40 / 41
別れ際に
しおりを挟む
カレンダー制作も無事終わり、学園祭の日がやってきた。
もちろん先生を誘ったが、大学の用事があって来られないらしい。残念だが、仕方がない。
しかし問題は藤江くんである。やたらと私にくっついて行動する。先生がいれば、彼から離れる言い訳にもできたのに。
クラスでの義務を果たしたら、後は自由時間。他のクラスや部活動の展示を見て回る。
藤江くんはずっと私についてきて、ニコニコと機嫌良くしていた。自分の興味ある展示を見に行けばいいのにと言ったら、「僕の興味は君に向いてるんだよ」と返された。
結局1日中彼と一緒に過ごした私は、先生への罪悪感でいっぱいになっていた。
対して藤江くんは1ミリも気にする様子がなく、販売されていたオリジナルカレンダーを意気揚々と購入していた。
「クラス用のがあるのに、わざわざ買うの?」
「もちろん! 君の可愛い姿を家でも拝めるじゃないか」
「もう……」
ここまで人に好かれるなんて、めったにないことだ。有り難がるべきなのかもしれない。しかし私にとっては、先生が優先だ。あの人を傷つける可能性のある行動は避けたい。
なんて考えていたら、救いの手を差し伸べる者が現れた。
「岡野、藤江!」
「あ、颯人先輩」
廊下で偶然会った先輩が声をかけてきた。
「お前ら2人で回ってんのか。俺のクラスはもう行ったか?」
「はい、先輩はいませんでしたが」
「ええ、残念でした。先輩のメイド服姿が見られなくて」
颯人先輩のクラスはメイド喫茶を開いていた。しかしメイド服を着ていたのは全員男子生徒だったのだ。
「あんなの着てたまるかよ。水泳部のほうに呼ばれてるって言って断った」
「え、ずるい……水泳部は展示だけだからあまり人いらないのに」
「いいんだよ、俺が着たところでどうせ似合わねぇし」
水泳部を出汁に使った先輩に非難の目を向けていると、藤江くんがとんでもないことを言い出した。
「たしかに、あれが似合う男子なんて相当な美形だけでしょうからね。煌時くんくらいの」
「ちょっと、藤江くん!?」
先輩に失礼だし、私の名を引き合いに出されても困るって。
「そうだ、衣装貸してもらえないんですか? 煌時くんに着せて写真撮りたいです」
「藤江くん、やめてよ!」
暴走する藤江くんと、必死に止める私。そんな我々を見て、先輩は何かを察したらしかった。
「まぁ、2人ともその気なら貸さんでもないが、岡野が嫌なら駄目だな。藤江、本人が嫌がってることはしてやるなよ」
「先輩! ありがとうございます!」
「ちぇ」
藤江くんはわかりやすく口を尖らせた。
「じゃ、俺そろそろ行くわ」
「あ、はい。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
先輩を見送って歩き出そうとした時、藤江くんが「あっ」と言って立ち止まった。
「ちょっと待ってて!」
「え、うん」
すでに廊下の先の方まで歩いて行った先輩を追いかけ、何やら話しかけている。
この隙に逃げようかとも思ったが、それは流石に酷い気がして待った。藤江くんはすぐに戻ってきた。
「行こう」
「うん」
何の話をしていたのか気にはなったが、訊いてもはぐらかされるような気がして、訊かなかった。
後輩2人と廊下で立ち話。切り上げて去ろうとしたら、1人が追いかけてきた。
「先輩!」
「ん? 何か用か」
「さっきの発言が気になって。煌時くんのこと、かなり気にかけてるみたいですね」
「いや、そんなことねぇけど」
「本当に?」
何だか目が怖い。やっぱりこいつ……。
「何が言いたいんだ」
「僕は負けないってことです。たとえあなたが相手でも」
じゃ、そういうことで。
奴はそう言い残して走って行った。
岡野、食えない奴に好かれたもんだな。
別れ際、先輩を睨みつけるような男に気に入られた後輩のことが、少し可哀想に思えた。
テーマ「別れ際に」
もちろん先生を誘ったが、大学の用事があって来られないらしい。残念だが、仕方がない。
しかし問題は藤江くんである。やたらと私にくっついて行動する。先生がいれば、彼から離れる言い訳にもできたのに。
クラスでの義務を果たしたら、後は自由時間。他のクラスや部活動の展示を見て回る。
藤江くんはずっと私についてきて、ニコニコと機嫌良くしていた。自分の興味ある展示を見に行けばいいのにと言ったら、「僕の興味は君に向いてるんだよ」と返された。
結局1日中彼と一緒に過ごした私は、先生への罪悪感でいっぱいになっていた。
対して藤江くんは1ミリも気にする様子がなく、販売されていたオリジナルカレンダーを意気揚々と購入していた。
「クラス用のがあるのに、わざわざ買うの?」
「もちろん! 君の可愛い姿を家でも拝めるじゃないか」
「もう……」
ここまで人に好かれるなんて、めったにないことだ。有り難がるべきなのかもしれない。しかし私にとっては、先生が優先だ。あの人を傷つける可能性のある行動は避けたい。
なんて考えていたら、救いの手を差し伸べる者が現れた。
「岡野、藤江!」
「あ、颯人先輩」
廊下で偶然会った先輩が声をかけてきた。
「お前ら2人で回ってんのか。俺のクラスはもう行ったか?」
「はい、先輩はいませんでしたが」
「ええ、残念でした。先輩のメイド服姿が見られなくて」
颯人先輩のクラスはメイド喫茶を開いていた。しかしメイド服を着ていたのは全員男子生徒だったのだ。
「あんなの着てたまるかよ。水泳部のほうに呼ばれてるって言って断った」
「え、ずるい……水泳部は展示だけだからあまり人いらないのに」
「いいんだよ、俺が着たところでどうせ似合わねぇし」
水泳部を出汁に使った先輩に非難の目を向けていると、藤江くんがとんでもないことを言い出した。
「たしかに、あれが似合う男子なんて相当な美形だけでしょうからね。煌時くんくらいの」
「ちょっと、藤江くん!?」
先輩に失礼だし、私の名を引き合いに出されても困るって。
「そうだ、衣装貸してもらえないんですか? 煌時くんに着せて写真撮りたいです」
「藤江くん、やめてよ!」
暴走する藤江くんと、必死に止める私。そんな我々を見て、先輩は何かを察したらしかった。
「まぁ、2人ともその気なら貸さんでもないが、岡野が嫌なら駄目だな。藤江、本人が嫌がってることはしてやるなよ」
「先輩! ありがとうございます!」
「ちぇ」
藤江くんはわかりやすく口を尖らせた。
「じゃ、俺そろそろ行くわ」
「あ、はい。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
先輩を見送って歩き出そうとした時、藤江くんが「あっ」と言って立ち止まった。
「ちょっと待ってて!」
「え、うん」
すでに廊下の先の方まで歩いて行った先輩を追いかけ、何やら話しかけている。
この隙に逃げようかとも思ったが、それは流石に酷い気がして待った。藤江くんはすぐに戻ってきた。
「行こう」
「うん」
何の話をしていたのか気にはなったが、訊いてもはぐらかされるような気がして、訊かなかった。
後輩2人と廊下で立ち話。切り上げて去ろうとしたら、1人が追いかけてきた。
「先輩!」
「ん? 何か用か」
「さっきの発言が気になって。煌時くんのこと、かなり気にかけてるみたいですね」
「いや、そんなことねぇけど」
「本当に?」
何だか目が怖い。やっぱりこいつ……。
「何が言いたいんだ」
「僕は負けないってことです。たとえあなたが相手でも」
じゃ、そういうことで。
奴はそう言い残して走って行った。
岡野、食えない奴に好かれたもんだな。
別れ際、先輩を睨みつけるような男に気に入られた後輩のことが、少し可哀想に思えた。
テーマ「別れ際に」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-
悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡
本編は完結済み。
この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^)
こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡
書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^;
こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる