30 / 200
シーズン1-悪夢の始まり
030-後悔
しおりを挟む
「では遠慮なく」
そう言うと、ケルビスはエリスの首に取り出した筒を押し当て、指で突き出た部分を押し込んだ。
カシュと音を立てて中身が注入され、ケルビスは筒を離した。
「.....終わったのか?」
「はい、30秒以内に体内の治癒が完了します」
呆気なく、僕は罪を犯した。
彼女の自主性を裏切ってしまったのだ。
「....これは、僕のわがままだろうな」
本当なら、彼女は望み通りこのまま死ぬ筈だった。
彼女が望んだ事ではないかもしれないが、Ve’z人になりたいとは望んでいなかったはずだ。
「私めは退出いたしましょうか?」
「....そうしてくれ、果物は.....一旦保存しろ」
「分かりました、エリアス様」
籠を持ったまま、ケルビスは消えた。
僕は、エリスの手を握る。
ベッドについていた血は、とっくの昔に消えていた。
「......エリ...ア....ス」
「....エリス!!」
エリスが目を開けて、僕の方を見た。
「まだ喋るな」
肉体の最適化が終わっていない、今動くと危険だ。
だが、僕は次の言葉で固まった。
「どうして.......撃ったの....、私の....故郷を....」
「あ....え?」
ふと、僕は艦隊がどうなったかを見た。
そして、知った。
知りたくもない結果を。
「......ガゼラークⅣを...僕が、撃った?」
故郷を失った彼女の、第二の故郷を。
よりによって、僕が.....?
「あ.......」
冷静じゃなかったとはいえ、「全てを薙ぎ払え」なんて。
どうして言ったんだ?
情報共有すれば、やってほしい事を伝えることができたはずだ。
「.......エリアス、違.....」
「......すまない」
僕は黙って、テレポートした。
エリスが何か言いかけたが、それ以上耐えられなかった。
考えなしに行動をしたのは、子供の時以来だった。
異世界に来て、混乱していたのかもしれない。
「......」
昔、母親は僕に「考える人間になりなさい」と言った。
父親は「数字だけがお前を表す」と教えてくれた。
だが、いざ人の感情に目を向けると、僕の考えは乱され、数字だけで判断できなくなった。
「.....どうすれば良かったんだ?」
そうだ、そもそも冷静に考えれば、エリスが傷付いたとしても、すぐに都市にワープすればよかった。
ケルビスは内政が忙しくないので、常に農園にいて作業をしているはずだ。
だというのに、敵を蹴散らせと言ったのは、僕の”感情”のせいだ。
「.........忘れていたな」
正直なところ、僕が恐れているのは僕自身の事ではない。
エリスにVe’zの技術を使用したことと、惑星を破壊したこと。
その両方が知られてしまった以上、もう二度と良好な関係は築けない。
「.....」
殺すしかないのか?
彼女にはクローンに意識を転送する機能はないから、殺してしまえば.....
今後の利益を考えれば、生かしておく必要はない。
だが.....
「何なんだ? この思いは....」
思えばエリスに出会ってから、変な方に思考がずれることが多かった。
そもそもエリスを取り戻したいという思いも、隠れて動くという当初の目標からは逸脱している。
だからか、排除しようと考えた時.....なんだか、抵抗めいたものを感じた。
「.......ケルビス」
『はい、エリアス様! たった今、サンプルC-022の収穫が完了しました、糖分の配合がかなり悪く、今後の品質改良が――――』
「....ケルビス、僕は今真面目に考えていることがある」
『....は、何なりとお尋ねください』
「...エリスに謝った方がいいと思うか?」
しばらく、通信の先でケルビスが黙り込む。
即座に結果の演算は出来たが、それを伝えるのを決めかねている様子だ。
『.......私めが愚考いたしますと、恐らくは謝罪、もしくは何らかの説明が必要です。殺害するのが最良ですが、貴女様のペットでありますので、私めからはこれ以外を提案することはできません』
「....そうか」
僕は頷く。
ケルビスに励まされるとは思わなかったけれど、これで決心はついた。
謝ろう、それで許されるとは思わないが。
そう言うと、ケルビスはエリスの首に取り出した筒を押し当て、指で突き出た部分を押し込んだ。
カシュと音を立てて中身が注入され、ケルビスは筒を離した。
「.....終わったのか?」
「はい、30秒以内に体内の治癒が完了します」
呆気なく、僕は罪を犯した。
彼女の自主性を裏切ってしまったのだ。
「....これは、僕のわがままだろうな」
本当なら、彼女は望み通りこのまま死ぬ筈だった。
彼女が望んだ事ではないかもしれないが、Ve’z人になりたいとは望んでいなかったはずだ。
「私めは退出いたしましょうか?」
「....そうしてくれ、果物は.....一旦保存しろ」
「分かりました、エリアス様」
籠を持ったまま、ケルビスは消えた。
僕は、エリスの手を握る。
ベッドについていた血は、とっくの昔に消えていた。
「......エリ...ア....ス」
「....エリス!!」
エリスが目を開けて、僕の方を見た。
「まだ喋るな」
肉体の最適化が終わっていない、今動くと危険だ。
だが、僕は次の言葉で固まった。
「どうして.......撃ったの....、私の....故郷を....」
「あ....え?」
ふと、僕は艦隊がどうなったかを見た。
そして、知った。
知りたくもない結果を。
「......ガゼラークⅣを...僕が、撃った?」
故郷を失った彼女の、第二の故郷を。
よりによって、僕が.....?
「あ.......」
冷静じゃなかったとはいえ、「全てを薙ぎ払え」なんて。
どうして言ったんだ?
情報共有すれば、やってほしい事を伝えることができたはずだ。
「.......エリアス、違.....」
「......すまない」
僕は黙って、テレポートした。
エリスが何か言いかけたが、それ以上耐えられなかった。
考えなしに行動をしたのは、子供の時以来だった。
異世界に来て、混乱していたのかもしれない。
「......」
昔、母親は僕に「考える人間になりなさい」と言った。
父親は「数字だけがお前を表す」と教えてくれた。
だが、いざ人の感情に目を向けると、僕の考えは乱され、数字だけで判断できなくなった。
「.....どうすれば良かったんだ?」
そうだ、そもそも冷静に考えれば、エリスが傷付いたとしても、すぐに都市にワープすればよかった。
ケルビスは内政が忙しくないので、常に農園にいて作業をしているはずだ。
だというのに、敵を蹴散らせと言ったのは、僕の”感情”のせいだ。
「.........忘れていたな」
正直なところ、僕が恐れているのは僕自身の事ではない。
エリスにVe’zの技術を使用したことと、惑星を破壊したこと。
その両方が知られてしまった以上、もう二度と良好な関係は築けない。
「.....」
殺すしかないのか?
彼女にはクローンに意識を転送する機能はないから、殺してしまえば.....
今後の利益を考えれば、生かしておく必要はない。
だが.....
「何なんだ? この思いは....」
思えばエリスに出会ってから、変な方に思考がずれることが多かった。
そもそもエリスを取り戻したいという思いも、隠れて動くという当初の目標からは逸脱している。
だからか、排除しようと考えた時.....なんだか、抵抗めいたものを感じた。
「.......ケルビス」
『はい、エリアス様! たった今、サンプルC-022の収穫が完了しました、糖分の配合がかなり悪く、今後の品質改良が――――』
「....ケルビス、僕は今真面目に考えていることがある」
『....は、何なりとお尋ねください』
「...エリスに謝った方がいいと思うか?」
しばらく、通信の先でケルビスが黙り込む。
即座に結果の演算は出来たが、それを伝えるのを決めかねている様子だ。
『.......私めが愚考いたしますと、恐らくは謝罪、もしくは何らかの説明が必要です。殺害するのが最良ですが、貴女様のペットでありますので、私めからはこれ以外を提案することはできません』
「....そうか」
僕は頷く。
ケルビスに励まされるとは思わなかったけれど、これで決心はついた。
謝ろう、それで許されるとは思わないが。
12
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
異世界に転生したのにスキルも貰えずに吸血鬼に拉致されてロボットを修理しろってどういうことなのか
ピモラス
ファンタジー
自動車工場で働くケンはいつも通りに仕事を終えて、帰りのバスのなかでうたた寝をしていた。
目を覚ますと、見知らぬ草原の真っ只中だった。
なんとか民家を見つけ、助けを求めたのだが、兵士を呼ばれて投獄されてしまう。
そこへ返り血に染まった吸血鬼が襲撃に現れ、ケンを誘拐する。
その目的は「ロボットを修理しろ」とのことだった・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる