異世界の機士・黒のヴィダリオン 

紀之

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2章 好敵手の章

第11話 魔を癒す剣②

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 「主の言う通り、この事件何かがおかしい。戻って来た者達から各自報告を」

ヴィダリオンらが商店街の各店に散って1時間。未だ幾組かは戻っていなかったがそれでも異様な事態であることが救出した人々からの話で判ってきた。

「それがな・・・・助けた連中の言う事はまちまちで店や土地の権利書を奪って殺しかけたのが分限の手の者ってのと見た事も無いよそ者って言うんだよな。連中の言う事にゃそのよそ者も分限が雇ったんだろうって話になってるが」

「その分限の一族郎党も例のよそ者の姿も助けた人間によって性別や年齢もまちまちだそうでね。・・・・ちなみに記憶を操作された形跡はない。幻覚を見せるような毒物も現場にはみられませんでした」

一番に手を上げて報告するホットスパーことパールウェイカーとマリニエールのコンビ。

「それは小札さん夫婦みたいに隣にいながら別々の人間を見ていた、というのよね?」

金雀枝杏樹の言葉に両従騎士は頷いた。

続いて星川勇騎とハダリーのペア

「俺達も全く同じだ。違うのは自殺のやり方くらいと後は・・・そうだ、よく分からないがとにかく怯えているんだよな」

「事情を聴くのに非常に苦労しました。先輩方はよく話してくださいましたね?」

「マリニエールが連中の頭ん中を覗いてな。そっちこそどうやったんだよ?俺がなだめてもすかしてもダメだったのに」

「あれをなだめるというのはあなただけですよ」

「あ・・・あはは」

首を傾げるホットスパーと首をすくめるマリニエールのやり取りでどんなやり方がおこなわれたかが判るくらいには勇騎と杏樹は彼らの事を理解していた。

「最後は俺達だな。これはカローニンの分も一部含むがどうやら犯人は町全体の土地を占拠するつもりらしい。図書館やシヤクショといった公共の土地まで差し押さえようとしているらしい。今メガイロ、カローニンとリクが図書館方面に行っている所だ」

「市役所には正体不明の怪人物が現れたそうよ。ただ・・・・」

「ただ?」

「やっぱりその人物の具体的な容姿や性別さえあやふやなのよ。何十人もの人が働いているのにも関わらず、証言から一致した特徴は『よく分からない』という点だけね」

「こうなると図書館長も同じ事を言うだろうな。ならよ、分限の奴に聞いてみたらどうだ?」

「そうだな・・・・素直にしゃべるとは思わないけど手掛かり無しだからな」

ホットスパーに勇騎は頷く。

「私とホットスパーはメガイロらに合流する。人手はあるに越したことがないだろうからな」

「分かった。では俺達は学校へ行く。そちらが終わったらこちらに合流してくれ。道中気を付けろよ」

「そちらもな」

では疲れたので、とヴィダリオンは杏樹の校章と再び一体化した。苦笑する杏樹の隣でハダリーの方は目立つからと勇騎が校章へと戻すとホットスパー、マリニエールと別れて学校へと向かった。


学校はゴールデンウィーク明けのというのに不気味なほど静まり返っていた。去年は久しぶりの友人達との再会に校内の各所で会話の花が咲いていたり、部活動の朝練が見られたのだ。だが今年はそんなものは影も形も無い。学生はいる。だがその全員が周りを疑い、何かを諦めたような重苦しい雰囲気を纏っていた。

「分限は・・・・来てないな」

「あいつならさっき校長に呼ばれてたよ」

「は?あいつ何をしたんだ?」

「そらあれだ。お前らもこざねやの閉店は知ってんだろ?分限のやつらあそこどころか学校も地上げしようとしてるらしい。それをやめてくれるように説得されてんじゃね?」

「学校もかよ・・・」

「ヴィダリオンの推理が現実になって来たわね」

2人はクラスメイトの小田に礼を言うと校長室へ向かう。校長室の前に立つと困惑の声と泣きださんばかりの情けない声が交互に入り混じって2人の耳に入った。

失礼します、と声とノックをしても応対する者はおらず、2人は悪いとは思いながらも中へと入った。果たして中には分限博人の足元に土下座して人目をはばからず泣いている校長がいた。

「おお、親友たち。校長、彼らが僕の言う事の証明をしてくれますよ」

「証明?お前んちが町中至る所地上げしてるってことか?」

「市役所や図書館それに学校まで・・・・どういうつもりなの?」

「何だって!?じゃああいつらは一体・・・・?」

「あいつら?まさか正体不明の奴か?分限の雇われだって皆言ってるけど」

「そんな訳があるか!奴らは僕らを家から追い出してしまったんだぞ!会社の株や経営権まで全部奪って・・・・それなのに罪は全部こっち持ちだなんて・・・・・理不尽すぎる・・・」

「そんな事が・・・」

分限は涙交じりの釈明で今日初めて反論されなかった事で気が緩み泣きながら膝をつく。

(一体何を企んでいるんでしょうか?その正体不明の人物は?)

(分からん。土地を闇雲に得て町の支配者気取りをしたいのか?それにしてはやり方が回りくどいな。だが)

校章越しのハダリーとヴィダリオンの会話は杏樹の声に中断した。新たな事態が起こったからである。

「見て!すごい数の人達が行進しているわ!先頭にいる男の人が今回の首謀者?」

「男?凄い美人な女の人だろ?」

「金雀枝君の言う通りだ。星川、君視力は大丈夫か?あれが男に見えるのか?」

「・・・・また食い違いがある?ヴィダリオンにはどう見えるの?」

(あれは・・・・クレスタ―です!恐らく見る者の、恐らく恐怖や猜疑心によって違う自分を見せる力があるのでしょう)

(なんと卑劣な・・・・あの行進の目的地はどこでしょう?)

(でも私達とヴィダリオン達で何が違うのかしら?)

(恐らく我々は戦う為の存在、つまり恐怖や絶望を感じにくいかすぐに克服できるように作られているからでしょう)

杏樹の疑問にヴィダリオンが答える。その隣で何やら考え込んでいた勇騎があっと声を上げた。

「そうだ!あの先ってまさか?」

「僕の家がある方向だ・・・・」

「行きましょう勇騎君!分限君はここから出ない方が良いわ」

「でも・・・」

「下手すりゃ学生全員からリンチだぞ。家族の事は俺達に任せろ」

「星川、金雀枝君・・・・・家族をよろしく頼む」

分限は滅多に下げない頭を下げて2人に頼み込む。2人も頷くと校外へと出ると群衆の中へと紛れ込む。

「こりゃすごいな。はぐれない様に手をつないだ方がいいな」

「え・・・ええ、そうね」

杏樹は勇騎の提案に場違いな胸を高まりを覚え、すぐにそれを打ち消してその手を取ると人の波をかき分けてその先頭を目指した。

ゴートクレスターⅡ(見る者によって男とも女とも変化する)に率いられた一団はみるみる数を増し、本来なら止めるべき警官らも中に混じって怒号を上げながら分限家の屋敷の門の前で止まった。

「諸君!諸君らはこの町に巣くう悪魔を狩る勇士である!!さあ、あの悪魔の家に飛び込み我々の権利の奪回と正義を遂行しようではないか!!」

ゴートクレスターⅡは大仰に両手を広げて高らかに群衆を煽る。
群衆の間からようやくゴートクレスターⅡの姿を確認できるまで列を進んだ勇騎の胸の校章からハダリーの憤怒の声が響く。

(ユウキ様。あの者の扇動の声はもはや不愉快極まりない、悪に満ちています。もはや一刻も生かしてはおけません!)

(待て、ハダリー!迂闊に攻撃しては駄目だ!)

後ろにいる杏樹の胸の校章からヴィダリオンの叱責が飛ぶが無視して彼女は実体化。光と共にゴートクレスターⅡの目の前に降り立った。

「おや、シスターまでいらっしゃるとは縁起がいい」

「ならもっと良くしてやろうか!お前が滅ぼされることでな!」

修道服を脱ぎ捨てたハダリーは放熱で金髪に輝く長髪をなびかせながら腰のメイスを抜き放ち、頭頂部をしたたかに撃った。その衝撃で幻術が解けたのか人々の目にもゴートクレスターⅡの悪魔然とした真の姿が現れると、群衆は蜘蛛の子を散らしたように悲鳴を上げて逃げていく。

そしてゴートクレスターⅡの傷口から飛び散った赤いものを勇騎も杏樹、そしてハダリーが自身に付着したそれの正体に信じられない思いで立ち尽す。

「こ・・・・これは血・・・・!?オイルや魔道液の類ではない・・・・?ユウキ様と同じ赤い血・・・・!?」

知らずメイスを取り落し後ずさる。ティレニア号内での忘れる事の出来ない、あの生暖かさと色。

「アタシは・・・・人間を・・・守るべき存在を・・・・!?」

「そうだ。俺はHBクレスタ―。人間をベースに作られた図像獣だ。俺と一体化している哀れな男も苦しんでいるぞ?」

悪魔は自身の盾にするようにクレスタ―の胸の辺りからげっそりとやせこけて虚ろな表情で頭から血を流す男の体をニュッと突き出した。

「だが・・・・そいつは、そいつはお前と同じ悪人だ!でなければっ!お前達に手を貸すはずがない!」

「そう思うならやるがいい」

ゴートクレスターⅡは男の体を仕舞うと笑みを浮かべて挑発するように両手を上げて1歩前へと進む。

「やめろハダリー、挑発に乗るな!」

再びメイスを振り上げたハダリーを勇騎は後ろから羽交い絞めにして抑え込む。

「放してください!敵は滅ぼさなければッ!」

「そうだ!こうなる前にな!」

『いやだああああ!やめてくれええええ!』

ゴートクレスターⅡは再び胸から男の頭を生やす。男は泣き叫びながらもその口から火炎を放つ。ヴィダリオンが2人の前に立ちはだかり盾をかざして守る。

「やめてくれ?お前が望んだことだろう?分限の連中に一切合財差し押さえられて家族は離散、野垂れ死に寸前まで追いやった奴らと手を差し伸べなかった町の住人。そいつら全てに復讐するというあの気概はどこにいったのだ?」

「こ・・・・んな苦しい思いをする・・・・・とは・・・・・思ってい・・・な」

「人を呪わば穴2つ!!いいことわざじゃないか!お前の生命力を吸って俺はより完璧な力を手に入れる!それまでもう辛抱だ・・・・」

「貴様らはどこまで卑劣なのだ!」

羽交い絞めされながらもハダリーが吠える。

「ではどうするね?私は一向にかまわんよ?このまま頭をカチ割ってもな。死ぬのはコイツだけだ。私は次の人間に憑依するまでだからな」

「・・・・引くぞハダリー。このままでは埒が明かない」

「見逃せと!?」

「あれだけの余裕はハッタリじゃない。もしユウキに憑依したらどうするつもりだ?」

「そ・・・それは」

ヴィダリオンに諭されワナワナと震えながらもハダリーは従う他無かった。

「逃がすと思うか?」

「出来る」

「ほざくな!」

「皆俺に掴まれ!」

ヴィダリオンはハダリー、勇騎そして杏樹を抱えて飛び上がる。その真下から火柱が遅れて吹きあがり、ヴィダリオンのマントの端を焼いた。だが火柱はそれ以上の害を与えられなかった。飛んできた機動鋼馬ベオタスに乗ったホットスパーが槍状にしたスターシールドの穂先で仲間のマントを引っかけ自分の後ろに乗せて飛び去って行ったからである。

「チッ、仲間を呼んでいたのか・・・まあいい。これで連中は手出しは出来ない。いよいよ最終段階だ」

不敵な笑みを浮かべてゴートクレスターⅡは分限の屋敷へと戻っていった。
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