ドラゴン王女は惚れたりしないっ!

kumapom

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2武器屋ボルテス

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 ドラギュート王国の中央通り。王国一の賑やかな通りである。

 通りは賑やかで、街を歩く人、人、人。ついでに言えば馬、犬、猫、雀。動物もいるが大まかに言えば人の洪水である。

 道の左右には屋台の店がいくつか並んでいて、芋を揚げたものなどの軽食を売っている店、他にも衣類を売っていたりしている。

 少し先には、大きな噴水のある公園。その先に尖塔のある時計塔が見えている。さらに彼方には街の城壁が霞んで見えている。

「凄い人ですね」

 剣士トウフはそう言い、屋台に気を取られながら、慣れない人混みの中を、人を右へ左へ避けながら歩いている。

 ドルチェはその横を静かにスススと進み、ナティがわたわたと後を付いていく。

 ふと、トウフが後ろを気にしだした。

「どうかしました?トウフ様?」
「いや、さっきから妙な人の気配が……」

 ドルチェは一瞬、後ろを振り返ったが、何かに気付くと、すぐに前に向き直った。

「あー、何でもありませんわ、トウフ様」
「……そうですか」

 ドルチェはトウフに微笑んだ。

「……トウフ様は剣士ですよね?」
「ええ、まだ修行中ですけど」
「では、武器屋とか防具屋をご案内しましょうか? すぐ近くに有りますし」
「そうですね、短剣の修理が出来ると嬉しいです。途中で……盗賊とやり合っちゃって」
「では……」



 ドルチェが案内したのは通りの中でも異様さを放つ、一軒の武器屋だった。

 異様と言うのは、およそ人間が持てない大きさの、グニャグニャと曲がった槍が店先に置いてあったからである。
 トウフは一瞬あっけにとられたが、宣伝用の飾り物だろうと考え直して納得した。

 看板にはドラギュート語で『親切丁寧なお店、ボルテス』と書いてあった。

「らっしゃい!」

 木製の重厚な開き戸を開けて入った一行を迎えたのは、男の野太い声だった。

 奥の方を見ると、カウンターに身長2メーターはあろうかという、顎髭の大男が頭を下げるのが見えた。傍らで何か作業をしている。

「私たち、ちょっと右の方見てきますね、トウフ様」
「あ、はい……」

 ドルチェとナティは右の棚の奥へとそそくさと隠れるように入って行った。

 トウフは店の奥へと足を進めた。辺りを見回すと、油にまみれた大小の剣やハルバードなどが無造作に陳列してあった。
 見慣れない武器が多く、トウフはキョロキョロと辺りを見回している。やがて何か思い出したように、店の奥へと進むと、大男の立つ奥のカウンターの前へ立った。

「あの、短剣の修理をお願い出来ますか?」
「どんなやつです? 物によりますけれど」

 大男は見た目の割に親切そうな丁寧な口調でそう話した。トウフは鞄から短剣を取り出すと、大男の前に置いた。

「ではちょっと見させていただきます」

 大男はそれを手に取り、マジマジと見た。短剣は不思議な色を放っている。

「これはちょっと変わっていますね」
「ええ、遠くの国の物なので、この辺のとは違うと思います」

 大男は更に光に透かして見ている。

「これ、魔法……かかってます?」
「え、ええ……」
「これは……対ビースト……いや、違うな。この色は……対……」
「あの! 修理は出来ますか?」
「え、ええ……でも見たところ特殊なんで、値段高くなりますよ? これだと魔法士にも依頼しないと」
「多少なら構いません!」
「それに……これは……銘が刻んでありますね……名のある刀匠か。えーと……」
「あの! 値段の交渉を!」
「そうですね……ご予算は?」
「銀貨2枚ぐらいで何とか!」
「それだと安過ぎます。銀貨……そうだな7枚は貰わないと」
「それはいくらなんでも高すぎませんか? 俺の知っている相場だと……」
「イヤなら他でお願いします。こちらも商売なんで」
「……」

 トウフはどうしようか考えあぐねいている。



 すると、後ろからフードを被った人物がやってきた。ドルチェだった。

「もう少し安くなりません? ボルテスさん?」
「ん? いやいや、お客さん、うちも商売だし……あ!」

 フードの奥から覗いた顔を見てボルテスの顔色が変わり、ポンと手を一回叩いた。

「お客さん、ラッキーですね!」
「え?」
「そう言えば、本日はサービスディでした……」
「……や、安くなるんですか?」

 ボルテスは少しの間の後、指を3本立てた。

「銀貨3……」

 ドルチェを見て、そっと指を一本折って2本にした。

「銀貨2……」

 ボルテスは更に何か殺気を感じたのか、さらに指を一本折った。

「1枚でいいです……銀貨1枚……で……」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「いやいや、なんのなんの……」

 半笑いの愛想をしているボルテスの前で、トウフは革袋から四角い銀貨を1枚取り出して見せた。

「ほう、異国の銀貨ですか……」
「使えます?」
「普通は受けないのですが、これは質が良さそうだ。銀として質が良ければ。ちょっと拝見しますね」

 男は銀貨を叩いてみたり、光を反射させてみたりして、質を確かめた。

「混ぜ物も少なそうだ。いいでしょう。良かった……あの……これはどこの国のものです?」
「あ、いえ、俺も人から……詳しくは知らないんです」
「そうですか……んー、どこかで見たような記憶が……どこだったかなー……」
「ははは、よくある形ですよ。だいたい丸か四角じゃないですか」
「まあそうですね。問題は無いです。それでは、この書類にサインを……」

 トウフはボルテスが取り出した書類にサインをした。

「ではお預かりします。おーい、サーラ、修理交換札を。あと魔法士の誰かに連絡を頼む」

 すると、奥から茶色の長い髪の、ボルテスより頭3つぐらい背が低い女性が出てきて、ぶっきらぼうに札を置いていった。

「あいよ」

 ボルテスは書類に何かサラサラ書いた後、トウフに番号の書かれた木の札を渡した。

「3日ぐらいですかね」
「分かりました」



 外へ出ると、ドルチェがトウフに話しかけてきた。

「トウフ様、どこの国の出身なんですか?」
「いやー、ただの片田舎の小さい国ですから! 聞いてもつまらないですよ?」
「なんて名前の国ですか?」
「えと……な、な……ナトゥーと言う国です……」
「へー、ナトゥーって言うんですか! 聞いたことがないから、きっと遙か遠い国なんですね!」

 ドルチェは少しはしゃぎ、ナティは首を傾げた。トウフはやはり嘘をついたのだった。
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