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腕試し編ートバルの街ー

67話 孤児院

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 ニアと楽しくお茶デートをした夏希。

 夏希はニアに手を引かれて孤児院に向かっている。
 その歩みはその時間を惜しむ様にゆっくりとしたものだった。

「ニアは孤児だったんだな。今もギルドで働きながら孤児院に住んでいるの?」

「そうにゃ。私が6才の時にお母さんが病気で死んで孤児院に入ったにゃ。お父さんは知らないにゃ。冒険者だったらしいけど見たことないにゃ。
 13才でギルド職員見習いで雇ってもらって15才で正式にギルド職員になったにゃ。今も孤児院に住んでお手伝いしてるにゃ」

 ニアは優しい女の子だな。

「夏希さん、ホントに野菜貰っていいのにゃ?結構な量になるからお金を払うにゃ。ただ、少し安くしてくれたら助かるのにゃ」

 どうするかな?量が多いからタダだと反対にニアが気を使うかも知れないからな~。これからも気軽な関係で楽しくお喋りしたいんだよな。

「そうだな、安く売ることにするよ。どれでも1袋1キロで小銅貨1枚だ。(10円だな)貰い物だから遠慮は要らないからな」

「そ、それは安すぎにゃ」

 ニアは驚いた顔で俺を見ている。

「ははは、大丈夫だ。これでこの話は終わりだ。俺の村で作った野菜だ。めちゃくちゃ美味しいぞ」

 ニアの頭を撫でながらそう言うと、少し困ったような嬉しいような複雑な顔をしていた。

 2人は街の北東へ歩いている。街並みがほんの少しだけ寂れた感じを見せる。北にあるスラムが遠くない場所だ。

「ここですにゃ。子供達が騒がしいかも知れないけど許してにゃ」

 孤児院は教会かなと思っていたが、広い庭のある木造平屋の大きな家であった。

 木製の小さな門戸を開けるとその先は庭で奥に平屋の家がある。平屋は日本屋敷の様な作りで縁側がある。(日向ぼっこしたくなるな)

 庭では小さな子供達が色んな事をして遊んでいた。

「あ!ニアねーちやんだ。お帰りなさーい」

「「お帰りなさーい」」

 ニアに気が付いた子供達が声を掛けてくる。何人かはニアの周りに集まって来ている。(人気者だな)

 ここは獣人ばかりだな。子供達は皆小さい。(6才ぐらいまでの子供が特に多い。幼少の為の孤児院かな?)

 そう思ってると俺に視線を向ける子供達が居る事に気が付いた。その視線は色々な感情を秘めた視線であった。だが、話し掛けて来る子供は居ない。

「ここは獣人が多く住む場所にゃ。だから小さい子供達はあまり人族と話した事が無いから珍しくて見てるにゃ」

 子供達の視線は興味を示す視線が大半の様だ。ここは何か面白い事をして「お兄ちゃんは面白いな!」と、思わせる場面だな!

 夏希は思案する。

 夏希はアイテムボックスから自身の店である [ 駄菓子屋&アイス屋&化粧品屋&オモチャ屋夏希 ] のオモチャ屋部門の商品からオモチャを取り出した。(屋号なげーな)

 取り出したのは、けん玉だ。夏希は華麗にけん玉技を披露する。(見たか!これが7つの星の玉が飛び散る様に見える、奥義ドラゴ○ボールだ!)

 夏希はけん玉棒に玉を刺すことも無く、ただ玉を振り回すだけだった。

 子供達は大興奮だ。

「すげー、アイテムボックスだ!」

「見えない所から何か出た!」

 そっちかよ!

 まぁ、これで少しは仲良くなれるだろう…

 それから、お手玉や一押しの水鉄砲を出してあげたら子供達は喜んで遊んでいた。

「夏希さん、ありがとにゃ。子供達とても楽しそうにゃ。お茶を準備するからコッチに座って待っててにゃ。あと院長に紹介するにゃ」

 ニアは俺を縁側?に座らせて建物の奥に歩いて行った。

 夏希は庭で遊んでいる子供達を眺めながら待つ。(子供は可愛いなぁ。和むなぁ。(「ロリ」じゃ無いからな))

 暫くするとニアが2人の獣人女性を引き連れて来た。1人は初老の猫族の女性だ。もう1人はニアと同じぐらいの年齢に見える小柄な猫族の女性だ。(猫族比率高いな)

「紹介するにゃ。院長のチェンリさんとお手伝いのマリアナさんですにゃ。こちらは夏希さんにゃ。今日は野菜を安く売ってくれる為に来てくれたにゃ。感謝なのにゃ」

「わざわざありがとうございます。育ち盛りの子供達ばかりなのでとても助かります。私が院長のチェンリと申します。子供達にも何か頂いた様ですね。何も無いところですが、ゆっくりして行ってください」

 初老の女性が深々と頭を下げた。その隣の女性は朗らかに微笑んでいる。(初老の女性が院長だな)

「子供達は可愛いですね。でも15人も居るとお世話が大変そうです。ニアはギルドの仕事があるから普段は2人でこの人数を見てるんですよね」

「院長の私は事務や孤児院管理の仕事があるので、マリアナが1人で見ている様なものです。大変なのに良く頑張ってくれています」

 院長と並んで座っているマリアナは、照れて恥ずかしそうにしていた。

「ここは小さい子が多いみたいですが、幼児向けの孤児院なんですか?」

「いえ、年齢制限は13才迄なんです。ただ、今居る人数が予算的にも人員的にも限界なので必然的にこうなったんです。本当はまだまだ助けたい子供達がたくさん居るんですよ。孤児院に入れなかった子供達はスラムの街に住んで居るんです」

 院長は悲しそうな顔をしている。(優しい人だな。だからニアも優しい性格になったんだろうな)

「ただ、救いなのはスラムの大人達が子供達を虐める事も無く見守ってくれている事です。援助は難しいみたいですが…」

 話を聞いてみると、10才前後の孤児達が1つの建物で生活している様で10才以上の子供は冒険者見習いになって僅かなお金を稼ぎ、少し下の年齢の子はその間、最年少組の子供達の面倒を見ているらしい。人数は20人を越える。(多いな…孤児院で面倒見るのは無理だな)

 俺に出来る事はあるのか?

 中途半端な事は良くない。今は申し訳無いがスラムで生活する子供達には頑張ってくれと思う事しか出来ない。

 院長を含めて話をしていたが、いい時間になって来ている。(そろそろお暇するかな)

「ニア、そろそろ帰ろうと思う。野菜を出したいんだが何処にだせばいい?」

「そうですにゃ。調理場に保管室があるからそこで出して欲しいにゃ。付いて来てくださいにゃ」

 俺はニアの後ろを歩いていく。私の後ろに院長のチェンリさんとマリアナさんも付いてくる。

 調理場は12畳ぐらいで広い。その奥に保管室があるようだ。(保管室は6畳ぐらいだな)

「ここに出してくださいにゃ」

 俺はニアが指定した場所にアイテムボックスから野菜をこれでもかと出して行く。(大盤振る舞いじゃ!)

「な、夏希さん。多すぎるにゃ。こんなに食べ切れないにゃ。あ、あ、もう出すの止めるにゃ!」

 夏希は調子乗っていた。出した野菜は保管室から溢れ調理場を侵食していた。(あははは、笑って誤魔化す~)

「ははは、やり過ぎたな。これぐらいかな?」

 夏希は腐り易い物は適量に、腐り難い物は多めに調整して出し直した。

「夏希さんからアイテムボックス持ちと聞いた時とても驚きましたが、容量がとても多いみたいで驚きが2倍になったにゃ。普通は馬車一台分ぐらいの容量だにゃ。こんなに入るアイテムボックスは珍しいにゃ」

「これでいいかな?お代は占めて銅貨5枚だな」

「いや、計算おかしいよ!これだけあるんだよ。保管室いっぱいだよ。お店で買ったら金貨が必要だよ!1キロ小銅貨1枚って言ってたけど、これどう見てもそれ以上あるよ。これっておかしいよ~(涙)」

 ニアは混乱している。

「まぁ、貰える物は貰っておけ。また必要になったら売ってやるからな。まだこの10倍以上あるぞ。」

「10倍以上って…」

 ニアは大混乱している。

「ついでにオークが二頭あるから出しとくな」

 夏希は調理場の作業台横のスペースに二頭のオークを出したのであった。

「これで子供達も腹一杯だな。この街にいる間は野菜が必要になったら必ず言えよ。遠慮して言ってこなかったら怒るからな。予算助かるだろ?」

 ニアは大混乱状態から戻って来ていた。

「そうですにゃ。正直に言うと子供達の服を買い替えたかったので良かったですにゃ。これで全員分買えそうにゃ。夏希さんありがとうございますにゃ」

「そんなに予算厳しいのか?街から援助金出てないのか?街の領主が悪いのか?」

 夏樹は質問責めだ。(「S」じゃ無いよ)

「街から予算は貰ってますが少し厳しいんです。元々この孤児院は10人で認可された施設で、予算が10人で計算されているんです。2年前ぐらいから孤児が増えて、予算増額の申請をしてるのですが断られてしまって…」

 ニアは苦痛の表情だ。(言葉も素に戻ってるし)

「この街の領主は、「ツバート・トバル子爵」なんですが悪い領主では無いんです。ただ獣人を良く思わない人が役所に何人か居るんです。その他で嫌がらせとかは無いんですが…」

「そうか、難しい話だな。俺に出来る限りの事は相談に乗るからな、今はそれだけしか言えない。ごめんな」

「いえ、野菜もたくさん安く売って頂いてますし、こうやって話を聞いて貰えるのも嬉しいです。ありがとうございます」

 夏樹は歯痒い思いをしながら孤児院を後にした。
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