ドラゴン王女は惚れたりしないっ!

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4魔族ヘルレオス

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 店の空間が揺らいで見える。

「これが本物のヨモギ庵で無ければ、変身して戦うのだけれど?」
「……偽物とは思いますけど……手加減を!」

 ドルチェは店内を見回し、一瞬考えた。

「そうね。分かった……」

 ドルチェは息をスゥと吸い込み、口中を光で満たし、稲妻を一気に吐いた。電撃が店内を駆け巡った。電撃は枝分かれし、あちこちに落雷した。

「ああっ!」

 ナティは威力に少し慌てた。

 手前から3つ目のテーブルに稲妻が落雷した時、同時に黒い物体がもんどり打って現れた。それは頭に巻いた角があり、羊の様な頭を持ち、二足歩行の身体を持った生物だった。鼻から黒い瘴気を吐いている。

「魔族!」

 ナティが叫んだ。

「ここ数十年見なかったのに。まあ下級のようだけれど」
「何でしょう、この状況、何かイヤな予感が」

 魔族の一匹がナティに飛びかかって来た。ナティが咄嗟に炎のブレスを吐くと、魔族は燃え上がり、床にもんどり打って転がった。炎が燃え広がると、悲鳴と共に更に何匹か姿を現した。

「やるじゃない」
「任せて下さい。稲妻は無理ですが、ブレスは得意です!それよりも、この状況、他の人達がどうなっているのか……」
「そうね……確かに……妙ね!」

 魔族が飛びかかって来た。二人はそれを横にかわし、パンチを打ち、息を合わせて思いっ切り蹴り飛ばした。魔族は積み重なって壁にぶち当たり、黒い霧になって消えた。

 衝撃で、壁が見たことの無い物質に一瞬変わった。それは物質と言うよりも、魔法か何かで出来た疑似物質に見えた。

「やっぱり……偽物の空間ね」
「みたいですねお嬢様」
「なら遠慮はいらないわね」

 次々と湧き出す魔族。二人は腕をドラゴンに変化させ、魔族を引裂き、雷と炎のブレスで四散させた。

「それと……あの……お嬢様」
「何?」
「これはあの剣士……トウフとやらが仕掛けた罠なのでは?」
「彼を疑うと言うの?」
「ですが、状況的に一番怪しいのは……」
「……ナティ!」
「はい!」
「わたしは……トウフ様を信じます!」
「す、すいません!」

 床が突然抜け落ちた。そればかりか、ヨモギ庵、いや世界全体がガラガラと崩れていく。

「本体のお出まし?」
「そのようです!何かがいます!巨大な!」



 落下、暗闇、広い空間。やがて辺りが薄明かりで見え始めた。それは巨大な洞窟だった。
 巨大な魔族。頭が牛、体が人。手に棍棒を持っている。
 巨人は二人を見据えると、口から閃光を放った。二人はドラゴンの翼を具現化させ、空中で飛び退いた。

 棍棒の一撃、二撃、三撃。二人は避けた。壁が砕け、岩が飛び散る。ドルチェは、いくつかの岩を蹴りで迎撃した。重い。

「この空間は本物?」
「分かりませんが、先ほどの物とは違うように見えます!」
「次、何か来る!」

 巨人の周りに、白い魔法の光の泡が出現。ゆっくりと、しかし確実に二人の元に押し寄せて来る。泡はだんだんとスピードを増して……その時、ドルチェは気が付いた。泡の周りの空間が歪んでいる。

「ナティ、大きく避けて!」

 避けた光の泡は洞窟の壁へ当たり、壁を大きく抉った。それは空間魔法の一種だった。

「ひぃいいぃっ!」

 泡はまた次々と発生し、押し寄せた。ドルチェとナティは避け続けた。圧倒的な物量。しかし、暫くすると、一瞬だけ泡の発生が弱まった。

「ナティ!」
「はい!」

 ドルチェの声と共に、一気にナティの口から炎弾の嵐が撃ち込まれた。魔物は怯み、叫び声を上げた。
 そしてドルチェはその隙をついて、完全変身した。巨大な青い竜、ライトニングドラゴンへ!

 ドラゴンとなったドルチェは、巨人の上へ舞い降りた。両腕を足で掴み巨人に覆い被さる。巨人が暴れるが、ドルチェの重さでもう動けない。ドルチェは息を一旦吸込むと、巨人の頭に目がけて最大雷撃を放った。
 巨人は白い電撃の塊となり、炭化し、最後には影だけが残った。



 ドルチェはドラゴンの変身を解いて地面に降り立った。ナティが駆け寄る。

「ふう……」
「お嬢様!流石です!」
「そんな……凄いに決まっているじゃない。無敵のライトニングドラゴンよ?」
「ナティはまだ二、三度しかお見かけしたことがありませんでしたので!」
「分かればいいのよ、分かればー」

 ドルチェは得意げである。

「お嬢様。とりあえず、お召し物を。その……ナティも照れます」
「ああ、忘れていたわ」

 そう、ドルチェは素っ裸だった。素早く衣服を作り出し纏っていく。

「さて……ここはどこなのかしら?」

 ドルチェは足元の地面を二、三度蹴って感触を確かめた。ナティは辺りを見回している。

「ヨモギ庵の地下とも思えないのだけれど」
「ちょっと待ってください。方位石を探ってみます」

 方位石とはこの世界にあるエネルギーを放つ宝石で、遥か遠くまでそのエネルギーを到達させる。各地にはそれぞれ違うエネルギーを放つ方位石を設置してあるのだ。

「ドラギュート王国の方位石は……これ……違うな……何だろう、全然知らない反応ばかり……」

 どうやら見つからないらしく、ナティはまだ探している。

「見つからないの?ナティ?」
「はい……おかしいな……エネルギーが全部微弱で」

 ドルチェは洞窟を見回した。分厚い岩壁が見える。

「外に出ないとダメなのかも……」
「そうかもしれませんね。出口は……」

 ナティが辺りを見回すと、横穴が見えた。

「あちらに横穴があります!行ってみましょう!」

 二人は横穴へと入った。穴は入り組み、上下左右に伸びていた。

「とりあえず、上を目指すしか」
「はい」

 途中、大型の虫のモンスターが出てきたが、二人の前には只の虫だった。

「見たこと無いやつね」
「ま、まだ6本足だから、大丈夫ですよお嬢様」

 ナティは足の多い虫が大の苦手なのである。

「ここはダンジョン?ただの虫穴?」
「人工的には見えませんね。ただの虫の巣でしょう」

 曲りくねる道を二人は歩いた。少し進むと、冷たい風を感じた。気温が下がってくる。冷気のせいか、虫はだんだん出なくなった。

「外が近い……のでしょうか?」
「王都じゃ無さそうね。そんな季節じゃないもの」

 やがて光が差した。出口だった。



 外には、白い雪が積もっていた。灰色の空には黒い雲が連なっている。風が雪を舞い上げる。

「もしかして北の蛮族の土地でしょうか?だとすると……聞いたことがあります、空間魔法を使う魔族がいると。確か……名はヘルレオス」
「それがさっきの牛の名前?」
「そうならば。ですが」
「まあ倒しちゃったし、関係ないわね。方位石はどう?感じる?」
「ちょっと待って下さい……王都の反応は……あっ!微弱ですが……こっちのようです」

 ナティの指差す方向に、集落の灯りが見えた。

「あそこに村が!お嬢様、とりあえずあの集落へ行ってみましょう。何か手がかりがあるかも!」
「そうね」

 二人は翼を生やし、飛び立った。


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