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序章
017-救出劇
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無事に帰還を果たした私は、若干浮き足立って歩いていた。
まさか、恐ろしい存在の総称であるVe‘zにあんなに優しい人がいたとは思わなかった。
帰るのが惜しくなったけれど、帰ってよかったのだ。
きっとあのままあそこにいたなら、帰りたくなくなっていたのだから。
「変な人だったわね」
凄い技術力を持ち合わせているはずなのに、それをちっとも誇ろうとしなかった。
それに、私のために不慣れな様子で食事を作ってくれた。
恐らく食事をする必要がなく、味が感じられにくい性質なのだと思う。
「けれど、私には私の住む世界があるもの」
大切な人はみんな死んでしまったけれど、それでも私はこの星に住まう人間。
いかに彼に恩があっても、居場所がここにある限り私はここに戻る。
だから、さっさと本部にデータを届けないとね。
「見つけたぞ!」
その時、公安局の制服を着た人たちが、こちらに向かって走ってくる。
こちらの犯罪者でも逃げ込んだのかしらと背後を見るが、誰もいない。
「包囲しろ!」
「何を持ってるかわからないぞ!」
あっという間に、私の周囲に公安員が円陣を組んで立っていた。
全員が銃を構えて、データの入っている金属製のブリーフケースを睨みつけている。
「待ってください、私は重要なデータを回収して、それを届ける途中です!」
「それをされては困りますよ、エリス」
その時、公安員の間をすり抜けて、見覚えのある人物が現れた。
アトゥ・バーゼスだったか、TRINITY.から派遣された監査役だったはずだ。
すごく嫌なやつで、諜報部の部長が散々飲みの席で文句を言っていたのを思い出す。
「どういうことですか」
「上層部は、これ以上の混乱を望まないんですよ」
「...そうですか」
TRINITY.は公正な機関だと思っていたけど、そうではなかったようだ。
白昼堂々こんな事をするなんて...
なら、
「押し通ります!」
「総員銃構え! エリス諜報員は敵のテロリストとして洗脳された! 殺してでも制圧せよ!」
私はまず、一人の背後に回り込み、昏倒させる。
銃を奪って、周囲を脅しながら下がろうとして...
「おおっと、それを離してください」
後ろから声がかかった。
く...他にも公安員がいたのか。
あまりの用意周到さに、私は歯噛みする。
こうなってしまったら、もう抜け出せない。
「.........」
私が覚悟を決めて両手を上げた時。
轟音と共に、突風が吹き荒れた。
「な、何よ...?」
軌道爆撃でも始まったのかと思って顔を上げた私の前に、またもや見慣れた人影が映った。
「...大丈夫か」
「あ、あなた...どうして」
そこに居たのは、青みがかった銀髪と、虹色の瞳を持つ...
優しき異邦人、エリアスさんだった。
さて。
降り立ったはいいが、これからどうすればいいのだろうか。
この身体は大気圏突入程度では壊れないし、触手で着地したのにも関わらず触手自体にダメージはない。
「なっ...なんだ匐ェ...」
『言語ライブラリを更新:オストル南部』
「僕はエリアス、Ve‘zの使者だ、彼女を害するようであれば、こちらも実力行使に出なければならない」
一瞬言葉が理解できなかったが、カサンドラがすぐに翻訳システムに更新を入れてくれた。
「突然現れて、一体なんですか? 我々はただ、公務を行うのみです」
「彼女の持つデータは重要ではないのか?」
「ええ、重要でした。しかしながら、困るのですよ。諜報部の新人が我々TRINITY.に取れなかった情報を取ってくるというのはね...偽の情報で罠に嵌めたつもりでしたが、生きていたとは残念です」
この男、本当の意味で危険だな。
計画をべらべら喋るところもそうだが、敵かもしれない僕を撃たない。
街中で発砲できないというのもあるが、彼女以外を殺すと後処理が難しいのかもしれないな。
「え、エリアスッ!」
その時、背後から銃声が響き腹に穴が開く。
続けて、周囲から発砲音が散発的に響き、僕の体のあちこちを傷付けた。
「痛いな」
鈍いけれど、痛い。
体がとっくに忘れたはずの危険信号が、薄く伝わってくる。
「...」
命じれば、収納されていた触手が、広めの上着の下部から這い出てくる。
それらは、素早く動き射撃を弾き飛ばす。
「壊せ」
直後、16の触手は周囲の人間に襲い掛かり、銃を精密な斬撃によって破壊する。
できなければ、腕ごと。
それを3回繰り返し、周囲の戦力を無力化する。
「さて」
どうするか。
彼女を連れていくにしても、僕一人で大気圏突破はできない。
「エリス」
「な...何?」
「お前の居場所は、ここにはないらしい」
「そうね...TRINITY.に追われたら、もう逃げ場はないわ」
TRINITY.とは、The Reinforced Investigate Nation Initiative Team of Yalvenaの略で、宇宙警察の拡大解釈版のようなものだ。
追われれば彼女に逃げ遂せるのは不可能だろう。
「居場所が欲しいか?」
「......ちょっと強引だけれど、そうね。あなた達の家を借りられないかしら?」
「充分だ」
Ve‘zの浮遊都市を借家扱いか。
まあ、それはどうでもいい。
「来い! エリガード!」
僕は叫びながら掌を天に突き上げ、ビーコンを発信した。
多分これで、来るはずだ。
まさか、恐ろしい存在の総称であるVe‘zにあんなに優しい人がいたとは思わなかった。
帰るのが惜しくなったけれど、帰ってよかったのだ。
きっとあのままあそこにいたなら、帰りたくなくなっていたのだから。
「変な人だったわね」
凄い技術力を持ち合わせているはずなのに、それをちっとも誇ろうとしなかった。
それに、私のために不慣れな様子で食事を作ってくれた。
恐らく食事をする必要がなく、味が感じられにくい性質なのだと思う。
「けれど、私には私の住む世界があるもの」
大切な人はみんな死んでしまったけれど、それでも私はこの星に住まう人間。
いかに彼に恩があっても、居場所がここにある限り私はここに戻る。
だから、さっさと本部にデータを届けないとね。
「見つけたぞ!」
その時、公安局の制服を着た人たちが、こちらに向かって走ってくる。
こちらの犯罪者でも逃げ込んだのかしらと背後を見るが、誰もいない。
「包囲しろ!」
「何を持ってるかわからないぞ!」
あっという間に、私の周囲に公安員が円陣を組んで立っていた。
全員が銃を構えて、データの入っている金属製のブリーフケースを睨みつけている。
「待ってください、私は重要なデータを回収して、それを届ける途中です!」
「それをされては困りますよ、エリス」
その時、公安員の間をすり抜けて、見覚えのある人物が現れた。
アトゥ・バーゼスだったか、TRINITY.から派遣された監査役だったはずだ。
すごく嫌なやつで、諜報部の部長が散々飲みの席で文句を言っていたのを思い出す。
「どういうことですか」
「上層部は、これ以上の混乱を望まないんですよ」
「...そうですか」
TRINITY.は公正な機関だと思っていたけど、そうではなかったようだ。
白昼堂々こんな事をするなんて...
なら、
「押し通ります!」
「総員銃構え! エリス諜報員は敵のテロリストとして洗脳された! 殺してでも制圧せよ!」
私はまず、一人の背後に回り込み、昏倒させる。
銃を奪って、周囲を脅しながら下がろうとして...
「おおっと、それを離してください」
後ろから声がかかった。
く...他にも公安員がいたのか。
あまりの用意周到さに、私は歯噛みする。
こうなってしまったら、もう抜け出せない。
「.........」
私が覚悟を決めて両手を上げた時。
轟音と共に、突風が吹き荒れた。
「な、何よ...?」
軌道爆撃でも始まったのかと思って顔を上げた私の前に、またもや見慣れた人影が映った。
「...大丈夫か」
「あ、あなた...どうして」
そこに居たのは、青みがかった銀髪と、虹色の瞳を持つ...
優しき異邦人、エリアスさんだった。
さて。
降り立ったはいいが、これからどうすればいいのだろうか。
この身体は大気圏突入程度では壊れないし、触手で着地したのにも関わらず触手自体にダメージはない。
「なっ...なんだ匐ェ...」
『言語ライブラリを更新:オストル南部』
「僕はエリアス、Ve‘zの使者だ、彼女を害するようであれば、こちらも実力行使に出なければならない」
一瞬言葉が理解できなかったが、カサンドラがすぐに翻訳システムに更新を入れてくれた。
「突然現れて、一体なんですか? 我々はただ、公務を行うのみです」
「彼女の持つデータは重要ではないのか?」
「ええ、重要でした。しかしながら、困るのですよ。諜報部の新人が我々TRINITY.に取れなかった情報を取ってくるというのはね...偽の情報で罠に嵌めたつもりでしたが、生きていたとは残念です」
この男、本当の意味で危険だな。
計画をべらべら喋るところもそうだが、敵かもしれない僕を撃たない。
街中で発砲できないというのもあるが、彼女以外を殺すと後処理が難しいのかもしれないな。
「え、エリアスッ!」
その時、背後から銃声が響き腹に穴が開く。
続けて、周囲から発砲音が散発的に響き、僕の体のあちこちを傷付けた。
「痛いな」
鈍いけれど、痛い。
体がとっくに忘れたはずの危険信号が、薄く伝わってくる。
「...」
命じれば、収納されていた触手が、広めの上着の下部から這い出てくる。
それらは、素早く動き射撃を弾き飛ばす。
「壊せ」
直後、16の触手は周囲の人間に襲い掛かり、銃を精密な斬撃によって破壊する。
できなければ、腕ごと。
それを3回繰り返し、周囲の戦力を無力化する。
「さて」
どうするか。
彼女を連れていくにしても、僕一人で大気圏突破はできない。
「エリス」
「な...何?」
「お前の居場所は、ここにはないらしい」
「そうね...TRINITY.に追われたら、もう逃げ場はないわ」
TRINITY.とは、The Reinforced Investigate Nation Initiative Team of Yalvenaの略で、宇宙警察の拡大解釈版のようなものだ。
追われれば彼女に逃げ遂せるのは不可能だろう。
「居場所が欲しいか?」
「......ちょっと強引だけれど、そうね。あなた達の家を借りられないかしら?」
「充分だ」
Ve‘zの浮遊都市を借家扱いか。
まあ、それはどうでもいい。
「来い! エリガード!」
僕は叫びながら掌を天に突き上げ、ビーコンを発信した。
多分これで、来るはずだ。
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