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ベータだけど、溺愛される僕の話
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榛色に薄い茶色の髪をもつ僕は、中性的な見た目からか、昔からやたらとモテた。
僕はベータだ。
ベータはごく平凡な見た目で、能力もふつうな一般人だ。そんなベータのはずの僕が、男女問わず、バース性問わずモテまくった。
理由は分からないが、昔からそうたった。
遠巻きにされて、誰からも声をかけられないこともあれば、歩くたびに声をかけられて、人に囲まれ動けないこともあったりする。
そんな僕には幼馴染がいる。
アルファの直人とオメガの美晴だ。家が近所で親同士も仲が良く、昔から家族ぐるみで付き合いがある。もちろん僕らも昔から仲が良く、いつも一緒だ。休みの日ももちろん、毎朝登下校も一緒である。同じ学年で同じクラス。席もそんなに離れてないから、ほんとにずっと一緒なのだ。離れることがあるなら、部活の時だけだろうか?委員会も2人のうちのどちらかと同じだしね。
こんな生活が小学生の頃から、高校生の今までずっと続いている。
「そういえば、直人は進路ってどうするの?」
僕らは高校2年だ。進路を決めるのにまだ1年先だ。だが、文系か理系かは決めなければいけない。
「陽向は?もう決めたのか?」
陽向とは僕のことだ。
「うーん、ざっくりしか決めてないんだよなぁ。うちみんなが、どこでも好きなところに行けばいいよって言うから、逆に決められなくて」
「そうなんだ。僕は、デザインの学校に行くか、在宅でイラストレーターになるか、悩んでる」
そう答えたのは美晴だ。オメガである美晴は進学することに不安そうだ。
「俺は親の仕事を継ぐことになるから、経済学部のある大学だな。今のところは国立大になりそうだけど」
直人は才賀財閥の御曹司だ。アルファは資産家の家庭が多い。能力にすぐれ、見目麗しく、優秀な遺伝子を持っているのだ。会社の後継者は圧倒的にアルファが多い。
良家の子息ではあるものの、オメガであるために、家を継ぐことはない美晴。
オメガは男性でも妊娠することが可能で、能力はベータよりも劣るとされている。1ヶ月から3ヶ月に一度ヒートがあり、アルファをフェロモンで誘うのだ。ヒートになったオメガがアルファを誘惑し、アルファはオメガを襲おうとする。そうならないために、抑制剤は欠かせない。ヒート中避妊をせずにすると、必ず妊娠してしまうし、アルファがオメガのうなじを噛めば番が成立してしまう。そんな望まない番防止のために、オメガは必ずネックガードをするのだ。
「そっか。まだ先のことだし、ゆっくり決めよ」
「陽向ならそう言うと思った」
「僕も同じことを言おうと思ったよ。ただ、婚約じゃなくて結婚は早くしたいから、進路は早めに決めて欲しいけどな」
「どういうこと?」
クエスチョンマークをいっぱい浮かべた顔で美晴に聞くと、さらっと流された。
「そんなことより、もうすぐ学校に着くよ」
「あ、本当だ。先生おはようございます」
僕は校門の前に立っている進路指導の先生に挨拶した。
「おはよう。今日も仲良く3人そろって登校か?」
「おはようございます。えぇ、まぁ。陽向を守れるのは俺らしかいないと思ってますので」
「そうか」
「おはようございます。星野先生。僕らは急いでいますので、この辺で失礼します。行こう」
美晴はお辞儀をすると、くるっと回って僕を見た。それから直人と目配せする。直人はそれを見て、軽く頷くと僕の手を握った。右手は直人、左手は美晴がそれぞれひいてずるずると引きづるように校舎に連れていかれたのだった。
下駄箱から室内用の靴に履きかえようとして、靴を取り出すと、中から大量の手紙がドサドサという音とともに下へ落ちた。毎朝のことながら、いつどのタイミングでこんなに大量の手紙が下駄箱に投函されるのか不思議でしょうがない。
「ありゃ。これはまた大量だね」
「そうだね。どうしよう」
「それなら、家から紙袋を持ってきたから、これに入れるといいよ」
「お!直人ありがとう。家に持って帰らなきゃ。気が重いけど」
「捨てちゃえばいいじゃん。誰がくれたか分からない手紙なんてさ」
「そうそう。俺もそう思う」
「それはそうかもだけど、一生懸命気持ちのこもった手紙を捨てるなんて出来ないよ。ちゃんと読んで返事出す」
2人は顔を見合わせるとやれやれと言った顔をした。
「陽向の良いこころでもあるけどね。それじゃ、ますますファンが増えちゃうよ」
「それはそうだけどさ。分かった。いつもみたいに、とりあえず、この手紙を2人に預けるから。それでいいでしょ?」
「うん。それでいいよ。ホームルーム始まるし、教室行こ」
「そうだね」
そうして、いつものように3人で教室に入るのだった。
時間は経過して放課後
「今日は部活ないし、一緒に帰ろ?」
「そうだな」
「それなら家に寄ってく?何なら2人とも泊まってもいいし」
「いいね、それ。陽向を送った後、家に一旦帰るよ」
「俺もそうするわ。荷物あるしな」
「分かった」
3人で話ながら歩くと、あっという間に僕の家に着いた。
「それじゃ、また後で」
2人とも同じセリフを言って、それぞれの家の中に入った。家から5分もかからないから、そのうち来るだろう。
僕は玄関からリビングに入るなり、母を呼んだ。
「ただいま!母さんいる?」
リビングじゃなくて、台所にいたようで、奥から出てきた。
「あら、おかえり。どうしたの?」
「今日、直人と美晴がうちに来るだけど
泊まったらダメかな?」
「その2人なら、もちろんかまわないわ」
それから何かを思い出したのか、スマホを取り出して、父に連絡しだした。
「もしもし、今日のことだけど、直人君達がうちに泊まるらしいのよ。それでね、うん、うん。分かったわ。それじゃ」
「パパからもオッケーだって。それでね、今日2人でディナーに行くことにしたから」
母さんが目をキラキラさせながら答えた。父さんとデート出来るのが嬉しいらしい。うちの両親仲良いもんなぁ。
「そうと決まれば、何着ていこうかしら。ディナー楽しみ」
母さんの目がハートになってる笑
父さんとのデートがよっぽど楽しみなんだな笑
こういうところは親ながら可愛いなぁと思う。
「そうそう。もしかしたら、泊まるかもしれないから、戸締りよろしくね!直人君達もいるから、大丈夫とは思うけど」
そういうと母さんはウィンクをした。相変わらずお茶目な母である。
「そうなんだ」
母さんは壁掛けの時計を見ると慌てた様子で
「あらやだ!もうこんな時間だわ!急がなきゃ」
そういうと慌ててリビングから出て行った。
何やらバタバタと音がしたかと思うと
「それじゃ、後よろしくね」
とひとこと言ってから、玄関の扉の閉じる音が聞こえた。
「いってらっしゃいって、もういないか」
そうポツリと呟くと、台所に向かおうとしたが、玄関の扉が開く音がした。
母さんが忘れものして取りに来たのかな?
「おかえりなさいって、あれ直人?母さんかと思ったよ」
「さっき、そこでおばさんとすれ違ったんだ。玄関は開いてるから入っていいって言われて。あと陽向のことよろしくだってさ。どういうこと?」
「あぁ、今日母さんたち出掛けていないんだよ。デートするだって」
「相変わらず仲良いんだな。お前の両親」
「そうだね。あんまりケンカもしないし。理想の夫婦ってかんじ」
それを聞いて直人は何か考え込んでいたが、何かを決意したかのような真剣な顔をした。
「俺は陽向のことが好きだ」
「それは、僕だって直人が好きだよ」
僕は直人の目をしっかり見てから、そう言った。
「それは恋愛的な意味か?俺は今すぐ結婚してもいいくらい、お前のことが好きだし、はっきり言えば愛してる」
「え?だって、僕ベータだよ?結婚なんて、そんな…」
僕は戸惑ってしまい、うつむいた。
直人が僕のことが好きなのは何となく感じてたけど、そんなふうに思っていたなんて知らなかった。
「直人が僕のこと好きなんて…」
「陽向、聞いてくれ。陽向はふつうのベータとは違う。この話をするのはまだ早いかと思っていたけど、俺が限界なんだ。陽向を誰にも渡したくない」
直人の視線が痛い。まっすぐ気持ちが伝わるのだ。目を逸らせなかった。
「陽向の気持ちが固まるまで、待とうと思った。でも、陽向を好きなやつが予想以上に多くてこれ以上待てないんだ。嫉妬で気が狂いそうだ。お願いだ、陽向。俺の気持ちに応えて欲しい」
こんな真剣な目をした直人を見たことがあっただろうか?こんな熱い目をした直人から、目が離せない。
「直人、俺…」
何かを言おうとしたその時だった。
「ちょっと、直人!話が違うじゃん!何で僕がいない時にそんな大事な話をするの?」
「美晴…」
「ごめん。話に割り込んで…。でも僕も関係ある話だから、黙って聞いてられなくて」
「美晴、聞いてたの?」
「うん、玄関開いてたから…話聞こえちゃって」
僕は今更ながら、玄関の鍵を閉めた。話に夢中で気付いてなかった。
美晴を中に招き入れる。
「美晴。さっきのことはどういうこと?」
シュンとなっていた美晴だったが、その言葉を聞いて直人を睨んだ。
「僕だって、陽向を好きなんだ!結婚だってしたいと思ってる。直人と僕と陽向と3人で将来的には一緒に暮らしたいとも考えてるんだよ。勝手に直人が陽向に告白しちゃったけど、僕がいる時にするはずだったんだよ。それが、我慢出来なくて、先にしちゃってさ」
「それは、ごめん…」
直人はシュンとなり、美晴に小さな声でポツリと言った。
「もういいけどさ。ここじゃなんだし、とりあえず移動しない?」
そうだ。僕らはまだ、玄関に立ったままだった。
「リビングでいい?」
「あとで移動するだろうけど、とりあえずリビングでいいよ」
「じゃあ、飲み物取ってくるね」
「ありがとう」
2人そろって僕にお礼を言った。
僕は台所に立つと紅茶とコーヒーの準備をする。直人はコーヒーで美晴は紅茶だ。
「お待たせ」
「あ、ありがとう」
「何か食べるもの、取ってこようか?」
「今はいい。さっきの話の続きをする」
「分かった」
そう言うととりあえず僕は座った。
「さっきの話の続きだけど、俺も美晴もお前のことが好きだ。もうずっと昔からだ。結婚するなら陽向がいいと俺も美晴も陽向の両親には話してある」
そんな話は初めて聞いた!
マジか!
僕は目を丸くしながら、そうなんだと呟いた。
「実は俺に見合いの話があってな、両親も俺も断ったんだが、相手に気に入られて断り辛くて…。その時にどうしても嫌だった俺は陽向の両親に話したんだ」
「うちの親は何て言ってたの?」
「それなら陽向を婚約者ってことにして、断ればいいじゃないって言われたんだ」
「!!!」
本人が知らない間に何てことをしてるんだ!うちの親は!
「そんなことがあったんだ。それでどうなったの?」
「丁寧に説明して、お断りしたさ。それ以来、見合いの話は来ていない」
「そっか」
「その時に陽向と結婚したいと思ったよ。それに陽向の両親からも、本人から了承を得れば結婚してもいいって言われたし」
本人がいないところでいつの間に!
「その時に僕も話を聞いて、陽向の両親に僕も陽向と結婚したいって言ったんだ。そしたら『直人君と結婚するかもしれないから、その話は保留ね』って言われて…。婚約者になってないんだ。僕だって、陽向が好きだし、結婚したい!けど、オメガだからダメだって、うちの両親も陽向の両親にも言われて…。こんなの納得できない!何で直人が良くて僕がダメなんだよ!」
そう言って美晴は泣いてしまった。
「美晴、そのことなんだけど、俺に考えがあるんだ」
それを聞いて美晴が泣き止んだ。
「さっきも言った通り、陽向はふつうのベータと違う。今まで、どうしてか理由が分からなかったが、最近になってやっとその理由が分かったんだ」
「え、何?どういうこと?」
「それを確かめるために、3人でしないか?」
真剣な目で話す直人に続きを話すように促すと思いもかけないことを提案された。
「もちろん、性行為だ」
それを聞いた僕は驚きのあまり、絶叫したのだった。
僕はベータだ。
ベータはごく平凡な見た目で、能力もふつうな一般人だ。そんなベータのはずの僕が、男女問わず、バース性問わずモテまくった。
理由は分からないが、昔からそうたった。
遠巻きにされて、誰からも声をかけられないこともあれば、歩くたびに声をかけられて、人に囲まれ動けないこともあったりする。
そんな僕には幼馴染がいる。
アルファの直人とオメガの美晴だ。家が近所で親同士も仲が良く、昔から家族ぐるみで付き合いがある。もちろん僕らも昔から仲が良く、いつも一緒だ。休みの日ももちろん、毎朝登下校も一緒である。同じ学年で同じクラス。席もそんなに離れてないから、ほんとにずっと一緒なのだ。離れることがあるなら、部活の時だけだろうか?委員会も2人のうちのどちらかと同じだしね。
こんな生活が小学生の頃から、高校生の今までずっと続いている。
「そういえば、直人は進路ってどうするの?」
僕らは高校2年だ。進路を決めるのにまだ1年先だ。だが、文系か理系かは決めなければいけない。
「陽向は?もう決めたのか?」
陽向とは僕のことだ。
「うーん、ざっくりしか決めてないんだよなぁ。うちみんなが、どこでも好きなところに行けばいいよって言うから、逆に決められなくて」
「そうなんだ。僕は、デザインの学校に行くか、在宅でイラストレーターになるか、悩んでる」
そう答えたのは美晴だ。オメガである美晴は進学することに不安そうだ。
「俺は親の仕事を継ぐことになるから、経済学部のある大学だな。今のところは国立大になりそうだけど」
直人は才賀財閥の御曹司だ。アルファは資産家の家庭が多い。能力にすぐれ、見目麗しく、優秀な遺伝子を持っているのだ。会社の後継者は圧倒的にアルファが多い。
良家の子息ではあるものの、オメガであるために、家を継ぐことはない美晴。
オメガは男性でも妊娠することが可能で、能力はベータよりも劣るとされている。1ヶ月から3ヶ月に一度ヒートがあり、アルファをフェロモンで誘うのだ。ヒートになったオメガがアルファを誘惑し、アルファはオメガを襲おうとする。そうならないために、抑制剤は欠かせない。ヒート中避妊をせずにすると、必ず妊娠してしまうし、アルファがオメガのうなじを噛めば番が成立してしまう。そんな望まない番防止のために、オメガは必ずネックガードをするのだ。
「そっか。まだ先のことだし、ゆっくり決めよ」
「陽向ならそう言うと思った」
「僕も同じことを言おうと思ったよ。ただ、婚約じゃなくて結婚は早くしたいから、進路は早めに決めて欲しいけどな」
「どういうこと?」
クエスチョンマークをいっぱい浮かべた顔で美晴に聞くと、さらっと流された。
「そんなことより、もうすぐ学校に着くよ」
「あ、本当だ。先生おはようございます」
僕は校門の前に立っている進路指導の先生に挨拶した。
「おはよう。今日も仲良く3人そろって登校か?」
「おはようございます。えぇ、まぁ。陽向を守れるのは俺らしかいないと思ってますので」
「そうか」
「おはようございます。星野先生。僕らは急いでいますので、この辺で失礼します。行こう」
美晴はお辞儀をすると、くるっと回って僕を見た。それから直人と目配せする。直人はそれを見て、軽く頷くと僕の手を握った。右手は直人、左手は美晴がそれぞれひいてずるずると引きづるように校舎に連れていかれたのだった。
下駄箱から室内用の靴に履きかえようとして、靴を取り出すと、中から大量の手紙がドサドサという音とともに下へ落ちた。毎朝のことながら、いつどのタイミングでこんなに大量の手紙が下駄箱に投函されるのか不思議でしょうがない。
「ありゃ。これはまた大量だね」
「そうだね。どうしよう」
「それなら、家から紙袋を持ってきたから、これに入れるといいよ」
「お!直人ありがとう。家に持って帰らなきゃ。気が重いけど」
「捨てちゃえばいいじゃん。誰がくれたか分からない手紙なんてさ」
「そうそう。俺もそう思う」
「それはそうかもだけど、一生懸命気持ちのこもった手紙を捨てるなんて出来ないよ。ちゃんと読んで返事出す」
2人は顔を見合わせるとやれやれと言った顔をした。
「陽向の良いこころでもあるけどね。それじゃ、ますますファンが増えちゃうよ」
「それはそうだけどさ。分かった。いつもみたいに、とりあえず、この手紙を2人に預けるから。それでいいでしょ?」
「うん。それでいいよ。ホームルーム始まるし、教室行こ」
「そうだね」
そうして、いつものように3人で教室に入るのだった。
時間は経過して放課後
「今日は部活ないし、一緒に帰ろ?」
「そうだな」
「それなら家に寄ってく?何なら2人とも泊まってもいいし」
「いいね、それ。陽向を送った後、家に一旦帰るよ」
「俺もそうするわ。荷物あるしな」
「分かった」
3人で話ながら歩くと、あっという間に僕の家に着いた。
「それじゃ、また後で」
2人とも同じセリフを言って、それぞれの家の中に入った。家から5分もかからないから、そのうち来るだろう。
僕は玄関からリビングに入るなり、母を呼んだ。
「ただいま!母さんいる?」
リビングじゃなくて、台所にいたようで、奥から出てきた。
「あら、おかえり。どうしたの?」
「今日、直人と美晴がうちに来るだけど
泊まったらダメかな?」
「その2人なら、もちろんかまわないわ」
それから何かを思い出したのか、スマホを取り出して、父に連絡しだした。
「もしもし、今日のことだけど、直人君達がうちに泊まるらしいのよ。それでね、うん、うん。分かったわ。それじゃ」
「パパからもオッケーだって。それでね、今日2人でディナーに行くことにしたから」
母さんが目をキラキラさせながら答えた。父さんとデート出来るのが嬉しいらしい。うちの両親仲良いもんなぁ。
「そうと決まれば、何着ていこうかしら。ディナー楽しみ」
母さんの目がハートになってる笑
父さんとのデートがよっぽど楽しみなんだな笑
こういうところは親ながら可愛いなぁと思う。
「そうそう。もしかしたら、泊まるかもしれないから、戸締りよろしくね!直人君達もいるから、大丈夫とは思うけど」
そういうと母さんはウィンクをした。相変わらずお茶目な母である。
「そうなんだ」
母さんは壁掛けの時計を見ると慌てた様子で
「あらやだ!もうこんな時間だわ!急がなきゃ」
そういうと慌ててリビングから出て行った。
何やらバタバタと音がしたかと思うと
「それじゃ、後よろしくね」
とひとこと言ってから、玄関の扉の閉じる音が聞こえた。
「いってらっしゃいって、もういないか」
そうポツリと呟くと、台所に向かおうとしたが、玄関の扉が開く音がした。
母さんが忘れものして取りに来たのかな?
「おかえりなさいって、あれ直人?母さんかと思ったよ」
「さっき、そこでおばさんとすれ違ったんだ。玄関は開いてるから入っていいって言われて。あと陽向のことよろしくだってさ。どういうこと?」
「あぁ、今日母さんたち出掛けていないんだよ。デートするだって」
「相変わらず仲良いんだな。お前の両親」
「そうだね。あんまりケンカもしないし。理想の夫婦ってかんじ」
それを聞いて直人は何か考え込んでいたが、何かを決意したかのような真剣な顔をした。
「俺は陽向のことが好きだ」
「それは、僕だって直人が好きだよ」
僕は直人の目をしっかり見てから、そう言った。
「それは恋愛的な意味か?俺は今すぐ結婚してもいいくらい、お前のことが好きだし、はっきり言えば愛してる」
「え?だって、僕ベータだよ?結婚なんて、そんな…」
僕は戸惑ってしまい、うつむいた。
直人が僕のことが好きなのは何となく感じてたけど、そんなふうに思っていたなんて知らなかった。
「直人が僕のこと好きなんて…」
「陽向、聞いてくれ。陽向はふつうのベータとは違う。この話をするのはまだ早いかと思っていたけど、俺が限界なんだ。陽向を誰にも渡したくない」
直人の視線が痛い。まっすぐ気持ちが伝わるのだ。目を逸らせなかった。
「陽向の気持ちが固まるまで、待とうと思った。でも、陽向を好きなやつが予想以上に多くてこれ以上待てないんだ。嫉妬で気が狂いそうだ。お願いだ、陽向。俺の気持ちに応えて欲しい」
こんな真剣な目をした直人を見たことがあっただろうか?こんな熱い目をした直人から、目が離せない。
「直人、俺…」
何かを言おうとしたその時だった。
「ちょっと、直人!話が違うじゃん!何で僕がいない時にそんな大事な話をするの?」
「美晴…」
「ごめん。話に割り込んで…。でも僕も関係ある話だから、黙って聞いてられなくて」
「美晴、聞いてたの?」
「うん、玄関開いてたから…話聞こえちゃって」
僕は今更ながら、玄関の鍵を閉めた。話に夢中で気付いてなかった。
美晴を中に招き入れる。
「美晴。さっきのことはどういうこと?」
シュンとなっていた美晴だったが、その言葉を聞いて直人を睨んだ。
「僕だって、陽向を好きなんだ!結婚だってしたいと思ってる。直人と僕と陽向と3人で将来的には一緒に暮らしたいとも考えてるんだよ。勝手に直人が陽向に告白しちゃったけど、僕がいる時にするはずだったんだよ。それが、我慢出来なくて、先にしちゃってさ」
「それは、ごめん…」
直人はシュンとなり、美晴に小さな声でポツリと言った。
「もういいけどさ。ここじゃなんだし、とりあえず移動しない?」
そうだ。僕らはまだ、玄関に立ったままだった。
「リビングでいい?」
「あとで移動するだろうけど、とりあえずリビングでいいよ」
「じゃあ、飲み物取ってくるね」
「ありがとう」
2人そろって僕にお礼を言った。
僕は台所に立つと紅茶とコーヒーの準備をする。直人はコーヒーで美晴は紅茶だ。
「お待たせ」
「あ、ありがとう」
「何か食べるもの、取ってこようか?」
「今はいい。さっきの話の続きをする」
「分かった」
そう言うととりあえず僕は座った。
「さっきの話の続きだけど、俺も美晴もお前のことが好きだ。もうずっと昔からだ。結婚するなら陽向がいいと俺も美晴も陽向の両親には話してある」
そんな話は初めて聞いた!
マジか!
僕は目を丸くしながら、そうなんだと呟いた。
「実は俺に見合いの話があってな、両親も俺も断ったんだが、相手に気に入られて断り辛くて…。その時にどうしても嫌だった俺は陽向の両親に話したんだ」
「うちの親は何て言ってたの?」
「それなら陽向を婚約者ってことにして、断ればいいじゃないって言われたんだ」
「!!!」
本人が知らない間に何てことをしてるんだ!うちの親は!
「そんなことがあったんだ。それでどうなったの?」
「丁寧に説明して、お断りしたさ。それ以来、見合いの話は来ていない」
「そっか」
「その時に陽向と結婚したいと思ったよ。それに陽向の両親からも、本人から了承を得れば結婚してもいいって言われたし」
本人がいないところでいつの間に!
「その時に僕も話を聞いて、陽向の両親に僕も陽向と結婚したいって言ったんだ。そしたら『直人君と結婚するかもしれないから、その話は保留ね』って言われて…。婚約者になってないんだ。僕だって、陽向が好きだし、結婚したい!けど、オメガだからダメだって、うちの両親も陽向の両親にも言われて…。こんなの納得できない!何で直人が良くて僕がダメなんだよ!」
そう言って美晴は泣いてしまった。
「美晴、そのことなんだけど、俺に考えがあるんだ」
それを聞いて美晴が泣き止んだ。
「さっきも言った通り、陽向はふつうのベータと違う。今まで、どうしてか理由が分からなかったが、最近になってやっとその理由が分かったんだ」
「え、何?どういうこと?」
「それを確かめるために、3人でしないか?」
真剣な目で話す直人に続きを話すように促すと思いもかけないことを提案された。
「もちろん、性行為だ」
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