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第2章

第125話

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 ラナとガロンが落ち着いた先は、とある谷。
 周囲が深い森にて、木々にはいろんあ果実がみのり、近くにキレイな水のわく泉もあり、自然の恵みが多い地。
 そんな場所なので他にもいろんな者たちが集っていました。
 いろんな者たちが集まれば、いさかいも起こりやすくなります。
 ちょっとした騒動に、たまたま巻き込まれたガロンたち。またたく間に問題を解決してしまいました。
 彼らは他の動物や種族に比べると、はるかに強力なチカラをもっていますので、なんてことはありません。
 そんなガロンとラナは少しずつ、みんなからの尊敬と崇拝を集めて、気がついたときには谷の主となり、周辺を統べる者となっておりました。
 そこではみながお互いを尊重して、ゆずりあい、助け合って生きており、とても平和でした。

 あるとき、ラナのところに一匹の母親シカが助けを求めてきました。
 なんでも我が子がうっかり川に落ちて、ずっと下流にまで流されてしまったというのです。オロオロとうろたえるばかりの母親をなだめて、すぐさま駆け出した翡翠(ひすい)のオオカミ。
 もと天の国の水色オオカミの足をもってすれば、すぐに見つかるはず。
 ですがどこまで川沿いを下っていっても、子どものシカの姿は見当たりません。
 ニオイを追いたいところなのですが、川の流れのせいか、鼻にピクリともひっかかりません。
 しかたなしに目で探していると、ついにはずっと先の河口にまでたどり着いてしまいました。念のために付近も探しましたが見つからない。
 速く駆けるあまり途中で見落としたのかもと、今度はゆっくりと探しながら上流へと向かっていきます。

 丸二日ほどかけても、迷子の子ジカを見つけられなかったラナは、しょんぼりと帰路につきました。
 あと三つばかり山を越えたら谷というところまで戻ったところで、ラナはうなだれていた顔をあげる。
 スンスンとニオイをかぐと、なにやらコゲくさい。
 これは火のニオイ……、もしや留守中に火事でも発生したのかと、あわてて駆けだす翡翠のオオカミ。

 姿を現したのは変わり果てた森。
 炎に包まれ、一面が焼け焦げており、かつての面影はどこにもありませんでした。
 呼びかけても返事はなく、辺りに生き物の気配がまるでしません。
 あれほどいた仲間たちは、森の住民たちは、それにあの人は……。
 あわててガロンのいる谷へと向かう。
 遠目に彼の立ち姿を見つけて、安堵するラナ。
 ですが近づくほどに、安堵は困惑へとかわり、やがて絶望の淵へと叩き落とされることになるのです。

「おまえは、ガロン……なのか?」

 姿形こそは愛するガロン。
 ですがその毛色は、まるで染めに失敗したムラだらけの黒。
 かつての白銀のまじった美しい白さは欠片もありません。
 放つ気配もドス黒く、まるで親の仇でも見るかのような視線をこちらに向けてくる。

「これは……、私の留守中にいったい何があったんだ」

 話しかけても、グルルと低いうなり声をあげるばかりの黒いまだら模様のオオカミ。
 ついには牙をむき、飛びかかってきた。
 とっさのことに反応が遅れるラナ。
 ですがその鋭い爪や牙が彼女に届く直前、急に踏みとどまったガロン。
 数歩あとずさり、苦しそうにうめき声をあげると、そのまま天をあおいで「ワォーン」とひと声鳴きました。
 呆然とするラナの目の前で、黒いまだらオオカミの姿は、そのままズブズブと自分の影の中へと沈んでいく。
 彼女がハッと我にかえり、「ガロンっ!」と彼の名前を呼ぶと、チラリと視線を向けたのですが、そのまま黙って消えてしまいました。

 住む場所も、愛する者も、守るべき仲間たちも、なにもかもを一度に失ってしまった翡翠のオオカミ。あまりにも心に受けた衝撃が強すぎて、頭がついてゆかず、ふらふらと燃え続ける森の中をさまよう。
 その途中で見つけたのは、森の仲間の生き残りである、一羽のタカ。
 片方のツバサを根元から折れており、全身も傷だらけ。もはや命は助かりそうにもありません。
 そんな状態にもかかわらず、タカが最期にラナへと告げたのは、彼が知りうるすべて。
 突如として森が燃えだし、混乱するところに現れたのは眼帯をした男。白銀の魔女王のつかいを名乗った男に、立ち向かったガロン。
 しかし激しい戦いの最中に何かをされたらしく、急に悶え苦しみだし、ついには毛の色がみるみると黒くかわっていき、暴れだしたという。
 なんとかガロンを助けようとした多くの森の仲間たちが、彼の出した影に喰われてしまったと話したところで、タカはこと切れました。

「すべては白銀の魔女王のせいか……。ガロン、待っていてくれ。かならずアナタを助けるから」

 おおまかなことを知ったラナは、死んだタカを丁重にほうむると、水色オオカミのチカラをぞんぶんにふるって雨を降らし、森にくすぶるすべての炎をかき消す。
 やがて呼び寄せた雨雲は風にながれて散り、青い空が戻って来る。
 陽をあびて、すっかり焼け焦げて、痛々しい姿をさらす森。
 その上にかかった虹に、翡翠のオオカミのラナは、愛する者の奪還と魔女王への復讐を誓うのでした。


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