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詮ずる所

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 遥と涼子がアクビスに潜入するのは本日十九時。彩美は、明日の午前に説明会のアポを取った。
 翔太も事務所に合流し、最終確認を行う。
 
「ザラムの集いは明後日。そこで選定される三十六人に入るためには、バッジが必要になります」
「バッジってどうやったらもらえるの?」
 
 翔太の説明に涼子が反応する。
 
「幹部クラスが勧誘部門と生活部門の人を選んで、丸い銀バッジを渡すそうです。そのバッジをもらった人が三十六人候補になる。たか絵さんの話では、選ばれる人は三十代から五十代くらいの人で、太っていたり貧弱な人だったり極端な体型の人が多いみたいっすね」
 
 九条は口をへの字に曲げながら、遥と涼子をまじまじと見た。
 
「あんたたち、二人とも太っているようにも貧弱そうにも見えないぞ。それに集いは明後日なんだろう? バッジはどうやって手に入れるんだ」
「盗みます」
 
 遥の自信満々な顔に、九条は不安を覚える。
 
「たか絵さんと舞ちゃんがバスに乗り込み次第、私と涼子さんは彩美さんと合流。その後洸太さんと大さんを捜索し、二人と共に確保してある出口から脱出します」
「当日は俺も近くで待機する。白井くん、って言ったか。通信機器はどれくらい用意があるんだ」
 
 翔太は持っていた巾着をひっくり返す。ゴロゴロっと音を立ててテーブルにいくつか機器が転がった。
  
「すみません、三つしかないです。先輩と涼子さん、それから俺が外で使おうと思ってて。里の側まで行けば電波も拾えるんで」
「では、白井くんには俺と繋がれる通信機器を別にこちらで用意しよう。何度も言うがくれぐれも無理はするな。最悪の場合、俺の責任で里に突入する。危険を察知したらすぐに白井くんに知らせるんだ」
 
 その場にいた全員が頷くと、九条は一息つくようにソファの背もたれにグッと身を預けた。
 
「それにしても。警察でも考えあぐねていた事件の概要を、こうも簡単に掴んでしまうとは。君や探偵業を蔑む発言をしたこと、撤回するよ」
 
 気まずそうにおでこを掻けば、その九条の左手に遥が反応を示した。
 
「つかぬことを伺いますが」
「なんだ」
「指輪、していませんね。左手の薬指」
 
 ああ、と九条。
 
「妻は随分前に亡くなったんだ」
 
 遥が慌てて不躾な質問を詫びれば、九条は顔の前で手をひらひらとなびかせて笑う。
 
「いいさ。普段は人に質問ばかりする職業柄なんでな。自分のことを訊かれて腹を立てる、そんな理不尽なことはしない。それに、相手に悪意があるのかないのかぐらいは流石にわかる。気にしなくていい」
 
 遥と九条のやりとりを、涼子はぽうっと見つめる。
 
 物事を冷静に、論理的に考えられる所。人をよく見ている所。目の前にある問題に対峙し、戦う所。そしてその全てには、善意が前提としてあること。
 
(似ているわ……遥と、九条さん)
 
 自分は遥が好き→遥と九条が似てる→つまり自分は九条が好き。
 
「……好き」
 
 涼子は脳内で繰り広げられたロジックにたまらず声を漏らした。その声はタイミングよく部屋に訪れた静けさに乗って、九条の耳にしっかりと届く。
 無論、皆にも。
 
「告白、ですか」
「急に大胆っすね。涼子さん」
 
 遥と翔太の視線を受けて、涼子はやっと我に返った。

「——ち、違うわよ! やめてよもう! ほら、ボケてないで、作戦に集中!!」
「わかりやすっ」
「慌てすぎっす」
「だから! 違うってば!」
 
 遥が九条を横目に見れば、急になんの騒ぎだと戸惑いを浮かべていた。その鈍感な表情に、遥は苦笑いで眉を下げたのだった。
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