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シーズン1-悪夢の始まり
030-後悔
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「では遠慮なく」
そう言うと、ケルビスはエリスの首に取り出した筒を押し当て、指で突き出た部分を押し込んだ。
カシュと音を立てて中身が注入され、ケルビスは筒を離した。
「.....終わったのか?」
「はい、30秒以内に体内の治癒が完了します」
呆気なく、僕は罪を犯した。
彼女の自主性を裏切ってしまったのだ。
「....これは、僕のわがままだろうな」
本当なら、彼女は望み通りこのまま死ぬ筈だった。
彼女が望んだ事ではないかもしれないが、Ve’z人になりたいとは望んでいなかったはずだ。
「私めは退出いたしましょうか?」
「....そうしてくれ、果物は.....一旦保存しろ」
「分かりました、エリアス様」
籠を持ったまま、ケルビスは消えた。
僕は、エリスの手を握る。
ベッドについていた血は、とっくの昔に消えていた。
「......エリ...ア....ス」
「....エリス!!」
エリスが目を開けて、僕の方を見た。
「まだ喋るな」
肉体の最適化が終わっていない、今動くと危険だ。
だが、僕は次の言葉で固まった。
「どうして.......撃ったの....、私の....故郷を....」
「あ....え?」
ふと、僕は艦隊がどうなったかを見た。
そして、知った。
知りたくもない結果を。
「......ガゼラークⅣを...僕が、撃った?」
故郷を失った彼女の、第二の故郷を。
よりによって、僕が.....?
「あ.......」
冷静じゃなかったとはいえ、「全てを薙ぎ払え」なんて。
どうして言ったんだ?
情報共有すれば、やってほしい事を伝えることができたはずだ。
「.......エリアス、違.....」
「......すまない」
僕は黙って、テレポートした。
エリスが何か言いかけたが、それ以上耐えられなかった。
考えなしに行動をしたのは、子供の時以来だった。
異世界に来て、混乱していたのかもしれない。
「......」
昔、母親は僕に「考える人間になりなさい」と言った。
父親は「数字だけがお前を表す」と教えてくれた。
だが、いざ人の感情に目を向けると、僕の考えは乱され、数字だけで判断できなくなった。
「.....どうすれば良かったんだ?」
そうだ、そもそも冷静に考えれば、エリスが傷付いたとしても、すぐに都市にワープすればよかった。
ケルビスは内政が忙しくないので、常に農園にいて作業をしているはずだ。
だというのに、敵を蹴散らせと言ったのは、僕の”感情”のせいだ。
「.........忘れていたな」
正直なところ、僕が恐れているのは僕自身の事ではない。
エリスにVe’zの技術を使用したことと、惑星を破壊したこと。
その両方が知られてしまった以上、もう二度と良好な関係は築けない。
「.....」
殺すしかないのか?
彼女にはクローンに意識を転送する機能はないから、殺してしまえば.....
今後の利益を考えれば、生かしておく必要はない。
だが.....
「何なんだ? この思いは....」
思えばエリスに出会ってから、変な方に思考がずれることが多かった。
そもそもエリスを取り戻したいという思いも、隠れて動くという当初の目標からは逸脱している。
だからか、排除しようと考えた時.....なんだか、抵抗めいたものを感じた。
「.......ケルビス」
『はい、エリアス様! たった今、サンプルC-022の収穫が完了しました、糖分の配合がかなり悪く、今後の品質改良が――――』
「....ケルビス、僕は今真面目に考えていることがある」
『....は、何なりとお尋ねください』
「...エリスに謝った方がいいと思うか?」
しばらく、通信の先でケルビスが黙り込む。
即座に結果の演算は出来たが、それを伝えるのを決めかねている様子だ。
『.......私めが愚考いたしますと、恐らくは謝罪、もしくは何らかの説明が必要です。殺害するのが最良ですが、貴女様のペットでありますので、私めからはこれ以外を提案することはできません』
「....そうか」
僕は頷く。
ケルビスに励まされるとは思わなかったけれど、これで決心はついた。
謝ろう、それで許されるとは思わないが。
そう言うと、ケルビスはエリスの首に取り出した筒を押し当て、指で突き出た部分を押し込んだ。
カシュと音を立てて中身が注入され、ケルビスは筒を離した。
「.....終わったのか?」
「はい、30秒以内に体内の治癒が完了します」
呆気なく、僕は罪を犯した。
彼女の自主性を裏切ってしまったのだ。
「....これは、僕のわがままだろうな」
本当なら、彼女は望み通りこのまま死ぬ筈だった。
彼女が望んだ事ではないかもしれないが、Ve’z人になりたいとは望んでいなかったはずだ。
「私めは退出いたしましょうか?」
「....そうしてくれ、果物は.....一旦保存しろ」
「分かりました、エリアス様」
籠を持ったまま、ケルビスは消えた。
僕は、エリスの手を握る。
ベッドについていた血は、とっくの昔に消えていた。
「......エリ...ア....ス」
「....エリス!!」
エリスが目を開けて、僕の方を見た。
「まだ喋るな」
肉体の最適化が終わっていない、今動くと危険だ。
だが、僕は次の言葉で固まった。
「どうして.......撃ったの....、私の....故郷を....」
「あ....え?」
ふと、僕は艦隊がどうなったかを見た。
そして、知った。
知りたくもない結果を。
「......ガゼラークⅣを...僕が、撃った?」
故郷を失った彼女の、第二の故郷を。
よりによって、僕が.....?
「あ.......」
冷静じゃなかったとはいえ、「全てを薙ぎ払え」なんて。
どうして言ったんだ?
情報共有すれば、やってほしい事を伝えることができたはずだ。
「.......エリアス、違.....」
「......すまない」
僕は黙って、テレポートした。
エリスが何か言いかけたが、それ以上耐えられなかった。
考えなしに行動をしたのは、子供の時以来だった。
異世界に来て、混乱していたのかもしれない。
「......」
昔、母親は僕に「考える人間になりなさい」と言った。
父親は「数字だけがお前を表す」と教えてくれた。
だが、いざ人の感情に目を向けると、僕の考えは乱され、数字だけで判断できなくなった。
「.....どうすれば良かったんだ?」
そうだ、そもそも冷静に考えれば、エリスが傷付いたとしても、すぐに都市にワープすればよかった。
ケルビスは内政が忙しくないので、常に農園にいて作業をしているはずだ。
だというのに、敵を蹴散らせと言ったのは、僕の”感情”のせいだ。
「.........忘れていたな」
正直なところ、僕が恐れているのは僕自身の事ではない。
エリスにVe’zの技術を使用したことと、惑星を破壊したこと。
その両方が知られてしまった以上、もう二度と良好な関係は築けない。
「.....」
殺すしかないのか?
彼女にはクローンに意識を転送する機能はないから、殺してしまえば.....
今後の利益を考えれば、生かしておく必要はない。
だが.....
「何なんだ? この思いは....」
思えばエリスに出会ってから、変な方に思考がずれることが多かった。
そもそもエリスを取り戻したいという思いも、隠れて動くという当初の目標からは逸脱している。
だからか、排除しようと考えた時.....なんだか、抵抗めいたものを感じた。
「.......ケルビス」
『はい、エリアス様! たった今、サンプルC-022の収穫が完了しました、糖分の配合がかなり悪く、今後の品質改良が――――』
「....ケルビス、僕は今真面目に考えていることがある」
『....は、何なりとお尋ねください』
「...エリスに謝った方がいいと思うか?」
しばらく、通信の先でケルビスが黙り込む。
即座に結果の演算は出来たが、それを伝えるのを決めかねている様子だ。
『.......私めが愚考いたしますと、恐らくは謝罪、もしくは何らかの説明が必要です。殺害するのが最良ですが、貴女様のペットでありますので、私めからはこれ以外を提案することはできません』
「....そうか」
僕は頷く。
ケルビスに励まされるとは思わなかったけれど、これで決心はついた。
謝ろう、それで許されるとは思わないが。
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