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5ミーナ
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ヨモギ庵でドルチェとナティが店の奥へ消えて行く時、トウフは自分の目を疑った。比喩では無く、本当に消えて行ったのである。
トウフは焦った。しかし、空間系魔法であることは推測できた。以前に戦った相手が似たような魔法を使ったことがあったのだ。
そして状況から、消えたのは二人の意志では無く、罠であろうことも分かった。術者がどこかにいる……。
トウフが辺りを見回すと、歳は十歳ぐらい、銀色の髪の白いローブの小さな女の子が、店の入り口付近に立っているのを見つけた。フードの形からするに、獣人だろうか?……しかし、何か雰囲気が妙だ。
女の子はトウフに気付くと、彼の方を振り向いた。黄色の瞳。彼を見ると、彼女の瞳孔が見る見るうちに縦に細くなった。トウフは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「……ねえ。お兄ちゃん……二人の知り合い?」
トウフは答えることが出来なかった。小さな女の子のはずだが、存在感が何か違う。本能が警告を発している。
「……」
声を発せない。頭の中で答えと思考が入り混じる。しかし、トウフは鼻から息を一気に吸い込んで、自分の精神を取り戻した。そして、脇にあった剣をひっ掴んで、バッと通りへと飛び退いた。
「……何者だ?……」
トウフの口から発せられたのは、その一言だけだった。声は掠れ、目が血走り、肩が震えている。
「誰かって言うとぉ、名前はミーナかな……」
トウフは更に深く呼吸し、ようやく落ち着きを取り戻した。
「……彼女らに何をした?」
「邪魔だったんだよ!だから遠くに行って貰った……」
「邪魔?」
「こっちの話さ。……君はここの者じゃなさそうだね。旅人かい?気づいちゃったか……ふむ。君をどうしようか。そうだね……選択肢をあげよう。一緒に奈落へ行くか、ここでボクに倒されるか。どっちがいいかな?」
と、地響きが響いた。いくつもの叫び声が上がる。周りの人々が散り散りに走って行く。瓦礫が降ってくる。煙が上がる。
「ああ、奴が来たか」
「奴?」
見ると、外壁の上に一つ目の魔物の巨大な頭が現れた。巨人だ。手が壁にかかり、壁ががガラガラと崩れた。巨人が街の中へ入ろうとしているのだ。王国への敵襲。トウフは理解した。
次に巨人の上で爆発が起こった。叫ぶ巨人。続けて空からいくつもの火球が、巨人めがけて降り注ぐ。遙か上空にワイバーンの群れが見える。ワイバーン達が火球を吐いている。
「ここの防衛隊?」
トウフは、この国の事情を良く知らないので、いまいち状況が飲み込めず、少し混乱している。
「チッ、対応が早いな。もうか」
巨人は体に火がついて怯み、次々と降り注ぐ火球の雨を、手で振り払いながら壁の向こうへ消えて行った。更に援軍の無数のドラゴンが、城から迎撃に飛び立って行くのが見えた。
「役立たずめ……あれでは盾にもならない……」
壁の外側から強力な魔法を放つ音が響いた。壁が揺れる。亀裂が走り、埃が舞う。何者かが壁を破壊しようとしているのだ。
喧噪と混乱の中、トウフは術者の小さな女の子に対峙して、剣を抜くのを躊躇していた。ミーナはそれに気付いて、呆れたようにこう言った。
「この幼い体は便利だね。誰もが戦うのを躊躇する。それが命取りになるんだけどね。さて……もう時間切れだ」
ミーナが右手をゆっくりと上げ、トウフを指差した。
「避けないと、痛いよ、お兄ちゃん!」
指先から光弾が発射された。トウフは素早くそれを躱す。次々と光弾がトウフの後を追っていく。トウフは走って建物の陰に飛び込んだ。
「いいね。戦闘の基本に忠実だね。そうそう、飛び道具には遮蔽物の陰に隠れるのが基本だよね。でもこの場合、意味が無いんだよね。遮蔽物壊れちゃうからねー。あははっ!」
光弾が壁を貫いて簡単に粉々にして行く。トウフは転がって他の建物へ走ったが、かなり距離がある。
「ハハハッ。ここで……こうかなっ?」
光弾の軌道がクイと曲がりトウフに迫る。後ろから光弾がトウフを貫こうとしたその時、トウフは素早く剣を抜いて振り下ろし、光弾を弾き返した。弾かれた光弾はミーナ目がけて飛んでいった。
ミーナは咄嗟に横に避けた。光弾は前髪付近を掠めて、ヨモギ庵のウサギの人形を粉々に砕き、爆発し、壁に大きな穴を空けた。一筋の血がミーナの額から流れ、ミーナはそれを指で拭って舐めた。
「……ほう。面白い。ボクの魔法を跳ね返す剣か。そんな物を持っているとは。……それに見た事の無い形の剣だな。遠方の国のものか?それにやけにイヤな波動を持っている……そうか、対魔族用か?しかしそんな物は……貴様、どこから来た?」
トウフは何も言わず、ゆっくりと剣を正面に構え、目を瞑った。
「おお、覚悟を決めたのかい?君にはボクは斬れないんだろう?ハハハッ!目を開けろよ!それでは何も見えないだろう?気でもふれたか?」
「そうだな、幼い女の子は切れ無い……だが……」
次の瞬間、一瞬でトウフがミーナの寸前に迫り、剣を真一文字に振り切った。ミーナはバタリと倒れた。ミーナはそれっきり何も言わなくなった。
「……消えたか……」
トウフは瞑っていた目をそっと開けた。ミーナは倒れていた。しかし切られてはいない。トウフはミーナの頭上の空間を切ったのだ。黒い砂がパラパラとミーナの体に降り注いだ。それは魔族を倒したときに降る砂だった。
「そうだ、これは魔を倒す剣だよ。それにな、すまんな、俺は見えるんだよ。目を瞑ればね。魔族の波動がね。見えたよ。君の大きな体が。……君の言動からピンと来たのさ。だから俺は切った。そいつをね」
トウフは後ろを振り返った。
「そこの人、この子の回復を頼めるか?」
トウフがそう言うと、物陰から一人の女が現れた。地味な茶系の服装で、フードを被り、前髪で目が隠れている。
「気付いていましたか……」
「ドルチェさんの影の護衛だろう?従者がいる人物ならいてもおかしくない」
「ご明察で」
「俺はドルチェさんの後を追ってみる。まだ空間が残っていればだけど……」
「あ、私も行きます!お役目ですので!」
「……いや、その子を頼むよ。その子は悪くないはずなんだ。それにもう取り憑かれていない。俺は乗りかかった船ってやつだ。それに……」
「それに……?」
トウフの目には何か真剣な眼差しがあった。
「……いや、何でもない。申し訳ないからね」
トウフは店の奥へと進んだ。空間を手で探ると、手が消える空間があった。
「あった!」
トウフはそのまま前へ進み、見えない空間へと消えた。
城壁の外からの音が大きくなる。上空からドラゴンが降下して行く。それは戦の始まりだった。
トウフは焦った。しかし、空間系魔法であることは推測できた。以前に戦った相手が似たような魔法を使ったことがあったのだ。
そして状況から、消えたのは二人の意志では無く、罠であろうことも分かった。術者がどこかにいる……。
トウフが辺りを見回すと、歳は十歳ぐらい、銀色の髪の白いローブの小さな女の子が、店の入り口付近に立っているのを見つけた。フードの形からするに、獣人だろうか?……しかし、何か雰囲気が妙だ。
女の子はトウフに気付くと、彼の方を振り向いた。黄色の瞳。彼を見ると、彼女の瞳孔が見る見るうちに縦に細くなった。トウフは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「……ねえ。お兄ちゃん……二人の知り合い?」
トウフは答えることが出来なかった。小さな女の子のはずだが、存在感が何か違う。本能が警告を発している。
「……」
声を発せない。頭の中で答えと思考が入り混じる。しかし、トウフは鼻から息を一気に吸い込んで、自分の精神を取り戻した。そして、脇にあった剣をひっ掴んで、バッと通りへと飛び退いた。
「……何者だ?……」
トウフの口から発せられたのは、その一言だけだった。声は掠れ、目が血走り、肩が震えている。
「誰かって言うとぉ、名前はミーナかな……」
トウフは更に深く呼吸し、ようやく落ち着きを取り戻した。
「……彼女らに何をした?」
「邪魔だったんだよ!だから遠くに行って貰った……」
「邪魔?」
「こっちの話さ。……君はここの者じゃなさそうだね。旅人かい?気づいちゃったか……ふむ。君をどうしようか。そうだね……選択肢をあげよう。一緒に奈落へ行くか、ここでボクに倒されるか。どっちがいいかな?」
と、地響きが響いた。いくつもの叫び声が上がる。周りの人々が散り散りに走って行く。瓦礫が降ってくる。煙が上がる。
「ああ、奴が来たか」
「奴?」
見ると、外壁の上に一つ目の魔物の巨大な頭が現れた。巨人だ。手が壁にかかり、壁ががガラガラと崩れた。巨人が街の中へ入ろうとしているのだ。王国への敵襲。トウフは理解した。
次に巨人の上で爆発が起こった。叫ぶ巨人。続けて空からいくつもの火球が、巨人めがけて降り注ぐ。遙か上空にワイバーンの群れが見える。ワイバーン達が火球を吐いている。
「ここの防衛隊?」
トウフは、この国の事情を良く知らないので、いまいち状況が飲み込めず、少し混乱している。
「チッ、対応が早いな。もうか」
巨人は体に火がついて怯み、次々と降り注ぐ火球の雨を、手で振り払いながら壁の向こうへ消えて行った。更に援軍の無数のドラゴンが、城から迎撃に飛び立って行くのが見えた。
「役立たずめ……あれでは盾にもならない……」
壁の外側から強力な魔法を放つ音が響いた。壁が揺れる。亀裂が走り、埃が舞う。何者かが壁を破壊しようとしているのだ。
喧噪と混乱の中、トウフは術者の小さな女の子に対峙して、剣を抜くのを躊躇していた。ミーナはそれに気付いて、呆れたようにこう言った。
「この幼い体は便利だね。誰もが戦うのを躊躇する。それが命取りになるんだけどね。さて……もう時間切れだ」
ミーナが右手をゆっくりと上げ、トウフを指差した。
「避けないと、痛いよ、お兄ちゃん!」
指先から光弾が発射された。トウフは素早くそれを躱す。次々と光弾がトウフの後を追っていく。トウフは走って建物の陰に飛び込んだ。
「いいね。戦闘の基本に忠実だね。そうそう、飛び道具には遮蔽物の陰に隠れるのが基本だよね。でもこの場合、意味が無いんだよね。遮蔽物壊れちゃうからねー。あははっ!」
光弾が壁を貫いて簡単に粉々にして行く。トウフは転がって他の建物へ走ったが、かなり距離がある。
「ハハハッ。ここで……こうかなっ?」
光弾の軌道がクイと曲がりトウフに迫る。後ろから光弾がトウフを貫こうとしたその時、トウフは素早く剣を抜いて振り下ろし、光弾を弾き返した。弾かれた光弾はミーナ目がけて飛んでいった。
ミーナは咄嗟に横に避けた。光弾は前髪付近を掠めて、ヨモギ庵のウサギの人形を粉々に砕き、爆発し、壁に大きな穴を空けた。一筋の血がミーナの額から流れ、ミーナはそれを指で拭って舐めた。
「……ほう。面白い。ボクの魔法を跳ね返す剣か。そんな物を持っているとは。……それに見た事の無い形の剣だな。遠方の国のものか?それにやけにイヤな波動を持っている……そうか、対魔族用か?しかしそんな物は……貴様、どこから来た?」
トウフは何も言わず、ゆっくりと剣を正面に構え、目を瞑った。
「おお、覚悟を決めたのかい?君にはボクは斬れないんだろう?ハハハッ!目を開けろよ!それでは何も見えないだろう?気でもふれたか?」
「そうだな、幼い女の子は切れ無い……だが……」
次の瞬間、一瞬でトウフがミーナの寸前に迫り、剣を真一文字に振り切った。ミーナはバタリと倒れた。ミーナはそれっきり何も言わなくなった。
「……消えたか……」
トウフは瞑っていた目をそっと開けた。ミーナは倒れていた。しかし切られてはいない。トウフはミーナの頭上の空間を切ったのだ。黒い砂がパラパラとミーナの体に降り注いだ。それは魔族を倒したときに降る砂だった。
「そうだ、これは魔を倒す剣だよ。それにな、すまんな、俺は見えるんだよ。目を瞑ればね。魔族の波動がね。見えたよ。君の大きな体が。……君の言動からピンと来たのさ。だから俺は切った。そいつをね」
トウフは後ろを振り返った。
「そこの人、この子の回復を頼めるか?」
トウフがそう言うと、物陰から一人の女が現れた。地味な茶系の服装で、フードを被り、前髪で目が隠れている。
「気付いていましたか……」
「ドルチェさんの影の護衛だろう?従者がいる人物ならいてもおかしくない」
「ご明察で」
「俺はドルチェさんの後を追ってみる。まだ空間が残っていればだけど……」
「あ、私も行きます!お役目ですので!」
「……いや、その子を頼むよ。その子は悪くないはずなんだ。それにもう取り憑かれていない。俺は乗りかかった船ってやつだ。それに……」
「それに……?」
トウフの目には何か真剣な眼差しがあった。
「……いや、何でもない。申し訳ないからね」
トウフは店の奥へと進んだ。空間を手で探ると、手が消える空間があった。
「あった!」
トウフはそのまま前へ進み、見えない空間へと消えた。
城壁の外からの音が大きくなる。上空からドラゴンが降下して行く。それは戦の始まりだった。
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