそも彼女は普通の人間だった。
普通の死生観を持つ普通の人間に、こんな手段で復讐をさせるのは難しいだろう。
「ケルビス、どうやったら彼女を満足させられると思う?」
「私めにも分かりかねます。もしエリアス様が責任を負ってVe’zごと滅んだとしても、きっと彼女は虚しいままで終わるのでは?」
「そうだな.....」
復讐は何も生まない。
だが、サーシャは存在しない責任にこだわり続けているようにも感じた。
「滅んだ国に義理立てしても、仕方ないのですが....」
「滅ぼした者が吐く台詞ではないが?」
「おっと、失敬」
僕は、ケルビスもなかなか”いい”性格をしていると思うのだった。
数分後。
手洗いから出てきたサーシャは、うつろな目で廊下の奥を見た。
脳裏に浮かぶのは、ナイフで憎き相手を滅多刺しにした記憶。
すっきりした。
だが、その記憶が、再び吐き気を催させる。
「ッ.....」
「大丈夫...?」
「!!」
サーシャは、急に掛けられた声に、振り向く。
だがそこには、生気のない瞳をしたVe’z人ではなく、血の通った肌と、綺麗な瞳をした人間が立っていた。
「私も....幻覚を見るようになりましたか...」
「よく分からないけれど、エリアスの知り合いかしら?」
エリアスの名が出た瞬間、サーシャは震えだした。
人間ではないあの存在に恐怖しているのだ。
「とにかく、私の家まで来れるかしら?」
「....いいのですか?」
「私のお茶に付き合って。そしたら、少しは気分も晴れるでしょ?」
「....分かりました」
まるで蜘蛛の糸に絡め捕られるが如く、サーシャはケルビスとエリアスの張った究極の対人罠。
「エリス」に引っかかったのであった――――
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