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1章 機士の章
第5話 ネヴァーモアを超えて②
しおりを挟む「2人だろうと3人だろうが結果は変わらん。むしろ手間が省けて助かるぞ」
レイブンクレスタ―がせせら笑いを無視してカローニンは愛馬である機動鋼馬ヴァレルから飛び降りると短剣を盾から実体化させる。
「気を付けろ、カローニン!そいつは何かの仕掛けで自分の攻撃を当てたりこっちの攻撃を躱したりしているぞ」
「了解、ユウキ殿」
「そのカラクリが未だ分からんのだがな・・・・」
「ブブブ・・・それが判る前に貴様らは全員地獄行きよ!」
ヴィダリオンの呟きにレイブンクレスタ―は背中の羽を広げ低空で3騎へと突っ込む。
「消えた!?ぐわっ!」
「チッ、奴を捉えられない?」
「しまった!主逃げて下さい!」
レイブンクレスタ―は3機士を吹き飛ばした勢いそのままに金雀枝杏樹を突き殺そうと迫る。
「グウ・・・・やらせるかよ・・・・!それに」
「勇騎君!?」
「何!?ウッしまった!?コイツ?」
杏樹とレイブンクレスタ―の間に割って入った星川勇騎は左の脇腹を刺されながらも右手で時計を模した盾の針の1つを握って動かない様にしていた。
「はな・・・・すかよッ!やっとわ……かったんだ」
「おのれ・・・だが死ぬがいい。所詮我が力のタネが分かったところで対策はないのだからな」
レイブンクレスタ―が右手に力を込めた瞬間彼の脳内にザパトの声が響く。
『待て、レイブンクレスタ―。そいつはお前の異空間へと連れて行くのだ』
「ハッ。命拾いしたな、小僧。尤もそれが良い事ではない事を身をもって知ってもらう事になるがな、ブブブブ」
レイブンクレスタ―の盾が光を放ちカラスへと変わるとその目から青白い光が勇騎に放たれる。
「ぅ・・・うわあああああ!」
「そんな・・・勇騎君!」
杏樹が手を伸ばし、勇騎もそれに応えて手を伸ばすも小指1本分足りず彼は虚空へと吸い込まれていった。
「先に言っておくがな、俺達を倒しても連中は戻っては来ないぞ。自分からこの世界に帰りたいと強く願わない限りはな」
「ブブブさらばだ、マヌケ共」
2羽のレイブンクレスタ―は黒い煙幕を周囲にばら撒く。
「クソ、あいつら・・・・!」
後を追おうとするホットスパーの肩を掴んでカローニンが止める
「やめろ、ホットスパー。私達は負けたんだ。完敗だ」
「だがカラクリは分かった。ユウキのおかげでな」
「だから何だってんだ!?あのカラス野郎が俺達に盾を触らせると思うのか?挙句それは分身だか兄弟だが知らんが2羽目なんだぜ!危機も2倍という事だ」
「もうやめて!ここで喧嘩したって何も変わらないじゃない・・・・ッ!」
「主・・・・」
「アンジュ殿の言う通りだ。ここは一度頭を冷やして一から対策を考えよう。お前も来るんだぞ、ホットスパー」
「・・ああ・・・・」
「すげー!あの盾の針2本がぐるぐるまわると自分や敵をはやくしたりおそくしたりできるのか!さすがザパト」
「10mにも満たない効果範囲しかないがな。といってもその範囲は機士共の武器や技の全てが入っているのだがな」
混じりけのない賞賛を送るガルウに若干照れながらもその能力の弱点を放すザパト
「フフフ、それに見ろ。レイブンクレスタ―の作り出した異空間を。中々面白い見世物をしているぞ」
「どれどれ」
プレハの眺める窓には甲子園球場が映り、バッターボックスには小高泰明が緊張の面持ちで立っていた。小高にとって最も心に残る場面は当然ここだった。
「これ、どういうルールなんだ?」
「まあ見ていろ」
9回裏剣ヶ峰学園が1点を追う、2アウトランナー無し、カウントツースリーという場面で小高は相手の釣り球に手を出してしまい、アウト。小高が審判の無慈悲なゲームセットの宣言と共にマウンドに崩れ落ちると同時に周囲は黒い竜巻のようなグニャグニャとした背景に変わる。次の瞬間には何事も無かったかの様に例の場面に世界が巻き戻っていた。
「この異空間内で連中は永遠に同じことを繰り返す事になる。何故なら過去は変えられんからな。だが当人達はそうは思っていない。何らかの方法で打開策があると本気で思い込んでいるからだ」
「ヒャハハハ、またあいつ負けた。あのかお面白れー!!」
「フ、それに暗黒の滴もこれ程溜まる。良い事ずくめだ」
ザパトの解説を聞きながらプレハとガルウは人間がコメディー映画かバラエティー番組でも鑑賞しているかのような笑い声を上げる。
「さて、例の新参者はどうしているかな?」
ザパトは勇騎が囚われた異空間へと視点を向ける。その世界の中で彼は仰向けに倒れたままだったがやがて眼を覚ますと周囲を見回しながら起き上がった。
「う・・・・うう?ここは?アレ全然痛くない!?傷が塞がっているのか」
そしてここが先ほどまで自分がいた、旧市街の路地裏である事に気が付く。
「アレ、でもこんな店あったか?」
路地裏の塀の一隅を切り抜いた様に緑の扉があり、その先には見た事のない時計屋があった。扉のガラス越しにカラスをかたどった黒い大時計が見えた。さらに周囲を見回すと自分が透明な半球状の世界にいて同じような世界が無数に漂っているのにも気が付いた。
「そうか、ここに行方不明の人達が・・・・あっ!」
自分の目と鼻の先にいつの間にかレイブンクレスタ―と杏樹が現れた。
「杏樹、逃げろ!」
だが彼の声も虚しく怪物の剣は彼女の心臓を貫いた・・・・
「うわあああああ!」
勇騎の慟哭と共に世界は暗転し周囲は黒い竜巻のようなグニャグニャとした背景に変わる。次の瞬間には何事も無かったかの様に例の場面に世界が巻き戻っていた。
「あ・・・・あれ?またここに・・・・時間が巻き戻った‥のか?杏樹は?」
油断なく周囲を見回す勇騎は再び現れたレイブンクレスタ―から杏樹を守るべく現実世界でそうしたように彼女を庇って怪物の剣を受ける。
「グt・・・・」
痛みも血も本物だ。目の前が暗転し、3度目を覚ました時自分が『あの時』を再現した世界に囚われてしまった事を知った。
「どうすりゃここから出られるんだ?それも俺だけじゃない。皆で脱出するには・・・」
仮に自分だけが脱出できたとて、連中が残った人々を人質にする事は目に見えていた。
「あっ、あれは小高先輩か?そうだ!小高先輩を応援しに学校だけじゃなく町の皆総出で甲子園行ったんだ!この町のヒーローの先輩なら皆を救えるかも」
勇騎は名案だとばかりに顔を輝かせるが肉を貫く鈍い音と杏樹の悲鳴が背後で響き、世界は再び荒れ狂っていく。
「う・・・・ク、本物じゃないって判ってもああいうの見せられると堪えるぜ」
勇騎は目と耳を塞ぎながら世界が暗転していくのを感じながらまた意識を失った。
剣王神社の境内で車座に座ったヴィダリオン、ホットスパーことパールウェイカーがカローニンに彼が来るまでの戦いの推移を説明していた。
「さて、私が来るまでの戦いの経緯は分かった。そしてあの図像獣の能力にも一つだけ弱点がある事もな」
「何だと?本当かカローニン?」
「覚えていないのか?お前がやった事だぞ、ホットスパー。お前の最初の不意打ちをあの怪物は能力ではなく剣で防いだ。そして」
気の抜けたように境内の掃除をしている杏樹に聞こえない様に小声で
「ユウキ殿が杏樹殿を守った時の2つ。どちらも奴にとっては予期しない不意の行動だという点だ」
「不意打ちね・・・・だがそういうのは絶対警戒されるぞ。少なくとも俺ならそうする」
「だからだ。ある程度相手の考えを読んだ上で攻撃を叩き込む必要性が出てくる」
「相手の考えか。俺が奴なら数的不利を逆手にとって同志討ちを狙うな・・・・待てよホットスパー、これならいけそうだぞ」
ヴィダリオンは自分の閃きを説明するがカローニンは渋い顔をしたままだ
「・・・・・確かにその方法ならば。だが我々は異空間へと囚われた人々を救出せねばならん。しかし邪神官共がユウキ殿達を放っておくはずがない。連中の眼さえごまかす方法はちょっと思いつかん」
「囚われた本人達がとか言っていたよな。そうなるともはやあいつらを信用する以外に方法が無いってことになるが」
「ユウキは大丈夫だろう。だが他の人々はな」
「大丈夫です」
高波彩が背後から声を掛ける。その声は確信に満ちていた。
「泰明さんは・・・・先輩は誰も期待していない中で甲子園に行ったんです。だからきっと立ち直って戻って来てくれます。だから皆さんは怪物を倒す事に全力を挙げて下さい」
「高波殿・・・・よし、俺達は図像獣を探すぞ」
ヴィダリオンとカローニンは立ち上がると杏樹の前に立って一礼するとヴィダリオンは彼女と共に機動鋼馬マスルガに跨り参道を駆け降りる。続いてカローニンも機動鋼馬ヴァレルに跨り後に続く。
「まあ、何にせよあの化け物をほっとくわけにはいかねえからな」
機動鋼馬ベオタスに飛び乗ったホットスパーは愛馬の翼を開き空へと駆け登っていった。
新市街の人気のない道で例のカラスを発見するのは比較的容易だった。もはや勝負がついたと思っている以上、彼らがコソコソ隠れる必要はどこにも無かったのである。
「ブブブ、性懲りもなく出てきたな。今度こそ3人纏めて地獄に送ってやる」
「あの時俺達を始末しなかったことを後悔させてやるぜ」
「ほざけ!」
レイブンクレスタ―は羽を広げて宙に浮いた後、剣を振りかぶって突進してくるヴィダリオンをわざと加速させ塀にぶつけると今度は自分の動きを加速させ、カローニンを蹴り飛ばす。
「だが・・・・!」
「これならば!」
ヴィダリオンとカローニンはレイブンクレスタ―を挟み撃ちにする形で左右から斬りかかる。
「ブ・・・読めているぞ」
レイブンクレスタ―は目の前の2騎でなく頭上から飛び降りてくるホットスパーの動きを遅延させると同時に効果範囲へと入った残り2騎の動きを加速させる。3騎は互いに激突し、互いの得物で仲間の体を斬り裂いてしまう。
「ガッ」
「おのれ」
「グ・・・しまった、読まれていた!?」
「所詮は浅知恵よ。同じ手を食うと思っているのか?」
「思っちゃいないさ。だからな、全力で行かせてもらう!!コートオブアームズ・ブースターレイブル!」
「コートオブアームズ・スターシールド!!」
「馬鹿め、脳筋共が!!どんなに速かろうが無駄だ」
レイブンクレスタ―は盾の針を回転させ背中のブースターを吹かして超高速で突っ込んでくるヴィダリオンの動きをカタツムリが歩くようなスピードに変化させるとその体をクルリと回転させ、後ろから突っ込んでくるホットスパーと相打ちさせる位置に置くと針を逆回転させ、両者の動きを加速させた。
「これで2人とも終わりだ。超高速で互いの体を貫き合うがいい」
「ヴィダリオン、ホットスパー!」
凄まじい金属音に杏樹は思わず目を閉じてしまう。
「グオッ・・・・・!?バカな・・・・っ弟よ!?」
「兄・・・・・者!?」
だが苦悶の声を上げたのは2体のレイブンクレスタ―だった。
激突の瞬間ホットスパーは飛び上がり、ヴィダリオンはブースターレイブルを脱ぎ棄てその場で回転し、自分に突っ込んでくるホットスパーの両脚の裏を剣の腹で思い切り叩いたのだ。さながら超高速の人間砲弾と化したホットスパーは槍状に変化させたスターシールドでレイブンクレスタ―の盾上部を粉砕し胸を貫いていた。それは盾に擬態していた一羽のレイブンクレスタ―を倒し、もう1羽にも瀕死の重傷を与える。
「野郎、まだ生きてやがるのか。だがこれでトドメだ!」
「弟よ!再び我が力となれ!」
スターシールドを振り下ろすより先に目から弟の肉体を取り込んだレイブンクレスタ―は両肩にカラスの頭を模した肩アーマーと時計状の模様の入ったブレストプレートに柄の両端に刃のある鎌を持った、より人間らしい頭部を持った姿へと変わる。
「チッ、まだやるつもりか」
「貴様らこそ本気を出させたことを後悔させてやるぞ」
戦いの第2ラウンドの幕が上がった。
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