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1章 機士の章
第7話 天敵!電磁の海に潜む毒蛇②
しおりを挟むコンクリートを突き破り新市街の住宅地に出現した赤い9つの蛇。そのうちの1体はインドコブラのようなフードを広げた肋骨を持ち、残りは一般的な蛇の姿だった。だが怪物どもは目の前の得物には目もくれず剣王山目指して一斉に動き始めた。彼らの体は地面に埋もれていて、彼らが移動すると共にコンクリートに亀裂が走る。
『あ…主早く私を・・・・・』
「でも・・・その体調じゃ・・・あっつ!」
ヴィダリオンは苦しげな声で自分を召喚するように主たる金雀枝杏樹に呼びかける。だがその声からいつものような戦いは出来ないと戸惑う杏樹は突然胸の内ポケットが急激な熱を帯びたのを感じてその原因たるスマホを取り出す。スマホはバッテリー部分が膨らみ破裂しかけていた。
「杏樹!それ早く捨てろ!爆発するぞ!」
勇騎も同様に膨張したスマホを怪物目掛けて投げつける。弧を描いて飛んでいくスマホから青白い光がフードを広げたコブラクレスタ―の口に集まるとその柔らかい皮膚に跳ね返ってスマホはコンクリートに落ち縦に大きくヒビ割れてしまった。
「え・・・今のは?」
『奴は・・・電気を吸収し、放・・・・電しているのです。その電磁波で私達は苦しめら・・・ている』
「そんな!じゃあ近づくことが出来ないというの!?」
『やりようはあります。早く!』
「わかった。無理しないでね。アコレード・ヴィダリオン!」
光と共に愛馬機動鋼馬マスルガに騎乗したヴィダリオンが体をくの字にしながら現れた。
「消極的な方法で気に食わないが今はこの方法しかない。マスルガ、フレイムボンバー投射準備!」
ヴィダリオンの合図と共にマスルガの尻尾がクロスボウへ変形し、爆発ボルトをつがえ、発射。先頭を行くフード付きの後頭部に命中したがコブラクレスタ―は意に介さず進撃を続ける。勇騎と杏樹を乗せてヴィダリオンはその後を追う。
「マスルガ、連射だ!全ての頭を狙え!」
主の無茶ともいえる指示にしかしマスルガは応えて9本のボルトを放つ。通常の首の耐久力はそこまで無いのかフレイムボンバーの直撃に頭を完全に吹き飛ばされる。
「よし!・・・・・何っ!?」
吹き飛ばされた首からそれぞれ2本新しい頭が生えてきて内1本づつ、計8本がヴィダリオンの方を向き、襲い掛かる。
「くッ、あの体からの電磁波に近づきすぎたら俺も機能停止してしまう」
マスルガを巧みに操り、塀を利用し、ある時は住宅の壁や屋根を利用して首の突撃を躱す。だがどこまでも伸縮自在に伸びるコブラクレスタ―の首は狡猾にもヴィダリオンを誘い込み、彼が跳んだ先に首の1本が口を開いて待ち構えていた。
「グッ、しまった!?」
ヴィダリオンは電磁波の影響で体内の電子部品が狂い、身動きが取れない。
そこによく聞いた風切音と続いて耳をつんざく砲撃音が大気を震わせる。
風切音の正体はホットスパーことパールウェイカーの駆る機動鋼馬ベオタスのフェザーブレイド。それがヴィダリオンを待ち受けるコブラクレスタ―の首を四方から滅多刺しにして爆散させる。首はすぐさま再生するがその間にヴィダリオンは距離を取る事できた。その側に降りてくるホットスパー。
「助かった、ホットスパー」
「なあに、メガイロの奴が張り切ってやがるからな。難なく近づけたのさ」
「しかしなんて奴だ。コートオブアームズ・アニューレットカノンでもあのフード付きは倒れないのか」
頭の周りに火花を咲かせながらも怯むことなくコブラクレスタ―はシュルシュルと不快な音を発して山へと近づいていく。
「危ない!」
すぐ近くに別のコブラクレスタ―が1体、背後に音も無く忍び寄ってその鎌首をもたげて襲い掛かる。
「しまった!あんなところに!?」
ヴィダリオンとホットスパーは手綱を繰るが間に合わない。だが間一髪青い閃光がその首を吹き飛ばす。
「たす・・かった・・・?」
「カローニン、ナイスタイミング!」
「間に合ってよかった。このヴァレルの盾なら電磁波をある程度防げるのでお役に立てればと思い駆けつけた次第です」
カローニンが機動鋼馬ヴァレルの胴周りにアームで繋がった盾の間から顔を出して合流する。
「私達もジンジャに向かいましょう。図像獣の狙いはきっとそこです」
「だろうな。あの山にはそれしかねえ」
3騎は電磁波の影響を受けない様コブラクレスタ―とは別の道を通り神社を目指す。
「ところで、マリニエールを見ませんでしたか?朝からずっと見かけないのですが」
「メガイロと一緒じゃないのか?」
「そのメガイロも彼を見ていないというのですよ」
「あいつは偵察隊だから、部品も繊細だろ。俺たち以上に電磁波の影響受けてどこかでウンウン唸っているんじゃねえのか?」
「ならいいのですがね。こういう時に彼がいてくれると助かるのですが」
ホットスパーはあくまで楽観的だったがカローニンは一抹の不安を拭えない。
「しかし、俺達の中で一番火力の高いメガイロの攻撃がビクともしない、あの首はなんだ?」
「再生能力もな。あれだけの魔力をどこから賄っているんだ?」
3騎の左側の街並みを挟んで爆発と火球の花が咲いているがその花が消える度にコブラクレスタ―はその首を増やし、進軍に邪魔となる建物を口からの電撃で破壊しながら剣王山の麓まであと一歩という地点まで到達していた。
「でも、このままじゃ神社に行っても何ともならないんじゃ・・・・」
「主、最悪奴の狙いが判ればそれを囮にして全員で一気に攻撃します」
「でもそれでだめだったらどうすんだよ?・・・ただでさえ皆本調子じゃないってのに」
「ユウキ殿の言う通りだ。少しでも奴の弱い所を見極める必要があるな。あそこなら奴の体の全容が判るのでは?」
カローニンが指さしたのは剣王山の登山道から少し外れた、ブナの木がまばらに生えている、高台だった。
「おい、奴の後ろ何か変じゃないか?」
「そうだな。動いている・・・・・ってことはアイツら集団で襲っているんじゃなくって胴体から何本も首が生えてるってことか!?」
「その部分を攻撃できれば勝機があるかもしれません。地面の下にあるという事はその部分が弱点だからとも考えられる訳ですしね」
「となれば・・・おいカローニン、お前の馬のその盾を1つ貸してくれ。それ外れるんだろ?」
「そりゃメンテナンスの為に外れる仕掛けになっていますが、ああ勝手に・・・・どうする気です、ホットスパー?」
「決まってるだろ。地中から攻撃する。ベオタスにも可能な限り離れて援護させる」
ホットスパーはカローニンの許可なくヴァレルの盾の1つを外すと盾からコートオブアームズ・星型盾スターシールドを具現化し5本の突起を前方に倒してランスモードにすると槍を高速回転させて地面を抉る。
「おい、一人でどうにかするつもりか?」
「ならないかもしれん。が、奴も首がどれだけあろうが空と地上と地下からの同時攻撃ならいくら何でも足を止めざるを得ないだろ。その間に有効打を見つけてやるさ」
ヴィダリオンへそう言うとホットスパーは穴の中に消えていく。同時にベオタスと翼を広げてコブラクレスタ―へと向かって行く。
「カローニン、俺にもヴァレルの盾を貸してくれ。フレイムボンバーが通じない以上は奴に肉薄して叩く必要があるからな」
「わかった。私はメガイロに首の根本を攻撃するよう伝えます。巻き込まれない様に」
カローニンはコートオブアームズ・チェンジマートレットで機械の燕に変形すると山頂付近で砲撃を続けるメガイロへ作戦を伝えに飛ぶ。
「任せろ。では主、ユウキ、しっかり掴まっていてください」
ヴィダリオンは全身が隠れるほどの大きさを持つ正方形のヴァレルの盾を左手に巻き付け右手に紋章剣を構えて、木々をなぎ倒しながら山を登るコブラクレスタ―へマスルガと共に突進した。
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