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2章 好敵手の章
第9話 敵傭兵隊長の挑戦④
しおりを挟む剣王町新市街・シーズデパート
破剣兵団隊長鉄腕ゲッグの『人質解放』の衝撃と混乱の収まらぬデパート入り口に星川勇騎は立っていた。あれだけのことがあったにもかかわらず野次馬は一向に減るどころかむしろ増えているように思われた。そのざわめきも入り口の自動ドアを開けて1体の魔銅兵タロスが現れた事で一瞬静まり返り、タロスが外へと1歩踏み出す度に群衆の群れが蜘蛛の子を散らすように散っていく。
「来たぞ。これでいいんだよな?」
タロスは右手に金を詰めた大型のビジネスバッグと人質解放の使者であることを示す赤いリボンを体にたすき掛けにした勇騎を頭から足先まで確認するように首を上下させた後ついてこい、というように踵を返した。緊張からごくりと唾を飲み込み、その後に続いて1階エントランスへと入ると4体のタロスが並んでおり、各々が槍を人質に突きつけている。
(ヴィダリオンの言った通りだった・・・)
古代ギリシアの重装歩兵そのままの姿と同じにタロスは集団で戦ってこそ真価を発揮する。
指揮官が戦闘になると判断したならば全員を必ず一ヶ所に纏めているはずだという予測は的中した。
(後は・・・・)
「約束の金は持ってきた。確認して早く人質を解放しろ」
冷や汗をかきながら出来るだけ中央のタロスに近づき、彼らに、そしてその背後にいる指揮官に見えるようバッグを大きく開く。内部を確認するように中央のタロスが前進し、バッグに顔を近づける。詰められた札束の中央に1本の槍とそれに交差する2本の剣の紋章が描かれたアイロン型の小さな金属片があった。
それの意味するものに気が付いたタロスが体を引き戻すが遅かった。紋章が光ると同時に彼(性別があるのならばだが)の体は金属片と内部の機械をまき散らしながら仰向けにぶっ倒れ、その原因となった光の主、ホットスパーことパールウェイカーが一番左のタロスを紋章剣で横薙ぎに胴を両断する。
残った3体が槍を肩の位置に構えて横一直線に並んで突撃してくるがホットスパーは左に回り込むと左手にコートオブアームズ・スターシールドを展開、ランスモードに変形させると転回の間に合わない2体を纏めて刺し貫く。最後の1体が槍を突き出したがホットスパーは右手でその槍を掴んでへし折ると逆に相手の脳天に穂先を投げつける。穂先はタロスの頭を真っ二つにして機能を停止させる。
「こちらパールウェイカー。デパートの掃除完了。市役所に向かう」
『馬鹿野郎、早すぎる!足並みをそろえろと‥‥』
「先手必勝だ。数は俺が一番多いんだぜ」
カローニンとの通信を一方的に切ると勇騎が声を掛けてくる。
「ホットスパー、こっちも避難完了だ」
「よし。ユウキ、このまま市役所に向かうぞ。途中の美術館はメガイロに任せときゃ大丈夫だ」
愛馬である機動鋼馬ベオタスに跨ると2人は迅雷の如く駆けだした。
剣王町・図書館
市役所に最も近い位置にある図書館。ホットスパーの勇み足により敵の狙いに気が付いた3体のタロス達はその貸出窓口近くまで来ていた新井陸を取り囲み次々と槍を投げる。
「ゲッ!」
凄まじいスピードで投擲される槍に死を覚悟した陸の体を光と浮遊感が包み、彼はコートオブアームズ・チェンジマートレットとなったカローニンに抱えられて上階に立っていた。
「た、助かった・・・」
額の脂汗を拭った陸は燕の姿になったカローニンが階下へ急降下し、窓口に一番近い書棚にいたタロスを短剣で首を跳ね、そのフォローに駆け付けた2体目の槍の柄を短剣を滑らせながら喉元に突き立てる。
「カローニン、気を付けろ!」
「!」
最後の1体は書棚ごと敵を葬ろうと口から火炎を吹き出す。
「知の宝庫を消すわけにはいきません!紋章剣奥義・烈風波濤壁!」
カローニンの短剣から放たれた青い剣風が炎を巻き込み威力を倍加させて跳ね返し押し寄せる波の如くタロスを自身の放った火炎で焼き尽くすと炎は自然に消滅する。
「おっそろしい技・・・!」
「元々は広範囲から迫る飛び道具に対処するための技で、自分と同等以下の敵にしか通じない返し技ですけどね」
「お・・・おう・・・そうか」
相手より自分が強いという遠回しな自慢に言葉が出ない陸。
「そうだ、人質を解放しねえと」
「そうでした。手分けして誘導しましょう」
『パールウェイカー奴!!先走りおって!!』
「マリニエールさん、どうする?この上この中の金のほとんどがただの新聞紙だとばれたら・・・!?」
剣ヶ峰銀行にやってきたのは島田ゲン。ただの一般人である彼はここにつくまで終始ビクビクしっぱなしだった。かき集めた金は到底足りず、残りを新聞紙で偽装するしかなかった。だが本物が無い場合相手がどんな残虐行為に走るかしれない為バッグ3つには本物を入れ残り2つは一番上だけ本物にしていたのだった。彼の持つバッグに紋章形態で待機しているマリニエールも彼の態度を特に咎めなかった。そちらの方が敵に怪しまれないと踏んだからである。
だが入り口に見張りの兵はいない。マリニエールの目は建物内で人質に武器を振り上げるタロスらを捉えていた。
『このまま突入します。奴ら人質を殺すつもりです。鞄を投げたら逃げて下さい』
「わかりました・・・・おーい!金を持ってきたぞ。う、受け取れ!」
ゲンは震え声でバッグを入り口のドアに投げつけると一目散に逃げだした。
「やらせんよ!」
既にデパートと図書館でのやり口が伝わっていた銀行内では人質達の悲鳴が充満していた。実体化したマリニエールは紋章剣を蛇腹剣にして正面最奥のカウンター後ろのタロス目掛けて振り抜くと同時にコートオブアームズ・クレセントカッター4枚を入り口付近にいる2体に投げつける。
女子行員を刺殺しようとした奥のカウンターのタロスは槍ごと体を蛇腹剣に絡めとられると体をズタズタに引き裂かれながらATMの近くにいた別のタロスに激突した。床に叩き付けられたタロスが起き上がって見た物は周りに同僚だったものの残骸と三日月状のカッターを武器で撥ね飛ばしながら奥からやってきた本命のカッターに両断される2体のタロスだった。
その最後の1体となった彼自身もマリニエールに剣で両断され、あっけない最期を遂げたのだった。
「随分と歯ごたえが無い。それにこのタロス共、聞いていたのと装備が違うな」
外に出たマリニエールは駆け寄ってきたゲンに後を任せると単身市役所へと向かった。
シーズデパートと市役所のちょうど中間に存在する剣王町美術館
ここに巫女服を着たリエが身代金(一段目のみ現金)の入ったバッグを持ってやって来た。
「誰もいないね」
彼女はゲンと違い堂々とした態度で薄暗い美術館の中へと入っていくと3体のタロス像が横一列に並んで立っていた。
「随分金にがめつい機械だねえ」
脅迫するように槍を肩の位置まで上げて駆け足で近づいてくる敵兵に呆れながらリエはバッグを開く。同時にバッグから光が溢れだし従機士メガイロがリエの前に仁王立ちで立ちはだかると3体の同時攻撃を盾で受け止めるとシールドバッシュで吹き飛ばす。吹き飛ばされ、体勢と陣形を崩されたタロス達は立て直す暇もなく中央の1体がメガイロの大剣に両断される。メガイロはそのまま横薙ぎに剣を振るうが残り2体はバック転で大きく下がると同時に口から火炎を吹きつける。
メガイロはリエをその巨体の影に隠すようにしながら全身を隠す大盾で火炎を防ぎつつ右肩にコートオブアームズ・アニューレットカノンを装備する。
「ここで大砲なんかやめとくれ!この美術館が吹っ飛んじまうよ!」
「問題ない。これを使う」
メガイロは青色の砲弾を大砲の口から装填すると盾から身を乗りだし発射。リエはメガイロの後ろで蹲り両耳を塞ぐが彼女が考えるような爆音や破裂音は聞こえない。
恐る恐る目を開けるとアニューレットカノンからは凄まじい勢いで水流が発射され、火炎をかき消しつつタロス2体を空中へと吹き飛ばす。
「あれま」
リエが目をパチパチさせている間にメガイロは悠々と前方に歩き、落ちてきた2体を大剣を横薙ぎにして一刀で両断した。
「ここはもう安全だ。俺は仲間の所へ行く」
「あんた、やるねえ」
メガイロは一瞬振り返ると早足で外へと出て行った。
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