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プロローグ 終わりの始まり。
#2
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━━━━今日は、いい日だ。
…………なんて、あの時も思った気がする。
陽射しは暖かくて、風は心地いい。
飾られた色とりどりの花々はほのかに甘い香りを漂わせて、テーブルクロスはひらひらと風に揺れる。
「料理の準備は?皆、髪飾りにペンダントはつけた?」
「嗚呼、シャロット。執事長の貴方が着替えなくてどうするの?さ、はやく着替えておいでなさい。」
「それから、ペータスはどこ?式典の最終チェックと、来客リストの確認をしたいのだけれど…」
晴天の空は、平和の象徴。
災厄の去りし日は必ず晴れ渡り、死した二人の英雄は天より我らを見守らん。
───今日はかつて世界を守り息絶えた英雄の死んだ日。
彼と彼女の栄光を称え、成し遂げた偉業の恩恵がまだ続いていることを示す十日に渡る祭典の日。
女性は凛々しい英雄がつけていた燃え盛る魔法石の髪飾りを。
男性は猛々しい英雄が下げていた波打つ魔法石のペンダントを。
身分を問わず全ての人はそれらを身につけ、二人の英雄へと敬意を表し、感謝する。
「ノエル様、そろそろ開門の時間です。各国の使節団の方々もちらほら、見えております。」
「あぁ、ネルにヘラ。もうそんな時間?……陛下は?」
「既に門の方にいらっしゃいますよ!情婦と一緒にいらっしゃるのでちょうど良い見世物になってます!」
べつに、その二人の英雄がこの国の出身だったわけでも、この地で息絶えた訳でもない。
言ってしまえば、感謝していたのなんて災厄を目にしていた人々が生きた数十年だけ。
今では歴史として語られるばかりで、本当の怖さを知るものは誰一人残っていない。
勿論、そのことに不満はない。
人々は忘れ、成長してゆく生き物だ。
寧ろ、平和になった世界を謳歌する人が増えたことに喜んでいる自分がいた。
「全く…陛下はなぜ自分から民の評価を下げるのか…私には理解できないわ。」
「仕方ありませんよ!頭がゴブリン並に弱いみたいですから!」
「おい、ゴブリン馬鹿にするな。知性低いけどカタコトで可愛」
「陛下。口調戻ってますよ。」
「…………んん゛っ。兎に角、一緒にしたら可哀想よ。ゴブリンが。」
───今日はいい日だ。
晴天の空に心地のいい風。
遠くから聞こえる楽器の音色に、心を弾ませ。
燃え盛る髪飾りで髪を彩った。
頭を悩ませる馬鹿な王はいようとも。
今日ばかりは穏やかな時間に身をゆだねることにしよう。
「ヘラ、ペータスを探してきて頂戴。最終チェックがしたい、と伝えればすぐに分かると思うわ。」
「はい!わかりました!」
「さ、門に向かいましょう。ワガママな暴君様が怒ってしまうわ。」
胸いっぱいに空気を取り込み空を仰ぐ。
ああ、そういえば…
―――――あの日も、綺麗な晴天だったな。
「……アリエッティ様。」
「………その呼び方はやめてくれ。もう、死んだ名だ。」
「…だが、今だけは許そう。なんだい、ネル。」
「……今一度、貴方様に礼を告げたく。」
傅く様を見下ろして、ため息を一つ。
「……まったく、お前も毎年、毎年、飽きないものだ。今年は…」
「歳を重ねる度、感謝は大きくなるばかりでございますから。」
「まったく、本当にお前はジェラに似ているよ。恩義を重視するところとか特にな。」
「それは誉め言葉として受け取っておきます。……本当に、ありがとうございました。…魔王陛下。」
嗚呼、今日は。
―――――魔王が死んで、百年目の年だ。
…………なんて、あの時も思った気がする。
陽射しは暖かくて、風は心地いい。
飾られた色とりどりの花々はほのかに甘い香りを漂わせて、テーブルクロスはひらひらと風に揺れる。
「料理の準備は?皆、髪飾りにペンダントはつけた?」
「嗚呼、シャロット。執事長の貴方が着替えなくてどうするの?さ、はやく着替えておいでなさい。」
「それから、ペータスはどこ?式典の最終チェックと、来客リストの確認をしたいのだけれど…」
晴天の空は、平和の象徴。
災厄の去りし日は必ず晴れ渡り、死した二人の英雄は天より我らを見守らん。
───今日はかつて世界を守り息絶えた英雄の死んだ日。
彼と彼女の栄光を称え、成し遂げた偉業の恩恵がまだ続いていることを示す十日に渡る祭典の日。
女性は凛々しい英雄がつけていた燃え盛る魔法石の髪飾りを。
男性は猛々しい英雄が下げていた波打つ魔法石のペンダントを。
身分を問わず全ての人はそれらを身につけ、二人の英雄へと敬意を表し、感謝する。
「ノエル様、そろそろ開門の時間です。各国の使節団の方々もちらほら、見えております。」
「あぁ、ネルにヘラ。もうそんな時間?……陛下は?」
「既に門の方にいらっしゃいますよ!情婦と一緒にいらっしゃるのでちょうど良い見世物になってます!」
べつに、その二人の英雄がこの国の出身だったわけでも、この地で息絶えた訳でもない。
言ってしまえば、感謝していたのなんて災厄を目にしていた人々が生きた数十年だけ。
今では歴史として語られるばかりで、本当の怖さを知るものは誰一人残っていない。
勿論、そのことに不満はない。
人々は忘れ、成長してゆく生き物だ。
寧ろ、平和になった世界を謳歌する人が増えたことに喜んでいる自分がいた。
「全く…陛下はなぜ自分から民の評価を下げるのか…私には理解できないわ。」
「仕方ありませんよ!頭がゴブリン並に弱いみたいですから!」
「おい、ゴブリン馬鹿にするな。知性低いけどカタコトで可愛」
「陛下。口調戻ってますよ。」
「…………んん゛っ。兎に角、一緒にしたら可哀想よ。ゴブリンが。」
───今日はいい日だ。
晴天の空に心地のいい風。
遠くから聞こえる楽器の音色に、心を弾ませ。
燃え盛る髪飾りで髪を彩った。
頭を悩ませる馬鹿な王はいようとも。
今日ばかりは穏やかな時間に身をゆだねることにしよう。
「ヘラ、ペータスを探してきて頂戴。最終チェックがしたい、と伝えればすぐに分かると思うわ。」
「はい!わかりました!」
「さ、門に向かいましょう。ワガママな暴君様が怒ってしまうわ。」
胸いっぱいに空気を取り込み空を仰ぐ。
ああ、そういえば…
―――――あの日も、綺麗な晴天だったな。
「……アリエッティ様。」
「………その呼び方はやめてくれ。もう、死んだ名だ。」
「…だが、今だけは許そう。なんだい、ネル。」
「……今一度、貴方様に礼を告げたく。」
傅く様を見下ろして、ため息を一つ。
「……まったく、お前も毎年、毎年、飽きないものだ。今年は…」
「歳を重ねる度、感謝は大きくなるばかりでございますから。」
「まったく、本当にお前はジェラに似ているよ。恩義を重視するところとか特にな。」
「それは誉め言葉として受け取っておきます。……本当に、ありがとうございました。…魔王陛下。」
嗚呼、今日は。
―――――魔王が死んで、百年目の年だ。
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