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その5
しおりを挟む翌日の日曜日。
紗織は少しだけ実家に寄り、21時頃に帰った。
「おかえり」
「…ただいま」
「結婚式はどうだった?」
「…うん。2人とも幸せそうで、とってもいいお式だったよ」
「そっか。それは良かった。疲れただろ? 風呂入れるよ」
「ん、ありがとう。疲れてるから、お風呂終わったらすぐ寝るね。尚樹も私のことは気にせず過ごして」
「うん、分かった」
相変わらず、紗織を気遣う尚樹。
尚樹は、自分があんな事をしなければ、自分たちの結婚式の話も出ていたかもしれないと思っていた。
15歳から付き合い、25歳になった。
一緒にいるのが当たり前過ぎて、結婚に焦っていなかったのもあり、お互いにいつかは結婚する気でいるけど具体的に話したりはしていなかった。
今、尚樹は薄氷の上を歩いているような心地で日々を過ごし、紗織に別れを告げられるのではないかという恐怖をずっと抱えながら生きている。
紗織がいなくなってしまったら、自分はきっと死んでしまう。実際に死ぬのではないが、きっと死んだように生きるのだろうと容易に想像できる。
あの日の自分を何度悔やんだか。
でも、戻れない。
自分にできることは、只管に紗織に許しを乞い、受け入れてもらえる日が来るのを待つことだけだ。
「…まだ、起きてたの?」
「あ、うん。そろそろ寝るつもり」
「そっか。おやすみなさい」
「おやすみ」
そうして、月曜から仕事が始まった。
紗織は、自分も尚樹と同じ事をして、もっと罪悪感や後悔する気持ちが生まれるかと思ったが、そんな事はなかった。心が麻痺しているのかも知れない。
尚樹じゃなくてもセックスできるし、それなりに気持ちよくなれた。
きっともう、誰でもいいのかも知れない。
別れることを前向きに考えたことで、気持ちが楽になったのは確かで、あの日のことを話して尚樹に委ねてみようと思ったのだ。
そして、金曜日がやってきた。
紗織はこの日に話すことにした。
尚樹にも、予め夜に話したいと言ってある。
お風呂と夕食を済ませ、いつかのようにダイニングテーブルを挟んで向かい合って座る。
尚樹も紗織も、覚悟を決めたような、そんな顔をしていた。
「話って、何?」
「うん。あのね、私たちの今後のことなんだけどね」
「紗織…、勝手なことを言うようだけど、俺は別れたくない…」
「うん。それは聞いた。でも、私の話を聞いて、それでも別れたくないかもう一度考えてほしいの」
「……?分かった」
「あのね」
紗織は、結婚式に行った日のことを話した。
中学の同級生に会い、色々話したこと、それからセックスをしたこと。
「だからね、もう、尚樹だけが浮気した訳じゃないからお互いさまなの。でね、私の方は感覚も麻痺しちゃったのか、罪悪感もない。また、するかも知れない。こんな人間、嫌でしょ? だから、別れたらいいかな、って思うんだけど…」
尚樹を窺い見て、紗織は目を瞠った。
尚樹が泣いていたのだ。
今まで、泣きそうな顔をすることはあったが、こんなに泣いていることはなかった。
「…っ、俺は、紗織が何をしても、紗織が好きだ。誰とセックスしても、変わらない。愛してるんだ。紗織が浮気相手のほうが良いって言っても、譲りたくない。紗織と別れるのは、死ぬことと一緒だ」
「でも…」
「紗織が、浮気相手と寝ることになったのは、俺のせいだ。罪悪感も持たないほど、紗織を苦しめたのは俺だから、紗織は悪くない」
「悪いよ…」
「悪いと思うなら、これからは、俺だけにして。俺も、紗織だけだから。もう一度、俺を受け入れて…」
尚樹は椅子から立ち上がると、紗織の方へ行き、腕を持ち立ち上がらせた。そして紗織を抱きしめる。
「誰でもいいなら、俺にして。おれは、紗織が良いんだ」
「な、おき…」
「抱いていい?いや、抱くね」
そう言うと、紗織の頭を両手で挟み固定すると、噛み付くようにキスをする。そして直ぐに舌を差し込む。
舌を絡め、その後、歯列を舐め回す。
唾液を紗織の口に流し込み、飲み込ませる。
「はんっ、…んっ、なおっ」
「さおりっ、好きだよ」
キスをしながら、紗織のパジャマのボタンを外していく。胸が開放されると、ナイトブラを上へずらし今度は乳首に吸い付く。舌先でコリコリと転がし刺激して時々軽く噛む。空いている左胸は指先で乳首を弄り、捏ねたり引っ張ったりして、時々全体を揉む。右胸の地首が尚樹に舐られ、勃起し赤く濡れている。
「反対も同じようにしないとね」
今度は左胸をしゃぶりながら右胸を指先で弄る。
赤ちゃんのように吸い付き、美味しそうに扱く。
尚樹の夢中な様子を見て、胸への愛撫だけで下腹部が疼き、下着がぐっしょりと濡れているような感覚があった。
半年、尚樹に抱かれなかった身体が、やっと本物に可愛がってもらえて、これから抱かれるんだと喜んでいるようだった。
尚樹の手が下着の中へ入り、膣の入口周辺をゆっくりと撫でる。何度か往復していると、どんどん滑ってくる。
「濡れてる…。しっかり愛したいから、ベッドに行こ?」
欲に塗れた、獰猛な目で紗織を見つめる。紗織を絶対に逃さない、という強い意志を感じる目だ。
――――逃げられない。
逃げようとも思わない。この人に抱かれたい。
そう思った紗織は、尚樹に口吻で返事をした。
そのまま紗織を横抱きにし、急いで寝室に向かうと、ベッドに雪崩込み、再び深い口付けを繰り返す。
そのまま、首筋、胸、腹と、順に口づけ、時々強く吸い付く。マーキングのようだった。
そして、スボンと下着を一緒に脱がせ、紗織の脚の間に陣取り、太腿をガッチリと掴み開脚させる。
そして顔を近付け紗織の太腿に吸い付き跡を残す。
間もなく、濡れそぼった紗織の秘部全体をねっとりと舐め上げ、続けてクリトリスを舌先でチロチロと転がし、軽く扱いてじゅっと吸い上げる。
「尚樹、あっ、…んっ」
紗織の身体を知り尽くした尚樹は、紗織のイイ所を攻め続ける。
愛液がどんどん溢れ、尚樹はじゅるじゅると音を立てて吸う。そして、ぷっくりと膨らんだクリトリスを甘噛みしたとき、紗織の視界が真っ白に弾けた。
紗織は脱力し、浮遊感に襲われ呆然としていた。
そこへ、尚樹の指が膣の中へ挿入される。腹側の膣壁を2本の指でゆっくりと撫でながら、紗織の弱いポイントのギリギリ外れた所を刺激する。
イきたいのに物足りない、あと少しイイところにこないもどかしさに悶えていると、再びクリトリスを舌で刺激し始めた。
「あんっ、やっ、意地悪しないでっ」
「いじわる?」
「や、ちゃんと、して欲しいっ、あんっ」
尚樹の狙い通りだったのか、ニヤリと笑うと、今度は
紗織のイイ所、Gスポットを正確に刺激し始める。
「ここ?」
「そこっ、気持ち、いいっ、尚樹っ、尚樹っ」
指と舌で刺激し続け、紗織は絶頂した。
身体から力が抜け、ぐったりとする。
そこへ、指よりもずっと太い尚樹の陰茎が、2、3度蜜口を往復したあと、一気に奥まで突き刺さる。
「くっ、紗織っ」
「あんっ、尚樹っ」
最初から、激しく抽送する。前の男の痕跡を一つ残らず自分に塗り替えるように、時々グラインドしながら中を味わい、奥の方、子宮に届くようにポルチオをグリグリ刺激する。
「紗織、俺の、紗織っ、紗織っ」
紗織のことは変わらず愛している。しかし、この中を別の男が味わったというのが許せない。自分だけの紗織だったのに、悔しくて、嫉妬が止まらない。
自分のことは棚に上げ、尚樹はドロドロと渦巻くどす黒い気持ちをぶつけるように、紗織の中を激しく突いた。
「やんっ、イクッ、イクッ」
「紗織っ、…出るっ、出すよっ」
「んっ、あんっ、尚樹っ」
紗織は尚樹の激しい突きに、意識が朦朧としていた。
そして、尚樹はそのまま紗織の中に白濁を遠慮なく吐き出す。半年間、まともに自慰もせず過ごした。
濃くてドロっとした精液で、紗織の中を染める。
10年付き合って、初めて生で挿入して中に出した。
隔たりのない交わりは、最高に気持ちが良かった。
実を結べばそれで良い。デキなければ、2人で過ごす時間が延びるだけ。また、いくらでも注ぐ。
順番が違うなんて言わせない。
自分たちは10年付き合って、別れるなんてありえない。
紗織は自分のものだ。
もう、遠慮なんてしない。
受け入れてくれるのを待っていたら、別の男が紗織と寝た。
10年、穏やかで可愛い紗織に虫が近づかないよう一緒にいたのに。
それも自分の弱さ、過ちが全ての元凶だ。
これからは余所見なんて出来ないよう、全力で紗織を囲い、愛していく。
そのためなら何でもする。
「紗織、足りない。もう1回…」
「ん、も、…無理」
「紗織は寝てていいよ」
俯せに寝た紗織の後ろから、寝バックの体勢で挿入する。ぎゅっと締まり、コレも気持ちが良い。
紗織のナカは、最高に気持ちがいい。
他の女も、あの酔っ払ってよく覚えていない同僚しか知らないから、実質知らないも同然だが、紗織が最上の相手だと思う。他はこれからも知らなくて良い。
極上の相手がいるのに、どうしてあんな女を抱いてしまったのか。一生の不覚だった。
尚樹は、その後、もう1回紗織を抱いて、やっと満足して眠りについた。
眠るときも、紗織をガッチリと抱きしめ、逃さないようにした。
翌日、紗織が目覚めた時、日はだいぶ高く上がっていた。気が付いたら眠っていて、途中で意識を失ったようだ。
紗織は、尚樹と別れても良い、という気持ちでいたが、自分が思っているよりずっと尚樹は自分を好いていたようだ。
あんなに激しい気持ちを抱いていたなんて知らなかった。
穏やかで、平和で、仲良く幸せな10年を過ごしてきた。
激しく嫉妬したり、喧嘩する事もなく過ごしたから、紗織自身も尚樹の浮気でここまで自分を見失ってしまうとは思っていなかった。
大切すぎて、空気のようで気付きにくいが、ないと生きられない人だったのかも知れない。
「紗織、起きた?朝ご飯にする?」
「あ、うん」
「じゃあ、準備したらおいで」
穏やかな、浮気する前の尚樹がいた。
紗織の愛しい人だ。
紗織がベッドから立ち上がると、股の間からドロっとしたものが出てくる。
「あ…」
昨夜は、中に出したんだ。何度もイカされ、挿入する頃は何がなんだか分からなくなっていた。
何てことだろう…。
でも…。
尚樹ならいいと思った。
浮気されたことも、昨夜の尚樹の激情に触れて、今までドロッとしたものが消えなかったのに、自分の中で折り合いがつけられるようになった気がする。
あのとき、彼じゃなくてもいいと思った。
けど、やっぱり彼がいいのだ。
それが答えだった。
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