25 / 66
第三章 フィオレンツァの成り上がり物語…完結!?
04 降って沸いた?婚約話
しおりを挟むスカーレットの鮮烈な女公爵デビューから二日後。
休暇を取ったフィオレンツァはミリウスと共に王都で買い物をしていた。彼が王都に来ることになった時から手紙などで相談して計画していたことだ。護衛なんて大層なものは連れていないので出歩くことができるのは、本当に安全な限られた区域だけだったが、ミリウスの目には何でも新鮮に見えるのか楽しそうにしていた。すでに家庭教師を招いて貴族としてのふるまいを勉強している弟のために、少し上等な文房具や王都でしか手に入らない書物などを揃えてやる。一通り買い物を終え、カフェで食事をして、一日かけてたっぷり王都を満喫した。
そのまま父と弟が泊まっている貴族専用ホテルにミリウスを送り届ける。そして王宮に戻るための馬車に乗ろうと、フィオレンツァはホテルの一角に設置された寄合場へと向かった。
徒歩でも王宮に戻ることはできるが、少々門番の対応が雑なのだ。以前馬車に乗らずに王宮の門をくぐろうとした時、ねちねちとくだらない質問をされ下品な視線を向けられ、馬車の時の三倍の時間をかけられて辟易した。今のように懐に多少の余裕ができてからは、フィオレンツァも門をくぐるときだけ馬車を使用するようにしている。
「フィオレンツァ、待ってくれ。私も王宮へ行く」
「お父様!?」
寄合場で馬車を待つ列に並ぼうとしていたフィオレンツァに、父のホワイトリー伯爵が駆け寄った。きっちりと貴族としての正装をしている。
「お父様、王宮へ行くなどと…どうされたのですか?」
「国王陛下に呼ばれたのだ。このままお前と一緒に謁見する」
「え、ええ!?」
フィオレンツァは目を剥いた。どうして貧乏貴族…もう貧乏ではないが…中央から離れて久しいホワイトリー伯爵が、国王に謁見などということになったのか。
「どうして?何かあったのですか?」
「…国王陛下から直接お話があるだろう。心配するな、悪い話ではないはずだ」
いやいや、いま話してくださいよ。怖いわ。父の顔はかなり強張っている。これで「悪い話ではない」と言われてもなんの説得力もない。かといって国王に謁見はどうやら決定事項らしく、フィオレンツァが嫌だと言って拒めるものでもなさそうだ。
王宮に着くと待っていたヨランダによって手早くドレスに着替えさせられ、髪も結い直された。父と再び合流し、エスコートされて本館へ向かう。上位の女官になったフィオレンツァでも、年に数回しか入ったことのない本館だ。玉座のある謁見の間はもちろん初めて通される。
…いや、本当に何事ですか?
「ホワイトリー伯爵ナサニエル殿と、ご息女のフィオレンツァ嬢です」
名前を呼ばれ、謁見の間の扉が仰々しく開く。一度礼をした後、中央まで進み、下を向いたまま貴族淑女の礼をした。
「面を上げよ」
フィオレンツァとホワイトリー伯爵は顔を上げる。玉座には国王ガドフリーと王太后アレクザンドラが座り、グラフィーラ王妃とユージーン王太子がそれぞれ玉座の後ろに立っていた。さらに玉座から少し離れて、普段は重臣が立つだろう場所には見知った顔ばかりだった。テッドメイン宰相はいても不思議ではないが、バーンスタイン夫人、女公爵となったばかりのスカーレットと夫のブレイク、そして第三王子のアレクシスと錚々(そうそう)たる顔ぶれだ。
どういうことなの…。いっそ気絶してやろうか。
「ほう、そなたがフィオレンツァか。伯爵、そなたに似て美しい娘ではないか」
「…きょ、恐縮です」
ガドフリー国王がフィオレンツァを上から下までじろりと嘗め回す。嫌な感じだ。こちらを見るグラフィーラ王妃の目つきがややきつい気がする。
「父上、早く話を進めてください」
フィオレンツァの不安を感じ取り、父を急き立てたのはアレクシス王子だった。一瞬目が合い、にこりと笑いかけられた。
あー、本当にいい男になった。笑いかけられただけでお腹がなんだかむずむずする。アレクシスと会う度に、自分も一端に女だったんだなぁと自覚するのだ。
「ううむ、分かった。…宰相」
「かしこまりました」
フィオレンツァが達観している間にも、話は進んでいく。
「ホワイトリー伯爵ナサニエル殿、王命を伝えます」
「はっ」
ホワイトリー伯爵が膝をつき、フィオレンツァもそれに続いた。
「本日王命をもって、ナサニエル・ホワイトリーの四女フィオレンツァ・ホワイトリーを、第三王子アレクシスの婚約者に任命する。婚約期間は半年とする。なお第三王子は二ヵ月後の成人の儀式にて公爵に臣籍降下する予定であり、フィオレンツァは王族ではなく公爵家に迎い入れられる」
「承ります」
「…」
父に倣ってフィオレンツァも頭を下げた。…というか、頭が真っ白でそうせざるを得なかった。
婚約!!?
誰と誰が?
フィオレンツァとアレクシス王子が…婚約?
こ ん や く ! ?
蒟蒻じゃなくて?
婚約期間半年…半年後に結婚しろと!!
頭がぐるぐる回る。なのに体はきちんと動く。おかしな感覚だった。
そのまま父にエスコートされ、別室へと促される。
お腹が気持ち悪い。吐きそう。
あとから合流するテッドメイン宰相から詳しい説明があると言われた。
うん、無理。
「宰相閣下がおいでになるまでお待ちください」と案内の女官によって別室の扉が閉められたと当時に、フィオレンツァはたまらず気絶した。
23
お気に入りに追加
2,025
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる