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七転び早起き

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腕試し編ートバルの街ー

129話 スズランと夏希

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 癒しを求めて街を駆け回った夏希。

 今日もスズランと晩酌をしている。

 スズランはビール片手に話をする。

「真冬は獣人村まで付いてくるのか?」

「ああ、何か街の領主と王都に行く事になって、それが面倒に思って逃げ出して高速馬車でこの街に来たんだとさ。それでまだ帰りたくないらしい」

 夏希はビールで喉を潤す。

「獣人村に行くまではギルドで依頼を受けてお金を貯めるんだって言ってた。ここの宿屋の宿泊料金は割りと高めだからな」

「真冬は変わったヤツじゃな。ワレの闇の姿を見ても何も言わん。反対にペンギンになれとあの眠たそうな目で訴えてくるのじゃ」

 スズランは真冬の賢さと優しさを見抜いていたが、話には出さなかった。

 夏希とススズランの晩酌は続いている。

 スズランは少しの間考えていたが、何か覚悟を決めたようで夏希に話し掛ける。

「夏希、そろそろワレのまほ……いや、あの、そうじゃ!新しい物語があると言っておったじゃろ。ワレはその物語が聞きたいのじゃ」

 夏希は小さく笑っていた。

「それじゃあ期待に応えましょうかね。今回の物語はちょっと短い。「わらしべ長者」だ」

「わらしべ?」

「ああ、トバルにはお米があるよな?あれの稲穂のことを「わらしべ」と言うんだ」

「おおそうか、判ったのじゃ。で?」

 スズランは早く先を聞きたいみたいだ。

「ある所に貧しい親子が居ました。母親はサーラで子供は女の子でアンナ」

「ん?父親のラグはどうしんじゃ?」

「狩りでトレントに飲み込まれて死んだ」

「ぶふっ!ま、またトレントに…は、腹が…」

 スズランは腹を押さえて転げまくる。

「アンナは街から出て30分ほど行った先の丘の上にある教会に行ってお祈りしたんだ。「幸せになれますように」とな。そしてその祈りを聞いた女神のスズランが舞い降りてきたんだ」

「おほー、ワレは今回は女神なんじゃな。夏希は見る目があるのじゃ」

 スズランは嬉しそうにしていた。

「女神のスズランがアンナに微笑んで言ったんだ。「今から最初に手に持った物で何かしなさい」とな。そしてアンナは女神にお礼を言って教会を出たんだ」

 夏希はビールを一口飲む。

「アンナは女神に会えたことが嬉しくてスキップしてたんだ。それで石に足を取られて転んだんだ。それも盛大に。その時アンナの右手にある物が握られた。それが稲穂の「わらしべ」だったんだ」

「アンナの怪我は大丈夫か?」

 そっちか…優しいね。

「アンナは女神に言われた通り、最初に手にした「わらしべ」を持って振り回しながらスキップして道を進んで行く。ああ、怪我はしなかったよ。
 そしてその振り回していた「わらしべ」にバシッ!と何かが当たって地面に落ちたんだ。アンナが見るとそこには蛾に生まれ変わったラグが居たんだ」

「蛾、ラグが蛾、トレントの次は蛾。ラグは楽しい人生を歩んでいるのじゃ。ぐひひひ、もう堪らん」

 スズランは床に這いつくばっている。

「アンナはそのラグ蛾を「わらしべ」に結んで頷くと、またその「わらしべ」を振り回してスキップを再開したんだ。子供は偶に残酷になるよな」

「ぶふぁ!愛娘に振り回される蛾のラグ……ぐふっ、こんなすぐにお代わりラグが出るなんて油断してたのじゃ。夏希、ちょ、ちょっと待つのじゃ」

 スズランは吹き出したビールで濡れた床を拭いて、吹き出し対策用のタオルを持ってきた。

「そこに裕福そうな馬車が通り過ぎようとしたが、アンナの横で止まったんだ。出てきたのは悪ガキに見えるコンテで、アンナの持っているラグ蛾が欲しいみたいでミカン1個と交換したんだ」

「ラグ蛾は愛娘にミカン1個で売られたのじゃな。世知辛い世の中になったものじゃな」

 スズランは腕を組んで「うんうん」と頷く。

「アンナはミカン片手にスキップで進んで行くと苦しそうにしているネネお婆さんが居たんだ。そのネネお婆さんは飲み物を切らして喉がカラカラになってたんだな。アンナは手に持ったミカンをあげたらお礼に綺麗な布巻をくれたんだ」

「アンナは優しいのじゃ」

「アンナはその綺麗な布巻を持ってスキップで進んで行くと今度は馬が倒れていたんだ。アンナが近付くと馬の持ち主が「馬が病気で死にそうだ。今すぐ街に行って布巻を買って村に帰らないといけないのに」と困っていたので綺麗な布巻をあげたんだ。
 そうしたら死にそうな馬で悪いが代わりに貰ってくれと言ってきたんだ。アンナは可哀想な馬を引き取って看病する事にした。アンナは長い時間を掛けて家まで連れて帰り看病したんだ。何日も。」

「うんうん、アンナはえらい。今回は割りと真面目な話じゃな。でも心暖まるいい物語なのじゃ」

 夏希はニヤリと笑うと続きを話す。

「馬はアンナの看病で元気になったんだ。その馬の姿はとても大きくて立派なもので、引っ越しを考えている裕福な老夫婦の目に留まったんだ。
 老夫婦は息子家族の所にお世話になるから、その馬とこの家を交換してくれたんだ。凄いよね。そしてアンナ親子はこの家で幸せに暮らすことになったんだな。
 アンナ親子は喜び、それを見ていた馬も幸せそうに笑っているアンナを見て喜んだんだ。足を踏み鳴らしてな。そこに悪ガキコンテから逃げ出したラグ蛾が何かを訴え掛けるように飛んで来たんだ。
 そして足を踏み鳴らしている馬に潰された」

「ぶはっ!ここでラグ蛾の再登場。それも即死。は、腹がよじれる。は、腹が…」

 幸せな物語を聞いて心暖まっていたスズランに、ラグ蛾の決死隊が炸裂したのであった。

「ラグ蛾は瀕死だが生きていた。そしてフラフラと飛びながらアンナの元まで来て言ったんだ」

 スズランは腹を押さえながら固唾を飲む。

わらひは、わらしべちょうちょじゃちょうじゃ

「わははははは、叩き落とされて振り回されるラグに愛娘に売られたラグ。そして蛾に間違われて馬に踏まれるラグ……今日はラグ三昧なのじゃ。ぐふふふ」

 とても楽しそうなスズランに夏希も嬉しくなる。そして頃合いかと話し掛ける。

「スズラン、魔法が切れるんだろ?俺はお前の姿が見たい。見せてくれるか?」

 スズランは夏希を上目遣いで見て、恥ずかしそうにモジモジしている。そして覚悟を決める。

「笑うで無いぞ。笑ったら今後ずっとペンギンで過ごすからな。判ったな?」

 スズランは夏希の正面に立つ。

 スズランを纏っていた闇が無くなっていく。

 数えきれない年月を闇で覆っていた姿が現れる。

 そして闇は消え去った。

 夏希の前には、背は140cmほどで肩まで伸ばした黒のメッシュが入った銀色の髪はキラキラと輝いている。
 優しそうな大きな目はホンの少し垂れていて透き通るような青い瞳であった。鼻と口は小さく可愛らしい。

 夏希はその姿を見て嬉しそうにしていた。

 スズランも夏希の様子を見て微笑む。

「初めまして、私の夏希」

「初めまして、俺のスズラン」

 2人の新しい出逢いだ。

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