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プロローグ 終わりの始まり。
#1
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───今日は、いい日だ。
何となく、そう思った。
風は心地よくて、差し込む陽射しが暖かい。
血の匂いは不快だが、それでも、草木の香りが心地いい。
おかしいな、日は、暖かいのに、視界は真っ暗で。
声を出そうと息を吐いても、苦しい嗚咽が漏れ出すだけで。
暖かいのに、寒くて。
あぁ、もう…長くないんだ。そう実感するのに時間は必要としなかった。
「……アリィ、まだ…生きてるか?」
遠くに聞こえる、愛おしい声が。
ずるり、ずるり、と尾を引き摺る音が。
苦しげな、地を這うような、吐息の音が。
触れた、彼の濡れた鉤爪が。
まだ、私を死なせてはくれない。
今にでも途切れてしまいそうな意識を振り絞って。
見えもしない瞳を、開いて。
息を吸うことも、吐くことも辛いのに。
動く度に、骨が軋んで痛むのに。
身体は、痛みなんて気にしてくれなくて。
「…テオ。そこに…いる、のか?」
「……あぁ此処に、いるよ。」
伸ばした手に、鱗の混じった肌が触れる。
ひんやりと冷たいけれど、生暖かい液体が私の手の甲を伝って、ぽた、と頬に落ちた。
つん、と鼻に刺さる鋭い鉄の匂い。
息も絶え絶えで、きっと、身体はもう、殆どない。
「………いい、人生、だったな。」
「俺、ら…人じゃ、ないだろ?」
「はは…なら、わたし、は魔生、でテオ…は、狼生?」
「ふ…あぁ、いい、狼生……だっ、た」
「………………わた、しも……いい…ま……生…だ、った」
ぼんやりと、遠のく意識の中で、私達は馬鹿みたいな会話をした。
寝落ち寸前の、ふわふわとした感覚。
アレが楽しかった。
コレもしたかった。
あそこに行った。
こっちには行けなかった。
溢れてくる思い出は、どれもこれも美しくて。
「は、は……なか、なか…死ね、ねぇな…も、話す…ネタ…おもい、つかねぇぞ」
「おた、がい……がん、じょ…なの、が…仇…に…なっ……た…な」
もう、多分殆ど死んでいる。
目も、もう開かなくて。
手も、感覚がなくなって。
耳は、彼の声以外聞こえなくて。
世界に2人しかいないみたい、なんて柄にもないこと思ってしまう。
「……な、ぁ…ア、リィ……」
「ん……?」
微かに、彼が、隣で、うごいた。
血で、ぐちゃぐちゃの、私の、腹を、抱いて。
浅く、なった呼吸が、みみもと、で、聞こえる。
「も、し……つぎ、が……ぁ…ったら…な、に…した、い?」
「……は、は…らい、せの……は、なし?……そ、だな…………」
やりたいことはいっぱいあった。
けれど、やるべきことのほうがたくさんあった。
だから、まぁ…がまん、ばかりの…せいかつ、だった。
でも、わたし、は…それで…よかっ、た。
みんな、がしあわ、せに。
わら、い、あえるな、ら、それ、で。
けど、 もしも…
もう一度なんてあるのなら。
「………ま、た……こい…し、たい…な」
「…だれ、と?」
すこしだけ、すねたような、こえ。
ばか、だなぁ。
わたしが、
「おまえ、いがい…すき、に…なるわけ、ない……だ、ろ?」
「あ……ぁ…。……そう…か。………よか、っ……」
いき、が、とだえた。
ふあんが、ぜんぶ、きえたように。
とけて、いく、ように。
「……………あぁ…よう、やく……か。」
途端に、軽くなる身体。
未練はもうない、とでも言うように。
霧がかった思考も、血が満たし、重たくなった肺も。
ぜんぶ、全部軽くなって。
……………何もかもが、消えて。
絹の糸が、淡く、ぷつり、ときれた。
何となく、そう思った。
風は心地よくて、差し込む陽射しが暖かい。
血の匂いは不快だが、それでも、草木の香りが心地いい。
おかしいな、日は、暖かいのに、視界は真っ暗で。
声を出そうと息を吐いても、苦しい嗚咽が漏れ出すだけで。
暖かいのに、寒くて。
あぁ、もう…長くないんだ。そう実感するのに時間は必要としなかった。
「……アリィ、まだ…生きてるか?」
遠くに聞こえる、愛おしい声が。
ずるり、ずるり、と尾を引き摺る音が。
苦しげな、地を這うような、吐息の音が。
触れた、彼の濡れた鉤爪が。
まだ、私を死なせてはくれない。
今にでも途切れてしまいそうな意識を振り絞って。
見えもしない瞳を、開いて。
息を吸うことも、吐くことも辛いのに。
動く度に、骨が軋んで痛むのに。
身体は、痛みなんて気にしてくれなくて。
「…テオ。そこに…いる、のか?」
「……あぁ此処に、いるよ。」
伸ばした手に、鱗の混じった肌が触れる。
ひんやりと冷たいけれど、生暖かい液体が私の手の甲を伝って、ぽた、と頬に落ちた。
つん、と鼻に刺さる鋭い鉄の匂い。
息も絶え絶えで、きっと、身体はもう、殆どない。
「………いい、人生、だったな。」
「俺、ら…人じゃ、ないだろ?」
「はは…なら、わたし、は魔生、でテオ…は、狼生?」
「ふ…あぁ、いい、狼生……だっ、た」
「………………わた、しも……いい…ま……生…だ、った」
ぼんやりと、遠のく意識の中で、私達は馬鹿みたいな会話をした。
寝落ち寸前の、ふわふわとした感覚。
アレが楽しかった。
コレもしたかった。
あそこに行った。
こっちには行けなかった。
溢れてくる思い出は、どれもこれも美しくて。
「は、は……なか、なか…死ね、ねぇな…も、話す…ネタ…おもい、つかねぇぞ」
「おた、がい……がん、じょ…なの、が…仇…に…なっ……た…な」
もう、多分殆ど死んでいる。
目も、もう開かなくて。
手も、感覚がなくなって。
耳は、彼の声以外聞こえなくて。
世界に2人しかいないみたい、なんて柄にもないこと思ってしまう。
「……な、ぁ…ア、リィ……」
「ん……?」
微かに、彼が、隣で、うごいた。
血で、ぐちゃぐちゃの、私の、腹を、抱いて。
浅く、なった呼吸が、みみもと、で、聞こえる。
「も、し……つぎ、が……ぁ…ったら…な、に…した、い?」
「……は、は…らい、せの……は、なし?……そ、だな…………」
やりたいことはいっぱいあった。
けれど、やるべきことのほうがたくさんあった。
だから、まぁ…がまん、ばかりの…せいかつ、だった。
でも、わたし、は…それで…よかっ、た。
みんな、がしあわ、せに。
わら、い、あえるな、ら、それ、で。
けど、 もしも…
もう一度なんてあるのなら。
「………ま、た……こい…し、たい…な」
「…だれ、と?」
すこしだけ、すねたような、こえ。
ばか、だなぁ。
わたしが、
「おまえ、いがい…すき、に…なるわけ、ない……だ、ろ?」
「あ……ぁ…。……そう…か。………よか、っ……」
いき、が、とだえた。
ふあんが、ぜんぶ、きえたように。
とけて、いく、ように。
「……………あぁ…よう、やく……か。」
途端に、軽くなる身体。
未練はもうない、とでも言うように。
霧がかった思考も、血が満たし、重たくなった肺も。
ぜんぶ、全部軽くなって。
……………何もかもが、消えて。
絹の糸が、淡く、ぷつり、ときれた。
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