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1章 機士の章
第7話 天敵!電磁の海に潜む毒蛇③
しおりを挟む「いけいけ!コブラクレスタ―、もくてきちまであとちょっとだぞ!」
邪神官ガルウは自らの生み出したコブラクレスタ―の快進撃に快哉を叫ぶ。
その横でこの展開は予想外だと言わんばかりに目を見開いている邪神官ザパトと邪神官プレハ、そして彼らの敵であるはずの従機士マリニエールが戦慄と武者震いの両方で体を戦慄かせていた。
「これではお前の言っていた最強の図像獣とやらも出番はないようだな」
「出番はあるさ。今はガルウの成長を喜ぼうではないか」
「ふ・・・っふっふ・・・・これこそ難敵、我らが機士が相手するに相応しい相手!」
「判っているのか?あの場に例の物が無ければ貴様の命もないのだぞ」
熱に浮かされたように独り言をつぶやき続けるマリニエールをプレハの冷ややかな言葉が彼を現実に引き戻す。
「勿論だとも。だが・・・・その前に我々があれを倒す」
「むりだ。コブラクレスタ―におまえらちかづけない」
「ところができる。対処方法がある事をお前は気が付いていないらしいな」
「それを知っていて何故加勢に入らない?」
「物事には順序がある。まだ私が出る幕ではない。案外カローニンあたりは気が付いているかもしれぬ。だがあまりにも連中が不甲斐ないようなら督戦しないといけないのでこれにて失礼する」
愛馬を駆り剣王山へ向かうマリニエールのこの言葉でザパトはこの男は信用に値しないと心の中で決めた。一見仲間を信頼しているように聞こえるが、その実は最も自分が信頼されるタイミングを計っているのだ。
(連中も馬鹿ばかりではあるまい。何にせよ敵の不協和音は歓迎すべきだからな)
今回の戦いがよしんば不首尾に終わっても相手方に禍根を残す事に繋がる事にザパトは内心ほくそ笑んだ。
コブラクレスタ―の能力は周りが考える以上のものだった。その洗礼を最初に受けたのは地下からの攻撃を担当するホットスパーことパールウェイカーだった。彼は地下に埋もれた怪物の半身、それも尾に当たる部分から大量の電気が吸収されているのを知り、その直下に移動すべくさらに地の底を掘り進む。
「なるほどな!だから尻尾を地面に隠したまま移動していたんだな。ならあれをちょん切ってしまえば・・・・なあっ!?」
カローニンの愛馬ヴァレルの盾の防御能力を貫いて猛烈な電流がホットスパーの全身を駆け巡る。凄まじい高圧電流はホットスパーの全身の鎧を焼き、内部メカを狂わせ、一時的な機能不全に陥らせる。
「グ、クソッ・・・!電気溜まりとでもいうのか・・・・・?」
息も絶え絶えに呟くが、この事を仲間に伝えようにも体が全くいう事を聞かない。
当たり前の話だがコブラクレスタ―もまた移動していた。つまりホットスパーが地面に隠れた部分も異様な長さを持つこの怪物の尻尾を狙うとすればそれは怪物の通った道を通過する必要があったのだ。ここに1つ罠があり、この怪物が通過した地点には100万ボルトの高圧電流の帯電する吹き溜まりが一定時間だけだが発生するのである。この為地下から弱点の尻尾を狙われるという事を防いでいるのだった。この能力によりコブラクレスタ―は悠々と進撃する事が出来るのである。
ホットスパーの攻撃が失敗に終わった事を知らないヴィダリオンは山頂付近のメガイロの砲撃支援を受けながら無数の首を避けつつ果敢にコブラクレスタ―の懐に飛び込もうと機動鋼馬マスルガを操りつつ首を斬り落としていた。
「ダメだ。首を破壊してもすぐに再生しちまうし、その度に首が増えてやがる」
「ヴィダリオン、今度首が破壊されたらそこにフレイムボンバーを撃ち込んで!」
「判りました!コートオブアームズ・ブースターレイブル!」
シュルシュルと不快な呼吸音を響かせ、山道の木々を引き倒しながら全方位から再生したコブラクレスタ―の首が迫る。マスルガを木々のない空き地に停止させ邪悪な蛇共を可能な限り引き付けたヴィダリオンは背面のブースターレイブルを噴射し、空へと飛びあがる。それを追ってコブラクレスタ―もいくつもの数の首をからまらせ、1つのおぞましいねじれた塊となりながら牙だらけの口を広げて後を追う。
「まだか、メガイロ!?」
降り落されない様必死にしがみ付く勇騎と杏樹を考えつつヴィダリオンは仲間の援護射撃を今か今かと待ち望む。これ以上このスピードによる上昇は2人の人間にとって危険だった。その考えがヴィダリオンのスピードを落とし、蛇の口の電気を纏った吐息が彼の両脚を痺れさせるのと同時に赤い光が山頂から煌めくと轟音と火炎がねじれた邪悪の塊を根元から粉砕した。
「今だ!マスルガ、フレイムボンバー乱れ打ちだ!!」
地上に残されたマスルガが破壊された首の切断面に火矢を撃ち込む。再度火の手が上がり首の残骸は青白い光を放って痙攣し、それきり動かなくなった。
「ヨッシャ!でも杏樹、何でこんな事思いついたんだ?」
「昔ギリシア神話のヘラクレスのヒュドラ退治を読んだのを思い出したのよ。図像獣は神話や伝承の怪物そっくりでしょう?それでもしかしたらって」
「おかしいな。俺も同じもの読んでたはずなんだけどな」
「知識があってもそれを活用する知恵がユウキにはないという事だ。ところで主、あの中央の首についてはその話ではどう対処したのですか?」
「それが・・・中央の首は不死身で結局地面に埋めて動けなくしたの」
「ヘラクレス脳筋すぎるだろ」
「しかし、そうなると奴を倒す方法がないという事に・・・・」
「ありますよ。パールウェイカーの姿が見えないがどうしました?」
ヴィダリオンらが振り返るといつの間にか機動鋼馬ナライズに乗ったマリニエールが山道の林をかき分けてやってきていた。
「今頃ご登場で言う事がそれか?お前の相棒は山頂から頑張っているがお前は何をしていた?」
「メガイロはあくまで護衛。部下でも相棒という訳ではないですがね。同じ隊内でも所属が違いますし」
「それより倒す方法ってのは?」
「尻尾を斬るのです。あれが蓄電池の役割をしていてその供給が断たれれば奴の首も無敵ではなくなる」
マリニエールはまるで常識だと言わんばかりの態度で勇騎に答える
「・・・・・まるで誰かに聞いてきたかのような言い草だな。それもご自慢の索敵能力の賜物か?」
「そうです。この電磁嵐の中調べるのには苦労しましたよ」
「そう言えばホットスパー、地面に潜ったきり出て来ないけど」
「なるほど。ではお嬢さん、私は彼を探しに行きます。皆さんはジンジャの守りを固めて下さい。どういうわけか奴は真っ直ぐジンジャに向かっていますからね」
「ホットスパーに妙なマネをするなよ」
「無論です。仲間ですから。それと奴の通った後を辿って行かない様に。電気溜まりができていて一発で機能不全に陥ります。別ルートで向かって下さい」
マリニエールは再びナライズに跨ると参道を降りていく。
「こっちだ、ヴィダリオン。実はこの先は行き止まりの崖だけどそこを上がると神社の後方へ直接出られる。ブースターレイブルならいけるだろ?」
「勿論だ。裏道に詳しいな?」
ヴィダリオンは素直に関心し、2人を抱えて崖を上昇する。
「ここは俺にとっちゃ庭みたいなモンだからな」
「でも勇騎君、小学4年の頃、その崖登って降りられなくなって大変な騒ぎになった事があったわよね」
「う・・・・あの頃は体力無かったからな。でも今は行けるぜ」
「急いだほうがいいみたい。天気が悪くなってるから。もしかしたら雷が来るかも」
杏樹は黒く厚い雲が垂れこめた空を見上げる。事実コブラクレスタ―の電撃で熱された空気が上昇し、雷雲を形成し始めていたのだ。
「行きましょう。これ以上は白兵戦になります。主達は可能な限り離れていて下さい」
死滅した首からエネルギーを吸い取ったのか首が残り1本となったコブラクレスタ―はその体を更に巨大化させた。その巨体は信じられないほどの柔軟性を示して体をくねらせながら正門を潜り抜けると遂に神社の敷地内に侵入した。
「う・・・」
裏の林を抜けたヴィダリオンは地面を這うコブラクレスタ―と出合い頭に目が合った瞬間怪物の発する電気に体を硬直させるがすんでの所でヴァレルの盾を構えてその噛みつきを防いだ。だがコブラクレスタ―は180度動く顎を使いヴィダリオンを咥える。
「0距離から焼き殺すつもりだろうが、そうはいかん!」
盾越しに見える青白い光にひるむことなくヴィダリオンは直上へ紋章剣を突き上げる。
想定外の攻撃と痛みに悲鳴を上げて首を振り回す怪物は口内から異物を吐き出すとチャージの完了していない電撃を空中で身動きのできないヴィダリオン目掛けて発射、だがヴィダリオン機械の燕に変形したカローニンの背に乗って回避した。
「無事だったか、カローニン」
「ベオタスの動きが止まっている。ホットスパーに何かあったな」
「奴の体から放射されている電磁波は通常時なら盾を構えていれば何とかなりそうだが・・・」
2人はコブラクレスタ―の周囲を旋回し、無防備な背中を斬りつけるが先ほどの口内と違いゴムのような弾力で弾かれてしまう。
「決め手がない、な」
2人は遅れて到着したメガイロが電磁波を浴びながらも盾から実体化させた大剣で胴体を切り付けるが先ほどの自分達と同じように弾かれているのを見た。そして怪物の体全体が青白く輝くのを見て危険を感じ距離を取る様にメガイロに叫ぶとカローニンはヴィダリオンを乗せて上昇する。
空と地上からの攻撃をうっとうしがったコブラクレスタ―は周囲を焼き尽くそうと全身から電撃を発した。眩い光が辺りを青白く染めあげた後には神社の境内には吹き飛ばされ倒れ伏した機士らが、池や手水所が電撃でバチバチと発光し、そして敵の狙う件の奥殿の壁が燃え上がり崩れ落ちた。そこから奇妙な物体が姿を現した。
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