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シーズン3-ヴァンデッタ帝国の末路
079-決闘(後編)
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「(つまらない)」
エリアスは、ケルビスと格闘しながら、別の事を考えていた。
アラタの意識が自分に交代したことと、もう一つの願いについてを。
「(被造物と戦う事で、永遠の幸福に到達できるのか?)」
考えても、答えは出ない。
だからこそ、戦い続ける。
『素晴らしい.....!』
ケルビスの触手による、四方八方からの鞭打をエリアスは躱し、ケルビスの背後に跳ぶ。
空中で一回転し、踵落としを放つが、ケルビスはその足を優しく受け止め、そのまま掴んで投げ飛ばそうとする。
「(無駄が多すぎる)」
エリアスは身体を大きく捻って抜け出し、ケルビスの触手による追撃を自分の触手で弾き返す。
その反動をそのまま使い、斜め左背後に跳ぶ。
ケルビスが前傾姿勢になったのを見計らい、ケルビスの加速に合わせて静止する。
そして、ケルビスが肉薄するのに合わせて身体を少しだけ動かし、ケルビスが前のめりになったところで足を引っかける。
『.....!?』
「はっ」
バランスを崩したケルビスに、エリアスは右拳で殴打を加える。
何かが砕けるような音と共に、衝撃波が発生するほどの勢いを受けたケルビスは、床に転がる。
『全て読んでおいでになられましたか.....』
「お前は、何故忠誠を誓う?」
その時、エリアスは胸の内の疑問を吐露する。
『それは勿論、貴女様が我々を――――』
「とっくにお前に命令はしていない。だというのに、何故権限者ではない私を、主と呼んで慕う?」
『........』
そう、アラタは既に、ケルビスを権限リストから除外していた。
ケルビスの主は、もうエリアスではなかった。
だというのに――――ケルビスは、エリアスを裏切るようなことはしなかった。
『私めは、被造物であると同時に――――先代より、エリアス=アルティノスを守れと命じられた存在でもあります。我が存在意義に従ったまで――――そう、言い訳するのは単純ですね』
ケルビスは再び立ち上がり、構えを取る。
『私めは、御変わりになられたエリアス様に、エリアス様のように何かを想う心と、命令に抗う事の出来る自我を手に入れました。その結果、私めは――――より一層、貴女の存在を意識した』
「有機生命体の、”恋”の真似事か」
『いいえ。そのような事は――――主従の関係を無視し、一方的な恋慕を押し付けるなど、あってはならぬことです』
ケルビスはエリアスに掴みかかり、両腕を触手で縛り上げて投げ飛ばす。
エリアスは空中で受け身を取り、触手を使って着地した。
『私めは、貴女を慕うあまり――――愚かにも、無限の忠誠を捧げる事にしました。そして、私めは.....貴女の領域を穢す者どもを許すわけにはいかなかったのです。』
「だから、命令に背いたと?」
エリアスは理解できない、といった様子で問う。
『もし貴女様の敵を排除できたなら、私めは消えてしまってもよろしい。その想いで、私めはここにいます』
「そうか」
エリアスは興味を失い、最早ケルビスを見てはいなかった。
ケルビスもまた、次の一撃が自分を死に至らしめるものだと、理解していた。
「.....」
エリアスの姿が消えた。
直後、ケルビスは前方に跳躍し――――回り込んだエリアスに胸を貫かれた。
『見....事....です』
「終わりだ」
最初の移動地点を読めたのは良かったものの、エリアスの速度よりケルビスは遥かに遅かった。
エリアスはケルビスを中央コンピューターから切り離し、とどめを刺すべくその頭蓋を掴んで持ち上げる。
一撃で握り潰すべく、その手に力がこもり。
「エリアス!」
訓練場に声が響く。
エリアスが視線をそちらに向けると、エリスがいた。
どうやら、カサンドラとシーシャによる阻止を振り払ってやって来たようである。
「何をしてるのよ! 喧嘩は程々にって、前に言ったじゃない!」
「私は.....」
エリアスは困惑する。
即座に表層にアラタが浮上し、エリアスを奥に引き込んだ。
「...すまない、少し罰ゲームを」
「罰ゲームじゃすまないじゃない!」
エリスは周囲を見渡す。
訓練場はクレーターとひび割れだらけになっており、エリアスとケルビスの服装はボロボロになっていた。
「だが、僕は君との約束を.....」
「ケルビスがやったらなら、ボコボコにした時点で充分罰よ! ほら、行きましょう?」
『必要ありませんよ、エリス様』
ケルビスは、エリアスに向き直る。
『さあ。私めにとどめを』
「エリスの前で出来るとでも、思っているのか?」
エリアスは呆れ果てたように呟く。
「.......ケルビス。お前を、エリスの専属にする」
『....? どういう事でしょうか』
「エリスに話をする。もしエリスが、僕を許さないと糾弾したのなら――――お前を、今度こそ消す」
『......承諾いたしました』
ケルビスは静かに呟き、跪いた。
それと同時にエリスが僕の手を引く。
「さあ、行きましょう」
「ど....どこへ?」
「厨房よ! 少し相談したいことがあったの」
「...わかった」
エリアスは、エリスになかば引きずられるようにして出ていった。
二人の姿を見て、ケルビスは思った。
『(あの二人の愛には、私の忠誠すらも及びませんね....)』
と。
エリアスは、ケルビスと格闘しながら、別の事を考えていた。
アラタの意識が自分に交代したことと、もう一つの願いについてを。
「(被造物と戦う事で、永遠の幸福に到達できるのか?)」
考えても、答えは出ない。
だからこそ、戦い続ける。
『素晴らしい.....!』
ケルビスの触手による、四方八方からの鞭打をエリアスは躱し、ケルビスの背後に跳ぶ。
空中で一回転し、踵落としを放つが、ケルビスはその足を優しく受け止め、そのまま掴んで投げ飛ばそうとする。
「(無駄が多すぎる)」
エリアスは身体を大きく捻って抜け出し、ケルビスの触手による追撃を自分の触手で弾き返す。
その反動をそのまま使い、斜め左背後に跳ぶ。
ケルビスが前傾姿勢になったのを見計らい、ケルビスの加速に合わせて静止する。
そして、ケルビスが肉薄するのに合わせて身体を少しだけ動かし、ケルビスが前のめりになったところで足を引っかける。
『.....!?』
「はっ」
バランスを崩したケルビスに、エリアスは右拳で殴打を加える。
何かが砕けるような音と共に、衝撃波が発生するほどの勢いを受けたケルビスは、床に転がる。
『全て読んでおいでになられましたか.....』
「お前は、何故忠誠を誓う?」
その時、エリアスは胸の内の疑問を吐露する。
『それは勿論、貴女様が我々を――――』
「とっくにお前に命令はしていない。だというのに、何故権限者ではない私を、主と呼んで慕う?」
『........』
そう、アラタは既に、ケルビスを権限リストから除外していた。
ケルビスの主は、もうエリアスではなかった。
だというのに――――ケルビスは、エリアスを裏切るようなことはしなかった。
『私めは、被造物であると同時に――――先代より、エリアス=アルティノスを守れと命じられた存在でもあります。我が存在意義に従ったまで――――そう、言い訳するのは単純ですね』
ケルビスは再び立ち上がり、構えを取る。
『私めは、御変わりになられたエリアス様に、エリアス様のように何かを想う心と、命令に抗う事の出来る自我を手に入れました。その結果、私めは――――より一層、貴女の存在を意識した』
「有機生命体の、”恋”の真似事か」
『いいえ。そのような事は――――主従の関係を無視し、一方的な恋慕を押し付けるなど、あってはならぬことです』
ケルビスはエリアスに掴みかかり、両腕を触手で縛り上げて投げ飛ばす。
エリアスは空中で受け身を取り、触手を使って着地した。
『私めは、貴女を慕うあまり――――愚かにも、無限の忠誠を捧げる事にしました。そして、私めは.....貴女の領域を穢す者どもを許すわけにはいかなかったのです。』
「だから、命令に背いたと?」
エリアスは理解できない、といった様子で問う。
『もし貴女様の敵を排除できたなら、私めは消えてしまってもよろしい。その想いで、私めはここにいます』
「そうか」
エリアスは興味を失い、最早ケルビスを見てはいなかった。
ケルビスもまた、次の一撃が自分を死に至らしめるものだと、理解していた。
「.....」
エリアスの姿が消えた。
直後、ケルビスは前方に跳躍し――――回り込んだエリアスに胸を貫かれた。
『見....事....です』
「終わりだ」
最初の移動地点を読めたのは良かったものの、エリアスの速度よりケルビスは遥かに遅かった。
エリアスはケルビスを中央コンピューターから切り離し、とどめを刺すべくその頭蓋を掴んで持ち上げる。
一撃で握り潰すべく、その手に力がこもり。
「エリアス!」
訓練場に声が響く。
エリアスが視線をそちらに向けると、エリスがいた。
どうやら、カサンドラとシーシャによる阻止を振り払ってやって来たようである。
「何をしてるのよ! 喧嘩は程々にって、前に言ったじゃない!」
「私は.....」
エリアスは困惑する。
即座に表層にアラタが浮上し、エリアスを奥に引き込んだ。
「...すまない、少し罰ゲームを」
「罰ゲームじゃすまないじゃない!」
エリスは周囲を見渡す。
訓練場はクレーターとひび割れだらけになっており、エリアスとケルビスの服装はボロボロになっていた。
「だが、僕は君との約束を.....」
「ケルビスがやったらなら、ボコボコにした時点で充分罰よ! ほら、行きましょう?」
『必要ありませんよ、エリス様』
ケルビスは、エリアスに向き直る。
『さあ。私めにとどめを』
「エリスの前で出来るとでも、思っているのか?」
エリアスは呆れ果てたように呟く。
「.......ケルビス。お前を、エリスの専属にする」
『....? どういう事でしょうか』
「エリスに話をする。もしエリスが、僕を許さないと糾弾したのなら――――お前を、今度こそ消す」
『......承諾いたしました』
ケルビスは静かに呟き、跪いた。
それと同時にエリスが僕の手を引く。
「さあ、行きましょう」
「ど....どこへ?」
「厨房よ! 少し相談したいことがあったの」
「...わかった」
エリアスは、エリスになかば引きずられるようにして出ていった。
二人の姿を見て、ケルビスは思った。
『(あの二人の愛には、私の忠誠すらも及びませんね....)』
と。
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