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北方からの旅

氷のダンジョンへ

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 次の日は雪が降っていた。曇天の空から白い雪が降り続けている。
 三人は用意していた多少の食料と、ダンジョンで使う道具類を袋に詰めた。
「これぐらいあれば、もしかして一日以上かかっても何とかなるんじゃないかと思います」とナティ。
「じゃあ、装備をして出発しましょう」
「そうですね、ドルチェさん」
 三人はダンジョン用の装備を装着した。ドルチェは魔法剣士、ナティは魔道士、ナギはいつもの剣士装備。
 当然ドルチェとナティの装備は見た目だけのなんちゃって装備である。ナギにそういうことにしているからである。
 その上に毛皮の外套を羽織り、毛皮の帽子を被って装備は完成した。
「じゃあ出発~!」ナティのかけ声と共に三人はポータルのあるダンジョンへと出発した。



 森を抜けてしばらく行った場所に、ダンジョンの入り口の青色の石造りの門はあった。中をそっと覗くと遙か奥まで通路が続いているのが見えた。中からは外よりも冷たい冷気が漂ってくる。
 中へ入ると、風の音なのか、唸るような音が響いてきた。薄暗く先が良く見えない。
「灯りをつけますね」とナティが松明に灯を点した。すると奥からキーキーと言う鳴き声と共にコウモリの群れが現れた。
 しかもそれはよく見ると通常のコウモリでは無かった。青く透明な物質で出来ている。
「下がって!」
 ナギは剣を抜いて一歩前に出た。迫る無数のコウモリの群れ。ナギは素早く剣でコウモリを斬って行く。斬られたコウモリは粉々になり、細かな氷の破片となって散った。
 しばらくするとコウモリの群れは止んだ。ナティは地面に落ちていた破片を調べた。
「これ、魔法生物ですね。氷で出来ているようです」とナティ。
 そう言うやいなや、二つ目のコウモリの群れがやって来た。
 ナギはまた斬りかかった。しかし、何分にも数が多い。当てるのもやっとである。
 そしてまた止んだ。ナギは少々息が上がっている。
「次来たら、わたしがやってみます!」とナティは言った。
 ほどなく次の群れがやってきた。
「ファイア・オブ・ブレス!」
 そう言うと共にナティの口のあたりから巨大な炎が渦巻いた。そしてその炎は前方で次々と氷のコウモリの群れを溶かしていった。
「凄い魔法ですね!」とナギ。
「ええ、任せて下さいですとも!」
 しかし、それ以上の群れは来なかった。
「3回で終わりですかね。ふふ、造作もない」
 そう得意げにナティは笑みを浮かべたが、別の意味でハラハラして見ていたのはドルチェだった。ドルチェはナティを呼んで小声で話した。
(思いっきりブレスじゃないの!)
(大丈夫、魔法って言っとけばいいんですよ!)
(そうかもしれないけど!)
(あ、お嬢様はしっぽ出しがちだから、口から吐いちゃダメですよ)
(分かってますって!)
(ちゃんと詠唱とポーズはとりますから大丈夫!)
(……)
 とかいう会話をした。ドルチェはそれ以上言うのはやめた。
「さて、先に進みましょう、ナギさん」とナティ。
「そうですね」
 三人は奥へと歩を進めた。



 しばらく行くと、右と左へ分かれる通路が見えた。ナティは立ち止まってお手製の地図を取り出して見た。
「……右ですね。こっちへ行くと「カエルの目覚め」と書いてあった場所があるはずです」
 ナティは松明の灯りを手に前へと進んだ。
「ちゃんと後ろについてきてますよね? お嬢様?」
「すぐ後ろにいますよ」
「暗いんですから、ちゃんと時々声とか音とか出して下さいよ?」
「ナティ、恐がりなんじゃない?」
「そ、そんなことっ……!」
 と、そこまで言いかけた時、ナティが突然目の前から消えた。
 とっさにナギがナティの手首を掴んでいた。ナティの足元を見ると、床が抜けて暗い空間が広がっていた。ナギはナティを引き上げると床のある所に下ろした。
「大丈夫ですか? ナティさん?」
「は、はい……罠でしょうか?」
 ナティが足元を松明で照らすと、あちらこちら床が抜けているのが見えた。
「老朽化?……とにかく気をつけないとナティ……」とドルチェ。
「そうですね……」
 気のせいか、ナティの足が震えているように見えた。
「そーっと、そーっと進みましょう。わたしの足の着いた跡に足乗せて下さい、お嬢様、ナギさん」
 二人は言われた通り、ナティの足跡を辿って、壊れかけた通路を抜けた。
「ふー。一段落ですね」
 ナティは地図を取り出して確認した。
「もう少し行って……右の扉が「カエルの目覚め」です」
 三人が歩いていくと、果たしてそこには大きな扉があった。
「ここね」
 ドルチェは扉を押した。ギィという音と共に扉は開いた。
 中に入ると、壁の灯りが次々と点いた。
 しかし、そこは何もない空間だった。
「何もありませんね……」
 ナティはあたりを見回したが、本当に壁しかない。
「ここで合ってるの? ナティ?」
「そのはずですけれど……何も無いですね……壁の模様ぐらいしか」
 ナティは壁を見て回った。
「絵が刻んでありますね。これは牛。こっちは鹿かな?」
「カエルがあるんじゃなくて?」
「カエル……カエル……無いですよ」
「手がかり無し……」
 と、ナギが何かに気付いた。
「ここ、隙間がありますよ。風が吹いてくる」
「え?」
 壁をよく見てみると、確かに隙間があった。中を覗いてみたが、暗くて良く見えない。
「ナティ、こう言う時は押すか、引くかでしょう!」
「押す……」
 ナティが壁を押してみたが、ウンともスンとも言わない。しばし三人はその場で考えた。
「そうだ!」とナティが何かを言おうとして、手をパチンと叩いた途端。ゴゴゴと音がして壁が開いた。
「音? 手を叩いた音? えー、せっかくカエルの真似をしてみようかと思い付いたのに……」
「カエルの真似……」
「いえ、何でもないですお嬢様!」



 中を見てみると、そこには祭壇があり、カエルの像が転がっていた。祭壇には左側に月の模様が、右側に太陽の模様が描いてあった。
「カエルの像がありますね……」
 ナティは転がっていたカエルの像を起こして祭壇に置いた……何も起きない。
「……ふーむ」
「何も起きないじゃない、ナティ?」
「そうですね……謎解きが必要なんでしょうか」
 ナティはしばらく考えた。
「カエルの目覚め……目覚めるのは朝……もしや太陽のある方向が朝なのでは……」そう言いながらナティはカエルの像を太陽の模様へと向けた。
 すると……部屋の真ん中に光る冷気が集まり出した。
「これは……さっきのような魔法で出来たモンスターなのでは?」と、ナギは剣を抜いて構えた。
 ドルチェとナティも剣と杖を構えた。
 見ている内に光る冷気はだんだんと形をとりはじめ、ついには数メートルはあろうかという、大きな氷のカエルが姿になった。
 氷のカエルは口を大きく開けると、長い舌をナギ目がけて繰り出した。ナギはすんでで避け、カエルに一撃を放った。
 ヌルリ。斬る手応えの代わりに、ヌルリとした手応えがナギの剣を伝わって来た。
「うわぁぁあぁ、何か気持ち悪いです! こいつ!」
「私が行きます!」
 ドルチェのサンダーソードの一撃。
 ヌルリ。カエルはよろめき、多少は電撃ダメージが入ったように見えた。
「いやあぁああぁああ! 何これ!」とドルチェは感触に少しパニックになっている。
「……そう言われると触ってみたくなりますね。触りませんけれど。しょうがない、わたしの魔法の出番ですね」
 ナティは大きく息を吸い込んだ。
「フレイムボール!」
 何のことはない。ブレスを小出しにするだけの技だが、それは何となくファイアボールの呪文ぽく見えた。見た目って大事。
 放たれた炎の弾は、次々と氷のカエルに着弾し、まとわりつき、カエルを燃え上がらせた。燃えて暴れるカエルは見る見るうちに小さくなって消えてしまった。
「もしやヌルヌルはオイルだったのでは……」そうナティは分析した。
 その途端、ガコン!と、遠くから大きな音が響いてきた。
 三人は一瞬身構えたが、その場では何も起きなかった。
「今のはつまり、どこかでポータルの鍵が一つ開いた。と言うことではないでしょうか?」とナティ。
「そういうものなの?」
「ここで何も起きませんし、これがポータル開く文言の一つでしたから、間違いないでしょう。それに……見てください」
 ナティが指さした先のカエルの像の目が緑色に光っていた。
「そうみたいね」



「さて……」ナティは地図を取り出した。「次は「魚を沈める」です。行きましょう!」
 三人は「カエルの目覚め」を後にした。
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