SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~

黴男

文字の大きさ
上 下
89 / 200
シーズン4-ヴァンデッタ帝国戦後

089-永遠の終わりか、それとも泡沫の幸福か?

しおりを挟む
僕は困惑しながら、エリアスの記録に移る前の最後の時代へと上昇する。
そこには、今までの時代よりはるかに分厚い情報が蓄積されていた。
それは、無感情と効率化による果ての、無関心化による自害の研究。
彼らは、研究の果てにたどり着いたのだ、なぜ彼らが自害したかの理由に。

『だが、分かったところで――――何もできなかった。わたしは段々と、知ること、生き続けることに大して欲求を失っていく事に気づいた。』

そして、クロエ管理者もまた、その終わりに近づいていた。

『それは、ノエルも変わりなかった。彼を見てきたわたしは、彼の微細な動作の誤差に気づいた。長くかからず、私たちもまた、無関心の虜となり、滅びの運命をたどることになると』

だが、そうはならなかった。
クロエは生の欲求を求め、あらゆる手段に出た。
今のエクスティラノスたちのように。
植物や動物を飼育して生命と触れ合ったり、食事を楽しんでみたり。
様々な星に旅行に行ってみたり。

『ある時、わたしは人間の心を模倣してみることにした。人間は男女で恋というものをするそうだ。それが男女の仲を発展させ、結果として生殖行動に繋がることもあるという。それを真似すれば、生存本能を蘇らせることも不可能ではないかもしれないと。』

クロエはノエルに、恋愛をすることを提案したのだ。
今まで、人の深層心理を本当に理解しようともしなかった彼ら、彼女らが。
互いに歩み寄り、理解し合う道を選んだのだ。
もっとも――――それは単純なことではなかったが。

『わたし達は互いの趣味嗜好を交換し合ったが、それがどんな結果を生むのか分からなかった。わたしの趣味は研究であり、嗜好は人間の心理について考える事。だがノエルは、研究よりも実験を重ねる性格であり、嗜好は人体構造の自然発達の意義を考察することだった』

要は、付き合ったはいいものの、互いの趣味嗜好が偏りすぎており、対となっていたのだ。
だが、Ve’z人には互いに歩み寄ろうとする思考はない。
ここで終わりになったかと思いきや、それは意外な方法で存続した。

『だがある時。わたしは運んでいた植木鉢を落としてしまい、不可思議な虚無感に襲われていた。だが彼は、それを拾い、丁重に別のケースに入れ替えてくれたのだ。その時わたしの中で、ノエルに対する親愛以上の何か別の感情の気配を覚えた』

それが何だったのか、まだクロエには分からなかったようだ。
僕もそれが何なのか、早く知りたくなった。
さらに昇ると、

『ノエルとの仲が進展した。同時にわたしは、彼のことを大切に思い、理解しようとする心を得た。ノエルもまた、それを悪くないと思っているようだった』

何やら惚気た文章が記録されていた。
見るに堪えないが、これも貴重な情報だ。
二人を覆っていた無関心の氷は、徐々に溶けつつあった。
だが――――

『同時に、わたしはある一つの真理に辿り着いた』
「真理....?」
『全ての事象には終わりがある。つまり、わたし達もまた、終わらなければならないと』

ああ、そうか。
僕は気づいた。
エリアスの名がなぜ、無いのか。
二人がなぜ、全ての痕跡を残さなかったのか。

『最後のVe’zの人間、エリアス=アルティノスにこの言葉を遺す』

彼と彼女は、エリアスを産んだのだ。
普通の人間の体に意識を戻し、エリアスを産み育てた。
そして、エリアスにはVe’z人の技術を継承し――――

『もしこれを知った時、終わりたければ、命を断て。それこそが、生物――――考え、生きる者たちの明確な末路である。だが、もし――――終わらずに済む理想を追うのであれば――――研究せよ。実験せよ。何にも配慮せず、Ve’z人の理性を全うせよ。――――幸福とは、人それぞれが持つ命題の末路である。その夢の残骸を追い求め、いつかその先の真理に足を踏み入れるその日まで、決して関心を失うな――――あなたの母親、クロエ=アルティノスと――――お前の父、ノエル=アルティノスより』

僕に。
私に選択を委ねた。
Ve’zの終わりを決める権利を。

『ぐ......』

途端、心の中が騒めく。
エリアスが抵抗しているのだ。

『落ち着け』
『落ち着けると思うのか? 私の生物学上の血縁者たちは、私に全てを押し付けて逃げたのだ! Ve’zが辿り着く永遠の幸福を投げ捨てて――――』
『......エリアス』

僕は一歩踏み出す勇気を――――
踏み出す勇気を....

『.....いや、エリアス。僕と君は共犯者だ』
『.....?』
『永遠の幸福はまだ得られないと決まったわけではない。この先の結末に、委ねてみよう』
『それは、何の確証もない賭けに過ぎない』
『前の管理者は、エリアスという可能性に賭けた。生粋のVe’z人ではない僕と――――』
『私に?』
『そうだ』

僕は終わりから目を逸らし、エリアスとしてエクスティラノスたちを導く事にした。
それが、エリアスにも、エリスにも嘘をつかない方法だったから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【SF短編】エリオの方舟

ミカ塚原
SF
地球全土を襲った二一世紀の「大破局」から、約二〇〇年後の世界。少年エリオ・マーキュリーは世界で施行された「異常才覚者矯正法」に基づいて、大洋に浮かぶ孤島の矯正施設に収容された。無為な労働と意識の矯正を強いられる日々の中で、女性教官リネットとの出会いが、エリオを自らの選択へ導いてゆく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~

霧氷こあ
SF
 フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。  それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?  見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。 「ここは現実であって、現実ではないの」  自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...