先生と私〜家庭教師✕生徒〜

真愛つむり

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突然の君の訪問。

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日曜日。なんとなく出かけたい気分になって、カフェにでも行こうと腰を上げた。

普段からたまに利用しているカフェは、人が多すぎず少なすぎずで、何かに集中するのに最適な空間だ。本棚に置いてある本は自由に手にとって読むことができる。

私は紅茶を注文して、本棚を物色しようと立ち上がった。

カランカラン

目の前で扉が開く。入ってきたのは、私のよく知る人物。煌時くんだ。

「「あっ」」

お互いに驚きの声を上げた。

「先生! いらしてたんですね!」

「君もね。ひとりですか?」

彼の周りに人の影はない。

「はい。急に思い立って出てきたので。先生こそひとりですか?」

「ええ、私も似たようなもので。よかったらご一緒しますか?」

「はい!!」

煌時くんは心底嬉しそうに頷いた。


彼が学校の課題をこなす間、私は本を読んでいた。時々様子を覗き見ていたことは内緒だ。彼は気づかず集中していた。

しばらくして彼が問題集をたたみ始めたので課題が終わったのかと思ったが、今度は違う冊子を取り出した。中学生は大変だ。


お腹が空き始めて、そろそろお昼だと知った。外を見ると生憎の雨模様。折りたたみ傘を持ってきてよかった。

「先生」

「おや、終わりましたか」

「はい。お待たせしました!」

ニコニコの笑顔を見せる彼の手には、先日私があげた日記帳が握られていた。

「それ、使ってくれてるんですね」

「もちろんです! 今日のことも書きました」

彼は何の躊躇いもなく今日のページを開いて見せた。

「おっと、見てもいいんですか?」

「他の人には見せませんけど、先生は特別ですから」

まったくこの子は……

お言葉に甘えて文章を読むと、なるほどカフェで偶然会った経緯と嬉しい気持ちがしたためられている。

「ふふ、私も嬉しいですよ」

「えへへ」

愛らしいはにかみ顔で頬を染める彼。
そういえば、彼は外の状況に気づいているのだろうか。

「煌時くん、傘は持ってきましたか?」

「傘?」

窓の外に目を向けた彼は、ポツポツと降り出した雨に苦い顔をした。

「うぁ~、持ってきてないです」

やはり。通り雨ではなさそうだし、ひとりで帰してはせっかく終わらせた課題がグショグショになってしまうかもしれない。

「止みそうにないですし、送っていきますよ」

「えっ、いいんですか」

「もちろんです。風邪を引かせるわけにはいきませんからね。ただし、傘は1本ですよ」

「やった! 相合傘だ♡」

子どもらしく手を振って喜ぶ教え子。こういった姿を見ると少々罪悪感を感じるが、離れようとは思えない自分は狡い人間なのだろう。

2人で店を出ると、予想通り本降りになっていた。小さい傘を彼のほうに傾けてゆっくりと歩く。

遠くのほうで傘をささずに全力疾走している少年がいたが、間もなく見えなくなった。

「せんせぇ」

彼の甘い声に目線を下げる。

「どうかしましたか?」

「……いえ、呼んだだけです」

そのどこか寂しそうな横顔を見て、何とも言えない気持ちになる。それを払拭すべく、頼みごとをすることにした。

「煌時くん。よければ傘を支えるのを手伝ってくれませんか。風が出てきたので」

一瞬不思議そうな顔をした彼は、私の意図に気づいて照れ笑いを浮かべた。

重なった手は温かく、濡れた肩など気にもならなかった。


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