異世界の機士・黒のヴィダリオン 

紀之

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1章 機士の章

第6話 侵略の花③

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 坂道を下ってくる2騎を見て黒のヴィダリオンは予想外の人物達がやってきたことを知る。

「おい、あの2人の紋章をみたか?新入り共は督戦隊の連中だぞ」

「とくせんたい?」

「俺達が戦いから逃げない様にする為の部隊さ」

星川勇騎にホットスパーことパールウェイカーが緊張した声音で答える。

「もし逃げたら?」

「斬られます。特に彼らが付けている、兜を錠前で止めているあの紋章は敵よりも味方の方が恐れる機士団長直属の特別偵察隊の所属である事を示していますからね」

「カロ―ニン、お前どんな報告を送ったんだ?」

「到って普通の。それはこっちが聞きたいですよ、あなたの行動が監視されているんじゃないですか、ホットスパー?」

「そんな馬鹿な」

「こっちに来るわよ」

金雀枝杏樹の言葉に黒のヴィダリオン・カローニン・ホットスパーことパールウェイカーは各々の機動鋼馬を坂道の脇にどけて2騎の到着を待つ。位階の上では全くの同格の従機士ではあるがその役職上、督戦隊の彼らはこの地の先任者達3名よりも上位の権限を持っているからだ。

だが以外にも2騎はいきなり馬を飛び降りると歩いてこちらに向かってきた。

「そこまでお気遣いなく。位階の上では同じ従機士なのですから」

「そうかい。こちらはあんたらの部隊の噂を色々聞かされているからな。もっともあんたら2人と戦場で会った記憶はないがね」

「そのようですね。私は特別偵察隊第一隊副長を務めております、マリニエールです」

「俺は特別偵察隊支援砲撃隊隊長のメガイロ」

「隊長自ら?部下は?」

「ま、隊の内部事情は後程。今は何やら困っている様子。手助けが必要では?」

マリニエールはホットスパーの皮肉と勇騎の質問を躱しつつ、一面に黄色い細かな粒子が舞う空を見上げる。

「これが何なのか、分かるのですか?」

「分析にかけて見る必要がありますが、何、すぐに終わりますよ。ナライズ」

カローニンにそう言うとマリニエールは自分の乗ってきた機動鋼馬に声を掛ける。すると馬の首が2倍近く伸びるとそこがシャッターの様に開きそこにマリニエールは飛び込んだ。外見は兜の上に馬の頭の乗った、ケンタウルスといった形だ。マリニエールは自身の兜の面頬を上げて採取した花粉を内部の四角い容器に入れる。

「一体何を?」

「ああ、これは私の分析形態なのですよ、お嬢さん。この機動鋼馬ナライズは私のこの機能を増幅してくれるのですよ」

「馴れ馴れしいな」

「これは失敬。あなたも一端の忠義心があって何よりですよ、ヴィダリオン。・・・・なるほど・・・」

マリニエールが口を開きかけた時、彼を除く4騎は気配を感じて剣を抜き放ち近くの草むらを薙ぎ払う。周囲のあらゆる植物に寄生していたシダークレスタ―は断末魔の悲鳴を上げながら消滅する。

「もうこんなに成長している奴がいるのか」

メガイロのツーハンデッドソードに胴を貫かれた木を見て勇騎は冷や汗を流す。

「今の成長速度だと後1日程で親株、つまりこの寄生花粉をばら撒く大本が大量に出来上がります。それもあらゆる植物のあらゆる形を無視してね」

「あらゆるってもしかしてどんな植物でも?野菜とか果物とかもか?」

「そう。例外はない。この次元の動物を絶滅させるつもりですよ、連中は」

「そんな・・・・」

「しかし大丈夫です。先程この花粉が何処から来るのかを調べました。風向きからして連中の親玉はこのあたりにいるはずです」

「えッ、そこって・・・・」

「確か祟りの木がある場所じゃないか!?」

「なるほど。現地民の迷信につけ込んだ作戦ですか。敵もよくやる」

「感心している場合か。親玉が見つかったんならさっさと斬ろうぜ」

「それは相手もよく分かっているはず。恐らく伏兵が待ち構えている。あの数でこちらが分断されるのは得策ではないですよ。何か作戦を」

「しかし、時間との兼ね合いもある。マリニエール、具体的にどの地点に親株があるか、わかるか?」

慎重なカローニンと一気呵成に攻めようとするホットスパーとヴィダリオン。どちらの言い分も正しい。

「流石にそこまでは。ただもっと近づけばわかるかもしれませんが」

「では私のコートオブアームズで空から偵察します。その映像を分析して頂けますか?」

「それでいきましょう。ただこの花粉に通信妨害能力があるので互いにそこまで離れられない」

「それは俺達が護衛する。それにメガイロ、お前のコートオブアームズをこんなところでぶっ放されちゃたまらんからな」

「心配ない。俺の腕は百発百中だ」

「何で初対面でそんな事が分るんだよ?」

「紋章に書いてある。メガイロの盾の上にある円柱、そしてマリニエールの盾の上部にある三日月。あれがあの2人のコートオブアームズを示している」

「ああ、その神社の鳥居みたいなマークがブースターレイブルなのか」

「そうだ。時間がありません。主、ヴァレルに乗ってついて来てください。敵はどこから来るか分かりませんから」

「俺も行くぜ」

「好きにしろ。では!」

「応!」
カローニンを除いた全騎が風上に向かい、参道を外れたけもの道を登っていく。カローニンはコートオブアームズ・チェンジマートレットで青い燕の姿に変形し、天を舞って一行に先行する。

一方の地上組はホットスパー、ヴィダリオンの後ろに勇騎と杏樹を乗せたカローニンの起動鋼馬ヴァレルとケンタウルス状態のマリニエール、最後尾にメガイロでマリニエール以外は騎乗せず徒歩で敵だらけの森を目的地目指して進んでいく。

「ドラッ」

「ドラ―!」

「チッ、こいつら地面に潜んでやがる!」

「上からも来ます!木々の葉一枚一枚がクレスターになっています」

地面の下から、頭上から機士らと同程度に成長したシダークレスタ―が飛び出してくる。あるものは鋭い爪と牙で、あるものは頭部のてっぺんに生えた一本の剣状の鋭い葉を風車の様に振り回しながら襲い掛かってきた。だがそれらの動きは数を頼みにしたもので接近戦においては戦闘経験を積んだ機士らの敵ではない。動きをある個体は見切られ剣で斬られ、またある個体は凄まじい身体能力から繰り出されるパンチやキックで頭部や体を粉砕されていく。

「無事ですか、主?」

「大丈夫。皆が守ってくれるから」

「あっ、カローニンが戻ってきた」

勇騎の言葉が終わらない内にカローニンが変形を解いて舞い降りる。

「この先に物凄い量の花粉をばら撒いている木が1つあります。恐らくそれが親株でしょう」

「割と早く見つかったな」

「・・・・・早すぎる気がしないでもないですが」

「敵の罠だと?」

カローニンはマリニエールに問う。

「1本だけというのがね・・・・私なら複数用意して1本を囮に使うくらいはします」

「督戦隊ってのは恐ろしい事考えるねぇ」

「茶化すなよ、ホットスパー。怪物はともかく後ろにいる邪神官共は悪知恵の回る連中だからな。罠だろうと無かろうと連中の親玉に近づけば抵抗も激しくなるのは道理だ。カローニンは空から、俺達は地上から攻撃を仕掛けよう」

ヴィダリオンの案にマリニエールとメガイロも頷く。

「それでいきましょう。では引き続き警戒を」

彼らが隊列を組みなおそうとしたその時周囲の木々の葉が一斉にざわめきだした。

「な、なんだ?」

「しまった、こっちの情報を聞かれていた!?奴ら防衛網を強化するつもりか?」

「奴らにそんな知性があるのかよ!?」

ホットスパーの疑問に答える様に周囲の草木がシダークレスタ―へと変化、頭部の1本葉四つに開きその中からメガホンに似た花を出現させると、そこから強烈な超音波を発する。

「があああアアッ!?体が・・・・割れる!?」

「耳が痛え!?」

シダークレスタ―の音波は1つ1つは大したことはなくとも数百近い個体が一斉に放射すれば機士らの体を粉砕しかねないほどの威力を発揮する。だがクレスター、というよりは邪神官側の誤算は機士らに遠距離攻撃がないと思い込んでいた事だった。

「・・・メガイロ、我々のコートオブアームズを・・・・!」

「了解」

「コートオブアームズ・クレッセントカッター!」

マリニエールの盾の上部に描かれた三日月が実体化し、鋭いブーメランとなって周囲の敵を斬り裂く。

「おい、メガイロ、こんなところであれを使うつもりか?」

「やらなければ全員死ぬ。それは駄目だ。コートオブアームズ・アニューレットカノン」

「主、耳を塞いで伏せて下さい!」

「え、ええ!?」

メガイロは人間2人がヴァレルの影に屈みこんだのを確認すると盾の上部に描かれた円柱を大砲として実体化、右肩に背負う形で装着するとざわつく木々の一群に向けて砲弾を発射した。

超音波をかき消す轟音と共に砲弾は見事に命中し、着弾した砲弾内部に仕込まれた特殊な薬品が周囲に拡散し燃え広がる。次弾装填に取り掛かるメガイロを最大の障害とみなした敵から彼を庇うようにマリニエールのクレッセントカッターが周囲の敵を斬り刻む。そしてメガイロの無慈悲な第2射がシダークレスタ―の軍団を襲い、焼き尽くす。

「おいおいおい!?山火事になるぞ!」

「消火は後です。これで連中を追い立ててやれば・・・・」

マリニエールの考えに同調するように無言で第3射を放つメガイロ。森は紅蓮に染まり逃げ惑うシダークレスタ―の悲鳴と木々の焼けるパチパチという音が周囲に木霊する。

「・・・・どっちが悪役かわかんねえな、これ」

「戦いとはこういうものです。さあ進みましょう」

平然と言い放つマリニエールに勇騎は噛みつく。

「本当にこのままにしていくつもりかよ!?」

「親株を速攻で倒したら消火しますよ」

「できんのかよ?」

「お約束しましょう」

「おい、あれを見ろ!」

ホットスパーの声に彼の視線の先を全員が見ると雲を突くような巨木がそびえたち、周囲に暗い影を落としていた。

「大変です!親株は周囲の同族を根で吸収して巨大化しています!」

偵察から戻ってきたカローニンが報告する。

「おいメガイロ、あれを撃てるか?」

「出来る。だが残りの弾数ではあいつを倒せない。あれだけ大きいのは無理だ」

「奴の超音波砲は町一つ粉砕するほどです。幸い発射までに時間がかかりますがね」

「メガイロ、お前の砲で俺を撃ち出せ」

「いいのか?」

「ヴィダリオン!?無茶よ!」

「主を守るのが機士の務め。契約です。マリニエール、お前もユウキとの約束を果たせよ」

「勿論です」

「では!」

ヴィダリオンはアニューレットカノンに潜りこむ

「・・・・いくぞ、ヴィダリオン」

「よし、目標は奴の超音波砲だ!」

「仰角20度。メガイロもっと左です。そう、そこです」

マリニエールが自身の持つ分析機で弾道を計算し、指示を出す。

「発射」

メガイロのアニューレットカノンからヴィダリオンが打ち出される。

「コートオブアームズ・ブースターレイブル!」

撃ち出されると同時にヴィダリオンは推進器ブースターレイブルを背中に装備、超加速しながら盾の紋章から剣を実体化させる。

「うおおおおお!」

敵の目的に気が付いた親株シダー・マザーはその巨大な根や枝をヴィダリオンへ伸ばす。

「させません!」

「ヴィダリオンに後れを取るな!ベオタス、フェザーブレイド!」

「クレッセントカッター!」

燕に変形したカローニンが羽と爪で、機動鋼馬ベオタスの放つ羽矢とマリニエールの三日月のブーメランがヴィダリオンの行く手を阻む根や枝を切り落としていく。

「ありがたい!」

ブースターレイブルの構造上左右に避けるという事が出来ないヴィダリオンは仲間の援護に感謝しつつ、シダー・マザーの巨大なメガホン状の花に剣を突き立てる。

「うおおおお!紋章剣奥義・全身全霊一つの太刀!ヴォ―セアン!!!」

空中で剣の柄を握ったヴィダリオンは倒立状態になると一気にブースターを吹かし地上に向けて加速、その勢いで巨木を文字通り根こそぎに両断した。

「皆、ディバインウェイブだ!」

「「「「ヴォ―セアン!」」」」

巨木を取り囲むように立った5騎はそれぞれのマントからディバインウェイブを放射、シダー・マザーの大爆発を異空間に送り込み、現実世界への被害を食い止める。

「や、やった・・・・!」

「ヴィダリオン、ヴィダリオンは無事なの!?」

「勿論ですよ。主、私は頑丈さが取り柄ですから」

「良かった・・・・!」

「マリニエール殿、今度はそちらの番ですよ」

「分かっています。メガイロ、あなたも」

「了解」

マリニエールはクレッセントカッターを高速回転させ竜巻を発生させると炎を強風で吹き飛ばす。メガイロも空に砲弾を放つと空中で弾は破裂し、周囲に小規模な雨を降らせて鎮火させた。

「すげえ」

「何だよ、あんな弾があるのかよ。だが連中口だけじゃないらしいな」

「ええ。頼もしい反面、何を考えているのか分からないのは気がかりですが」

「そうだな」

無邪気に目を輝かせる勇騎の隣でホットスパーとカローニン、ヴィダリオンが腹の底が見えない新メンバーへの警戒感を共有していた。

「これで、どうです?我々の事を信用して頂けましたか?」

「実力はな。だが郷に入りては郷に従えということわざがこの世界にはある。あまり勝手なマネをすると機士団の信用問題に関わるぞ」

「あなたにそれを言われるとはね。ですが肝に銘じておきましょう、ヴィダリオン部隊長殿」

「部隊長?」

「そうでしょう?あなたが最初に派遣されてきた。ならここの部隊はあなたの統括では?」

「そんなガラじゃない」

「名目でいいのですよ。組織とはそういうものですから。では私達はあいさつ回りがあるので失礼しますよ」

「また会おう」

マリニエールとメガイロは山を下っていく。剣王町を一望できる位置に出るとマリニエールは何かを探る様にその分析機を働かせる。

「ここには無し・・・・いやそこか。なるほど」

「どうした?」

「いえ、何も。では神社とやらの施設の責任者に会いに行きましょう。今日から我々もお世話になるのですからね」

「そうだな」

(目的の物があるとすれば神社とやらか。後は連中に気取られずどう探すかだが・・・)

機士団長ザルツァフォンの密命を果たすべくマリニエールは思案しつつ神社への道を急ぐのだった。
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