7人の聖女プラス1

七転び早起き

文字の大きさ
上 下
56 / 59
ラバニエル王国編

第51話 聖女の森を目指して

しおりを挟む
 ダックの治療が無事(?)済んだ私達は聖女の森に向かう為に話し合いを始めた。

「それでどうするつもりだ?飛竜で木々が生い茂った聖女の森に降りるのは危険じゃ。第2防衛拠点に降りてダジール女王陛下や7人の聖女様と合流するか?」

 そう話すのはカルビーンお爺さん。他の人達もそれが妥当かと頷いている。

(私はあの人達が出発した時に任せようと思ってた。第2防衛拠点をね。だから私はプラス1の仕事をするの)

「ううん、第2防衛拠点はあの人達に任せて私達はカール隊長さんが居る可能性が高い聖女の森の最奥に飛竜で行く」

「でも飛竜で降りるのは危険よ?」

 私が強行着陸するのかと心配顔になって聞いてくるサーシャさん。そうなれば最悪飛竜を死なせる事になる。そんな心配を吹き飛ばすように飛びっきりの笑顔で私は答えた。

「大丈夫。私に任せて。安全に地上に降りる方法があるから心配無用だよ!」

 その私の自信満々の言葉に違う心配を感じ始めたのかサーシャさんは、「えっと‥‥それは本当に大丈夫なのかな?」と呟いている。そして隣で聞いていたカルビーンお爺さんが笑いながら話してきた。

「ガハハ、まさか森に火をつけて燃やしたりはせんじゃろ!そんなバカなことすればカールもろとも丸焦げじゃわい」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 そして私は無表情になった。(赤の聖女の力で森の一部を「ゴォッ」って燃やそうと思ってたの。ごめんなさい)

「えっ?奏嬢ちゃん‥‥‥違うよな?」

「そ、そ、そんなことする筈無いじゃん」

「「「「‥‥‥‥‥‥‥」」」」

 そしてその場は静寂に包まれる。

「ま、まぁ任せておいて。とっておきの秘策があるから!」

 その静寂を破り頬に一筋の汗を垂らしながら私は答えるのであった。それから話し合いは進み、私はトムソンさんとダックに乗りサーシャさんとカルビーンお爺さんがケンタに乗って聖女の森へと向かうことになった。
 出来ればサーシャさんとカルビーンお爺さんには残ってもらいたかったが、カルビーンお爺さんからは「息子の窮地に家でじっとしていてどうするんじゃ!」と言われ、サーシャさんからは「怪我をしても奏ちゃんが治してくれるでしょ?」と2人は明るく振る舞っていたがその目はとても真剣だった。(そうだよね。カールさんのこと心配だよね。仕方ないか‥‥)

 そして居残りのエルフィーさんが私に向かってアイテム袋から取り出したものを放り投げてきた。私はそれを慌てて受け取り見てみると見事な装飾がされた黒革の籠手だった。

「エルフィーさん、これは籠手だよね?私にくれるのかな?」

「これはワシが秘蔵していた漆黒の籠手だ。その黒革はブラックドラゴンの頭部の革でそれだけでも強固だが、特殊な加工処理で全ての攻撃を防ぐほど頑丈になっている。まあとりあえず左手首に着けてみろ」

 私はエルフィーさんにそう言われ、少し大きく感じた籠手を左手首に通してみた。すると私の左手首にフィットするように縮まる籠手。

「おお!ナイスフィット!」

「これは魔法処理も施してある。小憎らしいエルフに頼んでやってもらった」

 そう言って少し嫌な顔をするエルフィーさん。

(ああ、この世界でもドワーフとエルフの仲は良くないんだ)

「そしてアイテム袋と同じ機能も備わっている。奏、その籠手に入れてあるものを意識してみろ。中になにがあるか判る。そして取り出したいものを念じれば出てくる」

 私は言われた通り籠手に意識を向けると頭の中にそのリストが表示される。そして私の左手には1本の鉄棒が現れていた。(わぉ、なんて素晴らしいものなんでしょう)

「エルフィーさん、これ物凄いよ!最高だよ!これもらってもいいの!?」

「ああ、奏はスピード重視の近接戦闘タイプだ。出来るだけ身軽な方がいい。今装備しているものは全部籠手の中にしまっておけ。出したい場所に念じればその場に現れる。ただし半径1m以内だがな」

(ほぇー、この籠手凄すぎない?)

 その疑問を解消するかのようにカルビーンお爺さんがエルフィーさんに小さな声で私に聞こえないようにして話していた。(ちゃっかり聞こえてますけどね)

『おい、あの漆黒の籠手はお前が名匠になった褒美に現国王から授かった初代ドワーフ王とエルフ王が共同して造った逸品だろ?』

『ああ、大事にとっておいたものだ。だがたぶんこの日、奏に渡すことが運命付けられていたのだろう。それほどこの漆黒の籠手は今の奏に必要なものなんだ。これがあれば奏の戦闘能力は間違いなく飛躍的に上がる』

(そう言われるのは嬉しいけど私は一応聖女なんですけど?でもまあ、これはありがたい。確かに私の戦闘スタイルにピッタリだ)


 私は身に付けている装備を籠手に仕舞い、エルフィーさんに向かって改めてお礼を言った。

「エルフィーさん、この漆黒の籠手に見合うような戦いをしてきます。あなたから受け継いだ最強のナイフと籠手に誓って」

(ん?このセリフに似たような事を前にも言ったような気がする。そしてこれは剣士の誓いなんだよなー。聖女らしくないんだよなー)

「ああ、お前なら一流の戦士になれる。狂暴種なんぞそのナイフと籠手で全て殲滅しろ!」

「ラジャー!」

(私を指差し力強く叫ぶエルフィーさんと姿勢を正し敬礼する私はなんなの?)

 そして私達はエルフィーさんに見送られ、二頭の飛竜に乗って聖女の森へと向かった。
 その飛竜ダックは生まれ変わった姿で軽快に飛び回り、それをとても羨ましそうに見て私に流し目を送る飛竜ケンタッキー。

(わ、判ったよ。ケンタにも聖女の力を使ってあげるから、そんなデカイ図体して寂しげに羨ましそうに見んなよ!)

「さあ、聖女の森へと向けて出発だ!っとその前に少しだけ休憩しまーす。そこの拗ねたどデカイ飛竜がうざったいからね!」

 そうして私は呆れる皆を引き連れて、飛び立ってすぐ近くの草原へと舞い降りた。

(なんか締まらねーな、おい!)

 ーーーそして場所は変わるーーー

 ここは妖精の国『シュトルテラ』

「またアイツ、変なこと言い始めやがった。もう俺は知らん!ポルニャ、お前が相手しろ」

 そう呆れた顔で話すのは片手にタブレットを持って眼鏡を掛けた細身でサラリーマン風の男ラントン。一応白の妖精だ。

「えっ?本当にポルニャがやってもいいでちか?頑張るでち!」

 そしてちょっと語尾を変な感じで話すのが、白く長い髪を赤いリボンでサイドテールにして眉と目が同じ様に垂れている可愛い顔のポルニャだ。

「早くて安くて美味しいでちね?そして大盛りときましたでちか‥‥‥」

 そう言って両手を組んで「ウンウン」唸り小首を傾げるポルニャ。しばらくしてそのポルニャが「閃いた!」とばかりに細い眉を上げ細い目をバチクリと開き言った。

「御注文承りましたでち!」

 そして空中で静止して妖精魔法を発動した。

「ワタチが使うのは聖女の力で癒しでち。そしてあとは‥‥‥とにかく大盛りでち!」

 そして盛大に輝く白い光に驚き、現れた飛竜ダックの姿の変化に慌てたラントン。

「お、おいポルニャ、お前なにをした?あれはちょっと不味くないか?」

「ん?そうでちか?御注文通りでちよ?」

 そして不思議そうな顔をするポルニャにラントンが聞いてみた。

「それはどういう風にだ?」

「あの白の異世界人は早い安い美味しいで大盛りを注文したでち。だから早いは早く飛べるようにして、それと安いは鋭い体にしたでち。あとは美味しいだから良質の肉にしてあげたでちよ?それと大盛りでちたから最高のものになるようにしたでち。もう完ぺきでちよ!」

 空中で満足げでやりきった感を出しているポルニャ。そして呆れているラントンであった。

「はぁ、それでなんで安いで鋭い体にしたんだ?」

「ん?なに言ってるでちか、安いはゴシゴシ削って鋭くする道具だから鋭くするのは当たり前でちよ?ラントンはバカでちか?」

 ポルニャはラントンの目の前に飛んでいきオデコを付き合わせて説明する。それをラントンは両手で鷲掴みして振りほどき投げ捨てた。 

「お前それはヤスリだろ。安いと言うのは買い物する時に払うお金が少ないって事だ!それにあれは度が過ぎてるぞ!」

 その言葉に唖然とするポルニャ。だが彼女は能天気妖精だ。

「がーんでち。まあでもやってしまったことは仕方ないでち。許せでち」

「ぐぬぬ、やっぱり俺が対応するべきだった」

 そう言い争いをしていると再び奏からの依頼が舞い降りてきた。

『おかわり』

「お前はアホか!そんなもんあるか!」

 血管が切れるほどの雄叫びをあげるラントン。そして「承りました!でち!」と喜び再び「ウンウン」と唸り始めるポルニャ。

「ポルニャはもう手を出すな。俺がやる」

 そう言ってラントンは精霊魔法を使い奏の要望に答えた。

「ぐぬぬぬ、ラントンはワタチに任すと言ったでちよ!もう怒ったでちーーーー!」

 ポルニャはそう言ってどこかへ飛んでいった。そして1人残ったラントンは思案顔になっている。

(あの白の異世界人はに向かったのか‥‥それも俺達とにだ。ちょっとこれは不味くないか?仕方ない他の色の妖精達も連れて契約に向かってやるか)

 そう考えているラントンは何千年も生きている特殊な妖精だ。時間の概念が違うラントンは焦って急いでいるようだがその手に持つタブレットをのんびり眺めている。そんなラントン達は果たして間に合うのだろうか。


ーーーーー後書きーー―ー―

2022.9.1より開催されましたファンタジー小説大賞に参加しております。もし少しでもいいなと思って頂けたら私に投票をお願い致します。

トップメニューから『ファンタジー小説大賞』にアクセスして『7人の聖女プラス1』を探して頂き投票ボタンを押してもらえるとありがたいです。

なんか他に簡単に出来るのかな?探すの大変だと思いますが是非ともお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...