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2章 好敵手の章
第9話 敵傭兵隊長の挑戦②
しおりを挟む剣王町旧市街・廃屋
邪教武僧集団マレフィクスの支配者から招聘された新指揮官、名うての傭兵団である破剣兵団の隊長『鉄腕ゲッグ』は1階の居間に自作の剣王町の地図の各所にピンを立てながら笑みを漏らす。その周りを勇騎達が運んでいたあの青銅の兵士達がズラリと囲んでいる。
「さて、これで配置は整った。後は連中の頭にいくら吹っ掛けるかだが・・・・バットハイクレスタ―、この世界の身代金の相場ってのはどの位だ?」
「さてね。そういうのは趣味ではないので」
「使えねえなあ。まあ俺達の基準で考えるとして数はこのくらいだから・・・ま、これくらいだろう」
名目上部下という事になっているバットハイクレスタ―=元邪神官ザパトの横柄な態度にさして腹を立てるでもなく自身の計画を着々と進めていく。
「いったいなにをするつもりなんだ?」
「あいつらを運び込んで重要施設を同時攻撃するかと思えばそうでもないらしい。理解に苦しむ」
ウルフハイクレスタ―=元邪神官ガルウとスパイダーハイクレスタ―=元邪神官プレハのヒソヒソ声もゲッグには筒抜けである。
「金だよ。何をやるにもまず金だ。そして地理。どこに何があるか把握しておくのは戦略の第一歩だからな」
「それは傭兵団のいつものやり口では?」
「そうだよ。だから俺達は悪名と功を立ててきたのさ。それが俺達傭兵にとっての信用問題なのさ。・・・・・なるほど、お前達はもう少し待て。まず動くのはM地点の1体だけだ」
(こいつとあの青銅兵は感覚がリンクしているのか?どの道こいつらの実力を見ない事には我らの復権はない。だが・・・・コイツからは何か得体のしれない狂暴さを感じる)
バットハイクレスタ―は外様の指揮官をわざわざ呼び込んだ主の意図を図りかねながらも反逆の機会を伺っていた。
同時刻・剣王神社
星川勇騎と新井陸は金雀枝杏樹の祖母リエからどうしてもやってほしい事があるという連絡を受けて剣王神社の門の前に来ていた。
「返品して来いって?これを?ヴィダリオン達は?」
「あいにく皆いないのよ。ヴィダリオンは珍しく実体化してるけど朝からずっと体にサビ止めを塗るのに忙しい、ですって」
「ともかくこんなもんが門の前にあっちゃ商売あがったりだ。それに何かこの像は気に入らん」
「巫女の勘ってやつか?」
茶化す陸にリエは参道を睨みつけるように立つブロンズ像に苛立ちを爆発させる。
「馬鹿もん!お前らは感じんのか?この像から伝わってくる邪悪な気配を」
「杏樹、お前も感じるのか?」
「ずっとは感じないのだけれど何か邪な視線を感じるのよ」
「まさか盗撮!?中に小型カメラでも仕掛けてあるのか?」
「でもよ、この像の顔の位置から神社内は全く見えないぜ。肝心の巫女を撮るんだったらもっと奥に置くだろうな。そもそも盗撮なら更衣室とかが鉄板だろ」
「そういやこの町の公共施設と名のつくところにはあらかた置いたけどロビーとか入り口近くでそれもみんな外を向いているんだよな。ってことは盗撮の線はないか」
「とにかく昼飯もまだじゃろう?ご馳走してやるからたんと食ってあれを持って行っておくれ」
考え込む3人にリエが話を強引に変える。
「タダ飯はありがたい。何が出るんだよ、ここ?」
「普通の料理だよ。味は薄いけど」
「そいつは良かった。なんか薬草みたいなの食わされるかと思ったぜ」
「新井君、何か勘違いしてない?」
くだらない事をしゃべりつつも社務所の道を進む4つの影。その中に第5の謎の影が砂利道に加わった事で一斉に振り向いた4人は一斉に後ずさる。間髪入れずに青銅の古代ギリシア歩兵の槍が振り下ろされ、彼らが先ほどまでいた場所からは土煙がもうもうと上がっていた。
「おい、あの像にあんな機能があるとか聞いていたか?デモンストレーションにしちゃやりすぎじゃねえか!?」
陸の言葉に答える者はいない。皆頭の中はどう逃げるかで必死なのだ。
「こうなりゃ4人バラバラの方向に逃げるぞ!相手は1人だ。無事だった奴はヴィダリオンを呼んできてくれ!」
勇騎の提案に一同は頷きバッと放射状に駆けだした。
「クッソー、言い出しっぺが狙われるのかよ!」
青銅像は先程のやり取りを見て勇騎をリーダー格とみて真っ先に襲い掛かった。袈裟切りに振り下ろした槍を紙一重に躱されると反動をつけてV字を描くように振り上げる。
「うわっ!」
槍は勇騎の右足を打ち据えて彼を砂利道へ転ばせる。
「~!」
ザクッ、ザクッと耳のすぐ後ろで槍が地面を抉る音に戦慄しつつも生き残るためにひたすら地面を転がり続ける勇騎。だがそれもすぐに終わりが来る。
「いてっ!アッ、しまった!」
彼は神社の石灯篭にの根元に頭をぶつけ、その隙を逃さず青銅像は槍を突き出した。
後から考えても何故こんな事が出来たのか。勇騎は体を両手で持ち上げそのまま宙を飛び一回転して着地した。きれいな着地とはお世辞にも言えずつんのめり、全身冷や汗をかきながら後ろを振り返ると青銅像の槍は石灯篭に深く突き刺さって抜けなくなっていた。
「これでようやくっておおおおお!?」
槍を引き抜くのを諦めた像は力任せに槍を持ち上げると槍の先の石灯篭をハンマーの打撃部分として振り下ろして来た。
「ッ!」
勇騎は目を閉じるが痛みは一向に来ない。代わりに風切り音と続いて重い物がドサリ地面に落ちる音が聞こえた。恐る恐る目を開けると上半身は黒、下半身白の妙な色合いの鎧を着たヴィダリオンが剣を振り上げて目の前に立っていた。
「ヴィダリオン、た、助かった~」
「錆止めの途中だったのだがな。だが・・・・魔銅兵タロスとは穏やかな相手ではないな」
「強いのか?」
「いや。問題はこれを操る傭兵隊長だ」
動く青銅像いや魔銅兵タロスは折れた槍の柄を投げ捨てると口から火を吐いて応戦する。
「盾に隠れろ」
全身を覆う盾をかざしてヴィダリオンは炎を受ける。数秒して熱が収まったのを感じ、防御を解いたヴィダリオンは距離を詰めていたタロスに両腕を掴まれる。
「ヴィダリオン!」
「離れろ!奴は自爆するつもりだ!」
その言葉が終わる前にタロスから先行が走り爆発音と炎が上がる。
爆音を聞きつけて杏樹や陸も駆けつける。息を飲む3人は黒煙の中からヴィダリオンが両腕をスナップさせながら悠々と歩いてくるのを見てほっと息をつく。
「よかった、ヴィダリオンあなたが無事で」
「この程度大したことはありません」
「そうだ、それよりも大変な事になってんだよ!」
社務所へ駆けだす陸を追う3人。
社務所のTVではレポーターが緊迫した面持ちで恐るべきニュースを伝えていた。
『現在剣王町の各地でブロンズ像が突如暴れ出し、市役所等の建物にいる人々を人質にしています。なお先程入りました情報によりますと犯人は人質の解放と引き換えに10億円を要求しているとの事です』
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