2 / 17
拒絶される色彩(1)
しおりを挟む
「その生意気な目がむかつくんだよ、世界から否定された魔法の子」
強引に胸ぐらを掴まれては、突然と突き放される。頬と背中に激しい衝撃が走った。思わず尻餅をついてしまうと、彼らはすっきりしたのか舌打ちを残し、屋上から離れていく。彼らの姿が遠ざかる中、ブラン・アルフテッドは痛む頬と背中を感じながら、壁にもたれかかって座り込んだ。
――またこれか。
理不尽に文句を言われ、殴られ、突き飛ばされる。
これらは受け入れるしかない、世界から拒絶された存在が辿る宿命。
これまで何度も経験してきたことで、もはや慣れてしまったことのひとつだ。
「…いてっ」
頭を壁に預け、横唇に指を添えると、指先には血がついていた。
溜息をつきながら、そのまま空を眺める。
視界に広がるのは、風に流されていく雲たちという、至極当たり前の光景だった。
「…当たり前、か」
平凡なことができない者は、嫌われ、避けられる。
だからこそ、平気で暴力を振るわれ、無視される。
何もできない存在に対して、人々は簡単に冷酷になれるのだ。
その現実をブランは知っていた。
「だからこれは仕方のないことなんだ。そうだろ?ブラン・アルフテッド」
自分にそう言い聞かせる。
魔法を行使できないということは、当たり前のことではなく、世界から見ても異常な事態なのだから。それが自身が望んでいたわけではなく、世界から強制されたことだとしても、だ。
――息を思いっきり吐くんだ、心を落ち着かせろ。
これは割り切らなければならないこと。
そう理解しているからこそ、ブランはあの三人に殴り返すなんてことはしなかった。
魔法が世界の全てを支配しているこの世界で、魔法を行使できない者たちがどのように扱われるかは、火を見るよりも明らかだった。
「ここにいるのは何のためか」
全ての支出を上層部が負担する代わりに、子供たちは十六歳になるまで必ず魔法学校に通う義務がある。
これは魔法の基盤となる初級から中級魔法、そして魔法に対する知識を身に着けるためだ。
法にもそう定められている。
「ヴィオレの為だろ」
ヴィオレ・アルフテッド――ブランの妹であり、彼がこの世で最も大切に思う存在。たとえ自分が世界から否定されても、妹を救うためならどんな仕打ちにも耐えられる。そう決意して、ブランはこの場所に来ていた。
彼はもう一度深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
授業の三分前を知らせる鐘の音が学校中に響き渡る。
――次はヴィオレが好きな魔歴学の授業なはず。
彼は魔法の知識を学ばなければならなかった。
それは妹のため、そして幼馴染と交わした約束を果たすため。
「無能の色を宿しても、果たさなければならないんだ」
ブランはもう一度、空を見上げた。
「ヴィオレの病を治すために、クレアとの約束を守るために」
そう小さく呟いた彼の言葉は、空へと消えていく。
彼は立ち上がって、屋上から姿を消した。
====================
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
白が一番好きな色。
強引に胸ぐらを掴まれては、突然と突き放される。頬と背中に激しい衝撃が走った。思わず尻餅をついてしまうと、彼らはすっきりしたのか舌打ちを残し、屋上から離れていく。彼らの姿が遠ざかる中、ブラン・アルフテッドは痛む頬と背中を感じながら、壁にもたれかかって座り込んだ。
――またこれか。
理不尽に文句を言われ、殴られ、突き飛ばされる。
これらは受け入れるしかない、世界から拒絶された存在が辿る宿命。
これまで何度も経験してきたことで、もはや慣れてしまったことのひとつだ。
「…いてっ」
頭を壁に預け、横唇に指を添えると、指先には血がついていた。
溜息をつきながら、そのまま空を眺める。
視界に広がるのは、風に流されていく雲たちという、至極当たり前の光景だった。
「…当たり前、か」
平凡なことができない者は、嫌われ、避けられる。
だからこそ、平気で暴力を振るわれ、無視される。
何もできない存在に対して、人々は簡単に冷酷になれるのだ。
その現実をブランは知っていた。
「だからこれは仕方のないことなんだ。そうだろ?ブラン・アルフテッド」
自分にそう言い聞かせる。
魔法を行使できないということは、当たり前のことではなく、世界から見ても異常な事態なのだから。それが自身が望んでいたわけではなく、世界から強制されたことだとしても、だ。
――息を思いっきり吐くんだ、心を落ち着かせろ。
これは割り切らなければならないこと。
そう理解しているからこそ、ブランはあの三人に殴り返すなんてことはしなかった。
魔法が世界の全てを支配しているこの世界で、魔法を行使できない者たちがどのように扱われるかは、火を見るよりも明らかだった。
「ここにいるのは何のためか」
全ての支出を上層部が負担する代わりに、子供たちは十六歳になるまで必ず魔法学校に通う義務がある。
これは魔法の基盤となる初級から中級魔法、そして魔法に対する知識を身に着けるためだ。
法にもそう定められている。
「ヴィオレの為だろ」
ヴィオレ・アルフテッド――ブランの妹であり、彼がこの世で最も大切に思う存在。たとえ自分が世界から否定されても、妹を救うためならどんな仕打ちにも耐えられる。そう決意して、ブランはこの場所に来ていた。
彼はもう一度深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
授業の三分前を知らせる鐘の音が学校中に響き渡る。
――次はヴィオレが好きな魔歴学の授業なはず。
彼は魔法の知識を学ばなければならなかった。
それは妹のため、そして幼馴染と交わした約束を果たすため。
「無能の色を宿しても、果たさなければならないんだ」
ブランはもう一度、空を見上げた。
「ヴィオレの病を治すために、クレアとの約束を守るために」
そう小さく呟いた彼の言葉は、空へと消えていく。
彼は立ち上がって、屋上から姿を消した。
====================
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
白が一番好きな色。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす
鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》
社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。
このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる