先生と私〜家庭教師✕生徒〜

真愛つむり

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胸の鼓動

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夏休み真っ只中。水泳部には大切なイベントがある。全国の中学生が競い合う大きな大会だ。

3年の先輩たちは特に気合いが入っていて、3年間の中学生活に有終の美を飾ろうとしていた。

私は残念ながら標準記録を突破できなかったために出場選手にはなれなかった。他の多くの部員もそうだ。しかし、颯人先輩は当然のように選ばれた。

今回の出場メンバーは、3年生2人に2年生1人、1年生1人。いずれも部活の他にスイミングスクールに通って鍛えている部員だ。

観戦は自由と言われたが、私と先生は颯人先輩のためにも参加することにした。

大会が始まり、全国の選ばれし者たちが華麗な泳ぎを見せる。もともとは水泳にあまり興味のなかった私だが、今や水泳部の一員として多少の知識があるわけで。彼らの美しいフォームや雄々しい泳法に興奮を隠せないでいた。

「うわあ、あの選手すごい!  すごい速い!」

「本当ですね」

「あ、あの人は息継ぎが少ない!  肺活量すごい!」

「みなさん相当練習を積んできたんでしょうね」

「わ、あの人イケメン!  筋肉すごい!」

「……」

私がひたすら盛り上がっていると、先生がふと沈黙した。少々騒ぎすぎただろうか。気になって先生のほうを見ると、見た事のない表情で私を見下ろしていた。

「せ、先生?」

恐る恐る首を傾げる。

「駄目ですよ、煌時くん」

「へ?」

「あまり他の男に夢中になっては、駄目ですよ」

口元は笑んでいる。けれど目は笑っていない。冷たい瞳。細まったその奥に、赤々と燃える炎を見た気がした。

「ひゃい……」

思わず変な声で返事をする。狭い客席では、胸の鼓動が先生に伝わってしまう。慌てて手で抑えると、横から伸びてきた先生の手が優しく包み込んだ。

「どうしました? 具合いでも悪いのですか」

先生は極希に意地悪だ。でもその意地悪が嫌いじゃない私がいる。臍の下に先生と同じ炎がともったような感覚がして、私は赤面した。


そんな中、大会は続いていく。上手い選手ばかりだが、別格だなと思わせる選手が2人いた。颯人先輩と、他校のエース・藤江 海ふじえ かいだ。

藤江選手はなんと1年生。初出場ながら、圧倒的なスピードと整った容姿で見る者全てを魅了した。決勝は当然、颯人先輩との一騎打ち状態となった。

わぁぁぁ

うおおお

大歓声の中、一直線にゴールを目指す選手たち。結果は……

0.3秒差で、颯人先輩の勝ちだった。

観客の反応からして、正直、藤江選手を応援していた者のほうが多かったと思われる。私と先生は颯人先輩の気持ちを思うといたたまれなくなってしまった。

だがプライドの高い先輩のことだ、変に気を遣うと怒らせてしまいそうだ。私たちは単純に、めいっぱい祝福するにとどめた。


テーマ「胸の鼓動」

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