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真相編
あなたの人生、高額買取り致します
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「おい、なんか見つかったか?」
某日。警察は段田慎之介殺しの重要参考人として、行方のわからない野中海里の部屋を、令状を取り捜索していた。
「それが、クローゼットからこんなものが」
捜査員が出したのは、大量のフィギュア。
「うわ、なんだこれ。どれも茶髪でパーマ……顔まで一緒じゃねえか。これ既成品か?」
「いや、野中が一から作ったもののようです」
「げ。気色悪っ」
そのフィギュアの表情は、どれも悲しげに微笑む。
「あ! これ、あれじゃねえか? あのほら、めちゃめちゃヒットした海外の……船が沈んで! ほら、デカプリオの!」
「タイタニックですか?」
「そうそれ! それのヒロインにそっくりだろ?」
「はあ。よくわかんないです」
部下はこの警部の話がよく本筋から脱線してしまうことに、日頃悩まされていた。なんとか話を元に戻し、新情報を手に話し出す。
「野中海里に頼れるような身内は居ません。どうやら母親は生きているようなのですが、本人の意向で関わり合いにはなりたくないと。居場所も絶対に知られたくないようです」
「はあ? なんでまた」
「詳しいところはよくわかりませんが、たった一言『あの子は呪われた子だから』って」
呆れたように唇を曲げる警部に、部下は続ける。
「それからこの写真。野中の大学時代の友人で佐々木淳という男なんですが、隣に写る女性は妻ではなく不倫相手だそうです。野中は他にもこのような弱みを握って、それをネタに借金をさせたり連帯保証人を無理やり立てたり。会社でも黒い噂が立つほどやりたい放題だったようですよ」
「なるほどな。野中には万引きや痴漢の前科もあるようだし、信憑性は高いな」
「それがある日突然、人が変わったみたいに真面目に働くようになったらしいですけど」
「真面目にねえ……」
その時、部屋のインターホンが押された。
「あの、お届け物——」
配達員は、わらわら出て来る警察関係者の姿にギョッとする。
「それ野中海里宛て? どこから?」
「あ、通信販売みたいっすけど」
捜査員は荷物を受け取ると、雑にガムテープを剥ぎ取り、中身を確認する。
「なんだこれ」
そこには段ボールにびっちり詰められた、タバコのパッケージ。
「50個以上はあるな。野中って喫煙者か?」
「いや、そんな情報はありませんね」
その後も捜索は続くが、ガランとした部屋から出てくるものにも限界があった。
「こんなに綺麗に自宅整理して、初めから逃げる気満々だったってわけか……」
行き詰まる捜査に、進展の足音。
「警部! 野中のスマホが、ビニールに入れられた状態でトイレのタンクで見つかりました! なにか手がかりがあるのかもしれません」
警部と呼ばれた男の手元に、スマートフォンが渡る。中身を確認するも、電話帳も画像データも、綺麗さっぱり消えていた。
メールフォルダも同様だろう、そんな気持ちでアプリをタップすれば、たった1通だけ不自然に残るメッセージ。
「あ? なんだこの迷惑メールは」
警部はそのスマートフォンを早々に部下に返した。鑑識が持っていったそのスマートフォンにはその後、“証拠能力なし、復元不可”の札がつけられることになる。
野中海里の行方は、未だ誰にも分からない。
※この物語はフィクションです。
“あなたの人生、高額買取致します”
著者 権堂薫
某日。警察は段田慎之介殺しの重要参考人として、行方のわからない野中海里の部屋を、令状を取り捜索していた。
「それが、クローゼットからこんなものが」
捜査員が出したのは、大量のフィギュア。
「うわ、なんだこれ。どれも茶髪でパーマ……顔まで一緒じゃねえか。これ既成品か?」
「いや、野中が一から作ったもののようです」
「げ。気色悪っ」
そのフィギュアの表情は、どれも悲しげに微笑む。
「あ! これ、あれじゃねえか? あのほら、めちゃめちゃヒットした海外の……船が沈んで! ほら、デカプリオの!」
「タイタニックですか?」
「そうそれ! それのヒロインにそっくりだろ?」
「はあ。よくわかんないです」
部下はこの警部の話がよく本筋から脱線してしまうことに、日頃悩まされていた。なんとか話を元に戻し、新情報を手に話し出す。
「野中海里に頼れるような身内は居ません。どうやら母親は生きているようなのですが、本人の意向で関わり合いにはなりたくないと。居場所も絶対に知られたくないようです」
「はあ? なんでまた」
「詳しいところはよくわかりませんが、たった一言『あの子は呪われた子だから』って」
呆れたように唇を曲げる警部に、部下は続ける。
「それからこの写真。野中の大学時代の友人で佐々木淳という男なんですが、隣に写る女性は妻ではなく不倫相手だそうです。野中は他にもこのような弱みを握って、それをネタに借金をさせたり連帯保証人を無理やり立てたり。会社でも黒い噂が立つほどやりたい放題だったようですよ」
「なるほどな。野中には万引きや痴漢の前科もあるようだし、信憑性は高いな」
「それがある日突然、人が変わったみたいに真面目に働くようになったらしいですけど」
「真面目にねえ……」
その時、部屋のインターホンが押された。
「あの、お届け物——」
配達員は、わらわら出て来る警察関係者の姿にギョッとする。
「それ野中海里宛て? どこから?」
「あ、通信販売みたいっすけど」
捜査員は荷物を受け取ると、雑にガムテープを剥ぎ取り、中身を確認する。
「なんだこれ」
そこには段ボールにびっちり詰められた、タバコのパッケージ。
「50個以上はあるな。野中って喫煙者か?」
「いや、そんな情報はありませんね」
その後も捜索は続くが、ガランとした部屋から出てくるものにも限界があった。
「こんなに綺麗に自宅整理して、初めから逃げる気満々だったってわけか……」
行き詰まる捜査に、進展の足音。
「警部! 野中のスマホが、ビニールに入れられた状態でトイレのタンクで見つかりました! なにか手がかりがあるのかもしれません」
警部と呼ばれた男の手元に、スマートフォンが渡る。中身を確認するも、電話帳も画像データも、綺麗さっぱり消えていた。
メールフォルダも同様だろう、そんな気持ちでアプリをタップすれば、たった1通だけ不自然に残るメッセージ。
「あ? なんだこの迷惑メールは」
警部はそのスマートフォンを早々に部下に返した。鑑識が持っていったそのスマートフォンにはその後、“証拠能力なし、復元不可”の札がつけられることになる。
野中海里の行方は、未だ誰にも分からない。
※この物語はフィクションです。
“あなたの人生、高額買取致します”
著者 権堂薫
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